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012・前編─あら暮木じゃないの。あなたも買い物をしにこの店に訪れたの。この店で土下座を買って誰かに素晴らし土下座を送ろうってことね。因みに土下座とは古代……

 土下座。それはおよそ二世紀から三世紀頃には存在していたという最上級の畏敬の表現である。土下座については有名な中国の歴史書であるところの『魏志倭人伝』にも記述がある。その頃の土下座と言えば謝罪やお願い、ではなく、前述の通り畏敬の表現だったのだ。今現在、一般的には謝罪やお願いの表現として認知されているが、その意をもって使われるようになったのは第一次世界大戦後、大正から昭和にかけてのことなのだ。

 そしてナウでヤングな人間であるところのこの暮木鈴人も土下座の使用法方としてはやはり、『謝罪とお願い』の意を持ってあつかおうじゃないか。


 「………………」

 「………………」


 というようなわけで、土下座を初めてもう一時間と三十分ほどが経過した。

 一コマが終了した後に直ぐ土下座を開始した俺であるが、不思議なことに今の所誰にも何も言われていない。教師まで無視して授業始めた時は流石に正気を疑った。正気を疑われなければならないはずの俺が正気を疑うとは、これ如何に。

 俺の芸術点は満点の土下座を技術点は満点のスルーによって流されてしまってはどうしようもない。

 ガン無視決め込んでやがる。

 こうなったらほとんど打つ手なしだ。俺も土下座するだけで何も言えてないのが現状だ。

 どうしようか……。

 現在は午前中の授業が終わって昼休み。俺も空腹をおしての土下座だ。


 「………………」

 「あっ……」


 青華が立ち上がる。

 もう昼だ。昼食を買いに行くのだろうか。

 いずれにしても移動しなければならない。

 ふふふ、見せてやろう。この俺の画期的な土下座移動法(さっき思いついた)を。

 青華の後ろを土下座移動法を用いて着いて行く。どうでもいいがこの「カサカサ」という擬音が目に見えるというのはどういうことなんだろう。

 しかし、しまった。俺としたことが予想を外してしまった。青華の向かう先は購買でも食堂でもなく、男子禁制、入ったら変態の汚名を免れない禁域。というか女子トイレだった。

 流石の俺の「カサカサ」といえどもいささかの衰えを見せた。

 が、覚悟を決めた俺にはもう関係ない!

 前進あるのみ。


 「くぉら!」

 「ぎゃぶぅ!」


 蹴られた。踏まれた。蹴り上げられた。踏みつぶされた。


 「な、なにをするだあ!」


 周囲の女子たちにリンチに遭った為に抗議の悲鳴をあげる。


 「変態!」

 「クズ!」

 「ゴミ!」

 「死ね!」

 「キモい!」

 「臭い!」

 「ロリコン!」

 「誤解な上に今は全く関係ない誹謗中傷が含まれてた!」


 なんなんだこいつら。しかも誰一人として知らな……いや、何人か分かるな。何度か青華に話しかけてるのを見たことがある。その度に青華がまともに話せていなかったのを覚えている。


 「クッソ、哀れ一号二号め……」


 青華は見失うし、周りの女子からはまだ何かひそひそ言われてるし殺されそうなくらい鋭い目つきで睨まれるし。一体俺が何をした。邪な気持ちなど欠片よりも倍くらいしかなかったのに。

 馬鹿な、俺の土下座の一体何が悪かったというんだ……。青華無き今、俺は一体どこに土下座すればいいんだ……?


 (いや、土下座すんなよ)


 可愛いメデスちゃんボイスに耳を傾けて、とりあえず購買へ向かう。


 「……あ」


 ふと思い出す。昨日の昼食を。俺の現状を。

 そう──財布の残金を。

 電子の方にもチャージしていない今、俺の所持金はゼロに等しいという厳しい現実を。

 土下座ができない事とお金がない事とが重なって自分でも分かるくらい落ち込んでる。メデスも引くくらい落ち込んでる。

 もうだめだ……土下座できない俺に一体何の価値がある。

 厄日だ。


 「うぉ!」


 今のは別に俺が誰かに引かれた効果音ではないという事は御理解いただきたい。

 むしろ他人から発せられた効果音ではなく俺の口から出た擬音だ。

 いや、目の前がいきなりひと目でとてつもない熱量が分かる肉の壁が現れたら誰でも言うわ。


 「つーか邪魔だよ。熱量と見苦しさで不愉快指数が大変な事になってるよ。星数えてみろよそれで今の不愉快指数わかるから」

 「ぬ、俺の前でカロリー計算以外での数字の話をするな」

 「待て、お前はなんで上半身裸なんだ?」

 「………………」

 「おい」

 「………………」

 「おい? おーい?」

 「……なあ」

 「え?」

 「いつまで待てばいいんだ?」

 「待てを忠実に実行していた⁈」


 なんて奴だ。

 なんて馬鹿な奴なんだ!

 思わず急成長を見せた主人公に強キャラみたいになってしまった。いねえよ、待て言われてそういう風にとらえて実行する奴。いや、いたんだけども。


 「なに、少し前に校長に直談判しに行ったら大爆笑で許可をくれたのでな」

 「ほんと何なんだあのクソガキ」

 「? クソガキとはなかなか失礼な奴だ。あの方が一体幾つだと……」

 「幾つって、あの完全に二次元の世界にしか存在しないようなの魔女っ娘──いや魔法少女コスした幼女が幾つだろうとクソガキだろ」

 「?」

 「?」


 ん?

 話が嚙み合っていない。どういうことだ?


 「まあいいや。とにかく見苦しいから服を着ろ」

 「なに? この素晴らしき黒光りの超絶筋肉が見苦しいだと?」

 「見苦しいってか暑苦しい」

 「ふむう、仕方ない」


 筋太郎きんたろうは嫌々渋々服を着た。  

この後、来週投稿して、その後二、三週間空きます。夏休みの直前にテストとかちょっとどうかしてます。

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