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第27話 本当の寂しがり屋

第27話 本当の寂しがり屋




「止まり木亭……止まり木亭……あった」


 アスラたちと一緒に歩いて止まり木亭を探していると割とすぐに見つかった。

 木の看板が出ているから分かりやすい。


「ここが止まり木亭か」


 止まり木亭は木造の2階建くらいの建物で、少しだけ年季を感じる。

 正面に両開きの扉があり、建物の左にスペースが空いているので、おそらくそっちに厩舎があるのだろう。

 とりあえず、入ろう。


「2人ともここで待っていてくれ」

「グルゥ(うん)」

「がう」


 アスラとヘスティアに声を掛けてから止まり木亭の両開きの扉に手をかけて中に入る。


「いらっしゃいませー!」


 止まり木亭に入るとすぐに元気な男の声が聞こえてきた。

 止まり木亭の中を見ると、すぐ近くにカウンターがあって隣に二階に上る階段、その反対に奥に進むスペースがある。

 カウンターには青年が一人立っているので、おそらくこの青年がさっきの声の正体だろう。

 俺はカウンターに近付く。


「お泊まりですか?」

「はい」

「お一人様ですか?」

「そうです。 あとモンスターを連れているんですけど、厩舎って使わせてもらえるんですよね?」

「あ、はい! 別に料金がかかりますけど使用できますよ」


 厩舎は使えるようだ。

 よかった。

 これで使えなかったら他の宿を探しに行かなくてはならなかったからな。


「ただ、お客様のモンスターの大きさによっては使えない場合があります。 どんなモンスターでしょうか?」

「えっと、ドラゴン2体なんですけど」

「ど、ドラゴン!?」


 店員の青年が驚く。

 やっぱりドラゴンって驚かれるよなぁ。

 大丈夫かな?


「大きさ的には馬よりも一回りくらい大きいのと、このくらいの小さいのなんですけど」


 ヘスティアの大きさを手を使って表す。


「……」


 しかし、青年は驚いた姿のまま固まって反応がない。


「あのーすいません」

「……ハッ!」


 どうやら気が付いたらしい。

 さっきの話は聞いていたのか?


「大丈夫ですか? もう一回話しましょうか?」

「ああいえ! 大丈夫です! ちゃんと聞いていました!」

「そ、そうですか」


 何故か青年の声がさっきよりも大きい。


「そのくらいの大きさでしたら問題ありません!」

「よかった。 じゃあ個室一部屋と厩舎をお願いします」

「分かりました! 値段は全部で8,000Rです!」


 俺は8,000Rを取り出してカウンターの上に置く。

 すると、すぐにそれを青年が確認する。


「はい、ちょうどですね!」


 青年はカウンターの中から木札の付いた鍵を取り出した。

 その木札には103と書いてある。

 部屋の番号か。


「お部屋はこの奥を進んだ先の103号室です! どうぞ」


 そう言って青年はカウンターの隣の奥に進むスペースを指差してから、取り出した鍵を俺に手渡す。

 俺の部屋は一階か。


「すぐに厩舎の案内もしましょうか?」

「いえ、用事があるのでまた後で来ます。 その時にお願いします」


 この後はいつもの街から北の場所で色々試したいから部屋に行くのも厩舎もその後だ。


「分かりました! いってらっしゃいませ!」

「はい」


 なんか元気のいい青年だったな。

 そう思いながら青年に見送られて宿を出る。

 外に出るとすぐにアスラたちを発見した。

 というか扉の傍に居る。


「2人とも終わったぞ」

「グルゥ(早い)」

「がう!」

「まぁ部屋を取るだけだったからな」


 冒険者ギルドやゴラさんの所よりは早いだろう。

 あんまり2人を待たせたくもないし、早いのは悪くない。


「グルゥ? (厩舎に行く?)」

「いや、それは後でだ。 先の街の外に行って俺の実験だな」

「グルゥ(分かった)」

「がうがう?」

「ん?」


 ヘスティアが何か聞いてくるが、相変わらずなんて言っているか分からない。

 早く分かるようになりたい。


「グルゥ(実験ってなに? だって)」

「ああ」


 そういえばヘスティアは知らないんだったな。


「俺が新しい力とかを手に入れた時に街の外でどんなことが出来るようになったか試すんだよ。 それで実験」

「がう!」


 ヘスティアは頷いた。

 どうやら分かったらしい。


「よし。 じゃあ行くぞ」

「グルゥ(うん)」

「がう」


 3人で北に向かって歩き出す。

 ヘスティアが増えたことで街の中での視線がいつもより集まることを感じながらも特に問題もなく、北門を抜けていつもの街の外にたどり着く。


「じゃあ俺は色々試すから2人は自由にしていていいぞ」

「グルゥ? (見ていてもいい?)」


 何故かアスラが俺のやることをみたいようだ。


「別にいいけど、退屈だと思うぞ?」

「グルゥ(いい)」

「がう!」

「……2人がいいならそれでいいけど」


 なんで見たいのかね?

