003・中編3─回想其の肆
「……ふーん、それで校長先生はどこにいるんだ?」
「ばびゅん」
俺の顔面真横を何かが高速で抜けていった。
なんか顔が痛いと思ったら一筋に傷ができていた。
と言うか攻撃されていた。
「あ、ああああ、危ねええええ!」
後ろの壁なんてクレーターみたいなのできてんだぞ! 少なくともあの「ばびゅん」なんてかわいらしい擬音から発せられる攻撃ではねえ!
「何すんだ!」
「だって信じてくれないものだから。それよりいいのかな? そんな口の利き方で。私、校長なんだよ? 偉いんだよ?」
「ぐう……」
ぐうの音は出たけど、この明らかに自分より年下にしか見えない幼女に対して敬語を使うなんて──
「わかりました。それでどのような御用でしょうか」
使うけど。むしろ自分よりも小さい幼女に敬語を使うことによって新しい何かに目覚める気すらする。
「分かってくれたならいいよ。それじゃあ、御用を言おうか。御用と言うか呼び出した目的の半分はもう達成されているんだけど──それ」
と、俺の両足首、両腕につけられた金属の輪を示す。
「そのアクセサリーはもう分かっていると思うけど、霊力の使用を制限するものだ。制限、というのがポイントでね。完全に使うことができない訳じゃない。集まった霊力を散らしてくれるけど、その全てを散らせるわけじゃないんだ。霊力が大きすぎると散らしきれないのさ」
「はあ」
それが分かったってどうしようも無いのだけれど。
一応霊力を使おうと思えば使えるそうだが、それはつまりほとんど使えないのと同義である。
四つ付いてるしな。
「普通なら一つで十分なんだけどね。君の霊力量と出力じゃ四つでようやく霊力の使用の制限ができる程度。本当ならもっと付けたいんだけどね」
「いや、さすがに首とかに付けられるのはちょっと……」
それじゃあ最早奴隷だ。
……どうだろう、逆に校長先生に首に付けてもらうというのは。
ロリ奴隷。
おや、どこかで見た設定だ。
「いや、他にも貞操帯という形も……」
「それはない」
それはない。
思わず敬語が崩れるくらいには.
しかし、どうだろう。
見た目完全に幼女(推定十歳前後)な女の子が貞操帯などと口に出した。
聞く人によってはそれなりに興奮しないだろうか。
幼女が貞操帯って……。
いや、いやいやいや。
いかに興奮すると言っても(興奮したとは言ってない)ちょっとまずいんじゃないだろうか。
だって見た目完全に幼女なんだもん!
「幼女幼女ってうるさいよ。いいから、話進まないから」
……地の分を読まれた?
それとも口に出してた?
どちらにせよかなり恥ずかしい。
「話を戻そうか。それでその腕輪にはまだ機能があってね」
「まだあったのか……」
まだあったのか、というよりかはこれ、そんなに機能を搭載できるものなのか?
何か機械でも付けられてるんじゃないだろうな?
盗聴器的な、もしくは、発信機的な。
少年探偵団バッジみたいな感じで。別に無線の機能なんていらないけど。あったらあったで結構楽しそうだ。
「その腕輪にはいざという時のための防衛機能が付いているんだよ」
「防衛機能、ね。なるほど?」
確かに今の霊力が制限された状態じゃ緊急事態に対応できない。
襲われても潔くやられるしかないのだ。
腕を高く振り上げても誰も助けには来てくれないのだ。
「その腕輪を無理に外そうとすると爆発するから気を付けてね」
「守るのはそっちかよ!」
俺を護ってはくれなのか!
校長がニヤニヤしてる……楽しそうだなあ、なんか。
しかし、とにかく落ち着かなければ。まともに話しもできていないじゃないか。
落ち着けー、静まれー、クールになれー、とにかく座るんだ。
「ハ、ハハハ、じょ、冗談も程々にしてくださいよ。まさか爆発だなんて、嘘なんでしょう?」
「嘘じゃないよ、本当だよ、常に一つの真実だよ」
「冗談であってくれよ!」
なんだその三段活用(間違い)。
乾いた笑みしか浮かべらんねえよ。
「私たちだって伊達や酔狂でそんなことをしたわけじゃないんだよ、暮木君。ましてや、冗談なんかでもない」
どうやらまた真面目パートに入るようだ。
まだふざけてたい。
「じゃあ、ふざけてるわけでも、冗談でも無いってんなら何だって言うんですか。こちとら両腕両脚に爆発物付けられてるんですから」
「それは罰さ」
「罰?」
はて、この四徳を重んじ、孔子の言葉に耳を貸し、清廉潔白えお旨としてきた鈴人君に罰を受けるようなことをした覚えは無いのだけれど。
いやはや、まったくもって心外である。
「と言うのも、生徒会長の方の直談判でね。君に罰として何かしらの行動の制限を設けるように頼まれたんだよ。君に罰をってね」
「………………」
「ま、罪には罰、さ。女の子を泣かせて、更に別の子唇まで奪ったんだろう?」
「待って待って待ってくださいその言い方では誤解が生まれてしまう」
誤解も誤解。大いなる誤解だ。
誤解が発生しているし、語弊も発生している。
「俺からじゃないですし、仕方ない状況だったのでノーカウント、そう、人工呼吸みたいなものですよ」
そう、そうだ、人工呼吸。
人工呼吸をキスとカウントする奴はいないだろう? つまりそういうことである。
「でもそれでも唇を重ねた事実は消えないんだよ。ああ、男の子にはその程度の認識でも、女の子にとっては大切なことっだただろうに。もしかしたらファーストキスだったのかもしれないなあ」
「ぐぅっ!」
結構重い口撃が俺の心を抉っていく。
心が、いたい。
と言うか、何で校長先生が知ってるんだ、そのこと。
「何にしたって君に非があることは間違いないんだから、甘んじて受け入れなさい」
生徒会長に泣かれてしまったのも事実だし、俺に意識が無かった上、仕方なくとは言えキスしてしまったことも事実だ。
いくら清廉潔白な鈴人君でもこの罰は受けねばならないだろう。
「ん? あれ、腕輪が爆発すんのと俺への罰は何関係ないように思えるけど……」
「ないからね」
「今直ぐ外せ!」
なんで意味なく命の危機を背負わされてんだ!
つーか、もとも外そうとしても外れねえだろ、これ。
なのに爆発すんの?
えー。
「まったく、がなり立てるしか能がないのかい? 君は。いいじゃないか爆弾の一つや二つくらい。その位の方が男の子はカッコいいものだよ」
「よくないし、カッコよくないんだよ! 命の危機なんだよ、しかもそれが四つなんだよ!」
「………………」
フッと目を逸らされる。
校長はそのまま右手を上げると、扉の方に指を振る。
と、同時、俺の体が浮き上がり(?)、扉の方へと飛ばされていく(⁈)。
「こんな雑な終わり方でいいのか──────⁈」
ついでとばかりに外れていく足枷が遠くなっていくのを見ながら、なす術なく飛ばされていったのだった。
これ、この物語は暮木鈴人が不幸だったり、不憫な目に遭ったりすればそれでいいと思ってる。




