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美崎という男

まだイントロです。フルコースで例えると、アレですね。まだ店に入ってません。


追記:基本的に一人称「俺」が出てきた場合は美崎の事です。

 十年前。ギターケースを背負った青髪の女、音無がまだ小学生ぐらいだった頃。


「さらさらスルンになーれ! さらさらスルンになーれ! ―――メ○ットは弱酸性だから素肌に優し―――」


 一見、読者の世界となんら変わらないこの世界。ただ、読者の世界とは何処かで分岐して枝分かれした、それだけだ。それ故に読者の世界にも散在するであろう、数多の文化が同様に育まれ、同名の会社や製品、人物も存在する。ただ、独自の進化を遂げた部分もある。一点だけこの世界で大きく進歩している所、それは科学、否―――<魔法>だ。この世界は魔法が暮らしを支えている。それ故の、生活圏の発展ぶりなのだ。魔法で炊事に洗濯、掃除をこなしたり、仕事をしたり――――イケメンになったり、ケツ毛を永久脱毛したりすることだってできる。言わばそれは万能薬なのだ。

 目下、科学の発達によって超常現象の幾つかが解明されている。魔法もその一つで、空気中に遍在する何がしかの因子(現在、研究者たちの間では《素粒子》と推定されている)に働きかけるメカニズムを構築、今まで魔法だと思っていたような事象を生み出すことに成功していた。それが数十年前の話。魔法を使えない者も僅かに居るが、今では多くの人間が魔法を行使する時代であった。火を操る、水を操る、風を生み出す、力を増幅する、物体の温度を変化させる、肉体を強化する……などの簡単な魔法から、大規模な爆発を起こしたり、重力を操作したりするような大掛かりな魔法もある。幾つかの魔法を併用して使用される“重魔法”というものや、“系譜による継承特化”という、使用者が先祖より受け継いだ強力な魔法なども存在する。

 科学的に解明されていない部分も多々あるが、現に出来てしまうのだから仕組みが分かるまでは魔法としか言いようがない。……その辺りは、またの機会に説明しよう。


 魔法がある。と言っても近代日本からの成長の影響で、魔法を介さない生活基盤が出来あがっている。そのため、コンビニもあるしスーパーだってある。自転車だって走っているし、家電だって無いと困るのだ。ただし魔法という便利な技術によって需要と供給に変化が生じたので、売られているものやサービスにはかなり差異があるだろう。

 風呂もガスで沸かすし、蛇口を捻って水を使うし、電気も照明器具を使っている。この辺は読者の世界、特筆して西暦二千年代の日本とも同じである。ちなみにその現代と比較して、国家のあり方や統治体制に大きな差異は無い。情勢も世界的に見て平和ではあるが、各国が他国よりも優位に立とうとするのはこちらも必然で、軍事力を求めている。しかし魔法が誕生した事で兵器や人力による武威が通用しにくくなり、見直され始めたのは案外ここ最近の話であった。


 <カームシティ>から離れ、周りを自然に囲まれた、のんびりとした場所がある。規模で言えば直径数キロほどの町だ。町ではあるが、旧時代は村として呼称されていた為、名残りで「村」と呼ぶ者も多い。その村には民家、他に商店街(一応なんでも揃う)があり、イメージとしては日本の昭和時代、少し閑散とした町外れに近い。町ではなくて村なのに商店“街”というのもどうかと思うが……。

 村の場末には大きな研究所がある。研究所には立派な門が設えられており、門の端には《美崎研究所》と書かれた鉄製の標識が掲げられている。その内部、研究室では闊達そうな青年男性と、無愛想そうな少女が何やら相談をしていた。


「んー。相手は大人だから、大人なモノを作ったらいいんじゃないかな? ……ところで今日も可愛いねえ! あっは!! あははは!!」


「そうか……。やってみる」


 研究所とはよく言ったものだ。というのも、村の過疎化に伴い廃校になった学校をリフォームしただけの建物だったからである。しかしながら二十人以上のスタッフが勤めており、改装した実験室や休憩室、受付も完備。あちこちにはハイテクな文化の波及が垣間見れた。変わり映えしない日常に退屈した村民には人気もあって、子供がよく遊びに来ることだってある。この村にとっては村民交流の役割も兼ねて、重要な場所だと言えよう。


