嫉妬と幸運
「んっ……ここは……?」
目が覚めた勇は、体を起こして寝ていた前の記憶をたどる。
(俺は確か……ドラゴンに喰われそうになって……それで……あれ? どうして助かっているんだ?)
自分の体を触り、服はボロボロだが、あれだけ痛かった体には傷が一つも無い。
疑問を浮かべていると女性に後ろから声を掛けられた。
「起きたのね‼ 良かった無事で……傷は治したけど心配だったのよ」
ーー直ぐには、この女性が誰なのかは思いだせなっかたが綺麗な銀色の髪を見て思い出す!
(そうだッ! 自分が隠れた馬車に乗っていた、美人のお姉さんだ!)
「はいッ! 大丈夫です、あの……もしかしてお姉さんが怪我を治してくれたんですか?」
「ええ、そうよ」
優しく微笑み、ニコルは頷く。
「あッ、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うと、ニコルは勇に質問をする。
「ねぇ……質問なんだけど……貴方があのドラゴンを倒したのかしら?」
ニコルの質問に勇は慌てて否定する。
「いやいや!? 俺はあのドラゴンを倒した覚えはないですよ!」
慌てて否定する勇の顔を見てニコルは、「そう٠٠٠٠٠٠」と、ただ一言だけ返事した。
勇としても倒した覚えがなく、喰われたと思っていたのに五体満足で生きており、目に涙を浮かべる。
「そう思えば、自己紹介してなっかたわね、私の名前はニコル・キャンディーよ、貴方は?」
「不動勇です」
お互いに自己紹介をし改めてニコルは、何故、勇がここに居るのか聞く。
「不動勇くん、貴方は何故あんな大怪我をしてここに居たのかしら?」
「そッそれは……」
ニコルの質問に言い淀む勇。
まさか自分が馬車の車体裏に小さくなって隠れて居たなんて、どう考えても怪しすぎるし、異世界から召喚されたと素直に言う訳にも行かず、なるべく真実っぽいことを、早く何か答えないといけないと、なんとか言葉を出す。
「お金を稼ぐ為に町に向かって居まして、その……大きな音が聞こえてくるんで興味を本意で近付いたら、ニコルさん達がドラゴンに吹き飛ばされていて、ニコルさん達が気絶した後に、ドラゴンに見付かって襲われたんです」
言い終わった勇はどうか信じてくれと願いニコルの言葉を待つ。
…………僅かな沈黙の後ニコルの顔は笑顔になり勇を落ち着かせるように、ゆっくりと話す。
「そう……なら一緒に次の町に行かないかしら? これも何かの縁だし、人が多い方が楽しいわよ!」
ニコル提案により一緒に町に向かう勇は、目が覚めたベンと共にドラゴンに吹き飛ばされた馬車を直し、ベンが馬車を運転してベリンと言う町に向かっている。
「…………」
「…………」
馬車内の空気が少し重たい、それは、ベリンに向かう前に一悶着起きたからだ。
ーーベンの目が覚めたとき、ニコルは勇の事を紹介しお互いに自己紹介をした、だが、ベンは勇の事を怪しみニコルに詰め寄った。
「ニコル様こんな怪しい奴を同行させるなんて危険です!」
必死の表情でニコルに言うがニコルは取り合わない。そんなニコルにベンはさらに顔を赤くして勇に指を差す。
「こいつが同行する理由をお聞きしたいです‼」
熱く語るベンにニコルは目を細め冷たい声で言い返す。
「別に私の勝手でしょ、貴方には護衛の依頼料を倍にするし文句は無いはずよ‼」
「でッ、ですが……」
「なに、貴方に不都合でもあるのかしら?」
ニコルの冷たく強い言葉に、押し黙るベン。勇は、ただ見ていただけであるが、ニコルの迫力に此方まで怖くなる。
(……美人が怒ると怖い……)
ーー最終的にニコルが勝ち、勇は一緒に行ける事になったが、その時の勇を見るベンの目はまるで親の敵を見ているようであった。
(なんだか変な人に目を付けられたな……あの人には気を付けた方がよさそうだ……)
空気が重い中、ニコルが口を開く。
「不動くん、ごめんなさいね不快な思いをさせて……」
一緒に行かしてもらっているのに、ニコルの申し訳なさそうな様子を見て、勇は慌てて否定する。
「いやいや、此方こそすみません、付いて行かせてもらっているのに、自分のせいで雰囲気を悪くしてしまって……」
ニコルは「いいのよあんな奴」と言い、勇は疑問を感じ、聞いてみる。
「その……あの人と仲が悪いんですか?」
「いいえ……仲が悪いと言うよりも、苦手なのよ……」
不快な顔をしてニコルは話す。
「まぁ私も、ベンが恐らく私に好意を寄せているのは、分かるんだけど……私はなんとも思っていないのよ。だから正直迷惑なんだけど、腕の良い冒険者で急な依頼を受けれるのが彼しかいなかった、だからベンに護衛を頼んだのよ」
ニコルの言葉を聞き、勇は苦笑いする。
(ベンさんを可哀想と思うべきか、それとも、ニコルさんを可哀想と思うべきか)
「さて、先ずは遅くなったけれど、依頼の治療をした後、不動くん、一緒に私の所に来ない?」
「えっ! 一緒にですか!?」
ニコルの提案に勇は驚く。
見ず知らずの自分に何故こんなにも親切にしてくれるのか、城での事もあり警戒する。
警戒する勇を見て、ニコルは慌てて説明をする。
