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第3話 チュートリアル

今回はチュートリアル。


あと感想、評価、ブクマありがとうございます!

第3話 チュートリアル




『チュートリアルを開始する為、チュートリアルフィールドに移動します』


 あ、移動するのか。

 そう思った瞬間、何も無かった下に土色の地面が出現して広がっていく。


「すごい景色だな」


 地面が広がり終わると、俺が作ったアバターが近付いて来て俺の身体と重なる。

 すると、俺はアバターの姿になった。


「面白い演出だな。 ちゃんと身体は動かせるし」


 空中で身体を動かしてちゃんと動くか確認していると、浮いていた俺がゆっくりと地面に向かって降りていく。

 そして、そのまま俺は地面に降り立った。

 そこで気が付く。


「すごい。 土を踏んでいる感触がリアルだ。 それに風を肌で感じる」


 しゃがんで地面の土を一摘みして鼻に持っていくと土の匂いがするし、口に入れてみると味もする。

 まるで現実に居るようなリアルな感覚に俺は驚いた。

 事前の情報でRDWは五感をリアルに感じられるとあったけど、まさかここまでとは……。


『ふふふふふ』


 そうして驚いていると、前方から笑い声がしたので立ち上がって前を見る。

 すると、いつの間にか前方に全身が真っ白な人型が立っていた。

 どうやらこの人型が笑っているようだ。


『しゃがんだと思ったら、まさかいきなり土を食べるとは思いませんでしたよ』

「あ、いや……つい気になったので」


 俺は少し恥ずかしくて、手で頭を掻きながら答えた。

 どうやらこの人型の人? に全部見られていたようだ。


『皆さん最初は驚かれますからね』

「そうですよね。 俺も知ってはいましたけど、ここまでリアルだとは思いませんでした」

『ありがとうございます。 そう言っていただけると私どもも嬉しいです』


 そこで突然目の前に居る人型が一体何者か気になったので聞いてみることにする。


「ところで、あのーあなたは?」

『申し遅れました。 私はドラゴン様のチュートリアルを担当させていただきます、チュートリアルAIです」

「あ、どうも」


 どうやらこの人型はチュートリアル担当のAIだったらしい。

 ただの人の形をした塊だから表情は分からないけど、すごく人っぽいAIだ。

 案内AIは笑ったりとかしなかったし、これがRDWでは普通なのか?

 それともこのAIだけなのか?


『では、チュートリアルを始めてもよろしいでしょうか?』


 色々考えているとチュートリアルAIにそう言われる。

 今からチュートリアルが始まるっぽい。


「お願いします」

『はい。 では、まずメニューを開いてみましょう。 メニューは開こうと思えば視界に現れます』


 チュートリアルAIに言われた通りにメニューを開こうと思うと視界に良くあるゲームのメニューっぽいのが現れる。

 これもすごいな。

 思っただけで簡単にメニューが開くのか。

 これなら操作も楽そうだ。

 メニューには幾つかの項目が並んでいて、1番上がステータスで1番下がログアウトと表示されている。

 意外にもMMOとしては項目が少ない気がする。


『メニューが開けましたか?』

「開けました」

『良かったです。 メニューは開いても自分以外には見えないので安心して使ってください』


 メニューは他のプレイヤーやNPCには見えないのか。


『では、次にドラゴン様のステータスを確認してみましょう。 ステータスを手で触ってみてください』

「えっと、こうか」


 開いているメニューのステータスを右手で触れると視界に新たな画面が開く。


=================================


名前:ドラゴン

種族:ドラゴニュートLv1

職業:ドラゴンテイマーLv1、時空間魔法使いLv1

スキル:龍化Lv1、テイムLv1、時空間魔法Lv1

モンスター1/1:アスラ

称号:ドラゴン狂い

HP:80/80

MP:120/120


=================================


 これが俺のステータスか。

 名前はドラゴンになっているし、種族もドラゴニュートになっている。

 職業も俺が選んだやつだ。

 スキルは……龍化ってのは何だろう?

