第6話 ウスル到着
本当は今回と次回で1つにしたかったんですけど、流石に1話2万字は多すぎると思うので分割することにしました。
なので微妙な所で切れてます。
あと感想、評価、ブクマ感謝!
第6話 ウスル到着
今のワールドアナウンスで、この北の森――タイバの森のフィールドが攻略されたことが他のプレイヤーたちに知られてしまった。
てか、フィールドを攻略したらワールドアナウンスが流れることを知ってはいたが、どんどん上がって行くレベルと、アスラと共にモンスターを倒していく感覚が気持ち良くてすっかり忘れていたわ……。
「これ、まずいよなぁ」
「グルゥ?」
どう考えても最低レベル50のフィールドを攻略なんて、ゲーム内時間1日で早過ぎる。
βテストでさえトッププレイヤーがレベル40代だった筈だもんな。
完全に失敗した。
「グルゥ」
「おお、ありがとう」
アスラが俺に頭を擦り寄せて慰めてくれる。
優しい奴だ。
……ん?
そういえば、さっきのアナウンスは……もしかして!
もう一度さっきのワールドアナウンスを思い出してみよう!
確か《タイバの森のフィールドボスが倒されました。 これによりウスルの街と転移陣が解放されます。 ただし、転移陣は一度行った街でしか使用できません》だったよな。
やっぱりそうだ!
このワールドアナウンスでは誰がタイバの森を攻略したかまではアナウンスされていない。
これなら自分から名乗り出なければ、しばらくはバレないぞ!
まぁいつかはバレると思うが今ではない。
幸いにもこのフィールドの先にウスルという街があるみたいだから、そこを拠点にしばらく活動すれば良い。
良いアイデアだ!
「よしっ! そうと決まれば、このフィールドをとっとと抜けてウスルの街に行くぞ!」
「グルゥ」
そう決意した俺の服をアスラが引っ張る。
「ん? 何だアスラ?」
「グルゥ」
アスラは首で地面を指す。
そこにはフィールドボスだったウインドウルフのドロップアイテムが落ちている。
「あ!」
忘れてたわ。
このフィールドを抜ける前にレベルの確認やドロップアイテムの確認をしておかないとな。
「アスラありがとう。 助かったよ」
「グルゥ」
「アスラは頭が良いな」
アスラを撫でながら褒めると、アスラの喜びが伝わってくる。
愛い奴め!
とりあえずレベルを確認しようか。
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名前:ドラゴン
種族:ドラゴニュートLv64
職業:ドラゴンテイマーLv47、時空間魔法使いLv11
スキル:龍化Lv3、テイムLv23、時空間魔法Lv8
モンスター1/2:アスラ
称号:ドラゴン狂い
HP:1386/1386
MP:1184/1475
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名前:アスラ
種族:アースドラゴン(ユニーク)Lv60
主:ドラゴン
スキル:アースブレスLv19、土魔法Lv25、母なる大地
HP:2531/2531
MP:1390/1390
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相変わらず、凄まじいステータスの上がりっぷりだな。
種族レベルは俺もアスラも60の到達。
俺はHPもMPも1000を超えちゃってるし、アスラなんてHPは2000を超えてる。
良く見たら俺の連れて歩けるモンスターの数が1増えている……嬉しい。
このままレベルが上がっていけば、異次元にドラゴンの楽園が作れる日も近いかも。
……まぁ今はアスラしか居ないけどな。
さて、次はウインドウルフのドロップアイテムだ。
ドロップしたアイテムは牙と毛皮と緑色の石。
牙と毛皮は分かるが、この緑色の石は何だろうか?
おそらく貴重な物だとは思うけど……街に持って行って調べるしかないか。
……いや、名前を調べるだけならマジックバッグに入れてリストを出せば分かる。
まぁ街に持って行けば分かるからいいか。
でも――
「問題はマジックバッグだよなぁ」
俺のマジックバッグは容量が40しかなく、ここに辿り着くまでにグリーンウルフのドロップアイテムで既に一杯だ。
しかも、かなりの数のグリーンウルフのドロップアイテムを容量一杯で拾わずに泣く泣く捨ててきている。
出来ればマジックバッグの中身を捨てたくはないが、ウインドウルフのドロップアイテムはグリーンウルフの物より貴重そうだしな……。
「うーん。 何とか持っていけないか」
俺が牙と緑色の石を抱えて、アスラの背中に毛皮を乗せて行くか?
