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023・前編─先生! やっちゃって下さい!


 「むっきー! なんなのよあれ! 上から目線でえらっそーに!」


 怒ってむっきーとか言うやつを俺は初めて見た。

 起こり方のバリエーション豊富な奴だ。

 そんなそうそうありえない怒り方でも、声優に転向できそうなアニメ声だとなかなか様になっている。青華の小さな容姿も相まって、二次元度が高い。

 本当はアニメの中から出てきたのではなかろうか。

 顔を赤くして地団駄を踏む青華は、怒りの仕草を中々のクォリティで見せてくれている。胸中に不安や恐怖もあるだろうに。


 「って、そう怒ってるってことは先に進むつもりなのか?」

 「当たり前でしょ? 馬鹿にされて黙って引っ込んでるなんてあげないわ!」

 「ふーん」

 「なによ、反対するつもり?」

 「いや、いいんじゃないか? なにせ──」


 ──なにせこっちにはメデスさんがいるからな!

 そう言ってメデスにちらりと視線を向ける。


 「メデスさんは強いのね」

 「そうなんだよ。俺の見立てじゃ、あのラウルムとか言うやつはメデスよりも格下だ」


 珍しく俺の話に反応した羽重に答えながら、ちらちらと期待の眼差しをメデスさんに向ける。


 「ぷい」

 「そんなツレない反応しないでくださいよ~」

 「言っておくけど、僕は手を出さないからね」

 「え?」

 「僕は鈴人くんの命は守るけどその他はどうでもいい。青華ちゃんは──まあ助けてあげてもいいかなとは思ったりもしちゃうけど……」

 「いやいや、メデスさんならあんな金髪男装野郎なんて一発ですよ」

 「僕は僕の役割から外れることはしない。だから、あの子に攻撃したりしないし、鈴人くん以外の人間をあの子から守ったりもしない」

 「………………」


 メデスさんは参戦しない。

 このまま進むとあのラウルムが殺しに来る。

 俺たちに勝ち目はない。

 Death or die.


 「よし、撤退だ。帰ろう。一緒にお家に帰ろう」

 「急に手のひら返してんじゃないわよ!」

 「だってもう打つ手なしだろ! 完全に全部メデスに任せるつもりだったのに動いてくれないって言うし! 嫌だ! 嫌だ! 俺はまだ死にたくない! 我はまだ死にとうない!」

 「あぁ! もう! うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさーい!」

 「かっこわる」

 「なさけない」


 言いたい放題だ。


 「……羽重はどう思う?」

 「進むべき。少なくとも、この島が悪いものであるかどうか分かるまで」

 「反対一、賛成三で可決ね」

 「ん? おいちょっと待て」

 

 何かがおかしかった。

 賛成三?


 「メデスはまだ賛成、反対の意見を出していないはずだ。つまり反対一、賛成二、無回答一だ」

 「僕は多数派」

 「反対一、賛成三で可決ね」


 この手の話し合いで俺の意見が通ったことが、ねえ!

 これじゃ俺が将来的に結婚した時に、嫁さんの尻に敷かれるが未来がありありと見えるとか言ってきた中学時代の田中の予言が的中してしまう(そもそも結婚できるかどうかは別問題だ)。

 そうでなくとも──


 「──ダメだ。俺は絶対にここから先には進ませない」


 入り口とは別の扉。その正面を塞ぐように立ちはだかる。


 「どきなさい」

 「嫌だね。メデスが動かないと言っている以上この先に進んだら確実に全員死ぬ。そんなことが分かってて行かせられるわけねぇだろ」


 俺は小物で小心者だから、友達が意味もなく死にに行こうとしているのを止めないほど、ましてや一緒に死にに行ってやるほど強くない。

 大切な人たちが居なくなるのは、きっと悲しい事だから。


 「もう一度言うわ。どきなさい、鈴人」

 「……何度でも言うぞ。絶対にここから先には進ませない」


 キッ! と強く睨みつけてくる。

 わからない。

 どうしてそこまでして先に進みたがるのか。さっきの奴に上から目線で色々言われてムカついたというのもあるだろう。けれどそれだけで死ぬのが分かってて、それでも先に行こうとするものか⁈

 互いに構えを取る。

 俺は体を正面に向けて左右どちらにも動けるように。

 青華は前傾姿勢で今にも飛び出して蹴るように。

 落ち着け心臓。

 大丈夫。死にはしない。むしろここで止めないと死ぬ……!


 「とぅやあー!」

 「──ってちょぅ⁈」


 いつの間にか目の前にいる青華。

 振り下ろされるバット。

 床に衝突して砕けて再生するバット。


 「ヒィ……!」


 やべえ、頭頂部からおでこにかけて砕けるイメージが浮かんできた。

 左右から抜けるとか、飛び越えるとか、そんな話じゃない。

 こいつ、俺の屍を越えていく気だ。

 積極的に犠牲にする気だ!

私の中の暮木鈴人という人間は、小物で小心者。捻れきった邪道なんかできないし、熱血漢と言うほど真っ直ぐには生きられない。そんな人を目指して書いています。そのイメージに近く書けたので今回は満足です。

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