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プロローグ

プロローグ


「……なんだこりゃ」

そこは一面の闇だった。

とにかく真っ暗な空間がどこまでも広がっている。固い感触があるから何かの上に立っているのは間違いないんだが、しゃがみこんでも何も見えない。触るのは正直嫌だ。

しかも、そんな場所なのに自分の身体だけははっきりと見える。喧嘩の売られすぎでごつくなった手もちょっとした丸太ほどもある二の腕も、丁度いいサイズがほとんど無いので何年も使いまわしているTシャツとジーンズなんかもだ。

「なんで俺、こんなところにいるんだ?」

何度も思い出そうとするが、どうにも記憶がはっきりしない。

……ここまで状況が揃うと何となく嫌な考えが頭を過ぎるな。これはもしかして……。

「俺、死んだか……?」

『いいえ、違います』

不意に不思議な声が聞こえた。男とも女ともつかないその声に振り返ると、突然目の前が眩しく輝いた。そしてその輝きは一瞬で収束すると、人間大の光の球になる。

「お前は……」

『――私の名はブラス。決して怪しい者ではありません』

「いや、どこからどう見ても怪しいだろ」

反射的に突っ込む。

なんだ、その自己紹介は。あまりにお約束過ぎて思わず突っ込んじまったじゃねぇか。

やっぱりこれは夢か? それとも三途の川の一歩手前か?

『大丈夫です、竜ヶ崎(りゅうがざき)(とおる)さん。これは夢でも三途の川の一歩手前でもありません』

「その答えで怪しさが三割増しだ。なんで俺の名前を知ってるんだよ。つうか俺の頭の中をどうやって読んだんだよ」

『それはあなたに寄生……ゲフンゲフン。いえ、そんなことよりも今はもっと重大なことがあります!』

「今、言いかけた言葉以上に重大なことがあるならさっさと教えろ」

その後でたっぷりと殴ってやるからよ。

『よろしいですか、竜ヶ崎徹さん。落ち着いて聞いて下さい』

正直、怪しさと不安しか感じない中、正体不明の光の球はこほんと咳払い(?)をすると、重厚な、そして威厳すら感じさせるような堂々とした声で――告げた。



『地球は今――狙われています!!』



「そうかこれは夢か。よかったよかった」

『反応薄っ!?』

がーんと、どこからとも無く効果音が聞こえた。

『地球のピンチですよ! 宇宙からの使者ですよ! あなたは運命に選ばれたんですよ!! もっと他に言うことは無いんですか!?』

「設定がありがち過ぎる。何の捻りも工夫も見られない。二十点」

『がーん! に、にじゅってん……』

素直に感想を言ってやると、ブラスは自分で効果音を口にしながらぼとりと地面に落下した。そしてごろごろと空間内を転げまわる。

『三日三晩考え抜いた決め台詞でしたのに……せめて四十点ぐらいは欲しかった……ではなく! 本当に地球のピンチなんです! 危機なんです! そしてそれを救えるのはあなただけなんですよ!!』

「あいにく俺の中のヒーローごっこブームは小学校に上がる前に終わったんだ」

『それはそれで早過ぎではありませんか!? ああいえ、そうではなく……こほん。いいですか、これはごっこなどではありません。今、迫りつつある重大な危機なのです!』

「詐欺師と宗教と新聞の勧誘は皆そう言うんだよ」

『これは夢でも詐欺でも宗教でも新聞勧誘でも自己啓発セミナーでもありません! 地球は確かに悪の宇宙人に狙われているのです! そして彼らの侵略に対抗するためには、あなたと超機生命体(ちょうきせいめいたい)である私の力が必要なのです!!』

「やっぱありがちじゃねぇか。しかも今どき悪の宇宙人はダサい。マイナス三十点」

『はう!? 評価がマイナスに!』

「大体何だ、ちょーきせいめいたいって。あの車とか飛行機に変形する奴か?」

『それは超生命体でトランスな方々です! 我々と彼らはスー●ー戦隊シリーズと仮面●イダーシリーズぐらい違います!』

「やけに具体的な対比だな」

確かにその二つは同じようで違うけどよ。

俺がぽりぽりと頬を掻いていると、ブラスは何故かくわっと膨張しながら力強く語った。

『いいですか、超機生命体とは有機生命と無機生命が融合して生まれた究極にして至高の超生命体です! それぞれの長所を兼ね備え、柔軟性と強靭性、増殖能力に分裂能力、さらにはエネルギーや空間さえも自在に制御する生命も機械も超えた究極の存在! まさに大宇宙が生んだ正義の使者! 平和の守護神なのです!!』

「………………………………日本語で頼む」

『………………人間と機械のいいとこ取りした、超凄い生命体ということです』

がっくりとブラスが肩(?)を落とした。仕方ねぇだろ、俺は理系には弱いんだよ。

「とにかく話は聞いたぞ。じゃ、俺はもう寝るからな」

『ああっ、寝ないで下さい横にならないで下さい話を聞いてください! 重大なことなんです! 地球が狙われているんですよ!?』

「そんな設定、今時流行らないぞ」

『流行り廃りの問題ではありません! 確かに私も昨今のサブカルチャー市場におけるリアル指向にはもの申したいところはあります! 宇宙から正義のヒーローが落ちてくる設定の何がいけないんですか!? 何も知らない宇宙人と地球人との間に生まれる美しき友情! 共に敢然と悪に立ち向かう凛々しい姿! 地球支配という分かりやすくも致命的な問題を掲げる強大な悪! この美しきストーリーテリングは今の時代であっても決して色あせること無く、むしろ優しさを忘れてしまった地球人類にはマクロの空を貫いて一筋の雷になることでしょう!』

「そんなに気にしてたのかよ」

つうか、宇宙から来たはずの究極生命体がなんで地球の、しかも日本のサブカルチャー事情に詳しいんだよ。やっぱ俺の夢だからか。

「そもそも俺に何をやらせようって言うんだよ。こちとらただの一般市民だ、ヒーロー募集したいならハローワークに行けよ」

『それはあなたが確かな正義を示したからです! これを見てください、あなたが尊い命を守らんとして己の命をかけた時のことを!』

ふんふんと鼻息(?)荒く迫ると、ブラスは空中に映像を映し出した。

そこに映っているのは、近所のスーパーの買い物袋を抱えて河原で大勢の集団に囲まれている凶悪な顔つきの男…………つまり、俺だ。

……ああ、何となく思い出してきた。

こんな怪しい世界で自称宇宙生命体の夢を見る前、俺は――。


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