出来るかな?
「アスラ、ちょっと背中にこの毛皮を乗せてもらえないか?」
「グルゥ」
どうやら良いらしい。
俺はアスラの背中に毛皮を上手く乗せる。
何とか乗ったな。
なんかちょっとカッコイイし。
「じゃあ行くか」
「グルゥ」
俺は牙と緑色の石を抱えて、アスラと一緒にボスエリアを抜けて行く。
それから少し歩くと森が途切れて視界が広がる。
「あれがウスルの街か」
先の方に壁に囲われた街が見えてくる。
おそらく、あれがウスルの街だろう。
やっぱり首都であるバリエよりは小さい気がする。
「とっとと街に入ろう」
「グルゥ」
俺とアスラは足早にウスルの街に近付いて行く。
そして何事も無く門に辿り着き、街に入った。
すると、街の中に居る人々がアスラに注目し、驚きの表情を浮かべる。
相変わらず、アスラは注目の的だな。
そう思いつつ辺りを見回す。
やっぱりプレイヤーの姿は何処にもない。
みんなNPCだ。
「ふぅ……」
これなら安心だな。
とりあえず、冒険者ギルドに行って情報を聞いてドロップアイテムを売るか?
それとも武器防具屋の方に行ってドロップアイテムを売ろうか?
どっちが高く売れるんだ?
分からないな。
或いは鍛冶屋かなんかの職人の所に行ってこのドロップアイテムで装備を作ってもらうか。
出来れば時空間魔法向けの装備が欲しいんだけど、流石に手に入らないだろう。
本当は生産職プレイヤーに作ってもらうのが1番なんだけどな。
いや、そういえば俺、ゲームの金が無かったわ。
RDWは普通のRPGみたいにモンスターが金をドロップしないんだよなぁ。
もしかしたらドロップするモンスターも居るかもしれないが、俺は知らない。
「うーん」
迷ったら冒険者ギルドに行けば良いか。
でも、よく考えたらこの街の冒険者ギルドの場所を知らないわ。
誰かに聞くか。
とりあえず1番近くに立っているNPCの男性に聞くことにする。
「あのーすみません」
声を掛けるとNPCの男性はビクッとする。
このNPCも例に漏れずアスラに驚いている。
まさか逃げて行ったりしないよな?
「な、なんだ?」
よかった。
ちゃんと反応してくれた。
「この街の冒険者ギルドって何処にありますか?」
「ぼ、冒険者ギルドか? それならこの大通りを真っ直ぐ進めばいい。 あとは見れば分かると思うぞ」
NPCは今立っている大通りの先を指差してそう答えてくれた。
「ありがとうございます」
「あ、アンタ、スゲェな」
うん?
何だろう。
「アンタが連れているのってドラゴンだろ?」
「あ、はい。 アースドラゴンのアスラです」
「グルゥ」
アスラが横に来て鳴く。
「多分、よろしくって言ってます」
「お、おう。 よろしく……てかネームドモンスターかよ。 ますますスゲェな」
本当はネームド+ユニークモンスターなんだけどな。
黙っとくか。
「やっぱりドラゴンって珍しいですかね?」
「そりゃそうだ。 一般人からしたらドラゴンなんて一生に一度も見ないのが普通だぞ」
やっぱり珍しいんだな。
そういえば、北でドラゴンを見たって情報があったけど、この人知ってるのかな?
「北でドラゴンを見たって聞きましたけど?」
「あーなんか聞いた気がするな」
このNPCの緊張が大分解れてきたっぽい。
てか、随分ゆるいな。
ドラゴンって人を襲わないのか?
「逃げたりしないんです?」
「そう言ってもなぁ。 まぁそういうのは冒険者ギルドや国の仕事だから逃げろと言われるまではこの街に居るさ」
そんなもんなのか。
「だからドラゴンのことを詳しく知りたいなら冒険者ギルドに行って聞いてくれ」
「分かりました」
やっぱり冒険者ギルドだな。
「引き止めて悪かったな」
「いえ、大丈夫ですよ。 ではまた」
「おう」
「グルゥ」
俺とアスラはNPCに別れを告げて冒険者ギルドに向かって歩き出す。
それにしてもRDWって凄いな。
普通の街人すらあんなに人間っぽいなんて。
AI発達し過ぎだろ。
サーバーとかどうなってんだろ?
