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006・後編─スキル・章替えリセット

 「とかなんとか言ってる場合じゃねえ!」


 叫びながら駆け出す。

 だってあのまま居たらすぐに身動きが取れなくなってボッコボコのギッタギタでメっタメタにされてしまうのだもの。青華から冷気が発され始めてたんだもの。

 しかし、そんな抵抗も虚しく俺の動きは止められてしまった。ていうか止まってしまった。

 俺のすぐ真横を高速で氷が飛んで行く。

 後ろから発される圧と冷気から「次は当てる」という意思をひしひしと感じる。

 振り向きたくねえ……絶対振り向きたくねえ……。

 しかし、そんな事を思っても俺の逃げ場は完全に塞がれてしまったために逃げられない。

 というのも、目の前と左右、背後を除いて氷柱に塞がれてしまったのだ。

 ……いや、おかしい。

 そう、違和感を覚える。

 いつもならもっと、あと少し、もうちょっと長く逃げられたはず。いくらなんでも逃げてから捕まるのが速すぎる。一体どういうことだ?

 いつもなら……あ、霊力使えないからだ。そうだった。使えないんだった。

 致命的すぎる。


 「ぐべ」


 一閃。

 顎に鋭い痛みが走ると共に体が崩れ落ちる。嘘だろ。一撃で体の自由が奪われた。

 はじめの一歩でさえ佳境でしか出ないような、そんなパンチだった。

 とは言え、さすがにすぐ動けるようにはなった──が、そんなことも関係なく首根っこを捕まれて、ズルスルと引きずられる。


 「──って、おま、どこにそんな力が……なあ、そんな人気に無い方に行くなよ。俺、何されるの⁈」


 駄目だ。いくら暴れても離せない。

 なので、ボコられる様を見られたくないからここで章を変えよう。次に俺の語りが入るときにはもう、俺はボコられ終わっているだろう。

 まあ、次に語りが入るかは、分からないけど。

……さて、そろそろ章が切り替わっただろうか。

 あー、やだなあ。これから俺は無様に悲鳴をあげながら、涙を、時には血を流しながら、殴られ蹴られ、挙句の果てには凍りつかされるんだろうなあ。

 一体、俺が何をしたってんだ。ただ男たちが趣向の話をしていただけなのに。それがヒートアップして抗争が起こっただけなのに。その上、青華のコンプレックスにちょっと触れちゃっただけなのに。

 ………………。

 原因は明らかだった。

 が、俺は気にしない。

 それでも俺は悪くないと主張を続ける。

 ああ! そうとも! 俺は悪くない!


 (……まったく、本当にどうでもいい事で往生際が悪いなあ)

 (うおっ、びっくりした)


 脳内に直接響くソプラノヴォイス。皆大好きメデスちゃんの登場だった。まあ、皆大好きだろうと何だろうと、もう章が区切られてるから関係ないけれど。


 (なんだ、暇なのか? 俺はこれからちょっと忙しいぞ)

 (自分よりも小さな女の子に殴られたり、蹴られたりすることを忙しいと言うのは悲しくならないのかい?)

 (もう慣れた)

 (かわいそうに……)


 キラン、という擬音が聞こえてきそうな、そんな言い方だった。というか、一瞬視界の端できらりとなにかが光った気すらした。


 (で、なんの用なんだよ)

 (いや、暇だからお話でもしようかと思って)

 (暇なら助けてくれよ。今まさにお前の宿主が自分よりも小さな女の子に殴られたり、蹴られたりされそうになってんだから)

 (おっと、ちょっと大変な野暮用ができてしまったみたいだ)

 (あっ、おい!)


 それきり声が聞こえなくなる。

 なんだよ。大変な野暮用って。

 野暮用ならさ、良いじゃん。大丈夫じゃん。

 いっそ代わりに殴られてくれりゃあいいのに(クズ)。

 いや、あんな美少女を殴らせるわけにはいかないか(良心)。

 いつだかに女の子ぶん殴って気絶させたことがあったような気もするが……そんな太古の事はよく覚えていない。あったような気がする、だ。事実でない可能性が高い。もはやそんな出来事の物語さえ、綴られたのはもう遥か昔である。悠久の彼方だ。

 ふむ、良心の勝利だ。

 そこで、ふと、青華が足を止める。すると必然的にそれに引きずられていた俺も一緒に停止する。

 校舎の影になっていて後ろは短く刈り揃えられた芝が軽く傾斜を作り出している。その先に川でも作ったら大変似合いそうである。

 しかし、良心の勝利とか言ってはみたものの、もう関係無いようだった。

 俺は……あまりにも遅すぎたっ……!


