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第18話 新しい仲間、ヘスティア

第18話 新しい仲間、ヘスティア




「どうして? もうヨエムの話は終わったんじゃないのか?」

「いやいや、まだ大事なことが1つ残っておる」


 ヨエムは首を横に振ってそう答えた。

 大事なことって何だ?

 まだ何かあるのか?


「そもそもお主はここに居るドラゴンに会いに来たのじゃろう?」

「ああ」

「そして出来ればお主の新たな仲間にしたいとも思っていた……違うかの?」

「いや、ヨエムの言う通りだ」


 そう。

 俺はヨエムの言う通り、ここに居るドラゴンに会って出来れば仲間になって欲しかったんだ。


「ほっほっほ。 やはりのぉ」

「……もしかしてヨエムが俺たちの仲間になってくれる……とか?」


 それならば心強い。

 ヨエムが仲間になれば安心して冒険出来るし、これから受ける試練の力にもなってくれるだろう……まぁ仲間になってくれればの話だが。


「流石に儂がお主の仲間に加わることは出来ぬよ」


 だと思った。

 そりゃそうだよな。

 ゲーム始まっていきなりヨエムクラスのドラゴンが仲間になる訳ないか。


「ほっほっほ。 そうガッカリするでない。 儂ではないが、代わりにお主に連れて行ってもらいたい者がおる」

「え?」


 ヨエムの代わりに連れて行ってもらいたい者?

 誰だ?

 というか、ここにヨエム以外のドラゴンが居るのか?


「もしかして、ここにヨエム以外のドラゴンが?」

「そうじゃ。 今呼ぶからちょっと待っておれ」


 そう言ってヨエムは自分が入っていた洞窟の中に視線を向ける。

 そして――


「おーい! ヘスティアー! こっちにおいでー」


 と、ヨエムが洞窟の中に声を掛ける。

 ヘスティア?

 それが洞窟に居るドラゴンの名前か。

 一体どんなドラゴンなんだろう?

 ワクワクしてくるな。

 そうやって洞窟を見て新しいドラゴンが出てくるのをワクワクして待っていると――


「がう!」


 そんな可愛いらしい鳴き声を上げながら洞窟から新しいドラゴンがトコトコと歩いて現れた……二足歩行で。


「おお、ヘスティアや。 こっちじゃ」

「がうがう」


 俺は新しく現れたドラゴンに目を奪われた。

 新しく現れたドラゴンは二手二足で四脚のアスラやヨエムと違う。

 背中に小さな飛膜の翼が生えていて、尻尾もある。

 その体の中心は赤い皮膚なのだが、手足や頭、尻尾や翼に進むと色が変わっていき、蒼い鱗が生えている。

 まるでその蒼は宝石のように美しい。

 頭には蒼い宝石のような短い角が2本。

 そのドラゴンは全長が40cmから50cmくらいしかない。

 しかし、それが可愛らしく……そしてとても美しい。


「がう」


 その宝石のようなドラゴンはヨエムの脚元にトコトコと歩いていき、抱き付く。

 その姿が可愛らしくて、触りたくなるが今は我慢する。


「ドラゴンよ。 この子が【ヘスティア】じゃ。 可愛らしい子じゃろう?」

「確かに可愛い」

「ほっほっほ。 ヘスティアよ。 そこに居る人がドラゴン、隣の緑っぽいドラゴンがアスラじゃ」

「がう?」


 ヘスティア頭の上に黄色のマーカーが表示されている。

 名前はサファイアードラゴンのヘスティア。

 サファイアードラゴン?

 知らないなぁ。

 ヘスティアはヨエムの脚に抱き付きながら首を動かして、その赤い瞳で俺たちを見る。


「えっと、俺はドラゴンでこっちがアスラ」

「グルゥ(よろしく)」


 ヘスティアはじーっと俺たちを見た後。


「がう」


 と鳴いた。

 何て言ったんだろうか。


「ほっほっほ。 ヘスティアも緊張しておるんじゃよ」

「そうなのか。 このヘスティアが俺に連れて行ってもらいたいドラゴンか?」

「そうじゃ」


 まだまだ幼く見えるし、大丈夫なのかな?


「この子は見て分かるようにまだまだ幼い。 本来なら親元でのびのびと育つ筈なのじゃが……」


 ヨエムが言葉に詰まる。

 何か言いにくい理由があるのかね?


