第35話 思考のループ
今回は文字数少なめ
第35話 思考のループ
「ラギル!!」
パンッ!
ラギルの頬をヴェルディーネさんが立ち上がって叩いた。
「確かに夢追い人の方々は信じられない程の速度で成長し、怪我をしても血は流しません! しかし、彼らも私たちと同じように物事を考えては喜び悲しみもするんです!」
「なら、なぜ夢追い人は死なないのですか! 人であれば必ず死はある筈です!」
考えもしなかった。
俺たちプレイヤーは怪我をしても何をしても血を流さない。
そしてHPがなくなれば街に戻るだけ。
これで同じだと考える方がおかしいか。
「たとえ死がなくとも彼らは人です。それはドラゴンさんを見ていて改めて確信しました。アスラ君やヘスティアちゃんを可愛がる姿やドロップアイテムで一喜一憂する姿……血を流さなくとも死なずとも同じなんです私たちと! 彼ら夢追い人は私たちと同じ人間です!!」
そのヴェルディーネさんの言葉は力強く、そして確信を持ったものだった。
そして俺の心に強く突き刺さる。
俺は……俺もゴラさんやアラさんヴェルディーネさんたちNPCをただの人の形をしたAIだと思っていた。
でも……本当にそうなのだろうか?
俺が出会ったNPCはみんな人らしいところがあった……そう思う。
AIではない。
まるで、“生きている人”のような。
「ッ!?」
今、俺は何を考えた!?
NPCが生きている?
そんな……そんなことがあるわけがない!
これはゲームだ。
RDWはゲームなんだ。
ゲームの中に存在するAIが生きているわけがないだろう!
……本当にないのか?
だって、それならアスラやヘスティアだってAIなんだよ。
じゃあアスラとヘスティアは……。
「くっ!」
ダメだ。
混乱して思考がループしている。
……でも、どうして俺はこんなことに悩んでいるのだろう。
「ドラゴンさん」
「え?」
気が付くとヴェルディーネさんが俺の名前を呼んでいた。
「ラギルが申し訳ありません」
「あ……いえ」
「悪いのですが、今日の話はここまででいいでしょうか?」
俺はヴェルディーネさんの後ろのラギルを見て納得する。
ラギルは今も俺を睨んでいた。
どうやら今日はこれ以上の話は難しそうだ。
……それに俺も……。
「分かりました」
「ありがとうございます。続きは明日ということで」
「はい」
ヴェルディーネさんは一枚のカードのような物を取り出して俺に差し出した。
「これをどうぞ」
「これは?」
差し出されたカードを受け取ってよく見る。
普通の紙のカードか?
表には【タンタン】と書かれている。
「それはウスルにあるお店【タンタン】のカードです」
店?
タンタンというのは店名なのか。
「明日の12時にそのタンタンというお店にそのカードを持って来てください。そのカードを見せれば私たちのところに案内されますので」
なるほど。
招待状、みたいな物か。
「分かりました。明日の12時ですね」
「よろしくお願いします」
ヴェルディーネさんは軽く頭を下げてから、シートの上の静寂の三を取ってラギルに手渡した。
ラギルはそれを仕舞ってから再び俺を睨む。
「では、私たちはお先に失礼します。ラギル、行きますよ」
「はい」
ヴェルディーネさんは再び俺に軽く頭を下げてからラギルと一緒にウスルの方に去っていった。
「がう?」
しばらく、二人が去っていった方を見ているとヘスティアが不思議そうな顔で俺を見上げていることに気が付く。
「なんでもないよ」
そう言ってヘスティアを撫でてあげると嬉しそうに声をあげる。
「じゃあ、今日は俺たちも帰ろうか」
ヘスティアが俺の足の上から飛び立つのを見てから立ち上がってシートを片付ける。
「グルゥ? (大丈夫?)」
そこでアスラが心配そうにそう言ってきた。
「大丈夫だよ」
「グルゥ(そう。難しそうな顔をしていたから)」
どうやら表情に出てしまっていたらしい……俺がさっきから同じことを考えていることが。
答えが出ずにずっと考えている。
NPCはただのAI。
常識的に考えて生きているわけがない。
でも……俺は……。
そうやってループし続けている。
「……」
……とりあえず今は帰ろう。
「二人とも、帰ろうか」
「グルゥ(うん)」
「がう」
俺たちはウスルの街へと歩き出した。