 テイムと時空間魔法は職業のスキルだって分かるが……まぁ聞けば良いか。


『ステータスは開けましたか?』


 ステータスを見て考えていると声を掛けられた。


「あ、ごめんなさい。 開けました」

『良かったです。 ステータスを説明したいのですが、説明の為に今回だけ特別にドラゴン様のステータスを見せてもらっても良いですか?』

「お願いします」


 見てもらいながら説明してもらった方が分かりやすいだろうし、良いよな。


『あらっ!』


 俺のステータスを見たチュートリアルAIが何故か驚いたように声を出した。


「どうしました?」

『随分凝ったステータスだと思いまして』

「そうですか?」


 そう何でもないように答えたつつも俺は内心自慢気だった。

 こだわって設定したからな!


『それにおめでとうございます!』

「え?」


 突然チュートリアルAIに祝福される。

 何だろう?


『ドラゴン様は称号を手に入れています』

「称号?」


 ステータスを見てみると確かに俺は称号を1つ持っていた。

 【ドラゴン狂い】?

 何だそれ?

 ていうか称号なんてのをβテストで手に入れた、なんて情報1つも無かったぞ。


『称号というのは、ある一定の行動をして条件を満たすと貰えるものでかなりレアなものです。 称号によっては強力な力を貰えることもあります』

「え、マジ?」

『マジです』


 それってかなり凄いのではないか?

 何で俺が称号なんて手に入れてるんだ?


『称号のドラゴン狂いを触ってみてください。 詳細が表示されます』


 チュートリアルAIに言われる通りにドラゴン狂いを触る。


=================================


【ドラゴン狂い】

名前、初期種族、初期職業、初期モンスターがドラゴン関係だった者に与えられる。

使役しているドラゴン系モンスターの能力に中ボーナス。


=================================


 すると、ドラゴン狂いの詳細が表示された。

 この取得条件厳しくないか?

 俺以外に取れる奴なんて居ないのでは?

 それと使役しているドラゴン系モンスターに中ボーナスって強力なんじゃないだろうか?


『これは序盤ではかなり強力な称号ですね』

「そうなんですか?」

『はい。 中ボーナスの数値などは詳しくは言えませんが強力です』


 はぁー。

 これはかなりラッキーだぞ。

 何だか大金も手に入るし、RDWも当たるし運が向いてきているな!


『では、改めてステータスを説明させていただきます』

「あ、お願いします」

『名前はそのまんまプレイヤーの名前なので飛ばして……HPとMPですね。 HPは体力で、この数値が無くなると死んでしまいます。 死んでしまうとデスペナルティーというペナルティーが発動して、ゲーム内時間で24時間ステータスが半減してしまいます』


 RDWのデスペナルティーは24時間ステータス半減。

 厳しいよな。

 まぁ経験値とか所持金とかアイテムがロストしないだけマシか。


『それに死ぬ前にアイテムなどをモンスターや他のプレイヤーに盗られてしまうと取り返すのが大変なので注意してください』


 これは注意しとかないとな。


『MPは魔力です。 MPを消費する行動をすると減ります。 MPが無くなってもペナルティーはありませんが、魔法などが使えないので気を付けてください』

「はい」

『説明はしましたけど、まぁHPとMPはどのゲームにもありますし、分かりますよね』

「そうですね」

『じゃあ種族を説明します。 と、言っても説明するのは種族のレベルに関してですが。 種族の横にレベルが表示されているのが分かりますか?』


 確かにドラゴニュートLv1と表示されている。


「はい」

『それは種族レベルと言いまして、モンスターを倒したりすることで上がっていきます。 種族レベルが上がるとステータスが上昇します』


 これはゲームでよくあるキャラクターのレベルだな。


『レベルが上がる毎にレベルは上がり辛くなるので注意してください。 それに強力な種族だと他の種族よりもレベルが上がり辛いです。 ドラゴン様はドラゴニュートなので通常の種族よりもレベルが上がり辛いと思います』