「この子の親は子育てを放棄したんじゃ」

「なに?」


 それはヘスティアを捨てたということか?


「理由は? 一体どうしてヘスティアを?」

「……お主には見て分かると思うのじゃがこの子はサファイアードラゴンという種族なのじゃ」

「ああ」

「サファイアードラゴンというのは、儂らファイアードラゴンの中からごく稀に、本当に稀に産まれてくる特殊なドラゴンなんじゃ」

「ファイアードラゴンの中から稀に産まれる?」

「そうじゃ。 突然変異といった感じかのぉ」


 ファイアードラゴンの突然変異か。


「能力的には通常のファイアードラゴンとは比べ物にならない程の能力を持っておる。 じゃが……」


 再びヨエムは言葉に詰まる。

 その顔は苦々しいといった感じだ。


「ファイアードラゴンは自分たちとはまるで違うそのサファイアードラゴンの姿を受け入れられず捨ててしまうのじゃ」

「そんな!?」


 自分の子供を捨てるのか!?


「もちろん全てのファイアードラゴンがそうではない。 じゃが儂が生きている間に産まれた3体のサファイアードラゴンの内2体は親に捨てられておる」

「くっ!」


 こんな可愛らしい子を捨てるなんて、俺には考えられない。

 なにを考えているんだ!?


