第0話 友達
──これは、夢が必ず叶う物語。
私は、ずっとひとりぼっちだった。
お父さんもお母さんも私が小さい頃に死んでしまった。
ずっと、友達が欲しかった。
寂しかった。
だからあの子に声をかけられた時、チャンスだと思った。
「君の夢を叶えよう。その代わり、トラオマーとなってこの街をデスペアーから守って欲しいんだ。」
見たことの無いたぬきのような生き物は言う。
トラオマーとは、夢を力に変えて戦う戦士だと。
また、続けて言う。
「君は夢への強い執着心があるみたい。それならきっと、とても強い戦士になれる。」と。
変な名前だし明らかに怪しかったが、これ以上ひとりぼっちに耐えられなかった私は、詳しい話を聞かないままその提案を受け入れた。
「ありがとう。私の名前はマジャク。今日から君をサポートするよ。」
それから、何ヶ月も過ぎた今日。
私は依然ひとりぼっちだ。
「ねぇ、そろそろ私の夢を叶えてよ。」
不満げにマジャクに言う。
沢山の友達に囲まれた、憧れの生活はまだ送れていない。
「慌てなくても大丈夫。もうすぐ叶うよ。」
そう言うマジャクの声には、確信が込められていた。
目の前に、デスペアーの反応があった学校がある。
校門から侵入し、人気のない校舎に入る。
デスペアーの反応は2階だ。
2階へ上がると・・・。
「いたいた。」
廊下に人魂のようなものが浮かんでいる。
あれはデスペアーの中でも特に下級の「残痕」だ。
通常、デスペアーは人の悪い感情が同じ場所に集まった結果大きなひとかたまりになってできるものだが、この残痕は、例えば「誰かと遊ぶ約束がなくなってしまって残念」など、少しだけ悪い感情がその場にあつまっただけのただの集合体だ。
今更苦戦する相手でもない。
向かってくる残痕の群れを、盾の形をした夢想具と呼ばれる武器で叩き割る。
「これでおしまいっ!」
最後の残痕を砕く。
その時だ。
一瞬、視界がぼやけたかと思うと、そばにいたマジャクは消え、校舎内がやや暗くなった。
「え、何?マジャク、どこに行ったの?」
慌てて辺りを見渡す。
いない、どこにもいない。
教室の扉が空いている訳でもなく、窓が空いている訳でもない。
果たしてマジャクはどこへ行ってしまったのか。
その場で立ち尽くしていると、女子トイレから光が見えた。
「もう、マジャクったらそんなところに・・・。」
しかし、女子トイレにマジャクの姿はない。
あるのは不気味に光る鏡だけだ。
「何?これ」
その鏡にそっと触れてみる。
「っ!?な、何これ、手!?」
鏡に触れた瞬間、鏡から腕のようなものが生え、私の腕を掴んだ。
そして、まるで鏡に引き込むように引っ張られる。
「や、やだ、離して!離してよッ!!」
必死の抵抗も虚しく、私の体は徐々に鏡の中に入り始めた。
「まだ夢も叶ってないのに・・・っ!助けて!マジャク!誰か!助けてよッ!!!」
ふと、鏡に写る死者のような顔。
その顔が弱々しい声で何かを呟く。
ト・・・・・・モ・・・・・・・・・ダ・・・・・・チ・・・
私の体はもう半分も鏡の中に入ってしまった。
声を出すこともできない。
鏡の中で、無数の手が私を包む。
どうして・・・こんな目に・・・。
──これは、どんな形であれ夢が必ず叶う物語。
デスペアー図鑑
No.01 鏡
この鏡は、友達を欲しがっている。
ただ、友達は無理強いするものでは無いことを知っているため、基本的には手を出さない。
しかし、自身と同じ悩みを持つ者が現れると、その悩みから救うために無理矢理鏡の中に引き入れようとする。
フィールドは「鏡面世界」
鏡に写った世界をそのままフィールドとして広げる。
迷い込んだ者を自身の元へと誘導するため、その者が探し求めているものがあるような気配を発する。
彼女の夢は、「友達が欲しい」でした。
鏡を通して死者と友達になれたため、無事彼女の夢は叶いました。
この0話は、この作品の大筋を表すお試し回のようなものです。
全話の執筆が完了してから投稿するつもりのため、1話の投稿は相当後だと思います。
もし、この0話を見てこの作品の大筋が気に入って頂けたのなら、記憶の片隅に置いてお待ちください。