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002・後編─あさごはんの一幕

 ……ほどなくして。

 数十分の時間をかけて狛人への怒りでご乱心の弓良をなだめる事に成功した。

 その代わりに遅刻が確定したけど。

 職員室行きが確定したけど。

 多分青華にもお袋にも殴られるけど。

 成功はしたがその代償は大きかった。

 納得いかない。

 まあ、それはともあれ(何もともあれって無い)。

 一分遅刻したらもう十分遅刻しようが一時間遅刻しようが変わらない。ゆっくりと朝食をいただこうじゃないか。

 食卓の上には、白米、インスタント味噌汁(お湯を注ぐだけのあれだ)、サラダにトマト。それから牛乳……なあんだ、一瞬なにかおかしいかとも思ったけど、別におかしなところなど一つも無い。普通の朝食じゃないか。なあんだ……


 「とはならないだろ!」

 「うわっ何、急に叫んで……」

 「何じゃねえ! おかしいだろ、この状況! 今、食卓の上にあるのは一見普通の朝食に見えて、実は結構アンバランスな食事群だぞ! そもそも何で皿一杯にトマトを山のように盛りつけたんだよ⁈ お前は坂町家のデンジャラスシスターか!」

 「ごめん、それは結構伝わらないと思う。で、それの何が不服なの? 人がせっかく用意したのに」

 「いや、お前米と味噌汁以外がサラダと山のようなトマトじゃ誰でも文句言うよ。不服も不服。超不服。もっと、こう、せめて目玉焼きを焼くとか無かったのか」

 「ふっ、残念ながらお兄ちゃん。私は目玉焼きなんて作れないよ。何ならゆで卵だって作れない」

 「本当に残念だ!」


 ゆで卵すら作れないのはそれ結構な問題じゃないのか。

 俺だってチャーハンくらいは作れる。

 ちなみに狛人は超料理上手い。


 「いいのっ、別に料理なんてできなくても生きていけるんだからっ」

 「いや、生きてはいけても後で相当苦労するぞ……」


 パクとトマトを口に放り込む。綺麗にカットされたトマトはこれだけ見るとすごく料理できそうな雰囲気を醸し出している。


 「…………」


 なんか釈然としねえ。ゆで卵すら作れない奴よりも料理の一分野で負けてるなんて……。

 俺が二杯目の味噌汁にお湯を入れた所で、今まで黙々とトマトだけをひたすらに食べ続けていた弓良が突然口を開いた。


 「あ、そういえばお兄ちゃん」

 「ん?」

 「昨日、私が大事にとっておいたお高いチョコレートが消えてたんだけど、何か知らない?」

 「チョコ? いや、そんなの知らな……」


 そこで一つの可能性に思い当たる。


 (まさかなあ。流石に勝手に出ないように口が本当に酸っぱくなるくらい注意したんだ。まさかそんな事したりは……するな。ありえる。余裕であり得る)


 言うまでも無いことだが、もちろんメデスの事だ。

 あのゴスロリ少女(?)が俺のいう事を聞く方が不思議だ。

 あいつ、聞き分けよさそうに見えて、実はほとんど言う事を聞かない。むしろこの間なんてアイスを買いにパシらされた。ちなみに一緒に買ってきた自分の分のアイスは弓良に取られた。

 して、勝手に俺の中から出てくるな、俺の部屋からは出るな、特に後者の方は強く言っておいたのに……三日で破りやがった。

 もしかしたら気づいていないだけでもっと破っているのかもしれないが(というか、絶対にある)。

 突然ガタガタッと木製の何かの倒れる音が聞こえてきた。

 顔を上げ周囲を見回すが椅子どころか何も動いた様子は無い。

 

 「?」


 俺が不審に思うと同時、今までにない感覚で声が聞こえてくる。


 (しまった! 動揺して倒しちゃった! ちゃんと証拠隠滅したと思ったんだけどなあ)

 (こいつ、直接脳内に……!)

 (うわあ! びっくりしたあ……急に入ってこないでよ)

 (びっくりしたのはこっちだ!)


 こんなことができたのか。

 こいつが家に居ついて一週間が経つがこんなの全く知らなかった。


 (お前こんなのあるんだったら何で言わなかったんだよ)

 (言ってなかったっけ?)

