表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/93

シンシアの秘密と博士の愛


 博士たちは、政府の用意した飛行機で、日本に向かっていた。


 アメリカの軍艦でアメリカのカリフォルニアに到着後、すぐに飛行機に乗せられた。

 日本政府の飛行機である。



 教授とその家族ということで、博士たちは、いい席に座っている。

 アーシーと久保信一とは、待遇が少し違う。彼らは、普通の席に座っている。と言っても、日本政府の飛行機の、普通の席である。一般の旅客機よりは、いい席だろう。




「ふぅー。なかなか美味しいコーヒーだな。政府の人たちは、いつもこんなのを飲んでいるのか、羨ましいな」


 博士は、コーヒーを口に含み、一息つく。

 そして、博士は、横に座っているシンシアに目をやり、口を開いた。



「シンシア。僕は、シンシアの父親だ。シンシアが海神ポセイドンであることは知っている。でも、シンシアは、海神ポセイドンでもあるが、僕の可愛い娘のシンシアだ」



「うん。いきなりどうしたの? パパ?」

 シンシアは、博士の言葉に目をパチクリさせ、博士を見る。



「4年も一緒にいるんだよ、シンシアが僕に何かを隠していることぐらいわかるよ」

 博士は、手にしていたコーヒーカップを、コトリと、置き、シンシアの目をじっと見つめる。

 シンシアの青い目には、博士自身の姿が映っている。



「う、うん」

 シンシアは、博士の黒い目でじっと見つめられて、思わず、博士から目を逸らした。



 博士は、ふぅ、と小さくため息をつく。


「さて、シンシア。シンシアが海神ポセイドンだと知っている僕には、それほど驚くことでもないからね。だから、単刀直入に聞くよ」

 博士が息を吸う音が、スゥ、と音を立てる。


 シンシアにはその小さな音が聞こえた。

 シンシアは、博士の口元に視線を移す。



 博士はシンシアの目をじっと見つめる。

 シンシアは、博士の口から目に視線を移しながら、ゴクリと唾を飲んだ。



「最高神ゼウスは、アムルに転生したのか?」



 ゆっくりと、博士は声に出した。


「……。」

 シンシアは、無言で、コクリと頷いた。



「なんだい、シンシア。水臭いなぁ、そうなら早く教えてくれればよかったのに」

 博士は、先ほどまでの真剣な顔を一気に崩し、笑顔を作った。


 シンシアは、博士の豹変ぶりに、目を丸くする。


「どうして? わたしも、パパに迷惑かけたし。せっかく、2人目の赤ん坊ができたのに、また神が転生した子どもだし。やっぱり、わたしたちは普通の人間の子どもとは違うし」

 シンシアは、モジモジと言葉を発した。



「はは。そんなことを気にしていたのか。それなら、何度でも言ってあげるよ。シンシアが海神ポセイドンであっても、僕の可愛い娘のシンシアであることに変わりはない。そして、アムルが最高神ゼウスであっても、同じだ。僕の可愛い息子のアムルであることに変わりはない。二人とも、僕の。いや、僕とレイアの、大切な家族だよ」


 博士は、シンシアの両肩に手を置き、シンシアの青い目を見つめる。



「うん。ありがとう、パパ」


 シンシアの、海のような青い目から、涙が溢れた。


 水を自由自在に操れる海神ポセイドンも、自分の目から流れ出る涙は、止められないようだ。



「ははは」

 博士は、シンシアの頭を撫でた。つるっとした綺麗な金色の髪を、博士の手が櫛のように滑る。



 通路を挟んで、向こう側には、レイアとアムルがいる。

 博士は、レイアに向かって、うん、と合図を送った。レイアは口元に笑みを浮かべ、それに返事をした。


 レイアの腕に抱かれたアムルが、博士とシンシアを見て、小さく微笑んだ。





 カリフォルニアから日本までは、現代最速の飛行機でも9時間かかる。



「まだ、日本に着くまでにはたっぷりと時間があるよ」

 と、博士が言う。


「じゃあ、ゼウスの話でも聞く? わたしもまだ、何が起こったか聞いていないし」

 と、シンシアが返事をした。


「でも、アムルはまだ話せないよ」

 博士は言う。


 アムルはまだ0歳児である。正確にはまだ生後一ヶ月も経っていない。話せるわけはない。


「大丈夫だよ。アムルとしては話せないけど、最高神ゼウスとしてなら話せるよ。と言っても、脳に語りかけるような感じになるけど」

 シンシアは、そう言い、アムルの方にちらっと目をやる。


 アムルは、目を大きく開けながら、ゆっくりと首を縦に動かした。



「よし、じゃあ、アムル。パパとママと、わたしに、何があったかを話してちょうだい」

 シンシアはアムルに言う。


(兄者、わかった。じゃあ、話すよ。兄者がいなくなって、そして、ここに至るまでを)

 アムルは、3人の脳に向かって、語り始めた。


 脳に響く声を聞き、博士とレイアは驚いて、お互いに顔を見つめ合う。

 アムルの顔に目をやっても、口は動いていない。これが神の話し方かと、博士は興味深く、アムルの口元を見た。



 博士、レイア、シンシアは、アムルの声に真剣に、耳を傾けた。いや、脳を傾けた。



(あれは、4年と少し前のこと……。)


次回からゼウスの過去回想です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i488219
秋の桜子さまよりいただきました。
好評連載中です!

i493381
砂臥 環さまからいただきました。
リンク先は、『『月』を照らす光〜月と海のリザレクション〜』です。
テーマソングです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