ウニクラゲ人工合成
研究機関パーズ内で以前に作り出した動物たちは、すべて海に放流した。
というよりも、海に放流するしか選択肢がなかった。それは苦渋の決断であった。
パーズから避難する際に、そうせざるを得なかったのだ。
博士たちは、臨海実験センターで、クラゲとウニをもう一回作り出していた。それらは、前回同様に、順調に成長した。
レイアは、以前に途中まで進めていたオリーブを海水に適用させるための研究は中断して、近所で手に入った紫陽花を海水中で飼育できるかを、試していた。
産後のリハビリを兼ねて、気軽なテーマを選んだのだ。
博士は、手持ちのウニとクラゲで、新しい生物を合成しようと取り組んでいた。
ウニの細胞核をクラゲの受精卵に核移植し、また、逆に、クラゲの細胞核をウニの受精卵に核移植した。これで作製できるのは、ウニクラゲとクラゲウニだ。どちらにどっちの名前をつけるかは、難しい問題である。
とりあえずは論文が必要なので、そのための研究だ。
「久保くん、やっぱり、ウニとクラゲだけじゃダメだ。他にも何か始めよう」
博士は、核移植実験を終えて、受精卵の入ったペトリディッシュを恒温槽にしまった。
「そう言えば、マボヤはどうなったんですか? もう一回もらえませんかね?」
「そうだな、パトリックにもう一度頼んでみるか。あれくらいなら、空輸できそうだしな」
確かに、信一の意見は、一理ある。
自分たちで作り出すより、誰かから貰った方が楽である。論文の際には、共同研究者としての謝辞になるか、著者として名前を入れるかの問題も生じるが、それは、生物を作り出す手間に比べたら、些細なことだ。
博士は、教授室に戻り、パトリックにメールを書いた。
テレビ電話が可能かを聞くためだ。
日本とカリフォルニアの時差は8時間である。
日本では朝だが、カリフォルニアでは、夕方である。
「まだ仕事しているかなぁ?」
博士は、数行のメールを書き、送信ボタンを押した。
数分経った頃に、メールが届いた。
『いつでもいい』らしい。
そして、博士はそのまま、テレビ電話を起動させた。
「How have you been, Patrick? (やぁ、パトリックひさしぶりだな。)」
「Hi Hiro, how was that incident? I was so surprised when I heard that the Japanese research ship was attacked by a submarine. Was that the ship you’ve ridden, right? (おぉ、博士。お前、無事だったか? 日本の研究船が潜水艦に襲われたって話を聞いたときには驚いたぞ。あれはお前の乗っていた船だろう)」
「Yap, anyway we are fine. By the way, we released our precious animals in the sea, such as Halocynthia. So, could you please share me some of these again? (まぁ、無事だ。それより、そのときに、マボヤを海に放してしまったんだよ。もう一度分けてもらえないか?)」
「It’s no bother at all. I owe you, so I should send Halocynthia as much as you want. (いいよ、おやすい御用だ。お前には大きな借りがあるからなぁ。マボヤくらいならいくらでも送ってやるよ)」
「Thanks so much. Also, how is going Adim? (ありがとう。ちなみに、アジムはどうなっている?)」
「Haha, they are incredible. I made a sardine-like one and a Tilapia-like one, too. (ははは、絶好調だよ。イワシみたいなやつも、いずみ鯛のようなやつも作ったぜ)」
「Awesome. (そりゃあすごい)」
「You get it, right. Anyway, I just performed genome editing on them. It is so easier to edit genome than to make one. Whereas, I totally am being surprised at you. By the whole genome sequencing, I knew the genome was super nice like God made. Did you really make the fish by yourself? (だろ、まぁ、お前たちからもらったやつをゲノム編集しただけだ。組み替えるのは簡単さ。それより、あれは、本当にお前が作ったのか? ゲノム解析したんだけどな、神が作ったと思えるくらいすごいものだったぞ)」
「God made? Yeah, it is kind of that. (神が作った、か。まぁ、そんなところだ)」
「Oki-doki, anyway, I see. I am going to send Halocynthia to you soon. Say hello to Leia, and hello (to) Cynthia. Haha, see you! (まぁ、いいや。マボヤは送るから。レイアにもよろしく言っといてくれ。じゃあな)」
パトリックは、画面の向こうで、大きく手を振った。
「Yap, thanks. See you! (ああ、ありがとう。じゃあ)」
博士は、通信を切った。
パトリックは、順調にアジムから他種の魚類を作製しているようだ。
「さて、こっちも頑張らないとな。日本と言えば、鯛かな。マグロとか鮭も、そのうち作りたいな」
博士は、ぽつり、と独りごちた。




