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研究職の中年が研究もせずに魔法でああだこうだでキリキリ舞い  作者: ディ・オル
第二章~学校編 vol.1~
12/28

胎動

前回のあらすじ。

襲撃されたけど倒した。

 襲撃事件の夜、音無の寝顔を確認すると、美崎は椅子に座って携帯の目覚まし機能をセットした。音無を見守っていたスタッフには帰らせ、研究所は美崎と音無、二人だけとなっていた。

 またすぐに組織の連中が襲ってくるとは思えなかったが、警戒は怠らないようにしたい。そう考えていたが、明日からの事後処理に思い馳せている内に、美崎はそのまま寝てしまうのだった。


 そして翌朝の早朝。ヴォオ゛オ゛オ゛ォァア!! という、何かの激しい咆哮で美崎は目覚める。


「なんだ!? 何が!?」


 美崎は慌てて飛び起き、戦闘態勢に入ろうとする。イスに座って寝ていた事などすっかり忘れており、そのまま前方に転げ落ちた。――それは通知音がデスメタルになっていた、美崎の携帯の目覚まし音だった。ちなみにスラッシュ四天王だか何だかと言われているアーティストの様子。


「だ、誰だ。俺の携帯をデスメタル仕様にしたのは……」


 トップ画面やメニュー画面に、コープスペイントをした怖そうな人達がいっぱい映っている……! 

恐らく夜中に起き出した音無が、こっそり弄ったのだろう。そもそもこんな画像や音源は保存していた記憶が無いので、ダウンロードしてから着せ替えるという徹底ぶりである。時刻にして朝六時半。横に居る音無は起きておらず、穏やかな寝息を立てていた。先ほどのデスボイスと高速ギターピッキングの中でも、子守唄を聞く赤子のように安らかに眠っていたのだった。

 スタッフが出勤して来るにはまだ早いが、皆が集まったらまずは今後の方針の会議を開かなくてはならない。他にも、様々な問題が山積みとなっていた。まずは……朝食だ。だがこれも問題であった。普段、美崎しか宿泊していない研究所には、食糧など無いのだ。音無の分も用意しなくてはならない。それに気付き、とりあえず近所のコンビニエンスストアまで朝一番で駈け出した。そこで、ストックしておけるような食料品を買い込み、成長期の少女にこんな物ばかり食べさせてしまって良いのだろうか、と自問しつつ、神に懺悔した。

 帰宅すると音無が起きていた。朝早くに起こしてしまったようで申し訳ない。何か食べるか、と問うと、寝ぼけた表情で「少しだけ」と言われた。軽い朝食(バナナ、ヨーグルト、カップ麺……)を取る。その時に二人で話し合った結果、音無は研究所で暮らすことに決まった。音無が元々住んでいた自宅の方は、この後にでも一旦帰宅して、片づけて来るとの事だった。大体の日用品はこの研究所に揃っているので、必要な衣類とかは自分で持ってくるように、と伝えておく。近所の人にも、その時に色々話してくるそうだ。

 ――寝起きの音無の髪がぴょんぴょん跳ねていたので、「ああ、身だしなみや常識的な教育も俺が色々と面倒を見る事になるのか」と肩を落とした。子供を育てるという、事の重大さに改めて気付くのだった。こればかりは荷が重いので、村長やスタッフにも手伝って貰う事にしようと、美崎は目論んだ。


 朝食後、美崎は音無と共に研究所を一旦後にする。美崎は村長の家へ赴き、音無の件を連絡しておいた。ついでに昨日の襲撃について、その後何かあったか、等を伝え合う。村長の家の近くに音無の自宅もあったので、必要なものを研究所へと運ぶのを手伝う。案の定、量が嵩張って持ち切れなかったので、村長に電話してトラックで運搬させた。村長は戦闘の副作用で筋肉痛に苛まれ、体がバキバキになっていたのだが、半ば強引に「子供の為です」と言い包めた。「朝から疲れるのう」と愚痴をこぼされたが、強かな美崎は一蹴したのだった。


 *


 朝九時になる少し前。襲撃時にトランプで大富豪をやっていたバカな研究スタッフ五人が、仲睦まじそうにゾロゾロと出勤し、「おざまーーす!!」と、そのままの勢いで休憩室へと入ってきた。出勤と同時に休憩である。普段だったら「働け!」とダイナマイト右フックをかましてやる所だが、現在、実験室が破損した為、確かに彼らの仕事は無い。こいつらは間違っていないのだ。まぁそこまで考えていないだろう……いつもサボってばかり居るのだから。

 そいつらに音無がここで暮らす事を伝えると、嬉々として大盛り上がり、といった様相だった。――少女とは言え、女性だ。こいつらと一緒に居ると何か、その……あれだ。決して性犯罪を疑う訳ではないが、どうやらこの研究所内にはロリコンが多いようなので、音無の自室は別に設けようと心の中で誓った。就寝の時だけ、俺と一緒に休憩室で寝てもいいしね。いや、俺はロリコンではない。


「かわいい孫が増えたような感じッスね」


「そういや名前なんて言うの君」


「一緒にトランプでもやる?」


「アールグレイって知ってる? いや僕は知らないんだけど」


「早馬くんってどんな子だったの?」


 口々に音無へと迫るスタッフ達。クソ……! ツッコミ所が満載すぎるだろうが! 孫って……お前、歳幾つだよ、まだ二十代だろう、とか。アールグレイについて知らないのかよ、何で聞いたんだよ、とか。それから最後のスタッフ! オマエ、人の傷口掘り返すなよ! 兄貴のことで少なからずショックを受けているんだから! もう!