 「……ここらへんでいいかしら」


 そう一言いうや否や、ポイ、と俺を投げ出す青華。

 だからその力は本当にどこにあるんだ。その小さな体のどこに。


 「えぐっ」


 ただ呻くだけとなった俺はとりあえず視線だけで抗議する。が、すぐさま睨み返された。『なにその生意気な目は』と。そんな意志の籠った目。

 おっかねえ。


 「いい? 私だって別にあんたの事を好き好んで痛めつけたい訳じゃないのよ。ホントよ?」

 「………………」

 「だから、一発よ。今回は一発で許してあげる」

 「そもそも殴るなよ……」


 うんざりと言い返す。


 「仕方ないじゃない。ちょっとカッとなってここまで引っ張って来たのに、ここに来るまでで頭が冷えちゃって何もせずに戻るなんて……恥ずかしいじゃない」


 そう言って、青華はもじもじと顔を赤くした。可愛い。

 いや、言ってることは只の我儘なんだが。だからこそ、とも言えるが。


 「ほら、立って。それとも顔に食らいたいの?」

 「俺としてはこのまま逃げ出したいんだけど」

 「ダメよ」


 よく考えたら訳の分からない状況から脱する手段をピシャリと言い放たれた青華の一言に潰される。

 ……もう、腹を括るか。

 ここはもうどうせ章と章の間。物語のバックヤードだ。逃げられないんだし、それだったら一発だけ、ちょいと殴られておこう。青華の機嫌を損ねるのはよろしくないからな。


 「分かったよ。できるだけ痛くするなよ?」

 「情けないセリフね」

 「うるせえ」


 それじゃ、と構える青華。

 こちらも腹に力を込めて攻撃に備える。

 まったく、てんでギャグパートにすらならない話だった。


 「別に好き好んで痛めつけたりはしたくないけれど──」


 青華の拳が勢いよく振り切られ、俺の鳩尾を正確に撃ち抜く。


 「ごはぅっ!」

 「それでも恨みは忘れた訳じゃないわ」


 体が宙に浮き、そのまま移動するような感覚。ともすれば空を飛んでいるとでもいえそうな感覚。

 ここ最近では随分慣れた感覚である。

 殴られて吹っ飛ばされた。ここ最近というか、割と前から慣れていた感覚だった。

 怒りと恨みでは違うのだろうか……? いっそのこと冷静になってそっちも忘れていてくれたらよかったのに。


 「………………ふんっ」


 青華は一瞬、顔を翳らせたと思ったら直ぐにつかつかと立ち去っていく。


 「あー、ん、飛距離の割には」


 痛くない。

 別にどうしたというわけではないがそこを口には出さなかった。自分でも分からないが、面倒にでもなったのだろう。

 ……うん。なんか起き上がるのも面倒だな。馬鹿らしいほどに青い空がそんな感情を助長させている。春の陽気に当てられて、心地よさが同時に眠気も連れて来る。日光が直接視界に入ってこないのもこの心地よさの一因だろう。


 (このまま寝ちまうかな。次はどうせ数学だったし)


 寝る決意をするのに三秒もかからなかった。意志が薄弱すぎた。

 少し、本当に僅かに静寂の時間が流れる。

 すっと目を閉じあと数分、数秒もあれば完全に眠りに入れる、いわゆる微睡んでいる状態に入った、これが夢現の狭間かと、眠りの鈴郎とは俺の事かと思っていた時、緩やかな日差しに当てられていた俺の顔面に影が差しこまれた。

 ええっと、これは、誰かに覗き込まれてる?


 「寝ているの?」


 聞こえてきたのは、疑問の声ともあまり思えないような、無機質ささえ感じさせるような声。

 俺の知る限り、そんなロボットみたいな人はただ一人。

 あの、凍羽青華の天敵にして、六名家が一つ、羽重はねおもし家のご令嬢。

 羽重千鳥(ちどり)──その人である。


 「いいや、起きてるよ、起きてる。超起きてる。なにせまだ意識がある」

 「そう。起き上がらないからてっきり気絶してしまったのかと思ってた。……大丈夫?」


 そう、やはり本当に心配しているのかどうか分からない、本当に何かを感じているのかすらも分からないような声音で尋ねられる。

 どうも、さっきのシーンを見られていたらしい。

 ゆっくりと開いた目が神経を通じて脳へと外界の光を伝える。目が焼けるように痛い。


 「大丈夫。見た目のインパクト程痛くはない。青華もいつもより手加減してた──と、思う」

 「そう……」


 無機質な声で事務的に納得を示す。

 ……しかし、何だろう。一言返した後は随分とこっちを窺っている。じ~っとこちらを見つめてきている。仲間になりたそうな目ではないが、関心事へ向けるような、そんな眼差し。それは、目の前の少女が初対面ファーストコンタクトを除いて一度しか見せる事の無かった──『感情』だった。

 いかに珍しかろうといつまでも見られているのは流石に俺でもは恥ずかしくなってくる。

 どこかいたたまれなくなって声をかける。


 「どうした?」

 「……なんでもない」


 既に、先ほどまで見えていた『感情』の一端は月が雲に隠れるように鳴りを潜めていた。

 どう返したものか分からないな。どうだろう。ここはひとつ、スカートでも捲ってみればそれこそ何かしらの感情が見られるのではないだろうか。突然にスカートを捲られて、なにも反応しない女子なんて存在しない、というのは俺の持論だ。むしろ男はその反応を目当てにスカートを捲ると言っても過言ではない。

 意を決して(即決)その魔手を伸ばそうとしてところで羽重が後ろに振り返って歩きだす。

 何も言い残さず去ってしまった。

 あと少しだったのに。


 「なんだったんだ?」


 意を図りかねて思わず口に出す。

 結局最後まで何を考えてるのか分からなかったな。

 ……いや、いいのだ。分からなくて。他人の心情なんてそうそう分かるものではないだろうから。

 しかしまあ、こういったイベントはちゃんと章と章の合間じゃなくて章の中で起きて欲しいものである。


受験勉強を無事乗り越え、第一志望に無事合格致しました。ハタスズユイです。私もついに春から高校生……正確には高校生じゃあないらしいのですけれど高校生です。それもこれも、感想で受験についても応援をくださった方のおかげです。ありがとうございました。とにかく、そんなこんなで投稿を再開いたします。

……つきましては合格祝いという事でブクマやポイント評価をしてって貰えると嬉しいなー、なんて。

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