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第25話 二つの問題

第25話 二つの問題




 冒険者ギルドから数分でゴラさんの店に着いた。


「じゃあアスラ、悪いけどまた待っていてくれるか?」

「グルゥ(分かった)」


 そう返事をしたアスラの表情はさっきと同じように寂しそうなものに変わる。

 悪いが、我慢してもらうしかないな。


「……ヘスティア行くぞ」


 アスラの頭の上のヘスティアに声を掛けて店に入ろうとする。

 しかし、ヘスティアは動こうとしなかった。


「ヘスティア?」

「がう!」


 ヘスティアは首を横に振って動こうとしない。

 なんだ?


「どうしたんだ?」

「がうがう」


 ヘスティアが何かを伝えようとしてくれているが、さっぱり分からない。

 まだヘスティアとの関係が薄いからか?

 少し悲しい。

 早く仲良くなりたい。


「グルゥ(ありがとう)」

「がう!」


 そんなヘスティアにアスラがお礼を言った。

 どういうことを言ったんだ?


「グルゥ(主人、ヘスティアは僕と一緒に待っているって)」

「がう!」


 ヘスティアは頷く。

 なるほど。

 アスラが寂しそうだからヘスティアは外で一緒に待つことにしたということか。


「ふふ……」


 アスラもそうだがヘスティアも優しい子だ。

 自然と笑みがこぼれる。

 アスラも寂しそうな表情が薄れ嬉しそう。

 ウチの子は皆良い子だな。

 俺も嬉しい。


「じゃあ2人ともここで待っていてくれ」

「グルゥ(いってらっしゃい)」

「がう!」


 2人を外で待たせて俺は店の扉を開けて中に入る。

 店の中ではアラさんが立っていて、すぐに俺に気が付いて笑顔になった。


「アラさん、こんにちは」

「ドラゴンさんいらっしゃい……あら、何か嬉しいことでもあったのかしら?」

「え? 何でですか?」

「だって顔に出ててるもの。 自分は嬉しいって」


 うわぁー。

 そんな顔をしているのか俺。

 恥ずかしいなぁ。


「恥ずかしがることはないわよ。 それだけ良いことがあったってことなんだから。 そうでしょ?」


 まぁ確かにそうだな。

 ……少しは恥ずかしさが薄れた。


「ありがとうございます」

「いいのよ。 それで今日はどんなご用でかしら?」

「実はとても良い素材が手に入ったので、それで装備を作ってもらえないかと思いまして」

「へえー。 なら主人も居た方が良いわね。 すぐに呼んでくるから待ってて」


 そう言ってアラさんはカウンターの奥に入っていった。

 しばらくしてゴラさんとアラさんがやって来る。


「おう、おめぇまた来たな」

「はい、お邪魔してます」

「客なんだから邪魔なんかじゃねぇよ。 それで良い素材を手に入れたって話だが……本当だろうな?」


 ゴラさんはそう言いつつも俺を疑っている感じではない。


「嘘なんてつきませんよ……でも、驚くと思いますよ?」

「ほう?」


 腕を組んでニヤリとするゴラさん。

 その横でアラさんもニコニコしている。

 この2人にファイアードラゴンの皮を見せて、どんな反応をするのか楽しみだ。

 やっぱり驚くよな?

