020・前編─一時の安らぎ
仕事納め。
「なんかRPGのダンジョンみたいでテンション上がるなあ。そうだろ?」
「てんしょん爆上がり」
「お前は本当にそう思ってるか?」
「うん」
どうだろう。
言われてみれば確かに、心なしか羽重の目がキラキラして見える気がする。
声に抑揚がないし、表情筋も死んでるしで良く分からないけれど。
瞳がキラキラしてる気が……。
うーん?
やっぱりわからない。
心眼が足りないようだ。
照明一つ存在しない通路を懐中電灯片手に進んでいく。
……ふむ。
「ヴォン」
懐中電灯の光が線上に伸びてるように見えたと思ったらもう行動に移していた。
やるよね。やらない訳が無い。
もう今の時代では半分くらい実現しているけれど。けれどいつまでたってもこれは男の子のロマンなんだ。
「ヴォンヴォン」
「は?」
「ヴォン……」
「は?」
「………………」
「二度とやらないで」
「はい」
怒られた。
青華は機嫌の悪さも相まって雰囲気から威圧感がすごい。虎が如き威を放っている。
絶招・威鳴虎。
少しの間は大人しくしておくのが末吉と見た。今なにかおかしな事したら、三秒待たずにはっけよい、決まり手押し出し、追い打ちに肉弾エルボードロップからの筋肉ドライバー……超人もレスラーも真っ青なコンボを喰らうだろう。
俺だって裸足どころか全裸で逃げ出す。衣着ぬ鈴人はクールに去るぜ。
(できないことは言うもんじゃないよ)
(こいつ、脳内に直接……!)
(なんなのその反応……)
つーかこいつ俺の中に居なくても脳内会話できるのか。
知らなかった。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
静かだ。
俺がふざけなくなった途端に静かだ。
俺は、やはり必要な存在だったのでは?
賑やかし担当としての仕事を全うすべきなのではないか?
たとえ悪夢のコンボを喰らう事になろうとも。
そう思ったら俺の行動は早かった。
「えい」
「──⁈」
男の子なら誰もが憧れる行動第二弾。
スカート捲り。
小学生一年生の時に隣のクラスの奴がやったという話を聞いた時は表面上馬鹿にしながらも憧れたものだ。あの時はごめんな野村。
今回のターゲットとなってしまった青華(俺の目の前にいた不運を呪うがいい)は声にならない叫びをあげながら後ろ回し蹴りをかましてきた。
世界がスローモーションに感じられた。軽い臨死体験である。
「あ、あああああんた急に何てことするのよ!」
「まずは回し蹴りじゃなくてスカートを抑えるのが王道の反応だ、ぜ」
「知らないわよそんな事!」
「所で、急に何てことするの、って言ってたけど急じゃ無ければいいのか?」
「まあそれならあんまりビックリしないし……って、ダメに決まってるでしょ!」
「ダメなのか……」
「セクハラは……犯罪」
「やべえ、正義ウーマンだ」
予想外の人間が会話に交じってきた。
粛清が入るかと思ってヒヤヒヤしたのは別の話。
「楽しそうなのはいいけれど、もう少し緊張感を持ってくれるかな? ここはもう敵地のど真ん中かもしれないんだから」
「ごめんなさい」
ちょっと度が過ぎてしまったかもしれない。
とりあえず起き上がろう。
「それにしても、扉が閉まって真っ暗になった時はあの影が出て来るんじゃないかと思ってたんだけど……、なんだか肩透かし食らった気分だ」
「ていうか、その影とかいうのは本当にいるんでしょうね? 私まだそれ見てないんだけど」
「いるとも。ただ今は出てこないだろうね」
「えっ」
「何か勘違いしているようだけれど、アレは暗いとことに出て来るんじゃない。夜に出るんだ」
「夜?」
「うん。まあ時差とか標準時とかその辺を抜きに考えて、その場における日暮れの時間から出現し始める。……照度ではなく、時間がアレらの出現条件なんだよ」
「そうなのか」
光に当たるのを極端に避けているように見えたからてっきり暗いと出てくるもんだとばかり思っていた。
そりゃ肩透かしも喰らうわけだ。
「でもなんか……うん、やっぱり裏切られた気分だ」
「そんな勝手に裏切られたとか言われたら、あっちもビックリだろうね」
ショッカーみたいに大量に湧き出してくるような設定だったなら弱体化の目もあっただろうに。あの様子じゃ、一体一体が普通に強そうだ。
しかも伸びる。不定形のつよつよ敵影体。
「いや、でも、ここで出てこられたらもう助からない、ってかどうにもできないよな」
「狭いし、あっちは伸びるから遠距離も自在だからね」
「伸びるの?」
「そうなんだよ伸びるんだよ」
「ゴム人間……!」
お、なんだか言葉の後ろに感情が見えた気がした。
どうやらゴム人間にわくわくしているようだ。
羽重は漫画とか好きなんだろうか。以外だ。
れいだーん。
裸祭り、んん~、パージ! んん~パージ!!




