018・後編—勝者は——
男の上げた手の前で空間が歪み、その歪みが一気に風の刃となって襲って来る。
俺だって馬鹿じゃない。前に飛び出したとは言え、横に縦に縦横無尽に避け回る。
避け回り、走る。今度は俺が驚かせる番だ。
俺が握りしめた拳にくっつくような形で半透明の塊……霊力が収束し塊が出来上がる。
「こんっのお!」
腕にとてつもない抵抗を感じつつ拳を振りぬく。
「ぬっ?!」
男は目を見開き、上に大きくジャンプして回避する。
避けた先に続けざまに二、三と打ち込むがまた避けられてしまった。
「遠距離攻撃……今まで手の内を隠していたのか」
「それは違うぜ」
そしてお前が言うな。
さらなる攻撃力を持っていたお前が。
完全に手の内を隠してたお前が。
道路を切り裂くことができるお前が。
「今作ったんだ」
「……お前実はバカなんじゃないのか?」
「馬鹿じゃねえよ、むしろさっき地の文で馬鹿じゃないって言ったばかりだよ。馬鹿じゃないアピール済みなんだよ」
「一体今の攻撃にどれだけの霊力が使われていたか。霊力はそれ自体がエネルギーだ。つまり電子のようなものだと思っていくれればいい。それに……質量、を持たせるのは不可能に近いのだぞ。私の霊力全てを使ったとしてもできない。それだけの量を使って、今作った、と」
「そうだ」
確固とした自信と事実を持って、胸を張って頷く。
「やはりバカだな。お前は」
「はあ? だから馬鹿じゃな————」
「いいや、バカだ。お前はバカだ」
なんで俺は敵からあんなにディスられてるんだ。
「むしろ天才と呼ばれてもいい事だったと思うんだけど」
まあ、一般に言うただバカなのも居るにはいるが、と男は付け足す。
馬鹿と天才は紙一重とは言うが、結局馬鹿は馬鹿で、天才は天才。
そこには紙一枚とはいえ、明確に壁があり、隔絶されている。
「違うな。誰にも思いつかない事をやるのが天才で、誰でも思いつくが、できないことをやってのけるのがバカという奴だ」
誰にも思いつかないことをやるのが天才で、誰にもできないことをやるのが馬鹿————誰も思いつかないだけでできないことは無いことをやるのが天才で、誰でも思いつくけどできないことをやるのが馬鹿————ということだろうか。
「それじゃあ、俺の周りは馬鹿ばっかだな」
筋太郎、天翔、青華。
全員それぞれ予想外の事をしでかしてくる。ありえない事を簡単に成してくる。それで困ることだってある。
が、俺の顔のは薄く笑みが浮かぶ。
楽しかったのだ。
あいつらと馬鹿やってる時が一番楽しい。
青華とケンカしてる時も。
筋太郎と猥談してる時も。
天翔と黙って本読んでる時も。
弟や妹、霧島と雑談してる時も。
楽しいんだ。
「さて、俺もお前もこれ以上消耗するのはよろしくないだろ。だから、次の一撃で決めないか? 今度こそ、次で最後にしよう」
「いいだろう。次こそ最後だ」
俺と男の間に緊張が走る。
男の後ろには空気の塊ができている。
俺の拳には霊力が固められ、威力の起点となるところには霊力を溜めていく。もちろん、足の裏にも。
風はない。
そこになんの合図も無かった。
波の音さえなくなっていたように思えた。
俺と、男は同時に、互いに寸分の遅れもなく飛び出した。
男の後ろの空気の塊が弾けて、その拳に体に、爆発的な加速を生む。霊力の保護も無いのに、これだけの事ができて、拳や手首を痛めた素振りすら無いのだから、馬鹿はあちらの方だと思う。
俺の体から霊力が噴出し、弾かれるようにして加速する。つまりこちらも爆発的に加速したのだ。
お互いの拳がぶつかり合う。
いや、この表現はまだ正しくない。なにせ俺は霊力で腕を覆っている。拳同士はまだ触れていない。
しかし、拳を覆った霊力のプロテクターも直ぐに剥がれてしまう。そこからが本当の勝負だ。
「ぐっくう、ああああああああ!」
「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
勝負は直ぐに決まった。
それでも長く拮抗していたと思う。十秒か、三十秒か、そんな時間。
「は——」
息を吐きだす。
「俺の、勝ちだ」
障害を吹き飛ばして、果たして勝ち残った勝者は俺だった。
これで、テロ男との戦闘の話は終わりですが、実は7000文字くらいしかないんですよね。大した長さではなかった。
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