ダイブトゥーシー
博士とシンシアの乗った船は、ニュージーランドから南西に向かっていた。
博士とシンシアは、船に取り付けられたナビゲーションシステムの画面で目的地を設定した。
海には何も目印はない、ナビゲーションシステムが重要である。目的地に向かって、ジェームス(James)とニコラス(Nicolas)の二人は交代で舵を取り、丸一日ほど運転していた。
シンシアは、もちろん神殿の位置を覚えている。
それは南極の近くの海の底にある。海神ポセイドンは、4年前に消失したが、それ以前の数億年の間、ずっと住んでいた場所である。忘れるはずがない。
ニュージーランドを出発してから丸一日ほど経った。
船は、神殿の近くの海域についた。
「We reached the goal you set. I could not see anything around, but it is where you set in the navigation system. (目的の場所に着いたぞ。辺りには何も見えないけど、お前たちが設定した場所だぜ)」
シンシアと博士は船内にいた。
そこに、ジェームスが、目的地に着いたことを知らせに来た。
「やった、やっと着いた」
シンシアは、椅子からジャンプして立ち上がる。
「よし、じゃあ、行こうか。あー! シンシア。水着持ってくるのを忘れちゃった」
博士は、両手で頭を抱えた。
もとより、博士は海に潜る予定はしていない。潜水用のウェットスーツも持って着ていない。
しかし、シンシア用に水着を持ってくるのをうっかり忘れたのだ。
「大丈夫、これで行くよ」
そう言うと、シンシアは、着ていたトレンチコートのボタンに手をかける。
「Wait, wait, wait. What do you do on earth? Are you going to dive? (おい、ちょっと待て? お前じゃなくて、こっちが潜るのか?)」
服を脱ぎ出すシンシアを見て、ジェームスが驚き、声を上げた。大人である大城戸博士が潜るものだと考えるのが当然だろう。
「It’s no problem. My daughter is kind of God’s child. (大丈夫だ。僕の娘はすごいんだから)」
博士は、何食わぬ顔でジェームスに言う。
実際に、シンシアは、海の神様であるポセイドンである。海の中で溺れることはない。詳しく説明をすると、ややこしいので、すごい、の一言で、片付けられるものなら片付けたい。
「Are you serious? (ほんとかよ)」
ジェームスは、疑いの目で博士を見る。
「Yeah, I’m serious. (まぁ、な)」
博士は、ジェームスに向かって親指を立てた。
「O.K. Then, go ahead. (わかった、じゃあ好きにやってくれ)」
ジェームスはそう言い残すと部屋を出て行った。
干渉してこないでもらうことはありがたいが、ここまで連れて来てもらって何もかも秘密というのも少し申し訳ないと博士は感じた。しかし、シンシアの秘密をおいそれと他人に話すわけにもいかない。
これが正解だ。
シンシアは、手際よく、身につけているもの全てを脱いでいく。
トレンチコートを脱ぎ、ニット帽を脱ぎ、薄手のセーターにスカートも脱いだ。
そして、靴も靴下も、脱いだ。シンシアは、裸足で、床に立つ。
身につけているのは、まっ白いシャツと、水色ドットの水玉ショーツだけである。
お尻のウサギ柄がチャームポイントだ。
「明かりはあった方がいいか?」
博士は、頭に付けるヘッドライトをキャリーバッグから取り出した。
「うん、持っていく。ありがとう」
博士は、LEDヘッドライトをシンシアの頭に付ける。シンシアの頭の半分くらいはある大きなライトだ。
「うぐぅ。痛い」
ベルトの締め付けがきつかったのか、シンシアは思わず声を出す。
「はは、ごめんよ」
と、博士は笑ってごまかした。
シンシアの髪の毛は、サラサラしている。
博士はそのため、ヘッドセットが落ちないか心配なのだ。ヘッドセットが絶対に落ちないように、ベルトをきつく締めてしまうのが親というものであろう。
船の外は寒い。
海上は晴れていたが、極寒である。気温は氷点下である。
博士は帽子にコートにと、完全防寒の格好をしていた。
海の上を吹く風は冷たく、博士は寒さで身を震えさせていた。その博士の前では、シャツとショーツだけの格好をしているシンシアが、ウキウキと準備体操をしている。
「じゃあ、パパ。行ってくるから」
そう言い残し、シンシアは、南極近くの極寒の海に飛び込んだ。
ジャパン
小さい波しぶきが立った。
博士は、そのしぶきが消え、水の中のシンシアの姿が見えなくなるまで、ずっと水面を眺めていた。