 つまらないと思うんだが。

 ……まぁいいか。


「さて、まずは何をしようか」


 街でアイテムボックスを創り直すのにMPを半分使ってしまったが、今では十分回復している。

 なので、なにからでも出来るな。

 うーん、そうだなぁ。

 ステータスのスキルの順番的に最初は龍化からか?

 龍化の現在のスキルレベルは40。

 間違いなく前よりも出来ることが増えている筈だ。

 じゃあ龍化から試すか。


「よし、龍化!」


 何が出来るか分からないので、今出来る全力で龍化を発動させる。

 すると、いつものように右手が白い鱗に覆われていく――だけでなく、右腕全体と左腕それに右足も龍化していった。


「おお!」


 スキルレベル40だと右腕だけじゃなくて左腕と右足も龍化するのか!

 しかも前よりも白い鱗がパワーアップしたのか、まるで鎧のようになっている。


「グルゥ(主人かっこいい)」

「がうがう!」


 これを見ていたアスラとヘスティアも絶賛してくれる。

 確かにカッコイイな!

 ……でも、どのぐらいの性能があるんだ?

 試しに右足で地面を強く蹴って走り出そうとする。


「おわっ!?」


 一瞬で視界が変わり、遠くに生えていた木が目前に迫る。

 まずい!

 咄嗟に右腕を前に突き出す。


 ドゴォォォ!


 大きな音を立てて木が粉砕。

 俺はなんとか勢いを止めて停まった。


「……マジか」


 いや、強すぎるだろ。

 これ慣れるまでまともに使えないかもしれないぞ……。

 特に右足が強すぎる。

 目が追いつかないし。

 ……とりあえず戻ろう。

 さっきのようにぶっ飛ばないように慎重に元の場所に戻る。


「グルゥ(すごい速い)」

「がう!」


 元の場所ではアスラとヘスティアがさっきと同じように絶賛していた。

 まぁ強いのは悪くないんだがなぁ。

 でも、MPを結構消費しそうだ。

 そう思ってステータスのMPを見ると、やっぱりジワジワとMPが減り続けている。

 そのスピードは前に龍化を使った時よりも確実に速い。


「おっと勿体無いな」


 このままではMPがなくなってしまうので、すぐに龍化を解除する。

 特に問題なく腕と足が元に戻った。


「うむ」


 これは間違いなく強力な切り札になるな。

 ここぞという場面で使おう。

 ただ、前のように右手だけの龍化は出来ないのだろうか?

 やってみよう。


「龍化!」


 右手だけを意識して龍化を発動させると右手だけの龍化に成功した。

 MPの減りはさっきよりも遅い。

 よし、これで右手だけで十分な場面で無駄にMPを使わなくて済むな。

 右手を元に戻す。

 これで龍化は十分だろう。

 次は時空間魔法だな。

 といってもアイテムボックスの創り直しは先にしてしまった。

 なので、残るはメインの異次元に空間を創ることだ。

 これについては成功するかどうか全く分からない。

 というか本当に異次元に空間を創れるのかも分からない。

 あくまで俺の予想でそういうことが出来ると思っているだけだ。


「とりあえず、やってみるしかないよな」


 MPはさっきの龍化で減ってしまってはいるが、4分の3以上残っているし大丈夫だと思う。

 ……よし、やるぞ!

