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024・前編─夢のシリアス


 「………………」


 …………………。

 …………。

 ……。

 …。

 土砂降りの日の事だった。

 風も強く吹いていて、底冷えする九月。

 倒れ伏すヤンキーたちの中心に、俺は居た。

 厚い曇天に隠されて月の光も見えなくて、点滅する街灯だけが辺りを仄暗ほのぐらく照らす中、その青みがかった黒髪だけはよく見えた。

 夜の黒の中心で、凍えるような瞳をこっちに向けて、小さな女の子が佇んでいた。


 「ん……」


 寝て、た?

 なんかすっげーホラーな夢見てたような気がする……。

 おや? おかしい。

 なんだか床も硬い。

 俺は何だってこんなところで寝ているんだ。

 あれか、また拉致か。監禁か。


 「──いや」


 違う。

 思い出してきた。

 俺は確か頭から血を流して、頭に飛び膝蹴りを喰らって倒れんだ。

 ……よく死ななかったな、俺。

 いや、死にかけだったぜ俺!


 「っ! あいつらは⁈」


 青華と羽重とついでにメデスはどこに行った⁈


 「あの子たちならもう行っちゃったよ」

 「メデス」

 「まさか僕も白い子が割って入るとは思わなかったよ」


 流石に一人では危ないと思ったのかな、とメデス。


 「その程度の知性と感性があったとは思わなかったよ。あの子は、ほら、色々鈍そうだからね」

 「いや、お前、行っちゃったよって……あいつらだけで行かせたのか⁈」

 「そう」

 「そうって、お前!」

 「そう熱くならないでおくれよ。僕は言っただろう? 君以外を護る気は無いって」

 「メデスっ!」


 寝起きのローテンションも吹っ飛ばして、メデスにつかみかかる。

 胸倉をつかんだはずなのに頭に立たれている。

 頭から被せられる水。


 「冷ってえ!」

 「頭は冷めたかい?」

 「それ物理的に冷ますって意味じゃねえからな」


 制服までびっちゃびちゃだ。

 ぶるぶると頭と体を大きく震わせて水を落とす。

 タオル何て持ってないし。


 「俺が倒れてからどのくらい経った?」

 「大体、三、四十分くらいかな」

 「クソっ、そんなに経ってやがったのか。直ぐに追いかけねえと」

 「そんなに焦る必要もないよ。二人の生存は確認してるし、戦闘の音も今の所聞こえていない」

 「そんなん急がねえ理由にはならねえだろ」


 今生きてるからなんだ。

 戦闘の音がしないからなんだ。

 出遭ったら何かする間もなく殺されちまうんだよ。


 「──つか待て。お前生存を確認してるっつったか。どうやって」

 「人間は体の六割が水でできてるんだ。それを感じ取って状態を確認するくらいわけないよ」

 「マジで⁈」

 「ちなみにさっきのドロップキックのおかげで君は、百ポイントのダメージを受けて知能は十さがったよ」

 「あーマジかよ。そりゃあれだな。ショック療法ってやつだ」


 これ以上下がられると、前期中間ですら危うくなっちまう。


 「って違う違う」


 何を落ち着いてるんだ俺は。


 「それ、あいつらの居場所とかも分かんのか」

 「もちろん。方向から距離、スリーサイズまでお手の物さ」

 「そっか」


 便利だな。

 まあ、今その能力は別に要らないけど。


 「こうやって駄弁ってる時間も惜しい。わりいけど俺ん中戻っててくれ。ここからは──走るぜ」


 スタンディングスタートどんっ。

 ドア、ばんっ。

 靴片っぽ、とーんっ。

 情けない音を後に俺は走った。


 「はあ……、は、はあ、はぁ、ごほっ。げふっごほっごえっふごほ!」


 走った。

 坂道を登って、階段を駆け上がって、走った。

 なのに。

 チクショウ!

 こんなことなら、こんなことなら!


 「メデスに方向聞いときゃよかったぁ!」


 入り口まで戻って来ちまったぜ。

 やべえぜ。

 完全にやっちまったぜ。

 ドジの世界チャンピオンだぜ。

 ………………。


 「で、戻ってきた」

 「知能の下がり具合は十じゃなかったみたいだね」

 「……なあ、一ついいか」

 「どうしたんんだい」

 「俺が走り出した時にお前が俺に教えてくれればさ、直ぐに止まれたんじゃないかなって思うんだけどさ、どう思うよ」

 「ぷい」


 顔を背けるメデス。

 ワザと黙ってやがったな……。

 まあ、いい。良くないんだけど、今は置いておくしかない。

 とにかく今はあいつらを追いかけないと。俺が行った所であのラウルムに対抗できる訳じゃない。けど、自分のいないところであいつらが死んだ、なんて事になっちまったら俺は悔しさで、死んでも死にきれねえ。

 さて、こっちの扉じゃなかったという事は向かい側の扉か。同じデザインの扉だと紛らわしいったらありゃしない。


 「行くぞメデスちゃん。ここから先はシリアスの時間だ」

 「シリアスになったところで僕は手を出したりしないからね。僕はあくまで君の命を守るだけ。君を五体満足でいさせることだけが僕の目的なんだから」

 「つまり俺の事は守ってくれんだろ」


 ならそれで十分だ。

 つまり最悪の場合、青華達を庇うように俺が間に入ればメデスが止めてくれるのだから。

 ゲスな考え卑怯で結構。

 生きてりゃそれで万々歳。


「ズルいなあ。うん。でもそういう考えは、嫌いじゃない」


 お墨付きもいただけた事だ。

 二人が開いてそのままにしたであろう入り口とは反対側の扉をくぐって、腰のベレッタに手をかけた。

 

頭が3つ! 心臓も3つ! ちんちんも3本! 召喚! チンコアハムート!

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