 うへぇ。

 でもまぁこれはある程度予想出来たことだ。

 普通のゲームとかやってるとよくある。


『分かりましたか?』

「はい」

『では、次に職業について説明します。 職業はプレイヤーやNPCが就けるもので、職業に就くとその職業に関連したスキルを手に入れることが出来ます。 職業にも種族レベルと同じような職業レベルがそれぞれ存在していて、レベルが上昇すると職業に応じたステータスが上昇します。 もちろん職業レベルも強力な職業程上がり辛くなります』


 なるほど。

 職業レベルも種族レベルと同じようにレベルが上がればステータスが上がってレベルが上がり辛くなると。


『それとドラゴン様はもう職業に2つ就いているので知っていると思いますが、複数の職業に就くことが可能です。 そして職業レベルが上がればステータスも上がる。 つまり職業が多ければ多いほど有利になるのです』

「おお!」


 確かにそうだ。

 職業が多く一気にレベルが上がればキャラクターはそれだけ強くなる。

 職業が1つのプレイヤーと2つのプレイヤーではかなり違いが出そうだな。

 で、気になってくるのは職業スロットの開放方法だ。

 聞いてみよう。


「職業スロットはどうやって開放するんですか?」

『そうですねぇ……今の状態で教えられるのは、運営イベントの上位入賞ですかね』


 運営イベントの上位入賞。

 つまり賞品ということか。

 それは大変そうだなぁ。


『あと職業で気になることはありますか?』


 そうだなぁ。

 新しい職業の就き方でも聞いておこうか。


「もし職業スロットを開放したとして、新しい職業にはどうやって就くんですか? もしかしてキャラメイクと同じです?」

『いえ、キャラメイクとは違います。 新しい職業には既に職業に就いているNPCに指導してもらったりですかね。 もちろん他の方法もありますが』


 なんだ。

 キャラメイクとは違うのか。

 俺としては金はあるからあの方式だと良い職業を手に入れられて良かったんだけど……まぁ時間はかかるけど。


『職業について何もなければ次に行きますよ』

「お願いします」

『はい。 次はスキルについてです。 スキルはアクティブスキルとパッシブスキルに2つの種類があります。 アクティブスキルはプレイヤーが任意のタイミングで発動させるこのとできるスキルで、パッシブスキルはプレイヤーが所得するだけで継続的に効果があるスキルです』


 これもよくゲームにある設定だ。


『スキルにもそれぞれレベルがありまして、レベルが上昇するとそのスキルが強力になったり出来ることが増えたりします。 ただし、中にはレベルの存在しないスキルもあります』


 レベルの無いスキルなんてのもあるのか。


『スキルは便利で強力な分、手に入れるのが難しいです。 主な所得方法としては新たに職業に就くと手に入ります』


 RDWは通常のゲームのようにバンバンスキルを手に入れるのことは出来ないんだよな。


『では、ドラゴン様のスキルを見ていきましょう。 まずは龍化ですね。 これは種族スキルです』

「種族スキル?」

『はい。 特定の種族のみが持つスキルのことです。 龍化はドラゴニュートの種族スキルですね』


 なるほど。

 龍化はドラゴニュートになったから手に入ったのか。


『龍化はMPを消費して身体を龍――つまりドラゴンにすることが可能なスキルです』


 おおおおお!!

 それはかなりカッコイイ!

 それに強いんじゃないか!?


『ただし、今のスキルレベルでは右手しか龍化出来ませんし、MPもすぐに無くなってしまうでしょうね』


 なんだ……まぁそう上手くはいかないか。


「でも、それってスキルレベルを上げていけば何時かは完全なドラゴンに変身出来るってことですよね?」

『はい、そうですね』


 よっしゃ!

 それで十分。

 また目標が出来たな。


『試しに一度龍化を使ってみましょう』


 チュートリアルAIはそう言うと俺の前から横にズレて立っていた所に右手を向ける。

 すると、木で出来た人形のような物が現れた。


『これに龍化を使って攻撃してみてください。 龍化の使い方は頭の中で龍化を使おうと思えば使えます。 ただし、最初の内は龍化と口に出して使った方が上手く使えると思うのでオススメです』


 いい歳したおっさんが「龍化!」とか言うのか……まぁ俺は全力で楽しむって決めたからやるけど!