「ヘスティアも半年程前に捨てられたところを儂が拾って育てておったのじゃ」

「そうだったのか……じゃあそれならヘスティアはヨエムの元で育てた方が良いのでは?」


 ヨエムは首を横に振る。


「儂は己の立場の所為であまり動けない。 この子には窮屈な思いをさせてしまうだけじゃ。 それならば誰かに連れ出してもらった方が良い。 それにな」

「うん?」

「ドラゴンテイマーに付いて行くというのはヘスティアにとて大きく、大事な経験となることじゃろう。 儂がそうだったようにな」

「なるほど」

「出来るならば、この子には世界を見てもらいたい」


 確かにヨエムの言う通りかもしれない。

 何より昔ドラゴンテイマーと共に居たヨエムの言葉は説得力がある。


「ヘスティア。 聞いておったな? ここでドラゴンに付いて行くか、これまでのように儂の元で過ごすか選びなさい」

「がう?」

「ほっほっほ。 大丈夫じゃ。 お主が居なくたって寂しくはない。 なんたって儂はもう長いこと生きておるからの」

「がう」


 どうやらヘスティアは自分が離れたらヨエムが寂しく感じるんじゃないかと聞いたらしい。

 ヘスティアもアスラと同じで優しい良い子だな。

 ヘスティアはヨエムの脚から離れて背中の小さな翼を羽ばたかせて飛んだ。

 ってか、その翼で飛べるのか。

 そのままヘスティアはパタパタと空を飛んでゆっくりと俺の前までやって来る。


「がう?」


 俺はヘスティアに触れないようにゆっくりと右手を伸ばす。


「ヘスティア。 俺たちと一緒に行かないか? きっとヘスティアの知らないものが沢山見れるし経験も出来る」

「がう」

「でも、何より……俺は君と一緒に行きたい」


 ヘスティアは手を出して俺の右手を恐る恐る触った。

 そして次の瞬間には俺の胸に飛び込んで来る。


「おっとっと」

「がうがう!」

「ははは。 よろしくな、ヘスティア」


 どうやらヘスティアの御眼鏡に適ったようだ。

 そして――


『サファイアードラゴン:ヘスティアをテイムしました』


 というテイム成功文が表示された。

 どうやらちゃんとヘスティアをテイム出来たようだ。


「がう」


 抱き抱えて頭を撫でてあげると気持ち良さそうにヘスティアは鳴く。


「グルゥ」


 それを見たアスラがヘスティアに頭を近付ける。


「ほらヘスティア。 さっきも言ったけど、このドラゴンがアスラだ」

「グルゥ(ヘスティア、よろしく)」

「がう」


 ヘスティアはアスラを見て返事をした。

 何を言っているかは分からないけど。


「これでアスラもお兄ちゃんだな」

「グルゥ? (僕、お兄ちゃん?)」

「そうだぞ。 だから一緒にヘスティアの面倒を見てやろうな」

「グルゥ! (僕、お兄ちゃん!)」


 アスラは嬉しそうに言葉を繰り返す。

 良かった。

 アスラはヘスティアを受け入れてくれたみたいだ。


「グルゥ(ヘスティア、おいで)」


 嬉しくなったアスラはヘスティアにそう言葉を掛ける。


「がう」


 すると、ヘスティアはアスラの顔に抱き付いた後、アスラの頭の上にちょこんと乗った。


「がうがう!」

「グルゥ(あれ?)」

「ははは!」


 アスラの頭の上に乗ったヘスティアの姿が面白くて、つい笑ってしまう。


「どうやらヘスティアはアスラの頭の上が気に入ったらしいな」

「グルゥ? (そうなの?)」

「がう!」

「グルゥ(なら良い)」


 アスラはヘスティアが頭の上に居ても良いようだ。

 早速、仲良しだな。


「ほっほっほ。 どうやら無事にテイム出来たようじゃな。 上手くやっていけそうかの?」

「ああ。 大丈夫だ」

「そうかそうか!」


 ヨエムは嬉しそうに何度も頭を縦に振る。

 やっぱりヘスティアのことが心配だったんだろう。


「それにしても、お主の言葉はまるでプロポーズのようじゃったのぉ! ヘスティアも女の子じゃし、ああ言われて無下には出来ないじゃろう」

「ちょっ!? そういうんじゃないから!」


 いきなり何を言うんだ、この年寄りドラゴンは!?


「ほっほっほ。 冗談じゃよ冗談」

「たくっ……」

「まぁその子は同レベルの中では強いが、まだまだ好奇心旺盛な幼子。 しっかり面倒を見るんじゃぞ?」

「ああ、分かった」


 確かにヘスティアは見た目も中身もアスラよりも随分幼い感じだからな。

 子育てとかはしたこと無いが、頑張ろう。

 とりあえず、ヘスティアのステータスを確認だ。


=================================


名前:ヘスティア

種族:サファイアードラゴン(ユニーク)Lv3

主:ドラゴン

スキル:ファイアーブレスLv1、火魔法Lv2、火耐性Lv2、蒼炎

HP:230/230

MP:210/210


=================================


 やっぱりヘスティアはネームドユニークモンスターだ。

 スキルは初めて見るものが多い。

 ファイアーブレスはその名の通り火を吐くスキルだろう。

 火魔法は分かる。

 火耐性もその名の通り火に対する耐性だろうな。

 でも、アスラは最初耐性スキルを持ってなかったのにヘスティアは持っているのか。

 違いがよく分からない。

 そして1番気になっているスキル――蒼炎。

 間違いなくアスラの母なる大地と同じ特別なスキルだろう。

 レベルがないからパッシブスキルか?

 分からないし、ヨエムに聞こう。


「ヨエム」

「なんじゃ?」

「ヘスティアのステータスを見たんだけど、蒼炎というスキルは何だ?」

「蒼炎はサファイアードラゴンが持つ特別なスキルじゃ」

「やっぱりそうか」

「効果はスキルの持ち主が出す火が全て蒼い火になるというものじゃな」

「蒼い火……それで蒼炎か。 もちろん、ただ火が蒼くなる訳じゃないだろ?」

「そりゃそうじゃ。 蒼い火は通常の火の何倍もの威力を持つ」

「なんだって?」


 通常の何倍もの威力だって?


「じゃからヘスティアの放つ火には十分注意するんじゃぞ?」


 それが本当なら確かに注意した方が良いな。

 敵には問題ないが、味方に当たるとやばいだろう。


「まぁお主たち自身にはあまり意味はないじゃろう」

「うん? どういうことだ?」

「蒼炎は味方にはダメージが無いんじゃよ。 それどころか味方のHPの回復を早める効果がある」

「ええ!?」


 それって所謂リジェネ効果ってことか?

 いや、自然回復を早めるだけだから違うのか?

 分からないが、どっちにしろ凄い効果だ。


「といってもその効果はあくまでおまけじゃ。 そこまで強力な回復効果はない。 メインは威力の上昇じゃからな」

「それでも無いよりはマシだ」

「ほっほっほ。 そうじゃな」


 そうなると気になるのは味方の範囲かな?

 PT内は味方とかか?


