実験室
シンシアが作り出した魚は順調に育っていた。
『アジム (Adim)』は、5cmほどの大きさに成長した。
5匹のアジムの中には、卵を持つ個体もいる。
博士は、次の世代が卵を持った時にゲノム編集を施すことを計画している。一旦、魚ができてしまえば、そこから種を改良していくことは比較的簡単である。
しかし、とりあえずは、個体数を増やすことが優先である。種の維持が最優先事項だ。
博士は、5匹のアジムのうち、オスとメスと思われる個体を1体ずつ、別のガラスビーカーに移した。残った1匹はそのまま、そのビーカーの中に残しておいた。
「ごめんよ。お前だけ1人ぼっちで」
と、博士は、ビーカーの中の1匹のアジムに話しかける。
博士の実験ベンチの向かいでは、レイアも実験をしていた。
シロイヌナズナの海水適応の研究を完成させたレイアは、実験結果を論文にまとめるために検証実験をしている。その傍ら、次の目標として、『オリーブ』を海水に適応させる研究にも着手していた。
オリーブは、乾燥に強い植物である。
この性質をうまく利用し、改造すれば、海水の中での飼育も可能であろう。そして、レイアが考えているのは、海水で飼育したオリーブをそのまま、食用として利用することである。きっと塩味がいい感じについた美味しいオリーブができるはずだ、と、レイアは期待している。
「Hi Leia, how are your experiments going? (レイア、実験の調子はどうだい?)」
博士が、向かいの実験ベンチからレイアのベンチにやってくる。
「Both Arabidopsis and an olive are fine. (順調よ。シロイヌナズナも、オリーブも)」
レイアは博士の方に顔を向ける。
レイアは、右手に持ったピペットマンで、実験ベンチの上の8連PCRチューブに液体を注いでいる途中だ。
「Well. Do not work too much. It will be the due date of our second baby soon. (でも、無理しないでね。その子ももうすぐ予定日だし)」
博士は、レイアのお腹に視線をやった。出産日はもうすぐであり、見るからに大きなお腹をしている。
「Thanks, but I should make a publication as soon as I can. You also need as much papers, don’t you? (うん、ありがとう。でも、早く論文にしないと、この研究室にも業績が必要でしょ?)」
シンシアは、口元に小さく笑みを作り、目で合図する。
「Actually, yes. While I started to write manuscript about Arabidopsis, I have to write a paper about sea urchin, too. I indeed don’t have time to write two papers in the same time. I mean, you can make your pace slower. (確かにそうだけど。でもね、シロイヌナズナの論文も書き始めたけどね、久保くんのウニの論文も書きたいからね。両方とも一気には書けないよ。その意味でも、ゆっくりしてもらっても、問題ないから)」
博士は、レイアに笑いかけた。
博士は、ベニクラゲの論文を投稿し終わり、ウニとシロイヌナズナの論文も書き始めていた。しかし、論文を一気に幾つも書くのは、博士といえども、楽では無い。
「I see. Well, I will continue on my pace. Whereas, I wanna papers, too. Thanks, anyway. (そう。まぁ、ゆっくり私のペースでやるわ。ありがとう。まぁ、私自身も論文が欲しいしね)」
と、レイアも笑い返した。
青い目と黒い目は、しばらく見つめ合った。
レイアのお腹は順調に大きくなっている。
7月に入り、予定出産日までのカウントダウンに入った。博士とレイアの2人目の赤ん坊は、もうすぐ産まれる予定だ。
研究機関パーズは7月9日に、北アメリカに到着予定だ。アメリカのカリフォルニアに停泊する予定である。