何時かゼーネロウ社の見学とかしてみたいなぁ。
そんなことを考えながら大通りを歩いていると、すぐに冒険者ギルドらしき建物が見えてくる。
結構近かったな。
「入るか」
「グルゥ」
アスラと一緒に冒険者ギルドに入る。
ここでも視線が集まる。
気にせず中を見る。
中は首都バリエの冒険者ギルドとあまり違いはない。
カウンターに受付嬢が居て、掲示板があって冒険者が居る。
何処の冒険者ギルドもこんな感じなのかね。
とりあえずカウンターに近付いて受付嬢に話し掛けることにする。
「こんにちは」
「ど、ドラゴン!?」
いや、確かに俺の名前はドラゴンだし、ドラゴンも連れているけどさ。
第一声がそれかよ!
「このドラゴンは俺の使役モンスターなんで安心してください」
「なんだ、そうですか」
驚いていた受付嬢は俺の言葉を聞いてすぐに落ち着いた。
切り替え早いな!?
「それで今日はどの様なご用で?」
「とりあえずこの周辺のフィールド情報を教えてください」
「分かりました」
受付嬢によると、ここウスルの街も東西南北に門があって、それぞれのフィールドに繋がっているようだ。
南は俺たちが来た森。
東と西は平原でモンスターレベルは70程。
北は山でここ周辺ではモンスターのレベルが一番高く90以上らしい。
「ありがとうございます」
「他に聞きたいことはありますか?」
「北でドラゴンを見たって聞いたんですけど、何か知りませんか?」
受付嬢はアスラを見た。
「いや、こっちじゃなくて」
「冗談ですよ」
冗談かよ!?
「確かに北の山の頂上付近で空を飛んでいたドラゴンを目撃したという情報がありますね」
やった!
どうやらドラゴンは北の山に居るかもしれない。
しかも、アスラとは違うタイプの空を飛ぶドラゴンだ!
何とかして使役モンスターにしたいな!
……でも、レベル90以上か。
流石に今の俺とアスラでは厳しいかもな。
いや、アスラなら大丈夫かもしれないけど、俺がヤバイ。
まぁアスラの後ろで援護に徹していれば何とかなるかなぁ……なるといいなぁ。
「あとは何かありますか?」
「あ、ドロップアイテムを手に入れたんですけど、何のアイテムか分からないんで見てもらっていいですか? あとドロップアイテムって冒険者ギルドと武器防具屋で売る値段変わりますか?」
「分かりました。 とりあえずアイテムを見せてもらえますか?」
「これです」
俺は抱えていた緑色の石をカウンターの上に置いた。
ふぅ楽になった。
「これは風鉱石ですね」
「風鉱石?」
知らないな。
事前情報でも見たことがない。
「風鉱石は武器や防具にすることによって風の効果がある装備を作ることが可能なアイテムです。 例えば杖に使えば風の魔法が強くなったりしますし、防具にすると風の属性に耐性が付いたりしますね」
なるほど。
鍛冶などの製作関係のアイテムか。
「分かりました」
「はい。 それでドロップアイテムの値段ですが、普通に売るならば値段は冒険者ギルドも武器防具店も変わりませんね。 どちらも適正価格です」
「はい」
「ただ、冒険者ギルドでそのドロップアイテムの納品などの依頼があって達成出来れば適正価格以上の報酬を手に入れられることもあります」
はぁー。
そういえば冒険者ギルドの依頼なんてものもあったんだったな。
すっかり忘れてた。
受付嬢の後ろにある大きな掲示板を見ると様々な依頼が貼ってある。
よく見るとグリーンウルフの毛皮と牙の納品依頼もあるな。
丁度良い納品しとくか
「分かりましたか?」
「はい。 ありがとうございます。 じゃあグリーンウルフの牙と毛皮の納品依頼を受けます。 ちょうど20個ずつ持っていますので」
「分かりました。 ただ、グリーンウルフの牙5個の依頼と毛皮5個の依頼は今は一つずつしか出ていないのです。 すみません」
あ、そうなのか。
無限に受けられる訳じゃないのな。
じゃあ残りのグリーンウルフの素材は邪魔だし売っちゃうか。