「味方ってどういう判別なんだ?」

「それはヘスティアが己にとって味方と判断したらじゃな」

「え? そういう感じ?」

「そういう感じじゃ」


 なんか曖昧だな。

 でもまぁヘスティアと仲良くしていれば良いってことだ。

 問題無い。


「これでヘスティアのことで聞きたいことは全部かの?」

「ああ、多分大丈夫だ」

「そうかそうか」


 ヨエムは満足そうに頷く。

 しかし、途中で動きが止まる。


「そうじゃ。 あれが有ったのぉ。 ちょっと待っておれ」

「あ、うん」


 ヨエムは何かを思い出したのか、洞窟の方に入っていく。

 そして、すぐに戻ってきた。


「ちょうど持ってきておったのを思い出したわ。 これをお主にやろう」


 そう言ってヨエムは赤い大きな一枚の皮を俺の目の前に持ってくる。

 俺はそれを何とか受け取る。


「これは?」

「それは儂らの一族の皮じゃ」

「ヨエムの一族の? それってまさか!?」

「そう、ファイアードラゴンの皮じゃよ」


 ファイアードラゴンの皮だって!?


「どうして?」

「この間、一族の者が1人死んだんじゃ。 他の素材は家族の元にあるんじゃが、その皮は色々あって儂が受け取ったもの」

「何故?」

「何故お主に与えるか、か?」

「あ、ああ」


 きっとこれは大事なものだと思う。

 それをどうして俺に?


「儂らの一族の尻拭い、ヘスティアをお主に押し付けた対価……というのは、もちろん建前で実際は儂がお主に大きな可能性を感じているからじゃ」

「俺の可能性……」

「先程も言ったようにお主は自分のドラゴンに強い想いを抱いている。 不可能を可能にする程のな。 それは並大抵のことではない。 そんなお主の姿に儂はかつての主人の姿を見た。 まるでお主はあの方のように強くドラゴンたちを想っておる」


 俺がヨエムの昔の主人、つまり昔のドラゴンテイマーに似ているのか。

 それならきっとその人もドラゴンが大好きなんだろうな。


「お主には中途半端なところで終わってほしくは無い。 だから、その皮を授ける。 腕の良い職人の所に持ち込んで何かにすると良い。 有効に使ってくれ」

「ヨエム……ありがとう」


 胸に熱いものがこみ上げてくる。

 何だかこのゲームを始めてから誰かの善意に触れてばっかりな気がする。

 やっぱりこのゲームを始めて良かった。


「ほっほっほ。 じゃが、その皮の取り扱いには注意するんじゃぞ? 人の間ではとても価値のあるものじゃ。 ちゃんと信用のできる者に加工を頼むんじゃ」

「ああ」


 ゴラさんとアラさんの所に持って行こう。

 まだ短い付き合いだけど、あそこなら信用出来る。


「どうやら当てはあるようじゃな」

「大丈夫だ」

「そうか……じゃあ儂はそろそろ帰るかの」

「え?」


 帰るって……ヨエムはここに住んでいる訳ではないのか?


「なんじゃ? 儂がこの洞窟に住んでいると思っておったのか?」

「えっと……まぁ」

「儂は一族の者たちを纏める立場にあるからの。 普段は一族の者たちと同じ場所に住んでおる」

「そうだったのか。 じゃあ、どうしてここに?」

「ここにはヘスティアの為に居たんじゃ。 じゃから、もうここに居る必要はないんじゃよ」


 なるほど。

 じゃあヨエムの住処ってどこなんだろう?