「音無――? あれ、居ないな……」


 お昼時の研究所は従業員だけではなく外部からの人も来訪し、喧しい事だってある。その研究所の廊下で、白衣を着た男が誰かを探している様子だった。


美崎みさき先生、どうかしましたか?」


「あー長谷部君。いやぁ、音無が来てるみたいなんだけど見つからなくって」


 美崎先生とは、この研究所《美崎研究所》の管理者の中年男性の事であり、研究者の一端でもある。異国人のように高く細い鼻、垂れ目、剃り残しのアゴヒゲと、腰まで伸ばした銀髪を後ろで束ねたワイルドな姿が個性的である。白衣を着ており、上着であるカーディガンをもズボンに閉まっている不潔感丸出しのダサい男だ。


「あれ? なんだろう? 俺の紹介文に悪意を感じるぞ?」


 そしてよく背中にギターケースを背負っている。スラっとした四肢にやや渋めの顔で、黙っていればそこそこの美丈夫なのだが、訳あって実は童貞である。

 研究所の所長ではあるが、堅苦しいからと拒否した結果、職員や思慕する人達には「先生」と呼ばれている。少々見窄らしい外見ではあるが、部下へと給料をちゃんと支払っている。研究所なので、この上に多額の研究資金もが必要となる訳だが、この点は父親が残した莫大な財産により工面していた。

 会話相手の長谷部君とは、この研究所のスタッフだ。飄々とした短髪の男性で、これもまた中年。黙っていれば利発そうな眼鏡の男だが、言動は軽い。


「音無ちゃんかぁ。見てませんね。あ、美崎先生。そういえば村長が呼んでましたよ?」


「村長が? そうですか。じゃあ俺はこれで」


「ハイ! さよならァっ」


 そう告げると、長谷部は廊下を元気よく走り去って行った。手と足を一緒に出しながら。


「廊下を走らないで長谷部君! そして気持ち悪いよ!」


 *


 長谷部くんはいつも元気だなぁ……と半ば呆れる俺。いつも白衣の下に目がチカチカするようなガラモノのシャツを着こなしている、研究スタッフの一人、長谷部君。正直、長谷部君は溢れる元気さしか取り柄がない。長谷部から元気さを引くと、そこに残るのは<虚無>である。おそらく人骨すらも残らないだろう。研究の邪魔になることも多々あるし、ごくたまにだが「元気すぎる」と陰口を叩かれることもある。トイレのドアをノックしないでガチャリと入ってきてしまうことも日常茶飯事だ。(トイレのカギをいつまでも壊れたままにしている研究所自体どうかとは思うが)

 そんなとき、彼はよく変な汗を額に浮かべながら、へらへらと笑ってドアを閉め直すのだが……。いつもその後に残るのは彼の無惨な死体である。―――笑顔で事故を解決できると本人は思っているらしい。

 実を言うと、この研究所。来客用のトイレもあるのだが、従業員専用の方は男女共用なのである。リフォームする以前、まだ学校だった時に、新たに下水を取り付けるとなると少々面倒だという話が浮上した。リフォーム当初は人数がまさか大所帯になるとは想定もしておらず、そのままで良いだろうという事で落ち着いたのだった。

 日によって、研究所へ出勤している人数はバラつきがあっても、スタッフ自体は大勢いる。当然その中には女性も居るわけで、トイレを覗かれて挙句の果てには「――あっ、へへっ……へ……」というオプション付き……それは女性からすれば万死に値するだろう。―――長谷部君なりの咄嗟の対応なのだろうが、気を付けて欲しいものである。

 今後、トイレは男女別のものを設置するつもりだ。元学校なのにトイレが殆ど無いというのもおかしな話だが、それはまだ学校だった時、やんちゃな生徒に爆破されたらしい。プライバシーの欠片も無い。


 そんなことに思いを馳せながら研究所の管理人である俺が廊下を歩いていると


「…んぐり…ろォ…」


 ……廊下を歩いていると、なにか呪詛? のようなものが聞こえてきた。この歌詞……童謡だろうか? 小さい頃に聞いたことがあるような、どこか聞き覚えのあるメロディである。


(ここの教室から聞こえるな……)


 教室といっても空き教室で、研究に使われることは滅多にない。しかし明りがついているため、誰かがいることは明白だった。透かしの入ったドア窓からは教室内がよく見えなかったので、ガラガラガラッ!!と思い切って俺はドアを開けてみた。


