【第3話】
クレイジー・キャンディデイト第3話だよ♪
短編のほうもよろしく。。
男から手渡されたメモ紙には、次のような文面が記されていた。
未来の肖像人物の君へ
(一)私利私欲に走らず、後世に語り継がれる功績
を残すこと
(二)正確に写された写真が現存していること
(三)品格を備え、国民に広く知られていること
(四)頭髪または口髭が豊かなこと
(五)汚点と呼ばれるような逸話を残すこと
(但し、功績を上回らないこと)
「この五つの項目を満たす者が、肖像画の候補者だと思って間違いないだろう」メモ紙に目を落とす俺に男は告げる。
「う~~ん…実際にまざまざと…こうさ…箇条書きにされると、この条件をクリア出来る人間、地球上に一人もいないんじゃない?って俺には思えるけど…」メモ紙に目を通しながら「①で殆どの国民が脱落しちゃうよね?」と俺は自嘲気味に言った。
苦笑いしか浮かばない。
鏡を覗き込んでいるわけではないが、自分の顔が今、どんな有り様か容易に想像出来る。
「安心なさい。文面から、ご理解いただけると思うが、肖像画に選ばれるのは幸か不幸か生きているうちではなく没後。見向きもされなかった者が、長い年月を経て評価され直すことも稀にある。書き記しておいてなんだが、余り気になさらぬように」
「まぁそれはそうだけど……あと④は何でなの?」
見も蓋もないことを落ち着き払ってよく言うな、と思いながら俺は気になる文言について男に訊ねる。
「これは単純に紙幣の偽造防止のため。髪の毛などの細かい描写は複写を困難にする」
合点のいく男の答えは、他の文面にリアリティを持たせ、俺の目には男が日本銀行職員に見えてきた。
しかし俺は最も疑問符が付く、理解しがたい⑤について男を問いただす。粗を探し出し、クリア不可能な文章を何とか覆そうと男に食らい付く。
「汚点なんかあったら駄目でしょ?単純にさ…品格欠いてない?肖像画の候補者失格っしょ?」
「汚点とは…表現が適切ではなかったかも知れん。この五番はあくまでも私見なのだが。簡潔に言えば…。庶民にとっては功績が偉大であればあるほど、その人物を近付きがたく感じるもの。しかし人間味溢れる逸話を伝え聞くことで、親近感を持ち、国民は受け入れやすくなる、ということだ」
「なるほど、だから功績を上回らないこと、ていう但し書きが付くんだ!? 功績があってこそだもんね。要するに…ギャップ萌えってことね?」
「ぎゃ・・ぎゃぷもえ?……貴殿が口にする言葉が理解出来んのだが?」
「ごめんごめん。え~~っと…う~~ん…あぁ!? 功績と逸話に落差があって、同一人物の事柄だとはとても思えないってこと!? それを魅力的に感じるってことかな」
「なるほど、そういう意味か?その通り。ただ野口の場合は、その逸話が度を越えておった」
何十年も会っていない旧友を懐かしむように男は話した。
「えっ…そんなに野口英世ってヤンチャだったの?」
「坊主頭ではなかったが……。先ず金銭感覚が度を越えておった。周囲の人間に無心して借りた金を遊びをつぎ込み、全て使い果たしてしまう。別の名目で借りたにも関わらずな。あとは婚約者がいながら別の女性と結婚したり、仕事を得るために経歴を詐称したり…数え上げたら片手では足りないかも知れん」
「へぇ~意外!? この人がね~…今、生きてたら確実にクズ扱いされそうだけど、それをも上回る人間的な魅力があったのかな?…この人に」
テーブルの上にいる野口英世が段々愛らしく思えてきた。寝癖のようなアシンメトリーの髪型も、どことなく可愛らしく見える。
「つい手を差し伸べたくなる魅力的な人物だったのだろうきっと。優秀な細菌学者で、寝る間を惜しんで研究に没頭していたのは事実なようだし。そもそも野口自身は『自分は完全ではない。完全でありたいとも思わない』と言っておったようだから、紙幣の肖像画に選ばれて一番驚いておるのは本人かも知れんな」
「本当にそうかも…自分から進んで立候補したわけじゃないしね?」
この後「でも野口英世は例外じゃないの?」と男に訊ねると、旧千円紙幣の人物である、四回総理大臣を務めた女好きの大政治家の話や、世界各国の魅力溢れる偉人達のエピソードを散々聞かされた。
つづく~ん♪