第30話 アスラと同格の男
遅くなって、すみません。
この度、第六回ネット小説大賞で受賞しました!
これも読んでくれている皆様のお陰です!
ありがとうございます!
第30話 アスラと同格の男
「こんな所に俺以外の人が?」
驚いたな。
確かこの山は人が滅多に入らないと聞いていたんだが……。
気になる。
もっとよく観察してみよう。
マーカーは白だからNPCだ。
身長は高く、筋肉質に見えるが太くはない。
全身に金属の部分鎧を身に纏っていて、背中に剣を背負っている。
あれは大剣か?
短い金髪に鋭い青い瞳。
その鋭い瞳は複数のロックリザードたちに向けられている。
見るからに強そうだ。
「……っと、観察はこの辺りでいいだろう。 とりあえず話しかけた方がいいよな? もしかしたら、あれでピンチかもしれないし」
そう思って俺は岩陰から出ようとする……が。
「ん? どうしたアスラ?」
何故か俺の服を咥えて離さない。
というか引っ張っている。
俺が止まったのを見てアスラは服から口を離す。
「グルゥ(主人、あの人間の前には不用意に出ない方がいいよ)」
「……どういうことだ?」
突然どうしたんだ?
「グルゥ(あの人間、とても強い力を感じる。 多分僕と同じくらいの強さ)」
「なんだって!?」
確かに見た目はとても強そうだが、まさかドラゴンで種族レベル200を超えるアスラと同じくらいだって!?
……そんなこと、あり得るのか?
「グルゥ? (信じられない?)」
「あ、いや……アスラの言うことなら信じるさ。 でもなぁ」
よくよく考えてみたら、俺はこの世界のNPCの強さってものをよく知らない。
だからこそ、あり得るのかもしれない。
この世界にはアスラと同じくらいの強さの人間が居て……もしかしたらそれ以上も。
「グルゥ(主人、ここは引こう)」
「……ああ」
アスラの言う通りだな。
ここはあの金髪の男に見つかる前に一旦引いた方が良さそうだ。
今は目的がなんだと言ってはいられない。
「じゃあ戻ろう」
そう言って来た道を戻ろうとした時になんとなく最後に金髪の男を見ておこうと視線を向ける。
その時、ちょうど金髪の男が動き出した。
ゆっくりと歩き出し、背中に背負った大剣を右手一本で引き抜く。
その動きを見て、何かゾワっとしたものを感じて目が離せない。
離したらいけない気がする。
「……アスラ、ヘスティア、動くな。 動いたらいけない気がする」
俺の中の何かが強く訴えている。
動くな……と。
「グルゥ……(遅かった……)」
……そう、遅かったのだ。
おそらく、ここは既にあの金髪の男の感知範囲か何かの中なんだろう。
信じられないがな。
「ふっ……」
こんな状況なのに少し笑みが溢れてしまう。
少し前の……戦闘を経験する前の俺、ヨエムと出会う前の俺だったらこんな感覚を感じたりはしなかっただろうし、信じもしなかったかもしれない。
そんな自分の成長をこんなところで感じて、つい笑ってしまった。
そう思っている間にも事態は進む。
金髪の男は大剣を右手にロックリザードを睨みながら歩みを進め、ロックリザードたちは精一杯威嚇をする。
そして金髪の男とロックリザードたちの距離が3メートル程になったところで、金髪の男が大剣を持った右手を横に振る。
次の瞬間、ロックリザードたちは跡形もなく消え去り、ドロップアイテムのみが残った。
「……は?」
何が……起きた?
あの金髪の男がロックリザードたちを倒したのは分かる。
分かるのだが、その手段が分からない。
したことと言えば右手を横に振っただけだぞ?
「グルゥ(主人、戦闘準備をした方がいいよ)」
「……え?」
頭の中で今起こったことを必死に考えていると、アスラに突然そう言われる。
もしかして……。
「おい、いつまで隠れているつもりだ? 出てこい」
バレたか。
ここは大人しく出ていった方がいいよな?