「じゃあ残りのグリーンウルフの素材は普通に売ります」
「はい。 では、カウンターの上にアイテムを出してください」
俺は受付嬢に言われた通りにマジックバッグからグリーンウルフの牙と毛皮を取り出してカウンターに置いた。
「はい、確かに。 依頼報酬は合計で150,000R。 通常買取合計が360,000Rで合わせて510,000Rです」
カウンターの上に受付嬢がRDWの通貨【R――リム】を置く。
俺がそれに触れると消えていき、ちゃんとメニューに510,000Rと表示された。
一文無しから結構なお金持ちになったのではないだろうか。
これだけあれば良い装備が買えるだろうし、街の職人に作ってもらってもいい。
なんせ今の俺の装備は初期装備だしな。
俺は自分の姿を見下ろす。
うん、おっさん村人って感じだ。
そんなことを思っていると受付嬢がカウンターの上の風鉱石を見て口を開く。
「風鉱石は売りますか?」
「あ、風鉱石は持っておきます」
ウインドウルフのドロップアイテムは貴重そうだし、製作に使えるだろうから取っておこう。
俺は容量が空いたマジックバッグに牙と風鉱石を入れる。
「アスラありがとう」
「グルゥー」
アスラにお礼を言ってから背中の毛皮を取ってそれも仕舞った。
これで冒険者ギルドでやりたいことは終わりかな?
次は装備を整えに武器屋か防具屋、それに一応職人が居る所にも行ってみようか。
「最後に武器屋か防具屋、あと装備を製作出来る職人さんの居る場所を教えてもらえますか?」
「それならこの街には良い場所がありますよ。 職人さんが直接やっている武器防具屋がここを出て左の方にあります。 店名はゴラの武具です。」
それは丁度良いな。
一回で装備を揃えられそうだ。
「ありがとうございます。 行ってみますね」
「はい」
「では」
俺とアスラは冒険者ギルドを後にする。
「左だったよな」
「グルゥ」
受付嬢に言われた通りに冒険者ギルドを出て左に進んでいると剣と盾の看板が出ている場所を発見する。
「あれっぽいな」
あの看板で食堂だったりはしないだろ。
近付いてみると看板に【ゴラの武具】と書いてあるのが分かる。
やっぱり目的の店だな。
早速中に入ろう、と行きたいところだが――
「流石に無理だよなぁ」
「グルゥ……」
ゴラの武具の建物は冒険者ギルド程の大きさはなく、どう見てもアスラが中に入れそうではない。
しょうがない。
アスラには店の前で待っていてもらうか。
「すまんアスラ。 ちょっとここで待っていてくれるか?」
「グルゥー」
アスラの頭を撫でて謝るとアスラは頭を俺の身体に擦り寄せてきて、気持ちが伝わってくる。
多分、大丈夫って言ってくれているんだろう。
「ありがとうアスラ。 じゃあ行ってくるよ」
「グルゥ」
しかし、アスラの撫で心地は最高で、この撫でる手を離すのがキツイ。
そんなこと思っていると、アスラは俺から頭を離して鼻先でチョンと俺を突いた。
「ごめんごめん。 今度こそ行ってくる」
「グルゥー」
名残惜しいけどアスラと別れて俺はゴラの武具に入った。
中に入ると様々な武器と防具が置いてあるのが分かる。
そしてカウンターに身長の低い女性が向こうを向いて立っている……多分ドワーフだよな?
「すいません!」
「あら、いらっしゃいませ」
カウンターに居た女性が振り返る。
見た目は若い女性だ。
うーん。
女性って見た目じゃドワーフかヒューマンなのか分かりにくいんだよな。
まぁどっちでも良いか。
「ここは製作職人さんが直接やっている武器防具屋ですかね?」
「はい、そうですよ」
やっぱりこの店で合っていたようだ。
「俺は一応冒険者のドラゴンと言います」
「あら、ご丁寧にどうも。 私はこの店を夫婦でやっているアラと言います」
まじか。
若く見えるからこの店の娘さんかと思ってたわ。
そういえば、ドワーフの女性って若く見えるんだっけ?
