第36話 これが俺の答え
第36話 これが俺の答え
「ん?」
肩を誰かに叩かれたので誰だろうと見てみると、それはアスラだった。
アスラが器用に翼盾で俺の肩に触れている。
「アスラ、どうしたんだ?」
「グルゥ(もうウスルに着いた)」
「へ?」
顔を上げて前を向くと、そこにはウスルの北門が。
どうやら考え事をしていた所為で気が付かないうちにウスルに到着していたようだ。
「ありがとうアスラ。気が付かなかったよ」
「グルゥ……(うん……)」
そのまま俺たちは北門を抜けてウスルの街に入った。
「さて、どうしようか」
正直なところ今日はもう何もしたくない。
できるなら落ち着いた場所でゆっくり先程のヴェルディーネさんの話を考えたい。
……なら宿に行くか。
時間はまだあるけど、たまにはいいだろう。
「じゃあ、昨日泊まった止まり木亭に行って休もう」
「グルゥ? (冒険者ギルドには行かない?)」
「ああ。今日はちょっと休みたいんだ」
「グルゥ(わかった)」
「がう」
二人が了承したのを確認してから止まり木亭に向けて歩き出す。
歩いて数分で止まり木亭の看板が見えてくる。
混んでいるようには見えないし、部屋は空いているだろ。
「部屋をとってくる」
「グルゥ(うん)」
「がう!」
二人を外に待たせて俺は止まり木亭に入る。
「いらっしゃいませー!」
すぐに昨日と同じく元気の良い男の声が飛んできた。
昨日の青年だな。
「あ! ドラゴンのお客様!」
「……」
いや、まぁドラゴンのお客だろうけど……まぁいいか。
「昨日と同じで。空いてますか?」
「はい! 8,000Rです!」
カウンターに8,000Rを置くと青年がすぐに確認して木札の付いた鍵を差し出す。
「お部屋は昨日と同じ103号室です! どうぞ! あ、案内は要りますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
礼を言ってから鍵を受け取って宿を出ようとすると……。
「あ、やっぱり厩舎に泊まるんだ」
という小さな声が聞こえたが、俺は気にせずに宿を出た。
「グルゥ? (空いてた?)」
「空いてたよ。同じ場所だ」
「がうがう」
俺たちは宿の左を進んで昨日泊まった厩舎に着く。
「グルゥ(全部空いてる)」
「そうみたいだな」
どうやら今日は厩舎を誰も使っていないらしい。
……いや、これから使う可能性があるのか。
「とりあえず、昨日と同じ所でいいよな?」
「グルゥ(うん)」
「がう!」
昨日と同じ厩舎の右の扉を開けて全員で中に入る。
中は今朝出た時と変わっていない。
「じゃあ、ゆっくりしよう」
俺がそう言うとアスラが藁の上に寝そべる。
「失礼して」
そして俺は座ってアスラに背中を預ける。
「がう!」
すると、ヘスティアが俺のお腹の上にダイブしてからねっ転がる。
可愛い。
「ふぅ……」
これでゆっくり考えられるな。
俺はヘスティアを撫でながら目を閉じてヴェルディーネさんとラギルの言ったことを考え始めた。
♢♢♢
しばらくの時間が流れても俺はずっと考え続けていた。
NPCの生について。
ループし続けて答えの出ないその問題に疲れた俺はふと目を開ける。
厩舎の中はすっかり暗くなっていた。
「もう夜か。結構、考え込んでいたんだな……」
ヘスティアは俺のお腹の上で眠っている。
アスラは……。
「グルゥ(主人)」
どうやら起きていたようだ。
それとも起こしてしまったか?
「起こしちゃったか?」
「グルゥ(ううん。起きてた、ずっと)」
「そっか……」
「グルゥ(ずっと見ていた。主人が何かを考えて悩み続けていたところ)」
「……」
見られちゃってた、か。
「グルゥ? (解決できるかわからないけど、僕に話してくれない?)」
「それは……」
「グルゥ(力になりたいんだ)」
そのアスラの言葉とともに俺の心に強い何かがぶつかった。
そして今までよりもアスラとの繋がりが強くなった気がする。
よくわからない……けど、嬉しい。
もしかしたら目に見えない絆ってやつが強くなったのかな。
本当にそれは嬉しいことだ……でも。
でも、なんてアスラに言えばいいんだ。
アスラにこの世界は創られた世界だと、偽物だと説明するのか?
その世界に居る生物は生きている筈がない、と言うのか?
「グルゥ(主人)」
「ああ」
「グルゥ(信じて)」
「……分かった」
その言葉を信じて俺は話すことにした。
「アスラはさ……この世界が創られた世界だったとしてさ……」
「グルゥ(うん)」
「その世界に住んでいる人や……アスラたちって生きていると思うかな」
静寂。
無音が続く。
「グルゥ(ふふふふふ……)」
しかし、突然アスラが笑い出す。
俺には何故アスラが突然笑い出したのかが分からずに困惑してしまう。
「グルゥ(ねぇ、主人)」
「な、なんだ?」
「グルゥ(僕には主人の中でとっくに答えが出ているように思えるんだ)」
「……どういうことだ?」
「グルゥ? (主人はさ。その人たちのことをどう感じているの?)」
「それは……」
俺には今まで出会ったNPCたちが、どうしよもなく生きている人だと感じた。
「グルゥ……(大事なのは主人がどう感じるかでしょ。他なんて、創られた世界だとか関係ないよ。それに……)」
アスラが翼盾で俺とヘスティアを包むように被せる。
「グルゥ? (主人は僕やヘスティアのことをちゃんと想ってくれているでしょ? それが答えじゃない?)」
ああ、そういうことか。
そこで俺は気が付いた。
俺は……怖かったんだ。
NPCがただのAIだという、アスラやヘスティアがAIだということを初めてちゃんと考えて……自分のアスラやヘスティア、すべてのNPCに感じた生を否定されるのが。
そして自分がおかしくなったんじゃないかって。
でも、大事なのは周りの考えや常識じゃない。
自分が……俺がどう思うかだ。
全身で感じるアスラのぬくもりと右手とお腹から感じるヘスティアのぬくもりは、どうしよもなく俺に二人の生を感じさせる。
……って、俺はいつの間かアスラとヘスティアのことを“二人”って、人と同じように思ってんじゃないか。
「ほんと、馬鹿みたいなこと考えてたよな」
アスラとヘスティアを人扱いしてゴラさんやアラさんたちNPCをAI扱いか?
あり得ないだろ。
「アスラ……ありがとう。目が覚めたわ」
「グルゥ(ふふふ。じゃあ眠れないね)」
「ははは」
さっきよりもアスラとヘスティアとの繋がりを強く感じる。
間違いなく、これは俺たちの絆だ。
ゲームだとかAIとか関係ない。
周りがどう言おうが常識がなんだろうがどうでもいい。
これは俺のもう一つの人生。
この世界でのドラゴンとしての生。
「これが俺の答えだ」




