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研究職の中年が研究もせずに魔法でああだこうだでキリキリ舞い  作者: ディ・オル
第二章~学校編 vol.1~
16/28

組織、後編

前回のあらすじ。

村長はその昔、組織に在籍していたようだが、美崎や研究所スタッフの敵ではない様子。

 俺は言う。


「確かに、俺意外は助からなかった。だけど、村長の力があったから俺は生きているんじゃないですか。その力を誇示することで、俺を組織から守り、育て上げてくれたじゃありませんか」


 父と母、そして兄貴。死んでしまった、否、殺されてしまったのは覆らない。だけど、村長が居たから俺がここまで生きて来られたのも事実だ。組織が俺の命を狙っていたのは事実だろう。一家全員を殺害予定だったのだから。それでも何事も無く、幼い俺が平和に暮らして居られたのは村長の庇護下にあったから、村長が組織を牽制していたからなのだと考えられた。


「お主……、わしも済まなかった……!」


 村長は僅かに涙を浮かべながら、破顔して「美崎ィィィ!!」と抱きつこうとしてきた。俺は座ったまま横にずれて、それをかわした。


「それで、話を元に戻すと。その組織が今も潰れずにずっと続いていて。妖刀を狙っているんですね?」


「うむ、そうじゃな。まぁメンバーは粗方入れ替わったんじゃろうが……。特筆して注意すべきは早馬そうまぐらいじゃろう」


また炬燵に座り直すと、相槌を打つ村長。音無の兄“早馬”は確かに凄い能力者だった。その壮絶な力を内包するであろう<魔器>とやらを持っていないのに、地力であの強さだ。他にもあんなのが居るとは思えないが……しかし侮れない奴等は多い。研究所の内通者、黒幕もその一人だろう。


「そういえば村長が戦った今回の事件の黒幕も妖刀を持っていたんですよね。それも魔器なんですか?」


「そうじゃろうな。確か妖刀“ヨシナガ”とか言っておったかな。……これもまた眉唾なんじゃが、ここ日本で作られた魔器の内、最大最悪の威力を持つと呼ばれているものがあってのう。それらは数字で一から十までナンバリングされていて、どれも名前に数字が入るのだという。組織に居た時、聞いた事がある。それらは<原典>もしくは、<原初の十>と呼ぶらしいのう。

 お主の“三ツ首”、即ちその妖刀も、数字の“三”が入る。……相当な値打ちモンじゃろうよ。そして、あの黒幕が使っていた武器の性能……」


 村長は何かを考え込むと、ハッとしたような面持ちで続ける。


「ヨシナガ、“四死永”か。数字の四が入る。あの魔器も<原典>、ヤバい物なんじゃろう。まぁつまりは、組織は今も魔器を作り続けておるが、強力なものが製造できないからお主のその妖刀が欲しいのじゃろう、と思う」


村長はギターケースを見ながらそう答えた。俺もつられてギターケースを見やる。どうやらこの妖刀は、相当な能力を秘めているらしい。そうは思えないが……


「折れているのに、ですか?」


「何か特別な力があるのかもしれんな。なんせ刀を打ったのはお主の親父さんじゃ。そして、手に入らないのならば破壊してしまえばいい、という所かのう」


 恐らく他国にも狙っている勢力がある。そいつらの手に渡るならば、組織自ら破壊してしまった方が得策だろう。俺も納得した。直感ではあるが、特殊な効果があるのではないか、と感じずには居られないのだ。それ程までに、得体の知れない何かがあった。見る者を魅了するような、蠱惑的な何かがある。研究を続けているのだって、その魅力に憑り依かれているから、なのかもしれない。




 ふと思い出した。そういえば、村長も俺に用事があると言っていた。完全に忘れていたが、最早こんなに重大な真実を聞いた今、研究所に帰って寝たいくらいである。だがそう言う訳には行かないだろう。一応聞いてみるか。