「ヨエムの住処ってどこなんだ?」

「ほっほっほ。 それを聞いたら面白くないじゃろ。 それはお主が自分で見つけることじゃ」

「……分かった」


 確かにそうだな。

 ヨエムの他にもドラゴンが居るなら一度は見に行ってみたい。

 それを自分で見つけるのは楽しそうだ。


「さて、ヘスティアよ」

「がう」

「ドラゴンやアスラの言うことをしっかり聞いて強く良い子に育つんじゃぞ」

「がうがう!」


 ヘスティアはアスラの頭の上からパタパタと飛び立ってヨエムの顔の前まで行き、ペロペロと舌で舐めてからアスラの頭の上に戻った。


「ドラゴン、アスラ。 ヘスティアのこと、よろしく頼んだぞ」

「任せてくれ」

「グルゥ(はい)」


 ヨエムは俺たちから離れた場所に移動する。


「また会う時を楽しみしておるぞ」

「ヨエム、色々ありがとう! また会おう!」

「グルゥ! (ありがとうございました!)」

「がうがう!」

「ほっほっほ。 では、さらばじゃ!」


 そう言ってヨエムはその巨大な翼を広げ羽ばたかせ、次の瞬間には空に飛び上がっていた。

 そのまま空の彼方に飛んでいく。

 小さくなっていくヨエムの姿を俺たちは見えなくなるまで見ていた。


「行っちゃったな」

「グルゥ(うん)」

「がう」


 じゃあ山を下りてウスルに戻ることにしようか。


 ピコン!


『メッセージが届きました』


 そう考えていると、この前のようにメッセージが届いたようだ。

 また運営からのお知らせか?

 早速メッセージを開くと、やっぱり運営からのお知らせだった。

 内容は――


「アップデートとメンテナンスか」


 どうやら14:00、ゲーム内時間で20:00からゲームのメンテナンスが開始されるらしい。

 終了予定時刻は17:00。

 なので、メンテナンスが始まるまでに余裕を持ってゲームからログアウトしておいてくれ、だそうだ。

 今の時間は……12:00くらいだから今から街に戻っても十分時間があるな。


「グルゥ? (アップデート、メンテナンス?)」

「がう?」


 アスラの頭の上でヘスティアが首を傾げている。

 2人とも可愛い。


「2人は分からないか。 アップデートやメンテナンスっていうのは……えっとー」


 なんて説明すればいいんだろうか?

 正直俺もそんな詳しく説明出来ないんだけど。


「あー簡単に言うとこの世界のルールを変えたり、世界の体調を整えたりするんだよ」


 ……多分。


「グルゥ(へー)」

「がう?」


 これで伝わったかは微妙な感じだな。


「だから、その間俺はこの世界に来れないんだ」

「グルゥ? (どのくらい?)」

「えっとーその度によって変わると思うけど、今回は12時間くらいかな」

「グルゥ……(そうなんだ……)」


 アスラは寂しそうに答えた。

 それを見て俺は胸が苦しくなる。

 本当は俺だってもっと一緒に居たい。


「がう?」


 ヘスティアはよく分かってなさそう。


「会えなくなる訳じゃない。 メンテナンスが終わったらすぐに来るからな」

「グルゥ(うん)」

「よし、じゃあ山を下りるか」


 山を一度下りたらまだ時間もあるし山の入り口でヘスティアのレベル上げでもしようかな。


「ヘスティア。 これから山を下りるからな。 途中、モンスターが出るから注意するんだぞ?」

「がう!」

「あと山を下りるまではアスラの邪魔になるから、こっちにおいで」

「がう……」


 手を広げて待つが、ヘスティアはアスラの頭の上から動かない。


「わがまま言っちゃだめだぞ。 ほら」

「がう」


 ヘスティアは名残惜しそうにアスラの頭の上から俺の所に飛んできた。

 そんなに気に入ったのか。


「良い子だ」

「グルゥ(良い子)」

「がう!」


 頭を撫でて褒めてあげるとすぐに機嫌が良くなった。

 切り替えが早いな。


「じゃあ行こう」


 俺たちは山を下り始めた。

 すると、すぐにロックリザードが2体前に立ち塞がる。


「ヘスティア。 あれがロックリザード。 敵だ」

「がう」


 俺の腕の中でヘスティアはロックリザードを見て頷く。


「アスラ、何時ものようにやるぞ」

「グルゥ(分かった)」


 ヘスティアを左腕で抱えて右腕を伸ばす。


「スペースロック」


 何時ものように魔法を発動してロックリザードの動きが止まる。

 しかし、何時もとは感覚が違った。

 何だか魔法が発動しやすく、強力な感じがする。

 多分だけど、時空間魔法のレベルがかなり上がった所為だと思う。

 これならロックリザード相手にわざわざ腕を伸ばしてポーズをとったり、魔法名を口に出す必要も無いかもしれない

 次から試してみよう。

 そう思っているとアスラがロックリザードの1体に近付いて――


 ドゴッ!


