022・後編─お嬢様的執事さん
春休みが終わってしまった……。
ひとしきり走り終わった時には素敵な人形館が出来上がっていた。どこからか優雅なクラッシックでも流れて来そうな雰囲気だ。曲は暗めの夜想曲。
息も切れ切れ、周りは不気味な人形だらけ。何だコレ。
1分経過。
「もういいかしら?」
俺と青華がワタワタしてぜえはあし終わった後、落ち着いた頃を見計らったように声をかけられた。
今まで、というかここ最近普通じゃありえないようなことが置きまくっているせいで要らない耐性が付いてきたようだ。
もう何も驚かない。
今度は何だ?
メデスの悪ふざけか?
黒幕でも現れたか?
「ごきげんよう、皆さま。こちら金糸の羊所属のラウルムと申します」
「………………」
絶句していた。
もんのすごく驚いていた。
開いた口を閉じようとして一周回って顎がしゃくれていた。
「あら、どうされました? そんな『もう自分は何があっても驚かないぜ』とか思ってたのに驚いてしまって、驚き余って何も言えません、みたいな顔をされて」
「しゃくれた顔だけでそれだけの情報を⁈」
なんて奴だ。
実力の底が知れない……!
初登場早々にしてボケ指数が高い!
金髪蒼眼の人。全体的に暗めの印象を受けるが所々に明るい色を取り入れた線の細い紳士服。お嬢様的口調とは裏腹な執事さんと言った風体のその人。なんというか、こういうのを男装の麗人とでもいうのだろう。凛々しい容姿に華々し内面を持った少女がそこに居た。
しかし。
しかしながら、別に俺はその美しさに愕然としたわけでは、ない。
その格好。暗めの色をメインとしたその衣装に見覚えがあったから。
だから俺は少しの恐怖と共に中くらいの驚きを感じたのだ。
一番最初に見つけた人形。ポーズをかえながら段々と見た目を変えていったその人形の最終的な格好と、同じもの。
目の前の少女が身に着けているのはまさにそれ。
正直ぞっとした。
青華も顔から血の気が引いて行っている。因みに、彼女はホラーがニガテだ。見た目通りのお子ちゃまだもの。
今度こそ誰も何も言わなくなった。
相手のボケ指数の高さ故に突っ込みを入れてしまったが、本来なら俺たちのような素人は驚いて叫びをあげるか、一周回って無言になるかするしかないのだ。
メデスだけが興味なさげに髪をいじっている。
「まあ冗談も程々に。本日はご主人様より命令が下って皆様の前に現れた次第ですわ。ですので、皆さまは早々にこの島から退去なさってくださいな」
ですので、とは全く繋がらない、話の脈絡の見当たらない言葉。
それは会話という形をとっているものの、実のところは一方的な要求、あるいは命令となっている。
この数週間ぶりに感じる『異物』の威圧感……メデスよりは格下である事しか分からない。
「いえ、別に退去なさらずとも結構、と私は思っていますの。いつ忘れるとも分からぬ首輪をつけて放逐するくらいなら、この場で殺してしまった方がらくでしょうに……。今、皆さまの首がそうして繋がっている事実、我らがご主人様の慈悲であることを重々承知の上、お忘れにならぬよう。──では皆様方の方から質問等あれば受け付けますが、なにかありまして?」
………………。
確かに、俺はメデスよりは格下と評したが、しかしそれは俺が歯向かってどうにかなるとか、そういうことではない。
次元が違うのだ。
人を超越した存在。
彼女が放つ威圧感は、人を越え、人の頂点に立つ者達が持つ雰囲気とよく似ている。
人外という言葉が比喩であるかそうでないかの違いしかない。
どちらも同じ、化物だ。
そんな化物の問いに対して挙げられた手。羽重だ。
俺は正気を疑った。
「はい、そこの白いお嬢さん」
「貴女の言うボスというのは誰」
「私の上司です」
「そう。首輪というのは何」
「皆さまがこの島──というよりは世界から出た瞬間、なんとも不思議な事にこの島の事についての情報の一切を他人に伝えることができなくなります」
「そう」
「もう、よろしくて?」
羽重が小さく肯首する。
本当に機械みたいな奴だな。対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースとかじゃないだろうな?
「では、これにて失礼いたします。──最後に」
華麗な仕草で一礼。踵を返した彼女の周りにはまるで花弁が舞うよう──。
「暗くなる前に帰られることをお勧めしますわ」
花弁に包まれラウルムと名乗った彼女は消えていった。
幻覚じゃなかったのか……。
遅くなっても、私は悪くないよねぇ? なんて思ってるわたしもいるんです。




