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010─裏切りか。決別か。それで終わりでいいのか。

 「なんなんだよお前ら。暇なのか? この不良共め。今もう何時だと思ってんだ、三時半を回ってんだよ、もうそろそろでお年寄りが起きだしてもおかしくない時間なんだよ。そんなに俺の事大好きか。今夜は寝かさないぜ──ってそれはもう色々危ないけどな」


 一応明言しておくのだが、今俺の目の前にいるのは一人だけである。先程までこの部屋にいた狛人も含めて()()()とは言ったけれど。

 簡単に言えば俺と狛人の会話のほとんどを扉の前に居た弓良に聞かれていたのだ。

 とりあえず正座させた。

 俺の目の前でまさに正座をしている弓良ちゃんなのだが……今の時間のあれこれよりもこいつの拳が若干赤い事の方が気になる。そういえば狛人も所々ボロボロだった気がする。俺が羽重邸でに誘拐されていた間にこちらはこちらで何かしらの事があったらしい。恐らくは、今朝──昨日の朝の事への報復を狛人が受けたのだろうけれど。

 まったく。俺らの分の飯も全部食ってくななんて愚行を犯すからだ。


 「なんで私は正座させられてるの?」

 「なんでだろうな」


 なんでだろう。

 よく考えたらなんで正座させたんだろう。

 でも人が自分の目の前で平伏低頭(正座)の状態と言うのは気分がいいのでしばらくこのままにしておこう。


 「うっわ最低だ、お兄ちゃんさいっていだ!」

 「何を言うか。これが兄妹間の正しき関係図だろう」

 「そうか」

 「そうだ」


 じゃあ仕方ないね。と、納得している馬鹿な妹を見るとこいつの将来が割と本気で心配になってくる。狛人はあんなにもきちんと物事を考えられていたのに。

 総じてただの馬鹿な妹である。一言で残念過ぎる。


 「………………」

 「………………」


 正座させたはいいものの別に話すことも何もないんだよな。俺と狛人の黒歴史を知られたくらいで。……それが問題なのだけれど。

 忘れろと言うべきなのか、なにかで買収すべきなのか。そういえばチョコレートがなくなったとか言ってたか。いや、俺金欠だった。


 「……青華さんと」

 「ん?」

 「喧嘩したの?」

 「喧嘩っていうか、まあ──いや、喧嘩じゃない。俺が一方的に悪い」

 「ふうん」

 「………………」

 「………………」


 なんなのだろうか。

 話をほとんど聞いていたと自供した弓良ではあるが、詳しくどこからとは聞かなかったので事実のすり合わせが必要か。

 そうでないことは分かってはいるのだが。恐らく、ほとんどという事は全部聞いていたのだろう。しかしそれでも聞いてきたという事は、なにか弓良なりに思う事があったという事なのだろう。

 何気に青華と親しいという事も関係しているかもしれない。


 「お兄ちゃんが青華さんを心無い言葉で傷つけて、それでフラれて意気消沈して帰って来たと」

 「別にフラれた訳じゃない。けど……そうだ」

 「口論になったわけでも、殴り合いになったわけでもなく、ただ気まずい感じになっちゃっただけ。ふーん」

 「なんなんだよ。さっきっから」


 確かめるようにして確信を突きまくる弓良の行動に、流石の俺も腹の奥から僅かに怒りが滲み出てくる。要するにイライラしてきた。


 「なにというわけじゃないけどさ」


 弓良は言う。


 「裏切っちゃったのかもしれない。傷つけちゃったのかもしれない。でも、それで、それだけで決別しちゃうような、切れちゃうような簡単な縁だったの? ──んや、お兄ちゃんだから余計傷ついたのかもしれないけれど」


 最期は全く脈絡がない発言ではあったが。しかしそれ以外の発言は考えさせられるものだった。

 裏切った。

 傷つけた。

 でも──それでなくなってしまうような関係でもない、なんてそんなのこっちの勝手な想像で、身勝手な思い込みだろう。

 ただそうしてしまったという事実のみが青華からの決別を意味している──


 「だからそれが違うって言ってんじゃん」


 こちらがどう思うかではなく、あちらがどう思うか。

 そうではないと弓良は言う。

 なにがどう違うというのか。


 「裏切って、傷つけて……で? それで終わりなの? 体の傷はそのうち治るよ。でも心の傷はなかなか治らないし自分一人じゃ治らないことだってあるんだよ」


 よくある、よく聞く言葉。

 誰でも言えるような言葉でも、そこには確固とした説得力があった。

 はてな。どんなによくある言葉でもこいつにきちんとここまでの力を持ったことが言えるとは思えない。つまりはこの弓良の言葉には、何かしらの経験などが絡んできているということである。

 ……まあ深くは問うまい。


 「傷つけたなら直せばいいじゃない。裏切ったのならもう一度味方になればいいじゃない。一度裏切った人間が再び味方になるなんて展開──燃えるじゃん」

 「……無茶苦茶だな」

 「もう一度とかは置いておいて、でも、謝罪一つできないで終わりなんて事は違うでしょ? それに私は青華さんにも非があると思ってるし。流石にやり過ぎだよ」


 謝罪。

 もちろんそのつもりだった。

 さしもの俺もなんのケジメもつけずにストーキングに走ろうとしていたわけでは無い。

 もし許して貰えたのならそれでいい、なんて甘い考えからの判断ではあったが。


 「やり過ぎでもなんでも、傷つけたのには違いないからな。それに──」


 泣かせちゃったしな。

 最近じゃ二回目だ。


 「そっか」


 なら、それでいいや。

 ここまで色々言ってきた弓良ではあったが、結局は当人同士の問題。結論に口は出さないらしい。


 「よし、もうそろそろ正座から直る事を許してやろうじゃないか。中々にいい話だったからな」

 「どこの世界の貴族よ」


 王様かな。


 「………………ぁ」

 「? どうした?」

 「し、痺れた……」


 締まらねえなあ……。カッコつかないのは兄弟皆共通の性質みたいだ。

 ──さて、黒歴史を目撃してしまった為にここに正座で拘束された弓良も、何故か友達との仲たがいについて弟妹に話してしまった俺も寝る時間は無いだろうな。

 だって、ほら。もう朝日が昇る……。

実は私には弟と妹がいるんです。本当に馬鹿でウザイんですけれどね。正直小さな頃は一人っ子の方が良かった、なんて何度か思ったことがあったのですが、しかしいざ想像してみると「一人っ子の自分」というものが想像できないのです。2人がいないということが想像もできないほど、もう2人は自分の中で大きなものだったのです。なんてことに気づけたのはつい最近のことでした。

そんな下の弟妹も知らない間に成長していて、いつかは私が今回と前回に描いたように、何かしらの自分の考えを持って大人になっていくんでしょう。そういった成長が上としては嬉しいのです。

そんな16歳の私でした。


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