「龍化!」


 龍化を使おうと思いながらそう言うと右手が白い鱗に覆われて鋭い爪が伸びる。

 まさにドラゴン!

 カッコイイ!


『MPが無くなるのですぐに攻撃を!』

「あ、はい!」


 そう言われて慌てて龍化した右手を木の人形に振るう。


 バキッ!


 木の人形は簡単に砕け散った。

 凄い威力だ。

 そう思っていと右手は元に戻った。


「あれ? 早い?」

『MP切れですね。 龍化は強力なので大量にMPを消費するんですよ。 まぁドラゴン様は初期MPが多い方なので発動出来ましたが、通常始めたばかりのプレイヤーは発動も出来ないでしょうね』


 はぁーそうなのか。

 確かに強力だもんな。

 てか、俺ってMP多い方だったんだな。


『これを飲んでください』


 チュートリアルAIはそう言って何処からか青い液体の入った小瓶を取り出した。


「それはなんです?」

『これはチュートリアルだけで使える特別なMP回復薬です』

「これがMP回復薬」


 知ってはいたけど、こんな見た目なんだな。


『MPが無いと次のスキルの説明が出来ませんからね』

「なるほど」


 俺はMP回復薬を受け取って一気に飲んだ。

 特に味は無い。


『瓶はこちらに』

「はい」


 瓶を返すとチュートリアルAIは何処かにしまった。


『では、次のスキルのテイムですが、これはモンスターを捕まえたり使役するスキルでアクティブスキルでもあり、パッシブスキルでもあります』


 うん?


「えっと」

『つまりテイムは使用してモンスターを捕まえるアクティブスキルの面とモンスターを使役するパッシブスキルの面があるということです』

「あーなるほど」


 それでアクティブでのパッシブでもあるってことか。

 確かによく考えると、俺はテイマーなのにテイマー関係のスキルはこれしか持ってない。

 捕まえるスキルと使役するスキルがないとおかしいから……1つに纏まってるんだな。


『テイムのレベルはモンスターを捕まえたり、使役したモンスターが敵モンスターを倒したりすると上昇します』


 これは良い話だ。

 俺はドラゴン系モンスター以外捕まえられない。

 ドラゴン系モンスターなんて確実にレアな筈だ。

 つまり数が少ないし見つけるのも難しい。

 そんな中で、どうやってテイムレベルを上げようかと思ってたけど、使役したモンスターが敵を倒せばいいなら俺でも出来る。


『テイムのレベルが上がるとレベルの高いモンスターやレアなモンスターをテイム出来るようになりますし、連れて歩けるモンスターの数も増えます』


 ドラゴン系は難易度高そうだし、出来るだけテイムレベルは上げた方が良いよな。

 それに一杯ドラゴンを連れて歩きたいし。


『テイムスキルを持つ方にはここで弱いモンスターを一体捕まえてもらうんですが、流石にドラゴンは出せないので今回はスキップさせてもらいます』

「はい」


 そりゃそうだ。

 ドラゴンなんてサービスで出してはくれないだろう。


『では、次のスキルの時空間魔法について説明します。 といっても説明出来ることだけですが』

「どういうことです?」

『えっと、そもそも魔法っていうのはですねー完全なイメージなんですよ』

「イメージ、想像?」

『はい。 魔法の使い方っていうのは、持っている属性の魔法で出来る魔法をイメージして発動します』


 ん?


「それってかなり自由に魔法が使えるんじゃないですか? 例えば火魔法を持っていれば、火球を出したり火で出来たドラゴンを作ったりとか」

『はい、出来ます。 イメージ出来るならば何でも』


 マジかよ。

 それなら俺の異次元楽園計画も出来るのでは。

 RDW凄すぎないか?