「それにしてもドラゴンさんって珍しいお名前ですね。 もしかして【夢追い人】の方ですか?」
「そうです」
夢追い人っていうのはNPCがプレイヤーのこと指して言うらしい。
何故、夢追い人なのかは俺は知らない。
事前の情報でこの事を知っていたが、初めて聞かれたな。
「やっぱり! この店に夢追い人さんが来るのは初めてだわ。 お会いするのも初めてですけど」
そりゃまだプレイヤーはこの街に一度も辿り着いていないから会わないだろう。
……いや、でも首都バリエに行けば会えるか。
NPCって転移陣使えるのかな?
「それでこの店には製作依頼に?」
「あーそれは考え中なんですけど、とりあえず装備を整えに来ました」
「そうなんですか。 なら主人を呼んできますね」
そう言ってアラさんは店の奥に入って行った。
しばらく待っていると身長の低い髭を伸ばしたいかにもなドワーフの男性とアラさんが一緒に出て来る。
ドワーフの男性は俺を上から下に見ると、口を開く。
「おめぇが夢追い人のドラゴンって奴か」
「はい」
「俺はこの店の主人のゴラだ」
「初めましてドラゴンです」
ゴラさんは職人って感じだな。
「それでおめぇは装備を整えに来たんだって?」
「はい」
「ふーむ」
ゴラさんは再び俺の全身を上から下に見る。
「おめぇは後衛か?」
「基本は後衛ですが、状況によっては前に出ます」
「……職業は」
「ちょっと貴方、いきなり職業を聞くのは失礼でしょう?」
「いや、大丈夫ですよ。 俺はドラゴンテイマーと時空間魔法使いです」
「まぁ!」
ゴラさんとアラさんは目を見開いて驚いている。
やっぱりNPCの中でも珍しい職業なんだな。
「……そりゃ珍しい。 ドラゴンテイマーってのは知らねぇが時空間魔法使いなんて国が抱えるレベルだぞ」
「ドラゴンテイマーっていうのは名前からしてテイマー系かしら?」
「はい」
時空間魔法使いって国が抱えてるのか。
「ちなみに使役しているモンスターはアースドラゴンです」
再び2人は目を見開いて固まる。
「おめぇ……本当ならトンデモねぇ奴だな」
「外に居ますけど見ます?」
「それは後でいい。 ……おめぇヒューマンじゃねぇだろ?」
「え?」
ゴラさんに一発でヒューマンじゃないとバレた。
凄いな。
今は目の変化くらいしかないのに分かるなんて。
アラさんは気が付いてなかったようだ。
「よく分かりましたね? 俺はドラゴニュートです」
「はぁぁ」
ゴラさんは大きく息を吐く。
「夢追い人ってのは皆こんなに珍しい奴ばかりなのか?」
「いや、大体は普通だと思いますけど」
多分。
他のプレイヤーのことは、まだよく知らない。
「じゃあアースドラゴンに前衛を任せておめぇが時空間魔法で後ろから援護か? ……いや前衛もやるんだよな?」
「はい。 ドラゴニュートの奥の手のスキルを使って敵を殴ります」
「なるほどな」
「ただ、時空間魔法に関しては、まだ上手く使えてないので壁を作ったり、少し速く動いたりするくらいしか出来ません。 MPも無くなりますしね」
「なんだ? おめぇ時空間魔法使いになったばかりなのか?」
「そうです」
「ふーむ」
ゴラさんは髭に手を当てて考え始める。
「なら防具は動きやすい革で良いな。 装備の予算は?」
「500,000Rくらいで。 あと素材を持っているんですけど」
「見せてみろ」
マジックバッグから毛皮と牙、風鉱石を取り出してカウンターに置く。
「うーむ。 この毛皮だけじゃ胴の防具しか作れねぇぞ?」
まぁ胴だけでも作れるなら良いか。
「あと風鉱石って使えます?」
「使えなくもねぇが、これに使ってもあまり意味がない。 今は取っておいた方が良い」
「分かりました」
「値段は200,000Rってとこか」
「高っ!」
胴の防具1つ作るので200,000Rかよ。
「おめぇ何言ってんだよ。 武器防具なんて高いのが当たり前だろうが。 命を預けるモンが安物でいい訳ないだろ?」
確かにゴラさんの言う通りだ。
「それにウチの店で一式揃えるなら500,000Rなんて消し飛ぶぞ」
まじかよ。
もしかして、ここって凄いお店なんじゃ?
