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プロローグ

 ここは地球とは異なる星、異世界ジ・アース、隆盛を誇るフォーランド帝国の片田舎で、魔法使いアルス・マグナは古代遺跡の発掘調査を行っていた。


 彼は、かつては帝都の魔法学校で教鞭をとっていたほどのエリートだったが、20年前、帝国が王国から名を変えたときに、軍の上層部と喧嘩をし、それからはずっと遺跡の発掘調査の仕事に従事していた。要は懲罰人事で地方営業に左遷されたのだが、本人としては好きな研究に専念できるため不満は無かった。


 唯一の心残りは、親孝行できなかったことぐらいだろうか、20年変わらぬ安い給料のため、実家に金も入れられず、結婚して孫を見せてやることが出来なかった。


 その両親も数年前に相次いで亡くなっている。寿命だ。人族の平均寿命は五十歳とされるこの世界で、二人とも七十近くまで生きたのだから、大往生と言えるだろう。アルス・マグナ自身もそろそろ五十になる。いつお迎えが来てもおかしくないが、その外見は若々しく三十でも通じるほどだった。


 その時、グゥウウウっとアルス・マグナの腹が鳴る。思えば一昨日から何も食べてない。最後に麦粥を作って、食料は尽きている。

 流石に食べ物を生成する魔法は無い。

 魔物でも狩って近くの村で食料と交換してもらうか、あるいはいったん街に帰るか。


 とりあえず、麦粥を作った鍋でお湯を沸かしたら、重湯ぐらいにはならんかなと、埒もないことを考えていた所で、ヴゥゥンと音がして床の魔法陣に魔力の光が宿る。


「いかんなこれは」


 どうも魔法陣が勝手に起動したらしい。アルス・マグナは部屋を出ようとするが、見えない壁が生成されたらしく、魔法陣から外へ出ることが出来ない。


「これは困った。どのような魔法が発動したのか、さてさて」


 言葉とは裏腹に、全く困った様子は無く、ニヤニヤしながら魔法陣の中央に座り込むと、魔力の流れを観察し始める。


 魔法陣の全体に輝きが満ちると、アルス・マグナの体はグーっと地面に押さえつけられる。貧弱な彼の肉体には厳しい重圧だ。


 そして景色が一変する。壁から(そら)へ、(そら)から宇宙(ソラ)へ。魔法陣ごと星の海へと放り出された。


 やがて体を押さえつける力が弱くなる。重力の楔から解き放たれて、加速によるGが加わっているだけだが、アルス・マグナにはまだその知識は無い。


「ああ、やはり星は青いのだな」


 下を見れば、青い部分が多くを占める大きな円がゆっくりと遠ざかっていく。

 アルス・マグナは、息の続く高度までなら自力で飛び上がったことがあるので、星が青いであろうことは予想がついていた。


「それにしても、腹が減った」


 重力の変化により疲れたのと、飢えを思い出したことが重なり、アルス・マグナは横になってしまう。


 いったいどこに向かっているのか、いつまっでこの状況が続くかも分からない。


 どれほどの時間が経ったのか、どれだけのの速度が出ているのか、星々は光跡を引いて後ろに過ぎ去っていく。いかな賢者とはいえ、光を超える速度など慮外の外であった。


 やがて星のない漆黒の領域が、黒い壁の様に迫ってくると、アルス・マグナは己の世界が砕け散り、体が投げ飛ばされる衝撃を感じた。

 それは世界の果てに到達した証、世界と世界を隔てる壁にぶつかった音、人の身では異世界転移が不可能とされている原因なのだが、さしもの大賢者と言えども、今はまだ知らない。

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