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捏造の王国

捏造の王国 その5 ジコウ党秋のニホン文化学習会

作者: 天城冴

ガース長官らはニホン文化に関する教養を身に着けるためのジコウ議員ニホン文化学習会を催す。しかし、宴会と勘違いした議員たちにまたも翻弄されるのであった。

紅葉情報もネットやテレビで話題になりつつある今日この頃、色づき始めた葉がはらはらと落ちる某シンチュク庭園では着物や羽織袴の男女が集まっていた。

「あーガース長官、スーツはそのう」

長官の洋装を咎めるニシニシムラ副長官。そういう本人も背広姿である。

「うむむ、仕方がないのだ。紋付袴と言ってもだな、わが家の家紋がそのう、ちょっと」

早い話が自分の家の家紋がわからないらしい。

「まあ家紋なんて二十一世紀の今、わかるほうが少ないですし、仕方ないので僕も背広です。だいたい議員の勉強会になぜ原則和服なんです?」

と助け船を出すタニタニダ副長官は別の疑問を口にした。

「それはだな、すでにわが党のニホン文化のその知識不足というか、毎回国会でアベノ総理やらヨネダ議員やらが、わかりにくい言葉というか、ニホン語を使われるし」

「まあ、サヨクどもからアベノ語辞典を出せだの、ネット民からはアベノ語は人類の言葉ではないだの、翻訳機出せだの無茶いわれてますし(いや実は、僕も欲しいんですけどアベノ語辞典。どうも普通に使われる意味と違った意味で総理はお使いだからなあ)」

「翻訳機か、いっそ私も出したいぐらいだ。他にも漢語が読めないだの、漢詩はどうだの言うのが多いので思い切って各界のニホン文化著名人を集めてニホン文化学習会を開催することにしたのだ」

「それで着物ですか」

「着付けができるものばかりではないだろうが、他人に着せてもらうにしても一応形から入るというのが…。うん?」

ザワザワ、ガヤガヤ、キーキー!と着物姿の女性陣のほうからなにやら大声が聞こえてきた。

「ま、まさかアベノ総理の挨拶もまだなのに、すでに騒ぎが始まっているのか」


「ですから、そのお召し物はちょっと」

「何よ!振袖は正装よ!」

騒ぎの元は茶会を催すために呼ばれたらしい、ナンチャラ千家のお家元とアベノ総理お気に入りの議員たち、ミズタ、ガタヤマ、ヨネダらである。どうやら年齢にふさわしくない着物を着てきたことで格式を大事にする家元ともめているらしい。

「ですから、それは若い、しかも独身のご婦人方のお着物で」

(皆さん、既婚者なんだから、普通は黒の留袖でしょうに。ひょっとして持ってないの?)

「きいいいいい、私はアベノ総理に若いって言われたわよ、ガタヤマさんだって着てるんだもん、いいじゃない!」

(ふん、私はまだまだ若いのよ、アベノ総理にも支持者にも次の姫って言われてるんですから。青い朝顔柄で瑞々しさをアピールするわよ!)

「ミズダさん、私は大臣なんですからね、これぐらい目立たないと。ヨネダさんこそ娘さんの着物借りるなんて、だいたい娘さんだって三十超えてるじゃない」

(きいい、ようやく大臣まで上り詰めたのに、たがが数百万の献金で降ろされてたまるものですか。ウヨクの女王の座はまだまだ渡さないわよ。黒の留袖なんて地味!このバラ柄の真っ赤な振袖でコバヤシサチコ並みに目立ってやるから)

「あら、ワタクシ、娘と姉妹のように見えるって言われてるからいいのよ!」

(アベノ総理の一番のお気に入りはこのワタクシよ!この黄色の水仙柄、娘の白の水仙柄とおそろいなの、ワタクシが一番若く見えるわ)

 見事に季節を外した柄の上に、三人とも振袖が全く似合っていない。しかも髪を結うのはいいが、簪だの花飾りだのをつけすぎてかえって滑稽にみえる。ハロウィンの仮装といっても通りそうだ。

 見かねたシモシモダが気ばかり若いが実年齢は若くない女性議員たちをなだめにきた。

「あまり着物ばかり派手ですと、お顔のほうが目立ちませんよ。お着替えになったほうが」

「えー、着替えてたら時間に間に合わないわよ」

「だいたい替えを持っていないのよ」

「これ着るの時間がかかるのよ」

三人がギャーギャー騒ぎまくるのにすっかりあきらめムードの家元は

「ま、まあよろしいですよ。正式な茶会ではないですし、今回は練習ということで」

と、茶室のある庭のほうに案内しようとした。が、さらにヨネダ議員が不満をもらす。

「え、お茶室なの、あの狭い入口なの」

「は、躙り口のことですか」

「嫌だ、帯を派手に結んだから入れないわよ」

「やだ、私もよ、二段のリボンにしたから駄目だわ」

「玄関はないの?もう、私はあんまり体が柔らかくないのよ、だいたい大臣が膝をついて部屋に入るなんてないわ!」

正式な茶席の入り口が狭くなったのは、余計な武器とかの携帯を避けるためであり、茶席では身分の上下ないことを示すためと言われーという講釈を垂れる間もなく、三人の弾丸のような不平の繰り出しに家元はすっかりまいっていた。