「それで、どうする?」
防具が何もないよりはあった方が良い訳だし、作ってもたうか。
「じゃあお願いします」
「分かった。 じゃあ他に防具を買うか? それとも武器を選ぶか?」
防具はあるし武器を買った方が良いかな?
俺は初期装備の杖をマジックバッグから取り出す。
「今はこれを使っているんですが」
「なんで時空間魔法使いがそんな玩具を使ってるんだよ。 防具はいいから武器を買え」
「確かにそれは酷いわねぇ」
玩具って。
これ、そんな駄目なのか。
まぁ初期装備だしな。
「じゃあ俺は裏で防具を作ってくる。 アラ頼んだ」
「はい」
「え?」
武器もゴラさんが選んでくれるんじゃないのか?
なんでアラさん?
「杖とか魔法関係はカミさんの担当なんだよ」
「もしかしてアラさんも職人さん?」
「そういうことよ」
そりゃ凄いな。
夫婦で職人なのか。
それなら幅広くやれるもんな。
「じゃあ頼んだ」
ゴラさんはそう言って店の奥に入って行った。
「じゃあドラゴンさんの武器を選びましょうか」
「はい、お願いします」
「と言っても私の中ではもう決まっているんですけどね」
「そうなんですか?」
「ええ。 ドラゴンさんは前衛もやるということですので、杖よりも邪魔にならない両手が空く魔法発動体が良いと思うのよね」
確かに両手が空くのは有り難い。
「それで丁度ウチの店に時空間魔法使い向けの装備があるますよ」
「本当ですか!」
時空間魔法がとても珍しいと聞いて時空間魔法向けの装備なんてしばらく手に入らないと思っていたんだけど。
「本当は夫と私が昔に試しで作って売れずに残っている物なんだけどね」
「はぁ」
試しでそんな物作れるなんて、やっぱりこの店凄いのでは?
「ちょっと待っててくださいね。 すぐに持って来ますね」
そう言ってアラさんが店の奥に入ると、すぐに木の箱を持って来た。
「これよ」
アラさんは俺に見えるように持って来た箱を開ける。
「これは……輪?」
箱の中には白い輪っかが入っていた。
一体これは何だろう?
「これは腕輪型の魔法発動体ですよ。 この腕輪は時空間魔法の発動を補助してくれて、MPの消費が少なくなります」
「おお!」
それは凄い!
魔法の補助にMP消費が少なくなるって、かなりレアな装備だ!
でも――
「腕輪にしてはちょっと小さくないですか?」
そう。
この腕輪はまるで子供用の様な大きさをしていて、俺の腕には通りそうにない。
「あはは。 大丈夫ですよ。 この腕輪にはサイズ自動調整の効果もありますから」
「サイズ自動調整?」
初めて聞く効果だ。
事前情報にも無かった筈。
「装備する人の大きさに装備が合わせてくれるんです」
「えぇ!?」
「試しに装備してみましょうか。 腕を出してください」
「は、はい」
俺は右手をアラさんに向ける。
アラさんは白い腕輪を箱から出して俺の腕に通そうとする。
すると、なんと腕輪がいきなり大きくなって俺の腕に通り、手首で小さくなってピッタリとくっ付いた。
「凄い……。 こんな効果、聞いたことない」
「あはは。 大袈裟ですよ。 それなりのお店ならサイズ自動調整くらい置いてあります。 まぁ時空間魔法の装備は流石に無いと思いますけど」
やっぱり凄いお店でしょここ。
こんなのいつになったらプレイヤーが作れるようになるんだよ?