「村長。そういえば俺に用事がある、とか」


「ああ! そうじゃった。忘れとったよ」


 村長も忘れていたようだが、ニヤリと笑みを浮かべた。その瞬間、俺は何か嫌な予感がしたのだが、村長は


「お主! 臨時講師をやってくれんか?」


 と続けた。唐突過ぎて訳が分からない。だが俺は村長に大恩ある身ゆえ、無下にはしたくない。講師……学習塾や学校だろうか。


「ずいぶん急な話ですね……。で、何の? どこの?」


「場所は町の方の学校じゃ。で、魔法についての授業をやって欲しい、だとか。前任の教師が腰を痛めて休んでおって、人手が足りないらしい」


「はぁ。町……カームシティですか。ああ、学校はありましたね。で、魔法ですか。でも、なんで急に? というか俺に?」


「知り合いに教師が居てな。魔法に詳しい人を探してるんじゃよ。というのも、その学校では魔法についても教えておる。詳しくは現地で色々聞いてほしい」


 ちなみに急なのは、わしが伝えるのを忘れていたからじゃ、と最後に付け足した。成程。……まぁ急なのは仕方が無いとして、最近は修復実験も準備段階に舞い戻り、俺が研究所で行う作業はほぼ無い。暇だし、ちょっとやってみようかな、とも思える。


「で、どうすんじゃ? わしゃ、お主は適任だと思うがね。実戦経験もあるし、知識も豊富。勿論、給料も出るぞ」


 村長が催促してきた。魔法については詳しいし、大体の魔法には精通しているつもりだ。得手不得手はあるのだが、学校で教えるのだから概要や簡単な使用練習とかだろう。であれば、問題ないと思われる。あとは、今後の研究所のスケジュールや実験を放っておいても平気だろうか、と少し考えたのだが、代理を立てる事で大丈夫だろう。長くても数週間くらいの臨時の業務だろうし。それに、組織が計画に失敗した今、またすぐに襲撃してくるという可能性は低いだろうとも思うし、組織の狙いの一つである妖刀は、一緒に俺が町へと持っていってしまえばいい。町中、しかも日中の学校で襲って来るとは到底思えないから。


「分かりました。やってみましょう!」


 そう判断し、俺は快く引き受けたのだった。


 その後、村長から学校で臨時講師を務める期間、学校の場所や名前――六徳学園という校名だ――、それから講義内容を教えてもらい、帰路に着く事にした。期間は二週間。教職を開始するまで、まだ一週間近くの日数があった。町に一つだけある学校なのだが、随分昔は俺も通っていた。しかし、当時とは比べ物にならない程に様変わりしており、同一の学校だとは思えなかった。リフォームだけに止まらず、近隣の土地を買い上げ、瞬く間に私有地を拡大していったのである。

 村長に、お世話になるであろう校長先生の名前を尋ねると、「お主も知っている人じゃ」とはぐらかされた。俺が通っていた時の校長は当時から耄碌していたので、あれから数十年が経過した今でも、同じ校長だとは思えない。

 これから働こうとしている職場の情報が殆ど得られないのは不安でしか無かったのだが、村長曰く「色々聞いておったが、忘れた。じゃが行けば分かる」との事だった。研究職になる前、俺はカームシティでアルバイトをしていた経験もあるのだが、父の遺した財産と村長のお膳立てもあり、研究所の運営へと至った。なのでアルバイトは数カ月で辞めてしまったのだ。決してヤル気が無かった訳ではないと、自負している。

 その研究所も、運営とは名ばかりの放置に近い。そんな出自であるが故、尚の事憂慮すべき事態だったのだが、歳を重ねるごとに段々と図太くなっているせいか、何とかなるだろうと尻目に懸けていた。ちょっと面白そうだな、と思った事や、若干ではあるが日常に辟易していた事もある。

 本来ならば然るべき素養の持ち主が大学で教職を学び、学校で教鞭を振るうものだろう。それが、一時的とは言え、村長のコネだけで体験出来るのだから、棚からぼた餅である。


 研究所へ戻る途中、音無に言われたオヤツを買う為、コンビニに寄るのを忘れない。珍味やおつまみが陳列されている棚を探すと、でん七豆があった。二袋もあれば充分だろう。


 *


 ――その日の夜。音無は夜遅くまで休憩室ででん七豆を食い漁っていた。横には、既に床へ着いた美崎が寝ていたのだが、バリボリ、という、でん七豆をかみ砕く咀嚼音が響き渡り、美崎は寝不足となった。


学校編が始まる筈なのに、全然始まらないですね!

次回辺りから入れると思います。。。

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