【第4話】
お初の方…今晩は♪
紙幣の肖像画に選ばれるかどうかはさておき、私的な事柄もすぐに詳らかにされてしまう現在の日本に、人間味溢れる逸話を持つ過去の偉人達のような人物が、果たして現れるかどうか?男の話を聞いて俺は疑問に感じた。
例え、野口英世ほどの飛び抜けた能力を持つ人物が現代に現れたとしても、飛躍する才能を持ちながら、それを発揮する前の小さな躓きによって、いとも簡単に未来を取り上げられてしまうのではないか?俺にはそう思えてならない。
世界的に評価されている国際俳優は仕事とは直接関係のない女性問題で、テレビカメラを通して不特定多数の対象に謝罪し、自らが奏でる音で一時代を創り上げてきた音楽プロデューサーも、女性問題が発端となり、最終的に彼は自らの手でステージに幕を下ろした。
完全な人間などいないのに・・・
俺は男に訊ねずにはいられなかった。
「どうしたら野口英世みたいな人物が現れるかな?現代に…」
「非常に難しいことだが。ひとつ明白なことは不明瞭な対象。即ち世間という曖昧な存在に対し、簡単に謝罪などせぬことだ。例え、その必要性が生じたとしても、無関係な対象が含まれる公衆の面前ではすべきではない。概ね謝意を表すべき対象は限定されていて、謝罪とは定められた対象に対する個人的行為に他ならない」
「本当に……」テレビから垂れ流される数多の謝罪シーン。そして、おびただしいシャッター音とフラッシュ光に俺の脳内は占められた。「本当にそうだよね」
「そして普通の人間が持つ常識や倫理観を飛び越えた…特別な存在であると思われること。そう『この人間ならば仕方あるまい』と、唯一無二の存在として認知されることが重要だ。きっと野口も周囲の人間に広く、深く愛されていたに違いない」
今の日本では、そんな天然記念物はなかなか出現しないだろうな、と俺は考えていた。
「現代にも…」相応しくない難問を出題してしまった教師のように、男は答えを導き出せない生徒の俺に優しくフォローの言葉をかける。「おるではないか?現在の日本にも…野口のような人物が!? 色物と呼ばれる大衆芸術から映画監督まで、幅広く才能を発揮し、仏国から勲章を授与された男が。彼は女性問題、暴力沙汰、交通事故などの度重なる試練を、逆に肥やしにし、大輪の花を咲かせた稀有な存在。おるではないか?現代にも野口英世が」
確かに、彼は何をしても許される存在である、とまでは言えない。
しかしプラスの物事は勿論だが、少しネガティブな事柄も、彼の持つキャラクターの一部として、個性として多くの人々に好意的に受け入れられている。そして彼の言動は常日頃から注目され、多くの日本人に動向は注視されている。
同じ時代を生きていると、気付きづらいことだが、彼のような人物は日本にもまだまだ存在する。
つづきます♪