白ビキニ
真っ白なビキニが、太陽の光を反射して妖艶に光る。
シンシアは海水浴中だ。
胸から腰にかけてまっすぐな体型を、惜しげも無く披露している。白いビキニに負けないほどに白く透き通った肌に、強い日差しが照りつけていた。
パーズは海水検査のために、海上で停船中だ。
シンシアたちは、近くに小さな島を発見したので、小型ボートで遊びに来ている。博士とシンシアとさーべるちゃん、そして、助手のアーシーの3人と1匹だ。
小さな島というよりも、砂浜だけが水面から出ている小さな丘といった方が正しい。
澄んだ水の端に白い砂がなだらかに丘を作っている。無機質に広がった白い砂浜は、美しさもあり、どこか淋しげである。聞こえるのは、ザバーンと時折押し寄せる波の音だけだった。
遠浅の砂浜は、幼児と犬が遊ぶのに最適だ。
「さーべるちゃん。ほら」
シンシアは、小さい手で海水をすくい、さーべるちゃんに向かって、パシャパシャ、と、海水をかける。遊ぶときには能力は使わない。普通に、海水をパシャパシャとして楽しみたい。そう、シンシアは海神ポセイドンであることを忘れ、愛犬さーべるちゃんと遊びたいのだ。
さーべるちゃんは、海水の上を、バシャバシャと、水しぶきを立てて跳ねている。少し淡い金色の毛並みは、海水をキラキラと弾く。そして、ブルブル、と大きく体を震わせたさーべるちゃんの背中から、海水が霧になる。
「あはは。もう、さーべるちゃん。冷たいよ」
シンシアは、ブルブルしているさーべるちゃんに、抱きついた。さーべるちゃんは尻尾を嬉しそうに振りながら、「バウ」と吠えた。
シンシアとさーべるちゃんが遊んでいる姿を博士は遠くから眺めている。
博士の横では、助手のアーシーが、水着姿で、緑と白の縞々のビーチボールに空気を入れていた。
「ふぅー、これしんどいです。でも。お腹に力が入るので。ダイエットにいいかもしれません」
金髪、青目の小さな顔の前で、彼女の顔の大きさより一回り大きなビーチバレーを膨らませているのだ。
「はは、君はダイエットが好きだね。でも、それほどダイエットが必要には見えないけどね」
と博士。
「いや。レイアさんを見ていると、私が太っているように思えます」
アーシーは大きく首を振る。
「うーん。そうかぁ」
博士は少し首を傾げながらも、頷く。
確かに、妻のレイアよりも、ぽっちゃりしているように見える。二人を見比べる機会はないが、むしろレイアが痩せ過ぎで、アーシーが標準的な体型だとも思える。
「シンシアちゃん、さーべるちゃん。ビーチボールが準備できたよー」
アーシーは、パンパンに膨らんだビーチボールを片手に、大きく声を上げる。シンシアとさーべるちゃんは、アーシーの声に気がつき、海水をパシャパシャと後ろに飛ばしながら、走ってきた。
「はい、さーべるちゃん、いくよ」
シンシアは体を大きく伸ばし、ビーチボールを思いっきり叩いた。それは、ボンッ、と音を立てて、さーべるちゃんの方に飛んでいく。
「バウ」とさーべるちゃんは飛び跳ね、頭の上で、器用にビーチボールを跳ね返す。
「はい、シンシアちゃん」
さーべるちゃんからボールを受け取り、シンシアに向かって、ビーチボールをポンと叩く。アーサーは、青いビキニから溢れんばかりのDカップの胸を揺らしている。
「あああぁ」
シンシアが高い声をあげた
そして、後ろに転がってしまったビーチボールを、必死に追いかける。
2人と1匹が楽しく遊ぶのを眺めつつ、博士は砂浜を散歩した。
時折、足元を見渡しては、何かいないかと確かめる。
しかし、生物の類は見当たらない。どこからか流れついた葉っぱが見つかるが、遠い陸地から流れて来たものであろう、海のものではない。海にいた生物たちは、全て消失してしまったのだと、実感する。
貝殻の一つくらいは見つかるかと期待していたが、全く見つからない。この砂浜には、ただ、白い砂だけが広がっていた。
「パパァ、何か見つかった?」
シンシアが博士に向かって大きな声を上げる。
「いやぁ、何も見つからないよ!」と、博士は大きな声で返事した。
何も遮るもののない海と砂浜を吹き抜ける潮風に、二人の声が乗る。
2人と1匹が遊んでいる先には、停泊中のパーズが見える。パーズは、そこに静かに停泊していた。
「何もないか」
博士は、小さく呟いた。
全ての海洋生物が消失した手がかりはまだ見つからないでいる。シンシアのためにも、何か手がかりを見つけてあげたい。研究機関パーズの一員としても、早く何かを見つけたい。
ふーっ、と、ため息を吐いた。その小さなため息は、潮風に消える。
博士は、2人と1匹の元に戻った。
「教授。もうそろそろ船に戻りますか」
アーシーが言う。
シンシアとさーべるちゃんは、まだ遊び足りないとばかりに、砂浜を元気に走り回っていた。
「そうだな、戻らないとな」
博士は左手の腕時計に目をやる。パーズの出発時刻の30分前であった。