流石にいきなり戦闘にはならないと思う。
「アスラ、ヘスティア、行こう」
「グルゥ(うん)」
「がう」
俺たちは岩陰から金髪の男の前に姿を見せる。
「ドラゴン……だと?」
金髪の男はアスラとヘスティアを見て驚く。
まぁ当然か。
そして金髪の男はその鋭い瞳を俺に向ける。
「貴様、何者だ? この山には滅多に人が入らない筈だったが」
「あはは。 そうなんですよ、だから俺も貴方のような人が居て驚いてます」
緊張して口の中が乾くのを感じつつも俺は警戒されないように答える。
「偶然だと?」
「ええ。 偶然です」
金髪の男は俺を睨みながら右手の大剣の剣先を俺に向ける。
「貴様はテイマーだな。 それもドラゴンを使役するテイマー」
「確かにそうです」
「ドラゴンを使役するテイマーが偶然ドラゴンが目撃されたこの山に居て、偶然俺とあの方の居る時間に現れる」
この人、ヨエムのことを知っている?
というか、あの方?
「フンッ馬鹿にするな。 そんな偶然あり得るか。 改めて聞くが……貴様は何者だ?」
ダメだ。
今のこの人に何を言っても信じてくれない。
「本当に偶然なんです! 俺たちはただドロップアイテム集めに来ただけでっ!」
「くどい! 大方、貴様はあの方に仕向けられた刺客だろう!」
「どうしてそうなる!?」
「問答無用ッ!!」
「くっ!」
くそっ。
話し合いでは解決しない。
まずい!
「死ね!」
金髪の男は大剣を横に素早く振る。
「スペースウォールッ!!」
何かが迫ってくるような気がして咄嗟にスペースウォールを発動する。
しかし……。
パリィィン!
甲高い音と共にスペースウォールが何かに破壊される。
もう避けるには間に合わない。
……ならば信じるのみ。
自分の仲間を。
「……ちっ」
俺の目の前には大きな壁が立っていた。
いや、壁ではない。
これは……。
「アスラ!」
アスラが翼盾で俺を守ってくれた。
「今ので傷一つ付かないか」
「グルゥ! (主人をいきなり攻撃するなんて、許さない!)」
アスラが怒っている。
俺の為に。
「がう!!」
アスラだけではない。
ヘスティアも同じだ。
俺の為に怒ってくれている。
こんな時でも俺は仲間の気持ちを感じられて嬉しい。
でも、今は。
「アスラ、ヘスティア。 あの男を無力化するぞ!」
「グルゥ! (うん!)」
「がう!」
金髪の男は俺たちを更に強く睨む。
「フンッ。 俺を無力化するだと? 馬鹿にするな。 俺は決して折れない、あの方の為に」
「がう!」
そんなことは知らんとばかりにヘスティアが前に出て息を大きく吸う。
「何を……」
「あ、やばっ」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヘスティアが蒼いファイアーブレスを金髪の男に向けて放った。
「何だとッ!?」
流石にヘスティアのファイアーブレスはやり過ぎな気がするんだが。
「くっ! 舐めるなぁ!」
しかし、驚くことに金髪の男は大剣を目にも留まらぬ速さで振るとヘスティアのファイアーブレスは掻き消されてしまった。
「マジかよ……」
あの蒼炎で強化された強力過ぎるヘスティアのファイアーブレスを真っ向から消すなんて……。
「フンッ。 派手で驚いたが大したことないな。 これならウチの魔法使いの魔法の方が強力だ」
嘘だろ!?
あいつのところにはヘスティアのファイアーブレスよりも強力な魔法を放つことが出来る魔法使いが居るのか!?