「どんぐりこぉ、お池にハマってウウゥゥウウゥッ!!!!」


 そこでは少女が床に座って童謡を歌っていた。本来この童謡では《どじょうが出てきてこんにちは》する筈なのだが、この少女のシナリオではドングリは報われない運命にあるらしい。


「なんだ音無だったのか……。というかドングリ大惨事だなオイ! 童謡の中に隠されたそのドングリの悲痛な叫びというか断末魔? これから奈落という名の池に沈んでいくドングリの行く末を考えると木の実にすら同情できるよ!!」


「あぁ、美崎。今日は下半身を露出してないんですね。」


「あれ? おかしいな幻聴?」


 おそらく昨日耳掃除したのが原因だ。あの時のでっかい耳垢は俺の大切な器官までをも道連れにしたのだろう。当然俺はロリコンではないし(むしろロリコンは長谷部くんである)、下半身を露出して研究所内を歩き回った覚えも一度もない。ちなみに俺の事を呼び捨てなのは、いつも通りである……。


「……ん?」


 普段使用されていないので殺風景の筈の教室に、何か違和感を覚えて周囲を見渡した。すると彼女の座っている周りに円を描くように、数センチ程の灰色の物体が無数。


「!?」


 ―――音無は童謡を口ずさみながらネリケシで男性器らしきものをつくっていたのだった。それも千切っては伸ばし千切っては伸ばしを、常軌を逸した速度で。


「ええと、音無、それ、何かな?」


 おそらく違うのだ。年頃の娘が淫猥なオブジェクトを何十体も自主制作するわけがない。そう考えた俺は不確定要素を抹消しようと音無に質問してみたのだが


「これ? おち○ちんですが……?」


 率直な答えが返ってきた。チ○コだった。


 音無は素直に答えてくれたが、それは紛れもなく純粋な男性器であり、真実。言い換えれば、トゥルー。男性器以外の何物でもない男性器百パーセントの男性器だったのだ。


 童女が確固たる自信を持って「これはおち○ちんです」なんて直球を投げてきたら対処方法はそう多くない。無難なのは《関わらない》だろう。きっと、どこぞのマッドサイエンティストに脳を弄られたのだろう。かわいそうに……。可愛いかった音無も今ではただのチ○コ製造機だ。

 くっ……!許さないぞマッドサイエンティスト!! 見つけた時が貴様の人生のチェックメイトだ。体中の穴という穴に恥ずかしいことをしてやる。


「体中に穴という穴に恥ずかしいことをしてやる……ッ!!」


「え!?」


「あ、いや」


「美崎……」


「え? な、何かな……」


 しまった、口に出ていた。これはまずかった。だが俺の興奮をよそに、製造機が話しかけてきた。一体何の用だろう?……ハッ!! もしかして用があるのは俺の男性―――


「お誕生日おめでとう!」


 イマイチ現状を理解出来ていない俺だったが、そんな俺に音無が続ける。


「美崎。今日誕生日だから何かプレゼントしたくて。長谷部に聞いたら手作りで何か作ってあげたらってゆうから……」


 両手いっぱいにネリケシ(男性器)を差し出された。そのうちの幾つかはボロボロと小さな手からこぼれ落ちて床に転がって行った。

 どう切り出すか迷っていた俺。少女に猥褻物をプレゼントされるのは、ある種の“ご褒美”であろう。と思うと、興奮、否感謝するべきなのかもしれない。いや、だが、ちょっと待った。

 俺はふと疑念を抱く。―――手作りの誕生日プレゼント? ……俺に対して?

 おかしい……。選択肢が変だ。数ある手作りプレゼントの中からコイツはなぜ男性器をチョイスしたんだ!?


「な、なんでネリケシでチ○コをねってプレゼントしようとしたのかな?」


 そう思って、若干引き気味で、にこやかに尋ねてみた。


「長谷部が大人なモノを作れって言うから」


 なるほど。……さて、長谷部の葬式は明日でいいかな。


「そっか。ありがとう。……あー、じゃあ後で取りに来るよ(=気持ちだけ受け取っておくね)」


 そう告げて、俺は足早に教室を去ろうとした。ちょっと人を殺害する予定が出来てしまったからだ。しかし、さよならを言い残して教室を出ようとしたとき、俺はもう一つの危険因子を見つけたのであった。


「あれ? 三島……君? 来てたんだ」


 三島。―――この村の村長の孫だ。彼は床に座って絵を描いていた。

音無という少女と美崎という中年は、いつもこんな感じでやり取りしてます。

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