 呆れて口もきけない家元をよそに三人のオバタリアンではなく議員たちは次々と好き勝手なことを言い出す。

「それより早く本当のお茶席に案内してよ、お菓子が食べれるんでしょう?あ、干菓子は嫌よ、お饅頭も。和風のチョコケーキとか生クリームが入っている大福とかにしてね」

「正座じゃなくて椅子に座るのやつあるわよね、私は体が硬いので正座は無理なのよ」

「あ、お抹茶にお砂糖入れてね、あの苦いのはだめなのよ」

あまりの言い分にくらくらとした家元は倒れかけた。

「わー、家元が。た、大変だー」

シモシモダが慌てて家元を支えた。が、大変なのはシモシモダたちだけではなかった。


「なんで、脱がないのー、脱いでよー」

「は、あの、私、お花の活け方をお教えするだけです、そのようなことはやれません!」

男性議員の無茶ぶりに新進気鋭の女性華道家は困惑していた。いくら金をはずまれて名を売るチャンスとはいえ、こんなことを言われる筋合いはない。思わず剣山を手にして議員に投げつけそうになるのをグッとこらえる華道家だった。

「いや有名な華道の先生でズモウ協会の理事はセミヌード写真集を出したはずー」

「あの方とは流派が違います!」

「でもゲイの華道家も」

「あの方とも違います!」

第一同性愛者の華道家は脱いでいないのだ。浮いた噂もなく仕事は超真面目で優秀との評判である、脱いだ華道家は昔の功績はどこへやら、今では家柄がいいだけのお騒がせオバサンと化したとの評判だが。

 騒ぎを聞きつけたタニタニダが男性議員のセクハラを止めに走ってきた。

「タカギギ議員、その今回は花の活け方を習うためのお席ですので」

「えー、僕、あれやれると思ってたんだけど。ほら帯もってくるくる回すヤツ」

「な、なんですか、それ」

「ほら時代劇で偉い役人が女の子の帯を解いて、やるのあるじゃん、ア~レ~とか言ってさ。だから羽織着て袴とか履いてきたのに」

「で、でもその羽織、茶色ですよね。正式なのは黒の紋付で」

「固いこと言わないでよー、家紋入りのとかないしさ。ほんとにやらないの?あの腰巻っていう下着ほしかったんだけどな」

さすがパンツ泥棒で捕まったといわれる男だ、そんなものを欲しがるとは我々とは次元が違う、と妙な感心をしそうになったタニタニダだが、我に返って議員をたしなめる。

「タカギギ議員ここは、お勉強の場です!」

「時代劇の実践も勉強だよー」

あまりのバカさ加減にタニタニダは頭を抱えた。


「ニシニシムラさん、なんでこんなのをやらせるのよ!こんなものを学習会で使うなんて!」

「え、えーとイチタカ議員、何を怒って…。“120分でニホンの名著を読む、枕の草子”、ニホンの古典文学をとりあげるINUHKの番組テキストですね、これが何か?あんまり平凡でご不満だとか?」

「違うわよ、これハンニチじゃない!」

「は?」

ニホン古典文学の最高峰の一つ、エッセイの走りと言われた古典がなんでハンニチということになるのだろうか。

「だってコウロホウって中国の山なんでしょ!中国の古典を真似するのが流行で賢いなんてハンニチでしょ!」

「あのひょっとして冬に雪景色を見たいと中宮定子が謎かけする話のことをおっしゃってるんですか?」

「それよ、それ。その中宮ってやつはハンニチよね。名前からして怪しいわ、中宮なんて名字ないし、中国人か韓国人よ。そんな女をほめた話をテキストにするなんて、INUHK、今度こそ電波停止にしてやるわ!」

中宮は平安時代の皇后の称なのだが、イチタカ議員は名字と勘違いしているらしい。定子の出身藤原家は渡来系説もあるので中国系というのはまるっきり間違いでもないのだが、ほとんど中宮やら女御を輩出し、外孫を天皇にしまくった藤原家である。それがハンニチなら当時の天皇はほとんどハンニチとなってしまう。イチタカの無知ぶりに唖然とするニシニシムラ。

「ここはテキストを書いた先生に誤解を解いてもらわねば。確か本日の講師に招いたはずだ。せ、先生はどちらです、イチタカ議員?」

「あら、モンリ元総理とやりあって、屈強な男の人に連れ出されちゃったわよ。さすがよねえ元総理」

さすがサメの脳みそと言われた男、モンリ元総理。ニホン古典文学など読んでも、いやそもそも現代語訳でも読んでわかるかどうかも怪しいのだ。話が通じなくて困っている先生を力任せに追い出したのだろう。

