パーズ復活
4月になり年度が変わった。
進学や昇進の季節である。
研究船パーズ内でも、数人が昇進した。
ポスドクの久保信一のウニの論文は掲載採択され、大きな雑誌に掲載された。
この論文業績も助けになり、久保信一は、助教に採用された。非正規雇用のポスドク研究員とは異なり、助教はパーズの正規職員である。きちんと給料が支払われるし、ボーナスもある。ポスドクの待遇とは月とスッポンだ。
レイアも助教から准教授に昇進した。
といっても、助教から准教授への昇進は、給料が変わるくらいで、それといって大きな変化はない。肩書きが変わる程度だ。
申請した研究費の結果も、4月に公表される。
昨年の8月に博士が提出していた大型研究費の申請書は無事に採択された。
博士は、億を超える潤沢な研究費を手に入れたのだ。また、博士は、南極観測のための大型研究費も申請し、それも採択された。これを使い、南極砕氷船の建設を外注し、建設を開始した。もちろん、他の研究者と共同出費である。
一方で、研究機関パーズの修理が無事に完了した。
研究船パーズは、千葉の房総半島の先端にある臨海実験センターの近くに停泊中だ。
研究船パーズの研究者たちは、パーズの修理中には、千葉の臨海実験センターと東京の臨海実験センターの研究室で一時的に実験をしていた。
パーズ所属の研究者たちは、それぞれの近くの港からパーズに乗り込むことになっている。
「さてと、行こうか」
博士たちは、千葉の港からパーズに乗り込む。
実験機器などの大きな荷物は、船員が運び入れてくれた。
すべての研究材料も、ここで作製した動物たちも、搬入済みだ。
「はい! パーズも復活しましたし、みんなで一緒に海を復活させましょうね。頑張りましょう!」
助教になった信一は機嫌がいい。次の研究に向けて意欲が高まっている。
「そうだな。みんなで頑張って海を元どおりにしないとな」
博士が頷く。
博士は、相変わらずの大きなキャリーバッグをコロコロと転がしている。そして、背中には大きなリュックサックだ。父親の責務であろう。大きな荷物を持つ係だ。
ここ半年で鍛え上げた筋肉で、以前よりも軽々と運べるようになっていた。
博士たちは、次々に研究船パーズに乗り込む。
パーズの入り口では、沖田船長が研究者たちを出迎えた。
「先日はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。今後は以前よりも気をつけて航海を行います。よろしくお願いいたします」
沖田船長と数人の船員が、パーズに乗船してくる研究者に対して、頭を下げていた。
「いえいえ、船長さん。船長さんがそれほど謝ることでは……。」
博士は、頭を下げている船長に、お辞儀を返した。
「もっと我々が気をつけて入れば、事故は起こらなかったかも知れませんからね」
沖田船長は、もう一度軽く頭を下げた。
「いえ……。それでは、これからもよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いいたします。あ、かわいい娘さんですね」
沖田船長は、博士の後ろを歩いていたシンシアに笑いかけた。
沖田船長は、シンシアの顔を見て、笑顔を浮かべる。
沖田船長の視線が、シンシアの金色の髪の上を滑った。
研究船パーズは出港準備を終えた。
すぐに千葉の港を出港する。
シンシアたちを見送るために、篠原一家は港まで来ていた。
「ばいばーい、シンシアちゃーん!」
拓也がお腹に力を入れ、全力で声を出す。
その声は、潮風と周りの声にかき消されそうになりながらも、かろうじでシンシアの耳に届く。
「じゃあーねー、たっくん!」
シンシアは、パーズの甲板から、大きく手を振る。
ここからでも、拓也の姿が小さく見える。
博士とレイアも、篠原陽介とかすみに手を振る。この2人には、研究と私生活でお世話になったのだ。特に、レイアの日本語能力が格段に上がったのは、かすみのおかげである。
今回の研究船パーズの航路は大西洋方面である。
一旦、オーストラリアに向かい、停泊する。その後、南アメリカを過ぎ、アメリカの東海岸へと向かう。ヨーロッパに寄り、北極海を経由して日本に戻ってくる予定だ
研究船パーズは千葉の港を出港した。
4月初旬のことだった。