「がう……」
自身のファイアーブレスが消されてヘスティアはしょんぼりしていると、アスラが俺たちの前に出て金髪の男の前に立ち塞がった。
「グルゥ! (いくよ!)」
「次はお前か」
金髪の男はアスラを見て初めて大剣を両手で構えた。
やっぱり金髪の男もアスラは別格だと感じ取れたんだろう。
「グルゥ(大地よ)」
意外にも先に仕掛けたのはアスラだ。
金髪の男の足元に岩が集まり固まる。
珍しく土魔法を使っているらしい。
「こんな小細工ではなッ!」
しかし、金髪の男が大剣を振ると足元の岩は崩れ去る。
大剣を振る速度が速すぎて、俺の目には大剣が振ったことと岩が崩れたことしか分からない。
実力不足だな。
「はぁッ!!」
次に金髪の男が跳び上がり、アスラに向かって空中から大剣を思いっきり振り下ろす!
ガンッ!
金髪の男の攻撃はアスラの翼盾に防がれ、そのままもう片方の翼盾で金髪の男を横殴りにする。
金髪の男は殴り飛ばされながらも空中で姿勢を整えて着地。
見た感じでは怪我一つない。
なんて奴だ!
「ちっ!」
まさか本当にアスラの言った通りにアスラと同じ強さなのか?
いや、信じていなかった訳ではないが……。
「はぁぁぁ!!」
再び金髪の男が動き出す。
しかし、俺にはその姿が捉えられない。
速すぎるんだ!
ガンッ!
ガンッガンッ!
ガンッ!
金髪の男の姿がブレて消えて見える度に次の瞬間にはアスラとぶつかり合っている。
俺たちは完全に置いてかれているな。
これじゃ俺の援護なんて意味ないだろうし、出来ない。
「ヘスティアは見えるか?」
「がう……」
ヘスティアは横に首を振った。
「そっか」
やっぱりアスラとあの男だけが別なんだ。
それから数十分程、二人がぶつかり合ってから距離を取る。
「ちっ! このままじゃ埒が明かん」
確かに。
「俺の攻撃は貴様には効かないし、貴様の攻撃も俺には通用しない」
「ならこの辺りでやめにしないか?」
「フンッ。 見ていただけの奴が口を挟むな」
はいはい。
どーせ俺とヘスティアは蚊帳の外だよ。
「それにここで貴様たちを逃がす訳にはいかない」
「なら、どうするんだ?」
「奥の手を使う」
奥の手?
もしかして、まだあの男は全力じゃなかったとかないだろうな?
「本来、貴様たちなんぞに使うものではないのだが、今のこの安物の装備ではこれが精一杯だ」
待て!
今のこの安物の装備って……まさかあの金髪の男は本来の装備ではないってことか!?
冗談だろ!?
「光栄に思うがいい。 俺にこれを使わせるのだから」
そう言って男が懐に手を入れる。
まずいぞ!
本当に奥の手なんてものがあるのなら、俺たちじゃ勝てない。
……どうする?
「グルゥ(主人)」
アスラが振り返らずに言う。
「……なんだ?」
「グルゥ(主人はヘスティアと一緒に)」
「待て」
「グルゥ? (え?)」
「アスラの言いたいことは分かる。 どうせお前を置いて俺とヘスティアで逃げろって言うんだろ?」
「グルゥ……」
「分かるさ。 でもな……馬鹿にするなよ?」
「グルゥ! (だって!)」
「死ぬ時は一緒だ」
そう。
最後まで一緒に居る。
一人残して逃げたりなんかしない。
例え出来ることがなくてもな。
覚悟はとっくに出来ている。
「ヘスティアはどうする?」
「がうがう!」
ヘスティアはぎゅっと俺に抱き付いた。
「そうか」
「グルゥ……(二人とも……)」
「……それにまだ俺たちが負けるって決まってはいないだろ?」
「グルゥ(そうだね、そうだったね)」
俺たちは改めて金髪の男を見る。
「お別れは済んだか?」
「わざわざ待っててくれたのか」
「フンッ」
こいつ頭は固いし思い込みが激しいけど、もしかして出会い方が違えばいい奴……だったのかもな。
「では、死――「そこまでにしておきなさい」」
突然、辺りに女性の声が響き渡った。
あとネット小説大賞のサイトで応援・お祝いコメントを募集しているようなので、よろしかったらお願いします。