「ああ、超有名古典文学すら理解できないとは…」

幼稚園並みの程度の低さに嘆くニシニシムラであった。


「すんなりいくはずはないと思っていたが、まさかここまでとは」

三人の副長官以上にガース長官はあきれ果てていた。というよりすでに悟りの境地にはいらざるをえないほどの心境であった。

 書道を教える区画ではいつのまにか罰ゲームで顔に墨をぬりあい、着物が墨で汚れたと女性議員が騒げば、脱いでしまえと囃す初老議員もいる。

 論語を学ぶ教室からは好意というか押し掛けてきた自称作家のモモタンが、漢語なんてニホン語じゃない叫びまくる。講師のほうも負けてはいない “あなたそれでもニホンの漢か!論語はニホンの教養、平仮名しか読めないのは女性だぞ!”と言い返し、壮絶な口喧嘩となっていた。

 剣術の型をみせるはずの舞台ではチャンバラごっこと勘違いした若手議員のヤジに怒った武術家が退出し始めた。さらに武術家たちをバカにしたナカゾネ議員に、ブチ切れた一人が竹刀を振り回したのがきっかけで大乱闘が起こっていた。

「ま、まだ開始前の集まり段階でこんな調子では無理だ、もうこの会は終わりだ」

と、こぼすガース長官。そこにやってきたのはアベノ総理夫妻。どうやら開会のあいさつをしにきたらしい。ガース長官はあわてて側に駆け寄った。

「あ、アベノ総理申し訳ありません、この会は失敗で、その」

「いやあ、みんな楽しそうだねえ」

大騒ぎをわかっているのかいないのかアベノ総理は上機嫌だった。

「あら、羽根つきやってるのねえ、楽しそう」

と、振袖姿で駆け出すアキエコ夫人に目を細める。

「こういう身内だけで楽しくやるのは大歓迎だよ」

ワハハと楽し気に笑うアベノ総理。

(か、会の主旨をまるっきり理解していないのか、総理は。ま、まあよいだろう。ともかく私の失態とは思われていないようだし)

本来の目的などどうでもいい、今は自分の保身さえできれは、という考えにシフトしたガース長官にアベノ総理は小声で話しかけた。

「ところで、焼き肉はやらないのかい?あ、提灯も欲しいねえ」

「は、はい今スグに」

ガース長官は副長官らに緊急招集をかけた。


「はあ、いきなりバーベキューとは」

「ニホン文化とは全く関係ないな」

「エド時代は四つ足食うのは原則禁止だしな。メイジ、タイショーでもないだろ」

「焼き肉は戦後だろ」

「とりあえず、肉と野菜、そして焼きそばの麺の調達だ」

「やはり、あそこかドヨス市場」

「いまの時間で食材あるかね?もう、昼近いぞ」

「まあ売れ残りでもなんでも調達できれば」

副長官らの乗った車は超高速でドヨス市場に向かった。


「いやあ、皆さん、これぞ新しいニホンの文化です、焼き肉を楽しみましょう!」

酌み交わされるビールに、牛豚肉の焼きあがったにおい。アベノ総理はすっかり満足していた。

「憲法も文化も我々がつくるぞー」

意味不明なアベノ語を飛ばす総理に、意味をまるっきりわかってない聴衆が機嫌よく答える。

「おおー!」

伝統と格式のあるはずのシンチュクのニホン庭園はすでに大騒ぎのバーベキュー会場と化していた。

「伝統がなんだ、ニホン文化がなんだー、カンコクチョウヨウコウ問題も全部忘れて飲んでやる~」

ガース長官は庭園の隅の陶器の椅子に座り、ビール片手にすっかりできあがっていた。


 この会のありさまは無論、週刊誌のネタとなり、シンチュク庭園ニホン文化破壊宴会となづけられ、さらなる野党の追及を招いた。

 また、間違えて毒をもつ木の枝をバーベキューの串にした議員がおり「ヤマドモイチタ議員、中毒で担ぎ込まれる」などとの報道もされた。

 当初の目的であったジコウ議員へのニホン文化再教育どころか、さらなる無知をさらけ出すこととなった結果にガース長官は意気消沈しつつ、アベノ総理から愛想をつかされるという最悪の事態を免れたことに安堵していた。しかし、このとき無理くりに調達した肉類がおそろしい結果を招くことになるのは、だーいぶ後のことであった。


ニホン文化への教養を深めるのはなかなか難しい方もいるようです。


なお茶道で初めにやる薄茶では干菓子が出るのが一般的で、もう少し甘ったるい饅頭、大福系は濃茶で出されることが多いそうです。

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