019―失礼、噛みまし……なんだ?!やめろ何をする⁈
「……………」
競り合って飛んで行った男に一瞥をくれる。
かろうじて意識はあるようだが、今は動く事もしゃべることもできないだろう。
空にもうもうと立ち上り続けている黒煙を見て焦る気持ちが胸に渦巻くが、先に男の方に歩みを向ける。
「あんた、本当に強かったよ、正直に言って勝てたのが不思議なくらいに。……敵だったけどさ──」
やっぱりいい人だよ。あんたは。
「俺の名前は暮木鈴人だ。もし、いつかまた会うことが有ったら、今度はあんたの名前を教えてくれよ」
と、そう言って踵を返して走り出す。
もっと本当なら腰を据えてゆっくり話したいものだが、今は青華達の方が先だ。
「また、な」
(こりゃひでえ)
校舎の一部が恐らく爆発によってなくなっている。
見る限り死者は出ていないようだが、負傷者が辺りに見られる。爆発してできた道から、避難や、救助の誘導をしている教師や先輩が声を張り上げて走り回っている。
もしかしたら、避難のためにわざと空けられたのかもしれないな。
(青華達はもう避難しただろうか。どうも青華の性格上素直に避難するとは思えないんだよなあ。天翔はともかく、筋太郎は青華に着いて行きそうだし……)
筋太郎はあれで面倒見のいい奴だ。危ない事をしようとする奴を放っておくようなことは絶対にしない。
特にどこと定めるわけでもなく、青華達を探し続けていると、俺の前方に赤髪の背の高い女の人が避難の指示をしていた。
(あれは確か……学生会長の……)
ええと、何て言ったかな。『紅蓮』だか『爆炎』だか『アフロ爆発』だかそんな感じの二つ名が……。
「ぶう⁈」
殴られた。グーで殴られた。
今起こったことをありのまま話すと、生徒会長の名前を思い出そうとして、急に目の前が真っ赤に染まったと思ったら後ろに飛ばされていた。何を言っているか分からないかもしれないが俺も何が起こったのか分からなかった。能力とか、超スピードとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
「大丈夫か! そこな男子生徒!」
後ろでまとめた赤髪を揺らしながら駆け寄ってくる生徒会長。
「ボロボロじゃないか! さあ、避難場所はあっちだぞ!」
「もし今のを無かったことにしようとしてるんならそうはいきませんよ」
そうは問屋が卸さない。
完全に殴った本人が兄事も無かったかのように駆け寄ってくるとか。どんなマッチポンプだ。
推理作家もビックリな自作自演だ。
「何のことだ? 君がボロボロで走っていると思ったら急に後ろに飛んで行ったんじゃないか」
「本当にそれで誤魔化しているつもりですか……?」
あなたがやったんだろうが。
白々しいにも程がある。
「ふむ、君はあくまで私が犯人だと言いたいようだ。良い推理だよ。ただし、証拠が有れば、ね」
「証拠も何も被害者が犯人だって言ってるんですが」
「想像力が豊かだな君は。推理作家にでもなったらいいんじゃないか」
「それがもう完全に犯人のセリフなんだよ!」
もう早速敬語が崩れていた。
権力に弱いという設定はどこに行ったんだ。
「そんなに私が犯人だと言いたいのなら、きちんとした、物的証拠をそろえて提示してもおうか」
「このミステリー小説ごっこいつまで続けるんだ! 初登場のキャラクターそれでいいのか瀬戸会長!」
「誰が瀬戸会長だ、私は学生会長であって別に瀬戸の会長でも、瀬戸内組の組長でもないぞ」
そもそも人魚じゃないし、この学校に生徒は存在しない。
と言う。
振っといてなんだが、通じるとは思ってなかった。誰が分かるんだこれ。少なくとも中学生くらいにはもう通じないだろうなあ。
推理小説ごっこを終え、やっとのことでまともな話ができる。
「ん、君はあれか。例の特殊な無能力者の……暮木鈴人、うん、確かそんな名前だった筈だ」
流石この学校の学生会長。特殊な生徒は名前と顔を押さえられているらしい。
「殴ったのは悪かったとは思うが、本当にボロボロだな。まるで何年も使い続けた雑巾のようだ」
「初対面の人間に随分言いますね。普通にぼろ雑巾とは言えなかったんですか」
「じゃあ、ぼろ雑巾」
「本当に言うなや! そして年上相手に怒鳴らせないでください!」
悲しいかな、権力には弱い鈴人君なのだ。
普通にタメ口でツッコミ入れてたけど。
思いっきり怒鳴ってたけど。
「まあ殴られたことは良いんですけど。今更ですし」
ついさっき何十発の殴られてきたところだし。
「そうだ、ぼろ雑巾なんかの話はともかく、どうしたんだ随分な怪我じゃないか」
「ええと、ちょっとそこでテロリストをぶっ飛ばしまして」
「交戦したのか」
「はい。風の何とかを操る能力者で突風やかまいたちを発生させことができました」
「ぶっ飛ばした、ということは無力化したのだな」
「はい」
はあ、と生徒会長はため息をつく。
「まあ、無力化したというのは大きな手柄だ。それについてはよくやった、と言おう。だが──」
瞬時、怒気を孕んだ威風のある声が感覚的な圧力を持って全身に襲いかかる。
「一体なんてことをしているんだ……!」
先程までの気さくな雰囲気とは打って変わって、今度はまるで鬼のような──そう、激怒した母親のような雰囲気を纏っている。
「自分が一体何をしたのか分かっているのか? 一歩間違えれば死んでいたかもしれないんだ。そうでなくとも現に君は大怪我だ! 危ないことをしたという自覚はあるのか⁈」
「は、え、えと、その、すみません」
「すみませんじゃあないんだ。人の命は取り返しがつかないんだよ! それはすみませんで済むことじゃない! 謝ったって無くなった命は元には戻らないんだ!」
命を落としてもおかしくなかった。取り返しのつかないことになっていたかもしれない。ここはギャグ時空ではないのだから。
失ったものはもう元には戻らない。それは命ならなおさら。
「……いや、すまない。少し感情的になってしまった。でも分かってくれ。これからは危険なことはなるべくせず、拾った命を大事にしてほしい」
第一印象はアレだったが、学生会長に選ばれるだけあってやっぱりすごいんだろう。きっと読者もそう思っているはず。
無能力者である俺に対しても差別的じゃなく、他と同じように扱ってくれる(筋太郎達の態度で誤解しているだろうが、特異者の学校に無能者が居るというのは当然差別的な扱いを受ける)。
しかし、この怒り様……もしかしたら、生徒会長は過去に何か、あったのかもしれない……。
それは例えば──大切な人が目の前で死んでしまった──とか。飼い犬が死んでしまったとか。
もし、そうなら──
「暮木!」
「ん?」
背後から突然、鬼気迫った様子で誰かが走って来た。
声の様子からして、相当走ったようだ。
「どうした平坂。何が有った」
「はあ……はあ……と、凍羽さんが」
「青華? 青華がどうしたんだ?」
まさか青華に襲われたのか?
「凍羽さんが、襲ってきたテロリストに捕まった」
前回の投稿、いつもなら60とか50くらいのpv数が突然、100を超えていてヒックリしました。いつもありがとうございます。
今回の話、瀬戸会長のネタは生徒会長を瀬戸会長に打ち間違えてできたネタなんですよ。その後に、「あ、あれっぽいな」と思いまして、タイトルに使わせていただきました。失礼、噛みました。
面白かった、続きを気が向いたら読んでやろう、などと思ってくれた人はぜひ、ポイント評価、ブックマークをお願いします。




