019・後編—その意味は
話を理解した瞬間、かあっと顔が熱くなる。
頭に血が上るというのはまさにこんな感じなのだろう。全身の体温が上がって顔も赤くなっている事だろう。
「どこだ」
「あの方向だと、恐らくグラウンドの方だ」
「そうか」
聞いて直ぐに体の方向を変える。
本当にこんな所で雑談している場合じゃなくなった。
「おい、暮木君。どこに行こうって言うんだい?」
「どこって──」
「私はさっき、拾った命は大事にしろと言ったはずだ」
また、血が上る。今度は沸騰したように、マグマが火口から噴火したかのような感覚だった。
そんな、その言い方じゃあ、
「青華を見捨てろって言うんですか!」
「そんなことは言っていない。子供である私たちが行く必要はないと言ってるんだ。先生たちに協力を仰ぐべきだ」
「そんな事してる間に何かあったらどうするんですか! そんなの待ってられません!」
「だから……!」
「はい、ストップだ二人とも」
会話に平坂が割って入ったことで少し冷静になる。
クソっ、俺が遅かったせいで青華が……!
「平坂……」
「こんな会話している方が時間を浪費してると思わないか? 暮木。子供で、しかも無能者のお前を心配してるんだよ。先輩は。それに先輩も、自分の友達がテロリストに捕まった暮木の気持ちも汲んでやってくれませんか」
平坂の訴えに二人とも矛を収める。
しかし、さすが、女子生徒を全員覚えるだけのことはあって、観察力に優れてるな。
「けど──」
「けどじゃないんだよ。これは別にお前のせいじゃない。これを起こしたテロリストのせいだし。もっと言えば生徒を守り切れなかった教師の責任だ。間違ってもこれはお前の責任じゃない。大人の責任が、子供に降りかかっていい訳が無いんだ」
大人の、責任。
確かに俺の責任ではないのかもしれない。義務でも、責任でもない。
でも、誰に何を言われたからではなく、俺が、助けに行きたいんだ。
俺のそれでも行くという意思を感じ取ったのか平坂は何か不敵な笑みを浮かべている。
「まあ、そういってもお前は行くんだろうけど」
「ああ」
「ダメだ」
間髪入れずに会長が止めに入る。
心配してくれるのは嬉しいけど、聞くことはできない。
それこそ人の命がかかっている。
「生徒会長として君が行くことは許可できない」
「いや、暮木はいかなきゃいけない」
「なに?」
「相手がね、指名してるんだよ暮木を」
「は?」
「指名だと……?」
「はい。ただ、暮木鈴人という男に用がある、とだけ。まあ、これが暮木が行かなきゃいけない理由ですよ。それでも止めます? 行かなきゃ確実に凍羽さんは殺されます」
「ぐうっ」
「迷っている暇なんかありませんよ」
……どうした平坂。実はお前が主人公だったのか? 俺じゃなくて、お前が主人公の物語だったのか?
少し苦悩するように逡巡した会長は顔を上げてこちらに向き直った。
ならせめて一人で行くことは無い、なんて言っても無駄だという事は、解っているようだった。
「暮木君。君は……君は、何をしに行くんだ? それだけの命の危険を冒して、気力を振り絞って、体力を振り絞って、何をしに行くんだ?」
「そりゃ、助けに行くんですよ。友達を」
「それは、なぜ」
「あいつは、友達で、親友かもしれない奴で、俺にとってかけがえのない大切な人ってやつなんですよ。──俺はこの学校の誰とも違って、無能で、誰よりも無力です。でも無能だから、誰よりも非力だから、大切なものを守る為には、誰よりも戦わなきゃいけないんです」
「戦わずして奪われるのなら、戦って奪え。取られたのなら取り返せ」「戦いもせずに何も奪われないのは強い奴だけだ。弱い奴が何か大切なものを守りたいなら、戦うしかない」……俺が小さい頃に助けてくれた、もう顔も覚えていない誰かの言葉だ。
「俺はあいつが大切だからあいつの為に戦いたい──それじゃあ、だめですか」
俺の答えを聞いた会長はまた黙ってしまった。俯いてしまった。
優しい人だ。初対面の俺にここまで心配してくれて。こういう人だから、こんな学校の生徒会長が務まるんだろ
「分かった」
「会長……」
決断は、許可。
苦渋の決断だっただろう。優しい会長にとって絶対にしたくなかった決断だろう。
それをさせてしまったんだ。後は無いかも しれないけど、後でお説教でもなんでも受け よう。
「ただし、一つ約束してくれ。決して、必要以上に危険なことはしないと」
……あとは無いかも、なんて言えないらしい。説教は決定した。
「はい、絶対に青華救出の報告をもって行きますよ」
そう言って、振り向き、歩く。走ると逃げたくなってしまうから。
走る、とは危険から逃げるための機能であったと思う。
だから、歩いて確実に前へと足を踏み出した。
ブクマ、ポイント評価お願いします。作者は養分を得ることでモチベーション、戦闘力などが上がります。