 そんなハートブレイクしそうな質問にも、間延びした口調で答えていく少女。流石に嫌がるかと思いきや、案外寛容だった。いきなり大人気とはな。ちなみに音無の名前は“サヤ”である。「サヤちゃん! 可愛い、グフゥ!」という変態紳士っぽい声が聞こえたが、こいつはやはり危険なのであれだな、今日で解雇だな。

 そんな事を俺が考えていると、部屋に常設されてあったホワイトボードに自分の名前を書き始める音無。


《音無 沙耶》


 字は汚い。学生の時、世界史の授業で習ったヒエログリフに似ているな。


 九時になると、何人かのスタッフが来ていない事に気付いた。出勤者のリストをチェックすると、出勤予定の従業員は全員が来ているようだった。つまり、来ていないのは非番の奴等である。

 ……と言う事で、非番のスタッフ全員にも連絡して、招集をかける。全員が来ない事を失念していたのは事実だが、前日に連絡出来たか、と聞かれれば答えは「ノー」だった。だって、襲撃されてアワアワしていたし。

 急遽集まってもらい、約一時間後、この研究所の今後の方針について、スタッフ全員で緊急会議を始めた。もちろん俺は管理者、責任者として、その場を取り仕切った。

 まずは昨日、何が起きたか。電話による連絡網で周知の事だとは思うが、そこから顛末を話していく。難しい話は一切していないのだが、バカなスタッフが一人、うつらうつらと舟を漕ぎだしたので、長谷部君に命じて殴らせておいた。


「それで、実験機械だけど。みんな知っての通り、壊れてしまった。当分は仕事が無い。だから、退職したい人は遠慮せず申し出てほしい」


 今後の見通しも説明しておいた。しかし暫くの間は実験、すなわち仕事が出来そうもない。給料を出すのは吝かでは無いが……、やって貰う業務が無い。それに今回みたいに事件に巻き込まれる可能性だってある。なので、これを機に辞めたい人が居れば、遠慮なく手を挙げてくれ、と気を利かせたつもりだった。しかし、誰も手を挙げない。そんな中、バカなスタッフが口火を切ると、それぞれが次々と口を開くのだった。


「また一からやり直しましょうよ」


「そうですよ! 敵が襲ってきたって事は、それだけの真実が隠されているってことですよ。暴いてやりましょう!!」


「そうだそうだ! 給料良いしな!」


 口々に、そう述べるスタッフ達。感無量だ。 一人、給料がどうとか聞こえた気がするが、多分あの五人の誰かだろう。それでも嬉しかった。


「みんな、気持は嬉しいけど……また組織に襲われるかもしれないぞ? 危険が伴うのに、続けてくれるのか?」


「そん時は、全員で追い返しますよ!」


 支えてくれる人の存在というものは人生で重要だ。だが、自らを危険に晒してまで支えてくれる人は少ない。そんな人間が、こんなにも居てくれる事に、俺は破顔した。


 俺はその後、大破した実験室の壁の修繕や、セキュリティの強化、そして音無がこの研究所で暮らす事、それに際して色々気にかけてやってほしい、等、色々と説明していた。

 ――内通者の存在。

 今話している、この中に昨日の組織と内通している者が居る。もしかしたら実験中止の為に戦闘、もしくは殺人まで目論んでいるかもしれない。そう考えると、心苦しい。襲撃後の様子からして、暫くは大人しくしてくれるようだが、それだって恒久的なものではない筈だ。そうなると、研究所の管理者としてスタッフや音無を守らなくてはならない。村の方は村長に任せておけばいいし、自分の身は自分で守れるが、この研究所に関しては俺に責務が生じる。

 狐疑したくはない。しかし、敵が研究所内に居る限り、我々の情報は筒抜けであり、早々に解決する事が喫緊の課題であった。


(問題はどうやって内通者を見つけるか、だよなぁ)


 昨日襲ってきた組織。俺はその存在を知っていた。村長がその存在を仄めかしていた事もあるが、稀に村へと見知らぬ人間が訪問していたからだ。この村に観光するようなスポットは無いし、知己を訪ねに来たという雰囲気でも無かった事から、何らかの組織が存在するのでは、という公算があった。幼少からこの村に住んでいるだけあって、村民の顔を把握していたのも、その可能性を否定できない証左となった。

 約三十年前の、あの日から時折そういう事があり、俺は懐疑的になっていた。村長が言うには大きな組織が関係しているかもしれないそうだが、父が生前に「お偉いさんから仕事を取ってきた」と言っていた事からも、これは頷ける。長年の間、進展が無かったので組織に黙殺されているのでは? などと楽観視していたつもりはないが、少々油断していたのは事実だ。今回の事件の一様から察するに、その認識を改めなければならないだろう。実験を中止しないと分かった途端の、あの強行手段。それに強力な魔法術者。――大掛かりな組織が動いていることは間違いないだろう。


 もし、まだ再生実験を続けるのだと知ったらまた襲撃するのだろうか。機械を破壊するだけならば容易に思われるが――いや、それじゃあイタチごっこだ。恐らく根本、つまり俺を殺しにかかるか、妖刀そのものを奪いに来るだろう。

 今こうして、研究員たちにも背中を押され、実験の続行が決定した訳で。この中の誰か、裏切り者はどう動くのだろう。とりあえずは敵が動かない限り、こちらも動けないのだから、じっと待つことにしようと思う。


 この時、俺はその組織によって、今後一層人生が揺らいでいく事など知る由もなかった。

ここからは第二章(予定)です。

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