 (聞いてねえ)

 (まあ、僕は君の魂の中のにいるからね。これくらいはできるさ)


 そういうもんなのか。


 (だから僕は君がどんなことを考えているか大体分かるんだよね……君の中に居る間だけだけど)


 「そういうことはもっと早く言え!」


 思わず叫んだ。

 「迂闊にエロい妄想ができない!」という心の底からの叫びだった。

 側から見たらすごくおかしな奴だ。

 しかし好都合なことに弓良は俺が誰かが弓良のお高いチョコを食べたのに対して怒ったのだと思ったらしい。


 「いつになく熱いね! そんなに妹のお高いチョコレートが無断で全部食べられたことに対してそんなに怒れる兄はお兄ちゃんを置いて他にいないよ!」

 「そ、そうなんだ。実は俺は物凄く家族想いな人間だったんだ。いやあ、お前が自分で食べていないって言うんだったらもうそれは狛人以外にあり得ないな。もしお袋だったとしてもそれはもう狛人のせいだ。そうに違いない。だから俺は全く関係無いぞ」

 「うーんやっぱり狛人かあ。うん。私も実は最初からそうだと思ってたんだよね。お兄ちゃんの事なんて少しも疑ってなかったよ。私は最初から弟クンを疑っていたよ」


 簡単に騙せた。

 ククク、チョロい妹だ。

 馬鹿な妹だった。


 (くっ、まさか心まで見透かされているなんて……)

 (フフフ、僕は色々知っているよ。まさか鈴人君があんな趣味を持っているなんて)

 (やめろ、俺が変な趣味を持っているみたいな感じになっちゃうだろうが)

 (パソコンの履歴はちゃんと消した方がいいと思うよ)

 (ぐっ)


 俺の性癖が把握されている。

 まさか女の子(⁈)にこんな事知られているなんて、すごく恥ずかしい。


 「今日お兄ちゃんが帰って来た時、狛人が生きているかは狛人の態度次第だね」

 「やりすぎんなよ」


 やり過ぎなきゃ多少の暴力も許される……我ら暮木家兄弟の暗黙のルールである。


 「よし、これで狛人のお仕置きが決定したし、さっさと食っちまおうぜ」

 「あ、そういえばさ」


 無視された。

 二回目の『そういえば』だった。

 そういえばじゃねえよ。

 無視すんじゃねえ。


 「そういえばさ、ラッツ&スターって時代を先取りしてるよね」

 「なんで?」


 しかもラッツ&スター。

 ていうか、これは名前を出してしまってもいいのか? どこか伏字にした方がいいんじゃないか。曲の歌詞さえ入れなければいいんだっけ?

曲名は一応出さないでおこう。


 「ほら、こう、『めっ』て顔の横でピースサインするじゃん。女子高生とかって写真撮るとき、そのポーズするじゃん」

 「本当だ!」


 すげえ! 確かに女子って写真撮るとき顔の横でピースしてる。


 「つまり、皆写真を撮るときはめ組の人じゃん」

 「その通りだよ」


 出しちゃった。曲名。

 前言撤回どころか前言忘却が速すぎる。

 鳥頭の鈴人すずと君。


 「しかし、あれだよな。今じゃあの人も結構歳だと思うんだけどさ。アニソン会の大型新人なんだぜ? ラブソングの王様が」


 ビックリだよな、だってアニソンだぜ。

 流石に予想外だったな。


 「ホントだよねえ。それ以外にしても髪とか肌とか若々しいし」


 私なんてきっと五十を越えたらボロボロだよ、なんて文句を言うように呟く。

 いや、そこに文句言ったってさ……。


 「と言うか、この話の時系列っていつなのよ」

 「いつって……ゴールデンウィークの直前だけど」

 「そうじゃなくて。西暦的に何年なの?」

 「そこに触れるな。色々な矛盾が生じるから」


 まあそんなこと言ったらもう既に遅いみたいな感じはあるけれど。

 それでも触れちゃいけないだろう。


 「つーかお前はメタな方向に触れちゃダメだろ。いくつか後にお前、話のメインになるんだぞ」


 そもそもメタネタに触れていい奴なんて作中にはいちゃいけないんだけど。

 時系列とか考えていい奴なんていちゃいけないんだけど。


 「まあ、時系列の話じゃないけど、お兄ちゃんはゴールデンウィークに何か予定とかあったりするの? ほら青華さんとかとどこか行ったりしないの?」

 「いや? 別にないけど」


 即答だった。

 別に悲しくなんてないけど。


 「ふーん」

 「なんだよ」

 「べーつにい? ──誘ったりしてないのか、青華さん」


 少し俯き、何かを呟いている。

 なんだ? はっきり言えよな。


 「それならお兄ちゃん。これあげるよ」


 と、差し出される二枚の紙。


 「映画のチケット?」


 しかもゴリゴリのラブロマンス。

 映画のチケットなんて今はもうほとんど見ないけど、これって確かコンビニとかで帰るんだっけ?

 まるで最初から渡す為にわざわざ買って来ていたかのような手際の良さだ。


 「青華さん誘って二人で行ってきなよ」

 「はあ……」


 よく納得できていない俺に、ふっと笑って弓良は言う。


 「きっと喜んでくれるから」

週一投稿だから、別に無理して日曜日に投稿しなくてもいいということに昨日気づきました。そしてそろそろ受験用の評定を決定してしまうテストが迫っているので、もしかしたら来週は投稿しないかもしれません。ゲームしてたら書き溜めが無くなっていたので。

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