 っと、その前に一応言っておこう。


「これから見せる物は本当に貴重なんで他の人に話したりしないでくださいね?」

「ったりめえだ! 俺がべらべらと喋るように見えるか? そんなつまらないことを言ってないで早く見せろ」


 つまらないことって……。

 一応大事なことなんだけどなぁ。


「私も問題無いわ」

「じゃあ見せますね」


 俺はアイテムボックスの中からファイアードラゴンの皮を取り出す。

 てか、やっぱりデカイな。


「うおっ!」


 取り出したファイアードラゴンの皮にゴラさんとアラさんが高速で近付いて手に取った。

 速すぎて見えなかったぞ……。


「こ、こいつは!」

「まあ!」


 2人はファイアードラゴンの皮を触りながら驚いて声を上げている。

 やっぱり驚いている。

 ゴラさんでもファイアードラゴンの皮は予想外だったろうな。


「それが何か分かります?」


 ゴラさんは真剣な表情でファイアードラゴンの皮を見ながら首を横に振った。


「……悔しいがわからねぇ。 確実に分かるのはこれがとんでもなく良い皮だってことだ。 ……ただ」

「多分、ドラゴンの皮よね?」

「あぁ。 おそらくドラゴンだな」


 2人とも流石だな。

 見たことがなくてもドラゴンの皮だってことは分かるんだから。

 俺だったら凄いくらいしか分からないわ。


「それでこれは何なんだ?」

「ゴラさんとアラさんの思った通りドラゴンの皮です。 ファイアードラゴンのね」

「ファイアードラゴン……」


 2人とも唖然とした表情で俺とファイアードラゴンの皮を見る。


「おめぇ……これを一体何処で……」


 そう口にしたゴラさんは首を横に振った。


「いや、気になるが言いたくねぇならいい」

「いえ、聞いてください。 お二人に製作してもらうなら知っておいてもらった方がいいです」


 俺としては2人に秘密にしたくはない。

 それに話した方が良い物が出来そうな気がする。


「だがよ……」

「いいじゃないの。 聞かせてもらいましょうよ」

「……分かった。 頼む」

「はい」


 それから俺は北の山でファイアードラゴンの皮を手に入れた経緯を説明した。

 その説明の途中から2人とも難しい顔をしていた。


「……っと言う訳です」


 2人とも難しい顔で黙っている。


「ワールド・ドラゴンか……まさか北の山に居たなんてな」


 しばらくしてゴラさんがポツリと呟いた。

 ゴラさんはワールド・ドラゴンを知っている?


「ワールド・ドラゴンを知っているんですか?」

「まぁ……な」


 ゴラさんはあまり言いたくなさそうだ。

 どういうことだろう?

 そう思っているとアラさんが何時もの笑顔を浮かべる。


「私たちの故郷にね、居たのよ……ワールド・ドラゴンが」

「え?」


 2人の故郷にワールド・ドラゴンが居た?

 それってマジ?


「お、おい!」

「ドラゴンさんも話してくれたじゃないの。 私たちもこれくらいは話したってバチは当たらないわ」


 アラさんの言葉を聞いてゴラさんは溜息を吐く。


「分かったよ。 これから話すことは秘密だからな」

「はい」

「俺たちの故郷はここからずっと遠くにあるドワーフの国なんだよ」


 ドワーフの国。

 そんな国があるのか。


「その国にはワールド・ドラゴンが一体居て、昔から神として崇められているんだ」


 ワールド・ドラゴンが神と崇められているか。

 確かにワールド・ドラゴンは神と言われてもおかしくない程の力を持っていそうだもんな。

 これは詳しく聞きたい。

 上を目指すならワールド・ドラゴンには会わなくてはいけないし、個人的にも会いたい。


「そのワールド・ドラゴンの名前はなんて言うんです? 場所も出来れば教えてほしいんですが」


 2人とも首を横に振る。


「それは流石に言えねぇ……悪いな」

「ドラゴンさんがワールド・ドラゴンを探しているのも分かるけど、ごめんなさいね」

「そうですか……いえ、言えないならいいんです。 少しでも教えていただいて、ありがとうございます」


 詳しく聞けなかったのは残念だけど、何も情報が無いよりはマシだ。


「そうか。 それで……ファイアードラゴンの皮のことだがな……」


 ゴラさんとアラさんは再び難しい表情をして顔を見合わせる。

 どうしたんだろう?

 何か悪いことでもあったか?


「どうしたんですか?」

「本当に俺たちにファイアードラゴンの皮を任せていいのか?」


 苦虫を噛み潰したような顔でゴラさんが口を開いた。


「……どういうことですか?」


「俺たちに大切なこいつを任せてくれるのは嬉しい。 こんな最高の素材を扱えるなんて、職人としてはこれ以上の喜びはない。 だがよぉ……探せば俺よりも腕の良い職人は居る。 本当に良い物を作りたいなら俺よりも「ゴラさんっ!」……おう」

「それ以上言ったら、怒りますよ」


 実はもう少し怒っている。


「俺はゴラさん、貴方に任せたい。 他でもない貴方に作ってほしいんです。 この気持ちが間違いだとは思わない」


 他の職人なんて知らない。

 そんなもの関係ない。

 俺はゴラさんとアラさんが良い。


「貴方……」


 アラさんは心配そうにゴラさんを見ている。

 そんな顔をさせたくて来たんじゃないんだよ。


「ゴラさんは自信が無いんですか? それともやりたく無いんですか?」

「そんなこと……そんなことある訳ないだろ! 俺は今まで客の注文に失敗したことはねぇ! それに見ろ! 俺の腕は今すぐにファイアードラゴンの皮で製作したいと震えている!」


 確かにゴラさんが上げた右腕は震えていた。

 なら、もう大丈夫だ。


「さっきの言葉は無かったことにしてくれ。 俺はやる! ファイアードラゴンの皮で最高の物を作ってみせるぞ!」


 そう言ったゴラさんは燃えていた。

 そしてそれを見ていたアラさんの顔に笑顔が戻る。


「はい、頼みます」

「おう!」


 自信のある元気なゴラさんの返事を聞けて良かった。

 俺の中の怒りなんてもう完全に消えていた。


「そうと決まれば、こいつを使って何を作るか決めねぇとな」


 確かにそうだな。

 今の俺に必要な装備ってなんだろう?