「そんなに警戒しないでッ!? ……実は人手が足りてないのよ、不動くんが、さっきお金を稼ぐ為に町へ向かっていると言っていたじゃない、だから私の所で働かないかしら? 勿論他に仕事が見付かったら、そっちを優先してもいいわよ」
勇としては、確かに美味しい話である、だが、怪しいのも確か。
「…………分かりました、お願いします」
考えた末、勇はニコルの話に乗る事にした。
確かに怪しい話だが、ニコルは悪い人には見えないし、何より、自分はこの世界を何も知らない、なら、ニコルに付いていき色々学ぶしかないと考えた。
(どのみち、このままでは普通に生きていくのも難しい、ニコルさんに付いていき、この世界を生き抜いていくしかない)
ニコルの提案を受け入れ、勇が覚悟を決めているとき、ニコルは、勇と親しくなれると心の中で喜んでいた。
(フフ、これで不動くんと親しくなれそうね! なにしろ、ドラゴンを倒せる才能を持った子と親しくしていて損はないわ、それに、人手が欲しいのは本当だし、不動くん、……好みのタイプなのよねぇ)
実はニコルは誰にも言っていない、秘密のスキルを持っている。それを使い、勇とドラゴンの戦いを見ていた。
勇が果敢にドラゴンに挑み、最後は恐らくスキルでドラゴンを消す瞬間を見て(ニコルには、小さくなったのが一瞬のことで、消えたように見えていた)是非とも、将来、大成するであろう勇と親しくなっておきたかった。
つまり、勇の選択は間違いではなかった。勿論、全て善意からの提案ではないが、この世界について右も左も分からない勇は、良い出会いをしたと言えるだろう。ニコルも勇と出会えて良かったと思っている。
ドラゴンに襲われはしたもののお互いに良い出会いをし、楽しそうな馬車の車内……だが……楽しそうなのは車内だけ……。
「クソッ、あのガキ……ニコル様と親しくしてもらい、いい気になりやがって、……絶対に許さない……」
馬車を運転しているベンは、普段の紳士的な雰囲気は消え、鬼のような形相で、嫉妬の炎を燃え上がらせる。
「……覚えてろよあのガキ……」
ベンは知らない。車内でニコルが勇と仲良くなろうとしているのを。
「ニコル様は、私の物だ‼」
ベンは知らない、勇がニコルの所で働くことを。
「私は知っているんだ‼ ニコル様の秘密を‼」
低く、重く、粘着質な声を出し。
「私ならニコル様を愛して差し上げられる」
自分だけだと、優越感に浸かるベン。
明るい雰囲気である車内とは真逆の、暗い雰囲気の外、そんな馬車は、ニコルの治療の依頼で、ベリンへ向かい走って行く。
夕方頃、ベリンに着いた勇達は、遅れてしまったものの、ニコルに治療を依頼した人に会いに行き、無事、治療を成功させた。
治療費を片手にニコルは、それを使い寝泊まりする宿を探す。勇もニコルに付いていき、首を左右に動かし、都会に初めて出てきた田舎者のように辺りを見渡す。
勇のそんな様子を、可愛い年下を見る目でニコルは微笑み見つめている。
「フフ、不動くん、色々気になるかも知れないけど、先に宿を取るわよ、お上りさん!」
お上りさんと言われ、自分の行動を思いだし恥ずかしくなった勇は、顔を赤くさせる。
(中々可愛いい反応をしてくれるわ、からかいがいがある子ね)
満足げに勇の様子を見て、ニコルは笑みを浮かべ、足を進める。
恥ずかしがていた勇は、慌ててニコルに付いていく。
ーーその頃ベンはニコルと別れて行動しており、別行動する時も一悶着あったが、ニコルがベンを再び黙らせ、別行動中のベンは今、馬車を置ける場所を借り、馬の世話をしている。
もしベンが今の勇とニコルを見ていたら、怒り狂っていたであろう。
ーー勇達は無事に宿を取り、ベンも合流し、ご飯を食べ、ニコルは治療の疲れで、勇は今までの疲労もあり、各人取った別々の部屋で直ぐに寝た。ベンは冒険者なため、体力が残っており酒場に向かい酒を飲む。
ーー日が登た朝方、勇達は朝早くに馬車で依頼で寄った町を出て、ニコルの本拠地である町に向かって馬車を進める。
道中魔物が出てきたりしたが、護衛のベンが直ぐに倒し、順調に進んでいった。
「ねぇ、勇はお金を稼ぐ為に町へ向かっていたのよね、何か将来の夢とかないの?」
ニコルに聞かれ、勇は考える。……だが……元の世界でも特に将来の夢はなく、ただ普通を目指して生きてきた。
この世界でも召喚されてやって来て、直ぐに身の危険を感じ、急遽、城から逃げ出し今に至るため。改めて考えると質問に返す言葉に困る勇。
「……冒険者……ですかね」
冒険者、異世界系ラノベで定番の職業だ、やはり、異世界に来たのだから憧れがある。
勇の答えにニコルはニヤつく。
「うんうん、君もやっぱり男の子ね、ダンジョン探索や強大な魔物を倒すのは、憧れるわよね~」
「何ですか! その反応は‼」
顔を赤くしニコルを睨む、だが、勇の睨みなどお構いなしにニコルは言葉を続ける。
「良いと思うよ冒険者、危険だけど夢がある職業だもの、不動くんに向いていると思うわよ!」
ニコルの言葉に、気恥ずかしくも嬉しくなる勇。
「勿論強くならないといけないから、私の所で働きながら冒険者になって、強くなれば良いわ」
ニコルの言葉に感謝し、幸運にも異世界を生きていく未来が、勇に見えてきた。
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