201・前編ー殺さない覚悟
「ひはは、お前が、えーと……くれき? そう、暮木鈴人だな!」
どこから降りて来たのか、俺が校庭の中ほどまで来た辺りで、そいつは現れた。
現れた、ってか降ってきた。
マジでどこから飛んで来たんだ? 校舎? だとしたらとんでもなく丈夫な体してるぞ、こいつ。一体メートルの高さから落ちてきたんだ。
そいつ、と言ったが、それは厳密には少し違った。そいつではなく、そいつらと言うのが正しい。
男の後ろかぱつきんのちゃんねーが現れたのだ。いや、ちゃんねー、と言うよりかは少女、なのだが。
「……青華は」
「あ?」
「青華はどうした」
「せいか? せいか、せいか……んー、あ、あれか。お前を釣るために攫ってきたちっこいの」
「っ!」
こ、こいつ——!
「おっと、早まるなよ。まア、それこそ? 大切なお友達がどうなってもいいってんなら、話は別だがな」
「ぐっ」
ピタと、俺の動きが止まる。
そうだ。今は熱くなっちゃいけない。冷静にならなければ。
「安心しろよ、ちびっ子ならァ無事だぜ? まァ? 死んで無いってだけで今どうなってるかは、俺知らねえけどな。っとまた勘違いすんなよ? 俺がちびっ子を後ろのノーフィアに任せたから知らねえんだ」
「大丈夫よウルス兄さん。彼女を木に吊るしたまではいいのだけどそのあとどうすればいいのか分からなくなったから触ってないわ」
おずおず、と、あるいは、しずしず、といった感じに大人しい声で少女が言う。
兄妹か。
兄がウルスで、妹がノーフィア。
「だ、そうだぜ」
「わかった。青華が無事なのは——分かった。それで、お前たちの目的は何なんだ? わざわざ俺を呼び出して、一体何が目的なんだ?」
そう、結局帰結する質問は、疑問点はここなのだ。
何が目的で、何が目標なのか。
そこが、全ての答えに直結する。
目的が最終的に結果に直結する。
目的と結果はイコールなのだ。
「目的? 目的は、なんだっけ?」
「暮木鈴人の捕獲。生死は問わないが、なるべく生かして捕獲して来いって。でも魂とその器が回収できればいいから、抵抗するようだったら殺してもいいって」
「あー、あー、そうだった。捕獲だっけな。じゃあ、来てもらおうか。大丈夫。ちびっ子は放置していくからそのうち回収されるだろうぜ」
「そうか──」
俺は生きていられるかもしれないし、青華は助かる。目的を達成すればこいつらも他には手を出さず帰ってくれる。
あれだけカッコいいこと言っておいて、帰れない。
報告も、取材も、できないし、受けられないのか。
ざんねんだけれど、仕方ない。それじゃあ、位置について、よーい
「ドンッ!」
一歩でトップスピード。
突風に吹き飛ばされるよりも速く、流星のように飛び出す。
一歩目からトップスピード。
ここで一つ説明すると、普段、俺の逆噴出は一歩目からトップスピードで飛び出すことはできない。俺自身も良くは分かっていないが、恐らく、霊力の通り道みたいなのがよく開いていないのだろう。つまり、慣れてない、というだけなのだと思う。
しかし、俺はさっき謎の男と戦ってきたばかりだ。今、道の調子は過去最高に————絶好調だ。今の俺の移動スピードは常人なら避けるどころか反応すら難しい。
が、相手も常人では無かったようだ。
俺が飛び出した瞬間に金髪の少女————ノーフィアが一歩前に出て能力を発動させた。
黄色の粒子が地面から湧き出し、目の前に土、では無く岩の壁が出来上がる。
壁ができると同時に二人は上に跳んで退避する。
嘘だろ、このスピードで接近して反応されるのかよ。
さっきの男もそうだったが、やはり、まともじゃない。これじゃあ常人じゃなくて超人だ。
普通じゃないし、尋常じゃない。
化物じみている。人間離れしている。という点ではあの謎のゴスロリ少女、メデスにも通じているようにも思える。
いや、違うか。確かにこの襲撃者達も人間離れしてはいるが、アレはもっと何か————根本的な何かが、違う。
そんな超人的な動きに驚くのも束の間。直ぐ目の前には岩の壁が迫っている。俺が岩の壁に迫っている。
俺はあらかじめ腕に溜めておいた霊力を放出し壁を殴りつけて壊す。
……いや、俺も結構化物じみているかもしれない。
「いやア、さすがに焦ったぜ。あんな威力で殴られたら最悪どころか、普通に死んじまうぜ」
「殺さないよ」
殺さない。
男がそうしたように、俺はこいつらを殺さない。と言うか、俺にはまだ人を殺す覚悟なんかない。
俺がしたのは……『殺さない覚悟』だ。
「半殺しにするんだ」
「……結局殺してるじゃない」
敵にしてはいいツッコミだ。
いや、なに敵のツッコミに感心しているんだ。そんな場合じゃな無いだろうに。
「殺さねえだア? あめえなア。あめエ。お前が半殺しだろうが何だろうが、交渉は決裂だ。こっちが殺す気でやるんだ。そっちも殺す気でやらなきゃア、死んじまうぜエ?」
「それでも、だ。お前らがいくら俺を殺そうとして来ても、俺はお前らを殺そうとしない」
見てわかる位に赤髪の青年——ウルスは不機嫌さを増す。
「オオイ、何俺ら二人とも同時に相手するみたいに言ってんだア? テメエなんざ俺一人でじゅーぶんなんだよオ! そして何より、テメェが俺を殺せるってエ勘違いしてんのが、何よりも気に入らねえェ。ノーフィア! さっきのちびっ子回収して来いイ!」
「ああ、さっきの子もサブターゲットに入ってたの思い出したんだ」
いや、それはどうだろう。普通に保険だと思う。あれだけ大口叩いておいて、意外と小心者なのかもしれない。
と言うか待て。青華がサブターゲット? いったいどういう……ああ! そうか凍羽家か! あの性格やら何やらで忘れがちだがそういえばお嬢様だもんな。
あるいは能力を狙われているのかもしれない。青華の『寒獄』は珍しい上にかなり特殊だ。さっきのこいつらの会話からだとそういうことかもしれない。
少しのツッコミの後、ノーフィアは跳び上がり、恐らくは青華のいる方向に向かって行った。
一瞬の静寂が俺とウルスの間に走る。
深呼吸。
息を吸って吐く。
数秒の静寂の後に、戦いの火蓋は切って落とされた。
本日投稿……明日はテスト。何やってるんでしょうね、私。
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