『ただし、発動しようとした魔法に自分の持つMPと技量、それに想像力が足りなければ発動しません』


 なるほど。

 ただイメージしただけじゃ発動はしないのか。


『魔法は自由なので、こうしろとかああしろって説明はあまり出来ないんですよ』


 そういうことか。


『あとこれを差し上げますね』


 そう言ってチュートリアルAIは木の棒を俺に手渡す。


「これは?」


 見たところ普通の木の棒だ。


『これは魔法を使うプレイヤーに贈られる木の杖です』


 杖だったのか。

 初期装備ね。


『魔法を使うには魔法発動体という装備が無いと発動しません。 魔法発動体は杖の形だったり指輪だったりするので、ゲームが開始したら自分の気に入った装備を探してみてくださいね』


 なるほど。

 魔法を発動するには、魔法が発動出来る装備が必要ということか。


『分かりましたか?』

「はい」

『では、時空間魔法の説明を。 時空間魔法は時魔法と空間魔法の混成魔法で、その名の通り時間と空間を司る魔法です』


 良かった。

 ちゃんと空間魔法は使えそうだ。


『時空間魔法はかなり強力な魔法なので、かなりのMPと技量、イメージが必要で難易度が高いです』


 名前からして強力そうだし、難しそうだしな。


『主な魔法使い方としては、周囲の時間を止めたり、空間に壁を作ったりというのがあります』


 異次元のこととか聞いてみるか。


「時空間魔法でマジックバッグを作ったり、空間にアイテムを収納したり、異次元にモンスターが住める空間を作ったりは出来ますか?」

『あまり言えないのですが、マジックバッグは時空間魔法だけでは作れません。 他のスキルが必要になります。 あとのことについては……ドラゴン様の今後の頑張り次第でしょう』

「ありがとうございます!」


 よっしゃあ!

 それって頑張れば出来るってことだよな!

 俄然やる気出てきたぞ!

 でも、マジックバッグを作るには他のスキルが必要なのか。

 なんだろう?

 カバンを新しく作らなきゃいけないなら、革細工のスキルが必要だしなー。

 他のゲームでは……そうだなぁ。

 付与魔法とかかな?


『では、時空間魔法を実際に使ってみましょう』

「はい」

『いきなり周囲の時間を止めたりは流石に難しいので、自分の時間だけを速くしてみましょうか。 一応草を生やしておきますね』


 何故か先程木の人形が立っていた所に草が一本だけ生えてくる。

 その草は風に揺られているだけで、普通の草だ。

 なんで?

 まぁ何か意味があるんだろう。

 とりあえず、やってみよう。


「分かりました」


 自分の時間を速くするってようは自分だけ速く動けるってことだよな。

 イメージ……イメージ。


『あ、魔法を使う時はイメージしたそれっぽい呪文とか言ったり、身振り手振りとかすると発動しやすくなりますよ』


 え、いきなりそんなこと言われても!

 あぁもう!


「クロックアップ!」


 つい頭に浮かんだ知っている昔の特撮の自分だけ速く動く時に言う言葉をイメージで言ってしまう。

 何か変わったのか?

 周囲を見てみると、風に揺れていた草がさっきよりスローになっているような気がする。

 あと音が変わったかな?

 もしかして、今なら速く動ける?

 俺は身体を動かしてみた。

 ……よく分からん。


 草の動きと音が元に戻る。


「あれ?」

『MP切れですね』


 どうやらMPが切れたらしい。

 ということは魔法は発動してたのか。

 でも、5秒も経ってないぞ。


『今の魔法はお見事です。 動きが1.2倍程速くなってましたし、何より自分の知覚速度まで同時に速くしてましたから』

「マジか」


 それってマジのクロックアップじゃん。

 周りからは自分が速く動いているように見えて、自分からは周りが遅く動いて見えるってことでしょ?

 やべーな、時空間魔法。


『これどうぞ』

「あ、どうも」


 クロックアップに驚いているとチュートリアルAIがMP回復薬を差し出してきたので受け取って飲む。

 そして小瓶を返す。


『では、次に時空間魔法の空間の方の魔法も使ってみましょう。 そうですねぇ……自分の前の空間に壁を作ってみましょうか』

「壁」


 防御とかに使うのかな。


『私が攻撃力の無い光球をドラゴン様に向けて飛ばしますので、壁を作って防いでください』


 やっぱり防御らしい。


『いきますよ。 光球!』


 そう言ってチュートリアルAIが右手をこっちに向けると、その右手から光球が出てきてそれなりの速度で飛んで来る。


「うおっ!」


 俺はその光球の速度に驚きつつも杖を持った両手を前に出してそれっぽい呪文を言う。


「スペースウォール!」


 発動しているのか?

