022ー取引
終わった、のか。
光の奔流が収まり、空が少しずつ明かりを取り戻している。
あの光の奔流……『星の行軍』に飲み込まれたウルスは全身ボロボロになって倒れている。どうやら、息はしているようだ。
……なんつーか、ビーム、だったな。でっかい、金とも銀ともつかない、ビーム。ただ真っ直ぐ進む光線だった。あと、名前が中二臭い。
「うっ」
眩暈がする。流石に俺の方も限界らしい。肉体的にも、精神的にも。
思わず膝を着いてしまう。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
さっきのウルスの発言、メデスに対して言った『あいつと同じ』とはどいうことだったのか、結局ウルス達は何者なのか、他にも聞くことがある。
少しずつ、ゆっくりとウルスに近づく。もう動けないのだから、急ぐ必要は無い。気絶しているだろうからまず起こさないと。
「っあぐっ!」
何度も感じた、体が宙に浮くような感覚。膝から体が崩れるように倒れてしまった。
たお、れた……?
倒れた。
倒された?
どうなったかはともかく、とにかく倒れた。
「が、う、ううううううううううあ、あ、ああ、ああああ、足がっ……!」
いたい。痛い痛い痛い痛い。痛い。
刺された?
足が、貫かれた?
両足に鋭い痛みが走ったと共に脚が崩れたように倒れてしまった。
倒されてしまった。
痛みに意識が侵食される中、傷痕周りを見ると足の周りが濡れている。
それは血では無く、明らかに別のもの。そう、まるで水に濡らされたように。
メデス?
いやメデスには、こんなことをする理由は無い。それについては確信がある。
むしろ、これが誰によるものなのか、その核心についての方があまり確信を持っていない。
持ちたくないのだ。
だって、同じような能力を持っている奴なんて、沢山いるだろう。
しかし、俺の知る限りにおいてこれができるのはただ一人。
でも、そんな……まさか……!
「よお、暮木。さっき振り」
「ひ、平坂ああああ!」
信じたくなかった。
信じられなかった。
けど、信じられないと共にどこか不思議には思えないという感情もある。
思い出すのは平坂との初対面。あいつは戦闘訓練での順位を上げるために青華を狙って襲ってきた。ライバルが少なければ必然的に順位はくり上がる故に。
しかし、もしそれが最初から俺を狙ってのものだったら? 最初から狙いがズレたのではなく、俺への攻撃だったとしたら?
「な、なんで……」
「ん? なんで? いやあ、そんなの決まってんじゃん、鈍いなあ、暮木。俺──こいつらの仲間なんだよ」
と、言う。
軽く、何でもないかのように、あっけらかんと言い放つ。
「仲間……じゃあウルス達に俺の情報を流してたのは」
「俺だよ」
……やはり、そういうことだったのか。
訓練前日の平坂のあの襲撃は、俺を狙ったものだったのか。いや、もしかしたら青華もターゲットだったのかもしれない。
「それじゃあ暮木、取引といこうか」
「取引?」
交渉とも言うと平坂は言う。
「対等に、平等に、公平に、公正に取引だ」
取引。
取引とは言うが一体何を……対等な取引ってことは殺されたり捕まったりはしないと思うが。
それに、こっちにはまだ青華がいる。こちらの方が戦力的に勝っている時点でこっちが優位につける。
「対等にってお前、立場分かってんのか? こっちに青華がいる時点で戦ったらお前に勝ち目は……」
「そんな戦闘になるよりも俺がお前の頭を撃ち抜く方が速い。それに、凍羽さんはそんなことできない」
「できないなんてことはないだろう。もしかしたら俺の頭が撃ち抜かれるよりも速くに、この状況をどうにかできるかもしれないぜ」
「できるかもね、いつもだったら。だが残念なことに、今の凍羽さんにはそれができないんだよ」
「だからそのできないってのはどういうことなんだよ」
しない、ではなく、できない。
それは意図的に、意識的にやらないのではなく、やろうとしてもどうしようもなく、完全にできない、ということか。
それはつまり、今の青華は一か八かの賭けに打って出ることもできない、出ても負けが確定している状況。
「平坂、テメエ青華に何しやがった……!」
「そんなに怒んなよ、そう大したもんじゃない。お前は今、後ろを向けないから見えないだろうけど、凍羽さんの手首に腕輪がつけてある。不思議に思わなかったか? 俺がお前の前に歩いて来る時だって彼女は一度も、何もしなかっただろう?」
確かにそうだ。俺の脚が撃たれたときも、平坂がこっちに歩いてきてる時も、青華は何の反応も示さなかった。
いつもなら何かしらのアクションを起こして、平坂を氷漬けにしてもおかしくない。
それがいつになく無反応。
もし──何かしらの理由で自分が何もできないと解っていたからだとしたら?
もし──こうなる事が分かっていたら?
「凍羽さんが付けてるのは、さしづめ、呪いの腕輪ってとこか。ある一定の行動を制限して、定められた条件を満たさないと絶対に外れないし、制限に逆らうと全身に激痛が走る」
腕輪の外れる条件と言うのは、一回一回変えられるらしい。
今回の条件は、『暮木鈴人に助けられる』事。
どうりで。青華が戦闘に動かないわけだ。
あの、助けて、とはそういう意味だったのか。
「だからマジで驚いたんだぜ。制限を破って想像するだに恐ろしい激痛が走っていたろうに。それを顔どころか態度にも一切出さず、お前に発破かけるなんて」
「……あ?」
こいつ今なんて言った?
青華が制限を破っていた?
それは——俺を助けるためにウルスの武器を拳銃で撃って弾いた時のことか?
……あれでも名家のお嬢様。自分の内を隠すのは最低限の教育で叩き込まれていたのだろう。
俺は、青華にそんな、そんな我慢をさせてしまったのか!
自分が本当に情けなくなってくる。
「と、まあお互いの立場が分かったようだし、さっそく交渉といこう……こっちは仲間三人が軽傷、または重傷で気絶。そっちは、一人は満身創痍で脚を射抜かれている。もう一人は呪われている……どうだ、ここいらで手打ちとしないか」
「………………」
ああ。良く分かった。
対等も公平もあったもんではない。
本当なら、平坂は俺も青華も殺せるんだから。
この取引には最初から、こちら側に拒否する権利など無いのだ。
「沈黙は肯定っと、それじゃあさっそく俺はあれ回収して帰るから」
俺が何を発言する前に取引は終了した。
と言うか始まってすらいなかったんじゃないのか。
「ああ、良いこと教えてやる。暮木、お前のその脚は何もしなくても勝手にすぐ直るから安心していいぞ。少なくとも俺の知っている限りじゃそのはずだから……凍羽さんの方は自分たちで何とかしろよ。それじゃ」
ゴッと俺の頭に衝撃が走る。
本日何度目か分からない衝撃によって、一つの意味も成さないままにこの戦いは幕を降ろされた。
ふう。恐らく次回で第一部が終了するんじゃないかな?
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