 思いつかない。


「おめぇは何か良い考えあるのか?」

「いえ、特にはなにも」

「それならローブが良いわ!」


 アラさんが嬉しそうにそう言った。

 ローブ……ローブかぁ。


「ローブですか?」

「そうよローブよ」

「おぉ! 確かにローブは良いな! 今の装備の上から着れるやつ」


 どういうこと?


「どうしてローブなんですか?」

「だってドラゴンさん魔法使いなのにローブ持ってないじゃない」

「そうですけど」

「ローブっていうのは魔法使いにとって大事なものなのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。 ローブはその魔法使いの格を示すものでもあるし、何よりローブには魔法使いを補助する効果もあるしね」


 ほぉー。

 ローブにそんな意味があったのか。

 全然知らなかった。


「ならローブでお願いします」

「おう、分かった。 ……たが、一つ問題があるんだよなぁ」

「二つよ」

「あぁそうか。 そっちもあったな」


 え?

 何か問題があるの?

 しかも複数。


「普通の皮でローブを作るのには何の問題もねぇ。 問題はファイアードラゴンの皮で作るということだ」


 どういうことだ?


「……製作難易度が高いということですか?」

「いや、そうじゃねぇ。 確かに難易度は高いが俺なら出来る」

「じゃあ一体どういうことです?」

「ファイアードラゴンの皮だけじゃローブは作れねぇ。 当たり前だが他に素材が要る。 そしてその素材は完成品であるローブのランクを大きく落とさない程度の物を用意しなくちゃならん」


 ああ!

 なるほど。

 確かにファイアードラゴンの皮がいくら良い素材でも他の素材が悪くては良い物は完成しない。

 そしてファイアードラゴンの皮が良い物であればある程、他の素材も良い物でなくてはならない。

 ファイアードラゴンの皮に負けない素材……難しいな。


「その顔、どうやら理解出来たようだな」

「はい」

「だが、この問題は正直何とかなる」

「え? そうなんですか?」

「あぁ。 俺のツテを使えば時間は少しかかるが素材はある程度集まる。 ファイアードラゴンの皮に負けない……とは流石に言えんがな。 その所為で完成品のランクが少し下がるが、どうする? おめぇがファイアードラゴンの皮に匹敵する素材を集めてくるっていうなら待つが」

「うーん」


 完成品のランクが下がるのは残念だ。

 残念だけど正直ファイアードラゴンの皮に匹敵する素材なんて簡単には手に入らないと思う。

 そう考えれば多少ランクが下がってもゴラさんに任せるのが良い。

 それに出来れば闘技大会までに新装備が欲しい。

 今の俺が負けるとは思わないけど、何があるか分からないからな。


「ゴラさんに任せるとして素材はどのくらいの時間で集まりますか?」

「そうだな……5日、長くて8日か」


 今日は2日で闘技大会は5日。

 ゲーム内時間では10日以上ある。

 余裕だな。


「じゃあお願いします」

「分かった。 だが、さっきも言ったように俺が集められるのはある程度だ。 どうしても集められない素材が一つある」

「それは他の素材で代用できないんですか?」

「あぁ。 これだけはランクを落とす訳にはいかねぇ。 これがカミさんの言ったもう一つの問題に関係する」


 もう一つの問題か。


「ドラゴンさん、装備に効果を付与するには何が必要か分かるかしら?」


 効果を付与するのに必要な物か。

 何だろう?


「えっと……効果を付与する職人?」

「そうね。 付与魔法が使える人は必要だわ。 それは私が使えるからいいとして、もう一つ大事な物が必要なの」

「大事な物?」

「ええ。 効果の付与には空の宝珠ってアイテムが必要なのよ」

「空の宝珠……」


 ……あれ?


「空の宝珠を使うことによって装備に効果を付与出来るの。 そしてその宝珠にもランクがあって普通は下級の物を使うのだけども、ファイアードラゴンの皮を使ったローブに効果を付与するならせめて中級はほしいわね」


 え?


「中級以上は滅多に出回らないから手に入れるのは大変なの。 これがもう一つの問題ね。 まぁ一つ目の問題とあんまり変わらないけど」

「宝珠が無くてもローブは作れるが効果は欲しいしなぁ」

「あのー」

「なあに?」

「実はここに来る前に装備の製作に使えないかと思って素材を少し持ってきたんです」

「おう」

「それでその中にあるんですよ」

「何がだ?」

「まさか!」


 アラさんは気が付いたのか目を見開いている。

 俺はアイテムボックスの中から素材ガチャで手に入れた空の宝珠(上級)を取り出した。

 すぐに2人の視線が空の宝珠に突き刺さる。


「それは空の宝珠!」

「それ下級でも中級でもないわ!?」

「なにぃ!?」

「……上級です」

「「……」」


 ゴラさんとアラさんは顔を見合わせてから再び空の宝珠を見る。

 そして――


「「ええええええええええええええええええええ!?」」


 顎が外れそうなほど口を開けて叫んだ。


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