 透明で全然分からん。

 そう思っていると飛んで来た光球が俺の両手の少し前で何かに当たったようにして消えていった。


「出来た?」

『出来ましたよ。 でも、そのままだと魔法が発動し続けいるので止めよとしてください』


 俺は言われた通りに魔法を止めよとして両手を下げる。


『はい、止まってます』

「ふぅ〜」


 ちゃんと魔法を発動出来たようだ。


『今の2つの魔法で分かったと思いますが、魔法はイメージが大切なので頑張ってください』


 確かにその通りだ。

 今ので分かったような気がする。


「頑張ります」

『はい』


 チュートリアルAIは頷いた。


『これでスキルの説明は終わりです。 それでは次に進みますね』


 順番で行くと次はモンスターかな。

 アスラか……気になる。


『次は使役モンスターの説明です。 ステータスのモンスターの横に数字がありますよね?』


 1/1って書いてあるな。


「はい」

『それが現在自身が連れて歩ける使役モンスターの数です』

「じゃあ俺は今は一体だけ連れていけるってことですか」

『そうなりますね。 先程も説明しましたが、テイムのレベルが上昇すれば数も増えますので』


 うーん。

 どれくらいレベルが上がれば増えるんだ?

 聞いてみよう。


「それってどれくらいテイムのレベルが上がれば数が増えるんですか?」

『それは教えられないんです。 ごめんなさい』


 そう言ってチュートリアルAIは頭を下げた。


「あ、いえ。 それなら大丈夫です」

『すいません』


 チュートリアルAIは頭をゆっくり上げる。

 チュートリアルAIに表情はないけど、もし表情があったなら間違いなく申し訳なさそうな表情をしていることだろう。


「続き行きましょう」

『では、次に進みます。 モンスターの欄には使役しているモンスターが表示されます。 通常は種族が表示されますが、ドラゴン様の場合はモンスターに名前があるネームドモンスターなのでその名前が表示されています』


 なるほど。

 俺の場合は引き当てたアースドラゴンがアスラという名前なんだな。

 中々にカッコイイ名前じゃないか。

 そういえば、ノーマルモンスターやユニークモンスターに自分で名前は付けられるんだろうか?


「もしノーマルモンスターやユニークモンスターを捕まえた場合って自分で名前を付けられるんですか?」

『それは通常出来ません』


 出来ないのか。


『ただ』


 ん?


『もしかしたら世界のどこかにモンスターに名付けをする方法があるかもしれません……あくまで、もしかしたら、ですが』


 これは……遠回しに教えてくれているのか?

 本当は言ってはいけないことなのかもしれない。

 でも、さっきのテイムレベルの話はダメでこっちは良いのかな?

 まぁ有難いからいいけど。


「ありがとうございます」

『いえいえ』


 さっきから思ってたけど人間っぽくて良い人だよな……チュートリアルAI。

 人じゃなくてAIだけど。

 本当は人が居るんじゃないかと思ってしまうけど、RDWのAIはみんな生きているみたいらしいし、こんなもんなのかもしれないな。


『では、次は私がドラゴン様のモンスターをここに召喚します』

「え?」


 ここに召喚するのか?

 てっきりチュートリアルが終わって街に飛ばされると自分のモンスターが居るのかと思ってたわ。


『いきますよー』


 チュートリアルAIが少し離れた地面に手を向ける。

 ついにか。

 どんなドラゴンなんだろう?

 アースドラゴンていうくらいだから、地面とかに関係があるのかね?

 気になるなぁ。


『ほっ!』


 チュートリアルAIがそう言うと――


 ポンッ!


 気の抜けるような音とともにチュートリアルAIが手を向けていた地面から煙が広がる。


「うん?」


 煙?

