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011─人間は考える葦である……葦ってなんだよ。

ちょっと洒落た(自己評価)〆方をしたはいいものの、しかし実は二時間ほどの睡眠を取れたという事は俺の心の中だけに秘しておこうと思う。

 今日も当然のように学校には遅刻していった。まるでそれが義務であるかのように、ある種の使命感を持って通学の道をひた歩く。

 

 「………………」


 校門前には誰も居ない。急に足が凍りつくことも無ければ、ドロップキックを喰らう事もない。

 青華がいないとこんなにも静かなものなのか。

 どこか寂しさを感じてしまう。

 感傷に浸っているほど時間もない(遅刻しているのだから時間がないもなにもないのだが)。この時間だともう一コマの終盤に差し掛かっているだろうか。

 下駄箱が存在しない玄関口を潜り抜け、ゆっくり教室へ向かう──訳では無く、そのままその辺の休憩スペースへ。もう一コマはサボる算段だ。

 別にヘタれたわけじゃない。わけじゃないけれど、やっぱりほら、タイミングが掴めないというか。少なくとも今教室に入って青華に会っても何もできないし。

 一コマに授業が無い先輩がちらほらと目につく。休憩スペースを見渡した時に見覚えのある赤髪の学生と目が合った気もするが……そんな事を気にしている余裕はない。一体どのように謝ったものかと頭を悩ませなければいけないのだから。

 自販機でお茶を買って窓際の席に着く。

 お茶を一口呷ってほぅと息吐く。


 「さてなあ……」


 どう謝ったものかな。

 単純にごめんなさい、か。すまなかった、反省している、悪いと思ってる、もう二度としないから。

 浮気を許して貰おうとする男みたいになってしまった。

 そもそも今回の件の原因がそれなりに重めの話である為に謝罪の言葉が見当たらない。俺の行いは青華にとっては裏切りも同然のものだった。それをどう謝るというのか。一度失った信頼を取り戻すのが難しいように、一度裏切ったら元の鞘に収まるのは難しいのだ。弓良は簡単に熱い展開なんて言ってくれたが、そりゃあ見てる側は燃えるだろう。見てるだけなんだから。

 テンションが下がってきた。

 あいつ、適当なこと言いやがって。無茶苦茶な事だという事も、難しい事なのも分かって弓良の言葉に納得してしまった俺にもその責はあるけれど。

 謝罪って難しい。


 「随分と難しい顔をしているじゃないか」


 いつの間にか隣に誰か座っていたようだ。横からやけに馴れ馴れし気に話しかけられる。女性の声だ。


 「……おはようございます」

 「ん、おはよう」


 柔らかい笑みをを浮かべる横の女性──我らが学生会長。さっき目が合った気がしたのは気のせいじゃなかったらしい。

 会長はその目線を下に向けて今度は満足気な笑顔へと表情をシフトさせる。


 「うん、よく似合っている」

 「これが似合ってるとか相当悪趣味ですよ」

 「ハハハ、そう言うな。それ付けてると強そうに見えるぞ」

 「マジっすか」


 強そう。

 そう言われてテンションの上がらない男がいるだろうか。

 いや、これ付ける事によってむしろ弱くなっているのだけれど。


 「そういえば、これ付けるように校長に言ったの会長だって聞きましたけど」

 「ああ。校長に直談判してね。喜んで了承して更には具体案まで出してくれて」

 「やっぱただの愉快犯だったかあの校長」


 厄介、迷惑この上ない。

 しかも無理に外そうとすると爆発する機能付き。最悪死ぬわ。


 「爆弾を付けるのは流石にやり過ぎだと思ったんだけど……」

 「だけど?」

 「大丈夫かなって」

 「なわけあるかあ!」


 怒鳴った。わめいた。いなないた。

 年上相手にタメ口で叫んだ。


 「可愛く言えばなんでも許されると思うなよ! なにをどう思ったら爆弾を大丈夫なんて思えるんだ!」

 「いやあ」

 「照れー!」


 もう自分で自分が分からなくなってきた。

 もういいや。どう考えたって会長の考えも校長の考えも分からないし、聞いても教えてはくれないだろう。

 本当に爆発するかも分からないしな。俺にこれを外させないための嘘かもしれない。

 閑話休題。


 「で、難しい顔をしてなにを考えていたんだ?」

 「えっと……」


 なんて言えばいいのか。


 「先輩は誰か親しい人を傷つけてしまった時、どんな風に謝罪しますか?」

 「ん? んー、そうだな」


 僅かに間を置いて、こちらに向き直す。


 「謝らない!」

 「論外だった!」


 そもそも成立しなかった! 相談相手が悪かった。


 「半分は冗談だ」

 「半分は本気なんだな」


 もう年上へのタメ口にも動じない俺だった。


 「謝る前に考えるんだ。本当に謝るべきことはなんなのか。自分だけが悪いのか。その根本を考える。だから謝る前に考えて、必要なら、その傷つけた相手と話し合うんだよ」


 半分は冗談。

 なるほど、確かに半分である。完全に自分が悪ければ謝るが、相手にも非があった場合は話が別である、と。恐らく、どちらにも非があった場合は話し合いの末のすり合わせで謝らずに終わるのだろう──無理。

 無理無理無理無理。

 明らかに常人の発想じゃない。

 このイカれた学校の学生会長がまともなわけなかった!


 「私に言わせれば相手を傷つけてしまっても、その原因が相手に在るうちは何度でも繰り返してしまう。だからその原因を取り除いてしまうのが手っ取り早い──まあ、なんというか、言いたいことが纏まらなくて申し訳ない限りだが、そうさな……誰かを傷つけて、それで自分も傷ついてしまったのなら、それは傷つけた方が一方的に悪いなんてことはないんだ」


 尤も、これは加害者側の都合のいい解釈だけどな。

 そう締めくくって、会長はその琥珀色のア双眸を真っすぐ俺へと向ける。


 「まあ、そうは言ってもだ。結局はやりたいようにやればいい。それだけだよ。心の底から仲直りしたいと思って誠心誠意その想いを伝えればきっと伝わる。と言うのが一般論だ」

 「最後で一気に酷くなりましたね」

 「照れ隠しだ。……さっき言ったことは私のやり方でしかない。君は君のやり方で気持ちを伝えたらいい」

 「……………」


 ふむ。

 ……ふむ?

 あれ、結局質問には答えて貰えてない?


 「ん? 最初に答えただろう──」


 最期には朗らかながらもどこか儚げな笑顔を浮かべる。


 「──私は謝らない」


ひゃっはー!

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