028・中編─彼ら
トラックと喧嘩しました。
負けました。
まず、黒。
次に白。
灰、青、赤、黄、橙。
目に映るのは砂粒のような星々。
「うっおうらぁ──ッ!」
「え」
疲労した体に鞭打って、とにかく高く、両腕に収まっていた青華を放り投げる。
「ぬあっしゅあ──!」
「あら」
首に腕を巻き付けていた羽重を背負い投げ気味に打ち上げる。
「ホントになにやってんのよ──!」
とりあえず高く上げれば一パーセントくらいは生存率も上がるだろうか。確信もないまま思い付きで投げてしまったが。
後で文句言われるんだろうなあ……。
ま、いいか。言われるならそれで。
言ってくれるなら、それで。
霊力の噴出を止め、両手両足を大きく広げる。高所の冷気を一身に浴びて、いっそ清々しい。
うわ、すご。
暗闇。
ほんの一瞬まで通っていた大穴は既に影がひしめき、壁面すら見えない。
そこに。
星と月の光に背を向けて、うごめく影手の大穴に落ちていく。
脳が不気味な死の気配を感じとっているのか、一秒が十秒にも一分にも思えるほどに景色が遅れて見える。
ゆっくりと、黒が迫る。
「こっ──」
呑まれる。包まれ、絡まり、浸かっていく。
掴まれた腕が、掴まれた胴が、掴まれた脚が、顔が、頭が、肩が、首が。
苦しい。
気持ち悪い。
怖い。
青華も羽重も放り出して一人になった途端、何もかもが怖い。
死ぬことだって覚悟していた筈なのに。
気持ち悪い。
肌に張り付くパンツの感触。
……は?
え、は、嘘、え? は? マジ?
恐怖のあまり漏らしちゃった?
一瞬の思考停止の最中。
ひたひたと、『水』が瞬く間に広ってゆく。その感触が全身に行き渡ると同時──パッと俺の体を包んでいた水流が残らず弾け水滴へと姿を変える。仄明るく光を放つそれは俺を中心に高速で回転し始め、水球を形成する。
「メデス?」
ほんの僅かな間。気が付けば纏わりついていた影が消え去り、真っ暗な空間に俺を護るように水のバリアが展開されていた。
そして、目の前に。
俺を見つめるメデスの姿。
「どうか許してあげて欲しい。彼らに悪気はないんだ。ただ羨ましがってるだけで」
うらめしやってやつだね。
「哀れなものだろう? 死んで、意識だけがあって記憶も姿も無い状態で影だけがそこにある。七つの奇跡、その一つが遺した忌まわしい副産物。自分以外の生物を、命を羨むことしかできずに闇の中に溶けていく」
「おい……」
「本当なら、彼らは暖かな光の中で安らかな眠りについているべきなんだ。それが許されていて、それが与えられる程に精一杯生きた人たちなんだ」
だから、どうか──。
「──────」
何なんだ。
何の話だ。
影。
今まさに俺が呑み込まれ、上では青華達にも手を伸ばそうとしている黒い影。
その影の、話。
「……分からない。分からないぜ、メデス」
どうして、目を伏せるんだ。
どうして、口を閉ざすんだ。
どうして──そんな今にも泣きそうな顔をしているんだ。
「お前は俺に、どうして欲しいんだ。俺に対して遠慮なんてらしくないぞ」
お前があの影に深く思うところがあるのは良く分かった。
これから言う事が、俺が言わせようとしている事がお前にとってつらい事なのも分かった。
三週間もずっと一緒に居たんだ。それくらいは察せる程度には心も通わせたつもりだ。
「だからお前が言ってくれるなら、俺はやるぞ」
「──そっか」
メデスは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべる。
呼吸一つだけが、最後の迷いを掻き消した。
「どうか、彼らを還してあげて欲しい」
「任せろ」
ちょっと事故っちゃって更新止まってました。なにせ左手が使えないものでして。
というわけで久しぶりの投稿になります。待っていてくれた人、すみませんでした。