……こうなってくると気になるのはこの腕輪の値段だ。
「この腕輪って一体いくらなんですか? 流石に300,000Rじゃ買えないですよね?」
「うーん。 確かに普通に売ったら300,000Rじゃ買えないですけど、普通に売っても売れないですからね。 私としては使ってるくれる方が買ってくれるのが一番なので300,000Rで売りますよ」
「いやいや! 流石にゴラさんとアラさんに悪いですよ!」
アラさんは俺の言葉を聞いてニコニコ笑う。
「あはは。 良いのよ良いのよ! 夫も私と同じ考えだから私に任せたのよ。 ドラゴンさんは遠慮なんてしなくていいわ」
そう言ってくれるのは有り難いし、ぶっちゃけ凄く欲しい。
でも、いいのだろうか?
「それにドラゴンさんのパートナーの為にも力はいるでしょ? いつまでもその杖って訳にはいかないじゃないですか」
アスラの為……。
確かに今の俺はアスラの後ろに隠れているだけだ。
俺の理想。
戦いはアスラと肩を並べて戦うこと。
その為には確かに必要だな。
「はぁ……分かりました! 買います!」
「はい。 ありがとうございます」
「いつかこの恩は返させてもらいますね」
「あはは。 待ってますよ」
「……ちなみにこの腕輪って本当はいくらなんですか?」
「耳を貸して」
アラさんが耳元で小さな声で言った。
……いつか恩返し出来るかなぁ……出来るといいなぁ。
アラさんが俺に教えてくれた腕輪の値段は今の俺がどう足掻いても払えるものではない。
値段を聞いて少し不安になった。
でも、RDWのNPCって本当に人間っぽくて――良い人たちだ。
俺にはゴラさんやアラさんたちが、ただのAIには思えない。
だって今俺の胸はとても暖かいんだもの。
「じゃあその杖は私が処分しておきますね」
「……お願いします」
俺は左手に持っていた初期装備の杖をアラさんに手渡す。
すると、店の奥からゴラさんが作った装備だと思う物を持って現れた。
「おう、出来たぞ」
出来るの早いな。
ここら辺はゲームだよな。
そこでゴラさんは俺の腕を見る。
「やっぱりおめぇはそれを選んだか」
「分かってたんですか?」
「まぁな。 ウチのカミさんなら絶対におめぇに選ぶと思ってた」
夫婦なんだなぁ。
「とりあえずおめぇ、これを着てみろ」
ゴラさんはそう言って持っていた白い色の胴の装備を手渡してきた。
見た目はちょっとベストっぽい。
俺はそれを初期装備の服の上から着てみる。
うん。
良い感じだ。
大きさもピッタリだし。
「少しは見れる姿になったな」
「これ良いですね。 着心地も良いしサイズもピッタリだし」
「ふん、俺が作ったんだから当たり前だろ。 まぁサイズ自動調整はおまけで付けているがな」
「そうなんですか?」
「あぁ。 というよりおめぇがこれから装備する物は全部サイズ自動調整が付いている方がいいんじゃねえか?」
どういうことだ?
「俺はあまりドラゴニュートについて知らねぇが、おめぇの力ってのは自身を変化させるものだろ?」
「そうです」
「なら普通の装備なんて装備してたら変化出来ないかもしれねぇし、下手したら防具が壊れるぞ」
「あ!」
そうだ。
言われてみればその通りだ。
普通のゲームなら問題ないだろうけど、RDWだからなぁ。
確かにその可能性はある。
今までは初期装備が半袖で問題なく龍化出来てたから気が付かなかった。
「たくっ。 その顔じゃ気が付いてなかったみたいだな」
「はい。 ありがとうございます」
「まぁそういうことだ。 サイズ自動調整ならお前の変化した姿に合わせて大きくなったりするだろ。 と言っても変化するなら要らない装備は外してから変化するのは一番だかたな? 気を付けろよ」
「はい」
ゴラさんの言う通り気を付けよう。
「じゃあ金を出せ。 500,000R丁度でいい」
「はい」
俺は500,000Rを取り出してカウンターに置く。
「はい、丁度ですね」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございました。 また来てくださいね」
「はい。 また来ます。 では」
「ふんっ。 金が出来たらまた来い」
「必ず」
俺はまた必ずこの店に来ようという想いを胸に、ゴラさんとアラさんに見送られて店を出た。
key【ゴラとアラ、ウスルの街での好感度がマイナスではない時空間魔法を習得しているプレイヤーがゴラの武具を訪れる】