008・中編其の参─現れたのは少女でした
遅くなりましたっー!
「ここね! って、むっうきゃう!」
容赦なく後ろの襖が蹴破られる……と同時に素っ頓狂な声。
むっうきゃう? なんだそれは。
体を転がして顔の向きを変える。
して、そこに居たのは──部屋の中に倒れこんだ襖とそれの上に倒れこむ青華だった。
何やってんだ……。
どうやら、襖を蹴破った際に一緒に穴を空けてしまって、そのまま足が抜けずに一緒に倒れてしまったらしい。間抜けだ。
「こっの羽重! 罠を張るなんて姑息なマネするじゃない!」
「いや、それはお前のせいだと思う」
思わず口が出てしまった。
青華がキッと俺を睨む。
殺意が垣間見える。怖え。
「細かくうるさいわね。わざわざ助けに来てあげたんだからしばらく黙ってなさい」
はて。
助けにきた?
聞き間違いじゃ無ければ青華は俺を助けに来たと言ったのか? 青華が?
この場合の疑問は、なぜ青華が俺を助けに来たか、ではなく、なぜ俺が拉致された事を知っているか、だ。
まさかメデスが伝えに行ったわけでは無いだろうし、俺にも伝える手段はなかった。
「まだ時間には早い」
「知らないわよ、そんなの。なんで私があんたの指示に従わなきゃけないのよ」
「……人質」
「鈴人に人質にするだけの価値なんてないわ」
「お前俺助けに来たんじゃなかったのかよ!」
真の敵はお前だったのか。
驚きの発言をするな。
どうやら、青華は羽重が呼んだらしい。
なにかと疑問点ばかり作る奴だな。
なにも分からない奴、とも言える。
どちらにせよ、俺が知らないだけなのだけれど。
「じゃあ助けてあげるから──」
再び月明かりが差し込みだす。同時に、視界に青い粒子──霊子──が漂いだす。
「──黙って助けられなさい!」
冷気が爆ぜる。
床から飛び出すように鋭さを持った氷が地を這い、羽重に正面から走る。
青華も走る。
走って、足を……足を振りきる。
俺の方に。
「ぐぎゃー!」
蹴り上げられた俺が飛ぶ。
あの小さな体のどこにそんなパワーがあるんだ。因みに暗いからスカートの中身は見られなかった
羽重に迫る氷の一部が潰れるように砕けると同時に羽重が跳び上がる──いいや、浮かび上がった。
月を背にして、まるで月面上かのような重力を感じさせない動き。
月兎というのはもしかしたらこういうものなのかもしれない。
状況にそぐわない、そんな思考が脳裏に過る。
「ぐぎゅ!」
そんな羽重とは違って青華に蹴り上げられた俺は、重力に従って地面に落下して背中を激しく打った。
辛うじて頭を打つことだけは避けたけれども、一歩間違えたら命の危機だぞ。
痛みに悶えて転がり回る。
本当の悶絶ってのは叫ぶこともできないんだぜ。
幸運だったのはすぐ側の池に落ちなかったことだろう。
危ねえ。
庭に飛び出た俺と羽重を追って青華が下りてくる。こいつ、土足で上がって来てやがった。
「……そういえば、あんたの能力知らなかったわね」
「教えない」
「でしょうね」
羽重が青華に接近すべく前に出飛び出す──と同時にその進行方向に白い氷の壁が現れ、その行く手を阻んだ。
羽重が上方へとふわりと跳び上がり壁を回避し、今度は体に重りでも付けているたかのような勢いで青華へと強襲する。
あのスピードじゃ氷壁も作る暇はないだろう。
痛みでまともに喋ることもできない今の状態じゃ青華に声をかけることもできない。
一瞬、羽重を見失っていた青華は、自分に一つの影が重なっていることに気づいてようやく羽重を見つけたらしい。
咄嗟に後ろに下がることで羽重の強襲を避ける。
今絶対に当たったと思った……!
間一髪、危機一髪、難を逃れた。
ところで、黒ひげ危機一髪はまだ売っているのだろうか。あれは母親が異様に強くて、一度も勝てた事がない。
黒ひげばりに跳ねた青華は再び羽重から大きく距離を取り、両者の間に弧を描くように白色の低い氷壁を展開する。その高さ、およそ青華の身長の三分の二。
再び、羽重が距離を詰め、再び青華が壁を創り、再び羽重がそれを避けて青華に攻撃を仕掛け、再び青華がそれを避けて距離を取る。
また、再び、そして、そうして、もう一度、もう一回、Re: ……。
何度も、何度も繰り返し同じ展開をなぞる。右に行って左に行って、飛んで跳ねて。身動きが取れない今の状況では微に入り細に入った説明はできないが、青華の氷壁が増えていることは確かだろう。庭の草木に霜が降りているんだもの。
そして立体的に動き過ぎなんだよ。首がねじ切れるわ。
いつの間にか羽重は刃物持ってるし、青華はバット持ってるし……。
金属と硬い氷が打ち合う甲高い音が響く。
追いかけっこではない、近距離での打ち合い。
しかし、それも長くは続かなかった。
突然、青華の動きが鈍くなる。よく目を凝らして見ると──白い氷の細かい破片に紛れて分かりにくいが──白い粒子が光って舞っている。
「羽重の能力か……!」
月光はどこまでも黄金色だが、この二人による光はどこまでも白く、青かった。青華に至っては白と青のハイブリットだ。
羽重が能力を使い始めたという事は、青華の勝率が一気に落ち込んだことを意味する。以前、青華は羽重のその能力に苦戦し、敗北を喫しかけているのだから。以前にも青華は同じような状況に陥っている筈なのだ。つまり──青華が羽重の能力に対する対策を持ってなきゃ青華の敗色が濃厚だということ。
それが分かって青華も来ている筈なんだ。それでも助けに来てくれたという事に若干の感動を禁じ得ないが、感動よりも心配が勝るような感じだ。感動四分、心配六分。もちろん、この場合の心配とは、後から青華に殴られるんじゃないかというような心配に他ならない。
要するに──俺は青華が負けるなんてことは微塵も考えていないってことだ。
仕方なかったんです。課題とか、9nineとか、9nineとか。やっぱ兄弟は大切にしないといけませんね。そらいろをプレイし終わった私でした。