 こういうのって魔法陣とかじゃないのか?

 何故煙なのかと思っていると、煙が消えた。


 すると、煙が出た場所に居た――ドラゴンが。


 鮮やかな緑色の体に茶色い模様。

 太い4本の足には鋭い爪が伸びていて、太い尻尾があり、角のない頭に力強く深い緑色の瞳が意思の強さを感じさせる。

 馬くらいの大きさで翼は無いが、正しくその姿はドラゴンだ。

 一見しただけで分かる。

 こいつは……強い。


「ガァァァァァァァ!!」


 召喚されたアースドラゴンは俺を見ると力強い咆哮をあげる。

 これが、ドラゴン……俺の好きなドラゴン。

 これ程の存在なのか。

 俺はあまりの感動にその場で立ち尽くす。


 アースドラゴンはドシドシと俺の前まで歩いて来て止まる。

 迫力があるが、怖いとは思わなかった。


「お前が……アスラ?」


 震える声で名を聞く。

 アースドラゴンは1度首を縦に振る。


「そうか……お前が俺の」


 俺は目の前のアースドラゴン――アスラにゆっくりと右手を伸ばす。

 アスラは俺をじっと見て動かない。

 そして――触れた。


 その瞬間、俺の中で何かが繋がった気がした。

 すると、俺は沢山アスラに触れたくなり、左手もアスラに触れて両手で頭を優しく撫でる。

 少しヒンヤリとしていて気持ちが良い。

 アスラも特に抵抗もせずに目を細めている。


「俺はドラゴン。 よろしくな、アスラ」

「グルゥー」


 アスラも俺によろしくと言っている気がした。


『あのー、そろそろいいですか?』

「あ」


 そういえば、まだチュートリアルの途中だったんだ。

 完全に忘れてた。

 俺はもっと触れていたい気持ちを抑えつつ、撫でている手を離す。

 いつの間にか杖を落としていたので急いで拾う。


「すみません。 嬉しくてつい」

「グルゥ」

『まぁ触れ合いも大事なコミュニケーションですしね。 アスラと絆を深めていけば、いつか会話も出来るようになるでしょう』


 そうなのか。

 それは楽しみだな。

 でも、何となくだけどアスラの簡単な感情は伝わってくる気がする。


『とりあえず、次に進みますね。 ステータスのアスラの表示を触れてみてください』

「はい」


 言われたまま触れると新しいものが表示される。


=================================


名前:アスラ

種族:アースドラゴン(ユニーク)Lv1

主:ドラゴン

スキル:アースブレスLv1、土魔法Lv1、母なる大地

HP:350/350

MP:200/200


=================================


『表示されましたね。 それがアスラのステータスです』


 まず目に入ったのはHPとMPだ。

 350に200って高すぎないか?

 俺の魔力は職業のボーナスが2つも付いてMP120。

 それよりも80高いし、HPなんて俺の4倍以上だ。


『スキル以外は見たら大体分かると思います。 職業が無い以外はプレイヤーと殆ど同じなので』

「そうですね」

『はい……それにしても驚きました』


 チュートリアルAIが突然そんなことを言う。


「どうしたんです?」

『……アースドラゴンは通常2つのスキルを持っています。 それがアースブレスと土魔法です』

「じゃあこの母なる大地というスキルはもしかして」

『はい。 ユニークモンスターだから持っているんでしょうね。 このスキル……かなり強力なものですよ。 まさかこのスキルを持ったモンスターが現れるとは思っていなかったので驚いてしまいました』


 そんなに強力なスキルなのか?


「一体どんなスキルなんです?」

『母なる大地はレベルが無いのが見て分かるようにパッシブスキルで、その効果は大地に居る限り様々な恩恵が得られるというものです』


 大地に居る限り様々な恩恵?


「どんな恩恵なんですか?」

『例えばHPとMPの自然回復速度が劇的に上昇したり、動く速度が速くなったり色々あります』

「え?」

『立っていれば勝手にどんどんHPとMPが回復しますから簡単には死にません』


 それ強力すぎないか?