 集中して感覚を研ぎ澄ませてイメージする。

 異次元に空間を創る。

 自由に行き来出来る空間。

 その空間は生物が生活出来る場所。

 大きさは……そうだなヨエムが入れるくらい。

 魔力を全力で込めて――その名は――


「ディメンションワールド!」


 ……。

 …………。

 ……何も起こらない。


「はぁ……ダメ……か」


 今の俺では力が足りないのだろうか。

 時空間魔法のスキルレベルが足りないのか、それとも魔力が足りないのか、技量が足りないのか……。

 理由は分からないが、どっちにしろ今の俺では無理なんだろう。

 ゲームのシステム的に無理だとは考えたくなかった。


「はぁ……うん?」


 少し落ち込んでため息をついていると背中に何かが当たる。

 振り返るとアスラが頭を俺の身体に擦り寄せていた。


「アスラ……」

「グルゥ(大丈夫、次があるよ)」


 アスラが俺を慰めてくれている。


「がう!」


 そしてヘスティアも飛んで俺の頭をその小さな手で撫でて慰めてくれていた。


「……ありがとう」


 その2人のお陰でさっきまでの落ち込んだ気持ちは消え去り、胸に暖かいものが宿る。

 俺はアスラの頭とヘスティアを抱きしめた。


 日が暮れるまで2人を抱きしめていた俺は2人と一緒に街に戻ってきていた。


「じゃあさっきの宿に行こうか」

「グルゥ? (あそこに泊まるんだよね?)」

「そうだよ。 これから夜は宿に泊まるか野宿をするからな」

「がう」


 そうやって話しながら歩いていると止まり木亭に着いた。


「2人ともここで待っていてくれ。 すぐに宿の人を呼んできて厩舎に案内してもらうから」

「グルゥ(分かった)」

「がう!」


 2人を外で待たせて止まり木亭に入る。

 中ではさっきと同じようにカウンターに青年が立っていた。

 ただ、その青年の隣に先程は居なかった男性が立っている。

 親子か?


「あ、お客さん!」


 そう思っていると青年に声を掛けられる。


「ん?」

「ほら、さっき言ったドラゴンのお客さんだよ!」

「おお、そうか」


 ドラゴンのお客さんって。

 確かにドラゴンを連れているし名前もドラゴンだけど。


「厩舎に案内してもらえますか?」

「あ、はい!」


 すぐにカウンターから青年が出てきて外に出る。

 青年に続いて外に出るとアスラとヘスティアを青年がじっと見ている。


「本当にドラゴンだ……」


 まぁ普通は信じられないよな。


「やっぱり噂は本当だったんだ!」

「噂?」

「あ、はい。 この街にドラゴンを連れた冒険者が居るって噂が最近流れてたんですよ」

「なるほど」


 確かにドラゴンを連れてたら目立つから、そんな噂が流れていてもおかしくないか。


「ドラゴン、カッコイイですね!」

「グルゥ(ありがとう)」

「がう!」

「ありがとうですって」

「え? ドラゴンの言っていること分かるんですか?」

「まぁこれでも主人ですから」


 ヘスティアの言葉は分からないけどな。


「はぁー凄い。 あ、すみません。 ついジロジロ見てしまって」

「いえいえ」


 気持ちは分かる。

 俺だって知らないドラゴンが居たら見ちゃうだろうしな。


「あ、厩舎はこちらです。 どうぞ!」

「アスラ、ヘスティア行こう」


 そう言って青年は宿の隣の空いたスペースを進んでいく。

 俺とアスラとヘスティアは青年の後ろを付いていくと木造の厩舎に着いた。


「ここがウチの厩舎です。 一番左は使っているので他の空いている所を自由に使ってください」

「分かりました。 ありがとうございます」

「はい。 では、僕は戻りますね」


 青年は俺たちを厩舎に案内して戻っていった。


「じゃあ右の場所を使わせてもらおうか」

「グルゥ(うん)」


 俺は厩舎の右の扉を開けた。

 中はモンスターが使う為か、それなり広くて藁が敷いてある。

 これならアスラでも窮屈ではないだろう。

 まぁ流石に翼盾は広げられないが。

 俺が先に入るとアスラとヘスティアが同じように中に入る。


「今日はここに泊まってもらうけど、大丈夫か?」

「グルゥ(大丈夫だよ)」

「がう!」


 どうやら2人とも大丈夫なようだ。


「じゃあ俺は宿に戻るから何かあったら呼ぶんだぞ?」

「グルゥ(分かった)」

「……2人とも、おやすみ」

「グルゥ(おやすみ)」

「がうがう」


 俺は厩舎を出て扉を閉めて――


「グルゥ? (主人?)」

「がう?」


 扉を閉めずに2人を見ていた俺を不思議そうに見ている。


「はぁ……」


 やっぱり2人だけを残して1人で宿の部屋に泊まるのは嫌だな。


「今日は2人と居たい……ダメか?」

「がう!」


 そう口にした瞬間、ヘスティアが俺の胸に飛び込んでくる。

 そしてアスラも俺にくっ付いた。


「グルゥ(僕も本当は主人と一緒に居たかった)」

「……アスラは寂しがり屋だな」

「グルゥ(主人だって)」

「ははは」


 確かにそうだな。

 寂しがり屋は俺の方だ。

 乗り越えなくてはいけないとかなんとか思っていたけど、結局俺の方が無理っぽいわ。

 その日は結局アスラとヘスティアと一緒に厩舎で夜を過ごした。

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