002・中編─いもーと
「おやあ? 珍しいね。お兄ちゃんが自分で起きてくるなんて」
起きて下の階へ下ると直ぐに弓良とエンカウントした。マップを歩いてたら急に戦闘になるみたいな、そんな感じだった。
シスターがあらわれた!
「別に、大したことじゃねえよ。俺もやろうと思えばこれくらいはできるってことだ。今までは手を抜いてやってたんだよ」
「きっとその手加減にはおよそ一切の意味が存在しないと思う」
ふ、さすが俺の妹だ。きちんと返してくる。これが青華だったら、冷ややかな目で「何言ってんの? 凍らすわよ」とか言われて終わりだ。
まあ、この話を続ける気は無いんだけど。
「そういえばお兄ちゃん最近は起きるの速くなったよね。というか、変わったよね」
「そ、そうか?」
「うん。なんて言うか、そう、早く起きるようになった」
「さっきと言ってることなんも変わんねえよ」
「それに何かお兄ちゃんから女の子のようなオトコのコの匂いもする」
「………………」
待って待って待って!
怖い怖い怖い怖い!
匂いって!
匂いで分かったんだったらそれはもうそれは人間じゃねえよ!
「なんだそりゃ。そんなことあるわけないだろうがこの馬鹿者め。もし本当だったとしてそれで分かったんだったらキモイよ、マジキモイ。つーか人間じゃねえよ」
「そう?」
「そうだ」
「でも狛人はこないだ匂いだけで料理の隠し味当ててたよ」
「それはすげえ!」
え、マジで⁈ あいつそんな事できんの⁈
よく分からんところでと言うか、普通に人間離れしてやがる。ヤダ、そんな妹弟。
「すげえ……けど人間技じゃねえな。バケモンか。あいつもお前も一体どこに進もうと言うんだ」
「んー、とりあえずお兄ちゃんと同じとこかな。私は」
「……………」
進路の話になってしまった。ちがう、そうじゃない。
確かにお前受験生だけど、今そういう話じゃ無えよ。
そして、さらっと簡単そうに言うけど、うちって国立の学校だし、それなりの成績じゃないと受からないからな。
まあ、俺と違って真面目に授業受けてる優等生で優秀な妹弟共なら大丈夫だろうけど。
「ん? あれ、ちょっと待て、弓良お前能力発現したのっ?」
「うん。あれ? 言ってなかったっけ」
「聞いてない、聞いてない、聞いてない! はあ?! じゃあ俺は能力発現しなかったのにお前には発現したの? ずるい! 妬ましい! 羨ましい!」
地団駄踏んで、叫んで、子供の用に転がり回る。さながらファミレスのレジの横でおもちゃ買ってほしさに騒ぐ幼子のように。
「その歳にもなってそんなことやってる方がキモイよ」
辛辣な一言だった。
俺には能力なんて無いのに……、この分だと狛人も能力ありそうだよなあ。地球上の人類のおよそ七割は何かしらの能力を持ってるらしいし。
「まあ」
「ん?」
一つ、落ち着いて話をしようか。
「お前がどんな能力に目覚めたかは聞かねえけどさ。みじめになるから。でもその能力をなにかに悪用したりだけはすんなよ。悪用しない限りは何も起こらないし、俺は何も言わない。けどな──」
チラと弓良に目をやる。
「能力を悪用した場合、警察やら特警なんかよりも先に兄貴がお前を捕まえに行くからな。そこんとこ、ちゃんと肝に銘じておけよ」
「……うん」
俺と弓良は兄妹だ。
俺が兄で、弓良が妹。
弓良が生まれたときから、それはどうしようもない事実だ。
身内が何かやらかした時には、身内が真っ先に処理する──いや、兄貴が真っ先に処理する。両親よりも、祖父母よりも早く。
誰よりも近くで見てきた俺が、一番早く。
間違った方向に進もうとする妹弟を正して導いてやるのが、兄貴の数少ない責任だと思うから。
「ま、分かってりゃそれでいいんだけど。じゃあメシにしようぜ。お前もまだだろ?」
「そうだね、お腹すいたし」
「腹減ってるからって食いすぎると太るぞ? そういえば最近ちょっと丸くなったんじゃないか? 最近、顔の周りとかぷっくりしてきたんじゃ──」
「何を言うかあ!」
蹴りが入った。
とても鋭い蹴りが俺の顔面をさながら無回転シュートを決めるかのようなジャストミートだった。
もう、特警校じゃなくてサッカー強豪の高校に行った方がいいんじゃねえの。
「ってて」
普段なら一喝しながら同じように蹴り返すどころか首絞めて気絶させた上に顔に油性ペンで落書きしておくところだが……今回はやめておいた。今回は俺が悪いもの。能力覚醒祝いだ。
壁に叩きつけられて床に倒れ伏していた体を起こし、先に台所に入って行った弓良の後を追う。
台所に入ると、弓良がなにやら何かを持って震えていた。どうしたのだろう。
(なんだ? 自分の体が重いくなったことに気づいたのかっ? やっぱり体重を気にして食べる量を減らそうか葛藤しているのかっ?)
どうやら弓良が持っているのはメモ用紙らしい。そこには『朝食は戴いた。美味しかった。狛人より』。
よく見ると台所にはおかずが用意されていなかった。いや、用意されていたのだろう。全部食われたからそこに無いだけで。
ついでに冷蔵庫にも入っていなかった。つまりは狛人が全部食べて行ったのだろう。あのクソ生意気な中坊、勝てないと解っているのになんで喧嘩売ってきてんだよ。毎回ボコボコにされてるくせして懲りねえな。
「朝メシどうするか問題」について聞こうと弓良の方へ振り向いた俺は、瞬間、小さく息を呑む。
弓良が大きく息を吸んでいた。
それだけで何をするのか察した俺は、静かに、しかし迅速に耳をふさいだ。
「あんのクソガキイィ!」
地域中に弓良の絶叫が響き渡った。
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