 立っているだけで、失ったHPとMPをどんどん回復するとか。

 チートスキルかよ。


「アスラすごいな」

「グルゥ」


 アスラは誇らしそうに鳴いた。


『ただし、このスキルの効果は空に居たりしたら発動しないので注意してください』

「分かりました」


 空に居たら駄目なのね。


『先に母なる大地を説明してしまいましたが、最初のスキルに戻りますね』

「はい」

『アースブレスは土属性のブレスを吐くスキルです』


 ああ、よくあるドラゴンブレスか。


『それで土魔法はそのまんま土の魔法です』

「あれ? 試さないんです?」

『実はチュートリアルにはモンスターの回復薬が無いので、ここでは試せないように設定されているんです。 MPが切れて次にいけなかったら困りますから』


 そうなのか。

 試したかったなぁ。


『なのでアスラのスキルは実際のフィールドで試してみてください』

「分かりました」

『はい。 これで使役モンスターとステータスの説明は終わりです。 メニューの説明もステータス以外は私が説明することも無いので実際に使ってみて覚えていってくださいね』


 メニューとステータスの説明は終わりか。

 


『ステータスとメニューは閉じようと思えば閉じるので閉じちゃってください』


 メニューとステータスを閉じようと思うとすぐに消えていった。


『実はこれでもう説明は殆ど終わりです』

「そうなんですか?」

『はい。 最後にこれの説明だけしますね』


 そう言ってチュートリアルAIは何処からか革のバッグを取り出す。


「それは何です?」

『これはマジックバッグです。 どうぞ』

「これがマジックバッグ」


 チュートリアルAIに手渡されたバッグをよく見る。

 見た目は普通の革の肩がけバッグだ。

 しかし、開けてみると中は真っ暗で何も見えない。


『そのマジックバッグはある程度の大きさのアイテムを40個入れられます。 使い方は簡単です。 普通に入れたい物を中に入れようとすれば入ります。 物を出す時は中に手を入れると入っている物のリストが出ますので、その中から出したい物を思いながら掴むと物が掴めます』


 簡単そうだ。

 要は普通に入れて出す時は手を突っ込んで掴めばいいってこと。


『では、そのマジックバッグの中に石が1つだけ入っているので実際に出してみましょう』


 俺はマジックバッグの真っ暗な中に手を入れる。

 リストが出て【石】と書いてある。

 石を出そうと思いながら掴もうとすると何かを掴んだ感触がするので手を出す。

 すると、俺の手には普通の石が握られていた。


『出来ましたね。 そのマジックバッグは差し上げるので有効に使ってください』

「ありがとうございます」


 マジックバッグを肩に掛けてお礼を言う。

 掛けた感じも普通のバッグだ。

 とりあえず持っている杖をしまう。


『これでチュートリアルは終了です。 お疲れ様でした』

「お疲れ様でした」

『では、ドラゴン様を街に転送します。 シュツル王国とエルガオム帝国のどちらかを選んでください』


 うーん。

 シュツル王国の方が人気そうだし良いのかな?

 じゃあシュツル王国に行くか。


「シュツル王国で」

『シュツル王国の首都バリエに転送しますね』

「あ、ちょっと待ってもらっていいですか?」

『何です?』

「ちょっと疲れたんでログアウトしていいですか? 街に行く前に休憩したいんです」

「グルゥ?」


 アスラが不思議そうにしている。

 まぁアスラはさっき召喚されたばかりだからな。


『あー、ちょっと待ってください……大丈夫みたいです』


 もしかして運営に尋ねてた?

 手間を掛けさせちゃったな。


「すみません」

『いえいえ、では次にログインしたら街から始まるようにしますね』

「ありがとうございます」

『私はドラゴン様を応援してますので頑張ってください』

「はい。 アスラ、ちょっと待っててくれな」


 アスラを撫でてやる。

 何となくアスラが分かったと言っている気がした。


「グルゥー」


 あと嬉しいだって。


「じゃあ、アスラ後で会おう」


 俺はメニューからログアウトを選んだ。


『フフ……』


 意識が遠くなっていく中で誰かの声が聞こえた気がした。

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