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月と海のリザレクション〜海神ポセイドンの幼女転生〜  作者: 幸田遥
第1章 太平洋航海編

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最高神ゼウス


 部屋の真ん中で、天井から吊るされた黒い塊。それは、熊だった。



 正確に表現すると、熊ではない。熊のような生物だ。もっと正確に表現すると、熊のような生物『だったもの』が、機械に繋がれていた。おそらく手足があったであろう部位にはケーブルが刺さっており、機械に繋がれている。また、頭部からもいくつものケーブルがのびていた。




「ひどいことをする」


 博士は、目を疑った。


 生きたままケーブルに繋いで、『何か』をしようとしていたのだろう。ゼウスが熊のような姿をしていることと、ゼウスが雷を操る力を持っていること。これらのことから、おおよその想像はつく。




 シンシアは、ゆっくりと、熊に近づく。


「ころし、てくれ」

 と、その熊の頭部が微かな声を出す。



「ゼウス、わたしだ。ポセイドンだ」

 シンシアは、熊に語りかける。この熊こそがゼウスなのだ。



「ポセイドン? お前がか?」

 ゼウスは、うっすらと目を開け、シンシアを見つめる。


 ツインテールの金髪をした青目の幼女の姿を見て、海神ポセイドンと信じるものはいないであろう。もちろん、ゼウスも不思議がった。兄の気配が感じられるが、姿は全くの別物なのだ。




「この姿に転生したのよ、4年前に」


 シンシアは、宙に浮かせておいた水の塊を、ふわり、と動かして見せた。水を動かせる力を示すためだ。ゼウスは、水の塊をゆっくりと目で追う。うっすらと開いた眼の奥で、眼球が少し動いた。



「なるほど。兄者が、海からいなくなったことにはすぐに気がついた。海の生物がいなくなったから。それから、色々あった。積もる話をする元気もない。兄者、お願いだ、早く、楽にしてくれ」



「……。」


 シンシアは言葉を飲み込んだ。


 ゼウスに今聞きたいことは山ほどある。しかし、ゼウスの苦しむ姿を見たくはない。

 ゼウスを助ける方法は、おそらくただ一つ。とどめをさすことだ。



「兄者が、無事でよかった。私も、どこかいい転生先を見つけるさ。じゃあ、またどこかで。達者で……。」

 ゼウスは、震えるように口を動かし、微かに声を出す。目はもう開いていない。



「うん、そうだな」

 と、シンシアは俯いた。


 自分が転生したように、ゼウスも転生することはできるであろう。そうすれば、また世界のどこかで会えるかもしれない。今は、ゼウスを苦しみから解放させてやることが優先だ。




「パパ! 大丈夫。やっちゃって」

 シンシアは俯いたまま、声を出す。



「わかった」

 博士は、機械を止めた。

 重要そうなケーブルを、片っ端から切ったのだ。さらに、スパナで、ところどころをぶっ壊した。



 沈黙していく機械とともに、ゼウスは静かに息を引き取った。






 二人は、ゼウスの遺体を、装置から取り外して、船の外まで運んだ。

 そして、それを海に沈めた。ゼウスは、手足も頭の後ろ半分もない姿になっている。その大きくも弱々しい遺体はゆっくりと海に沈んでいった。



「ゼウス、またな」


 シンシアは、ゼウスを見送った。

 憂いを帯びた青い目がまっすぐにゼウスを見つめていた。博士は、シンシアの横で、小さく手を合わせた。



 空を一面に覆っていた黒い雲は、薄まり、辺りは少し明るくなっていた。南から吹いて来た冷たい風が、二人の横を通り過ぎていく。



 海賊船の目の前では、研究船パーズが待っていた。二人は小型ボートでパーズに戻る。



 これは、オーストラリアの北の海域での出来事であった。


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i488219
秋の桜子さまよりいただきました。
好評連載中です!

i493381
砂臥 環さまからいただきました。
リンク先は、『『月』を照らす光〜月と海のリザレクション〜』です。
テーマソングです。
― 新着の感想 ―
[一言] 神話の最高神がこうもあっさりと登場して退場するとは。。いい意味で意外でした。よいところに転生できるとよいですね。
[良い点] ゼウスーーー!!! まさか、まさかこんなことになっているとは! これはショックですね…… ゼウスもまた転生するんでしょうが、亡くなったことの影響が心配です。
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