 なんと背中の翼盾でロックリザードを上から殴った。

 俺はてっきりアスラ・インパクトをするんだと思っていたから一瞬驚いたが空間の固定の解除はしっかりする。

 ロックリザードはアスラの翼盾の一撃で倒されていた。


「がうがう!」


 その姿にヘスティアは大興奮である。

 そのままアスラは隣のロックリザードも翼盾で殴って倒す。

 ドロップアイテムは……今回は無いな。

 アスラはこっちに近付いてくる。


「アスラ、強くなったな!」

「グルゥ(僕、強くなった)」


 アスラは嬉しそうだ。


「がう!」


 そんなアスラにヘスティアは俺の腕の中から両手を伸ばす。

 敵は居ないだろうし大丈夫だと思ったので離してやると、ヘスティアはアスラの頭まで飛んで行ってその手で撫でた。


「ははは! 妹に褒められたな!」

「グルゥ(嬉しいけど、恥ずかしい)」


 ついでに俺もアスラの頭を撫でてあげる。


「グルゥ(やっぱり主人に撫でられるのが1番嬉しい)」


 可愛い奴め!

 2人の可愛い姿が見れてほっこりした。

 俺は満足だ。

 ヘスティアはちゃんと俺の所に戻ってきた。


「行こう」


 そして再び山を下り始める。

 しばらくすると、ロックリザードが再度現れた。

 今度は1体だ。

 俺はさっきの考えを実行しようと、無言でスペースロックを発動させようとする。

 すると、俺の思い通りに魔法は発動してロックリザードはその動きを止めた。


「おお、無言でもロックリザードの動きを止められたぞ」

「グルゥ(主人も強くなった)」

「確かにそうだな。 よし、じゃあアスラ「がう!」ん?」


 アスラにロックリザードを攻撃するように言おうとしたらヘスティアが突然声を上げる。


「ヘスティアどうした?」

「がうがう」


 ……全然分からん。

 まだ出会ったばっかりだし、しょうがないか。


「グルゥ(ヘスティアは攻撃したいみたい)」

「そうなのか?」

「がう!」


 元気良く頷くヘスティア。

 どうやら攻撃がしたいらしい。

 まぁさっきの戦闘でレベルも上がっただろうし、ヨエムの言う通りならばヘスティアの火は強力っぽいから俺たちが注意していれば一回くらい攻撃しても大丈夫か。


「よし、じゃああいつに向かってファイアーブレスだ」

「がう!」


 ヘスティアは俺の腕から飛び上がって息を吸う。

 俺はそれに合わせて空間の固定を解除。

 そして――


「があああああ!」


 ボオオオオオォォォォォォ!!


 ヘスティアの小さな口から出たとは思えない蒼い火は大きく広がりロックリザードを数秒で消し飛ばした。


「えぇ……」


 マジか。

 あまりの火の強力さに愕然とする。

 火の威力を何倍にもするって聞いてはいたが、まさかこんなに蒼炎が強力だとは思わなかった。

 ロックリザードが数秒だもんな。

 火力高すぎる。

 ファイアーブレスを吐き終えたヘスティアはパタパタと俺の前までやって来て、キラキラした目で俺を見る。


「す、凄いなヘスティアは」

「がう!」


 褒めて頭を撫でるとヘスティアはご満悦だ。


「グルゥ(ヘスティアも強い)」

「……そうだな」


 これで火力のヘスティア、防御のアスラ、支援の俺、とパーティーとしては良いんじゃないだろうか。

 あとは回復役でも居れば完璧だな。

 まぁ俺はバフとかは無いけど。

 とか考えているとヘスティアが俺の腕の中に戻ってきた。


「じゃあ次から敵が出たら偶にヘスティアに攻撃を任せようか」


 完全に任せるのはまだ心配だからな。


「グルゥ(分かった)」

「がう」


 それからはアスラがメインでロックリザードに攻撃して、偶にヘスティアに攻撃させるという感じで戦闘をこなす。

 戦闘を終えてレベルが上がる度にヘスティアの火力が上がっていくのには驚いた。

 そうして山を進んでいると、山の入り口にたどり着く。


「戻ってきたな」


 ヘスティアは山を下りるには始めたなのか、周囲を見ては楽しそうにしている。

 さて、これからどうしようか?

 先に考えていた通りにヘスティアのレベル上げでもするか?

 でも、今のヘスティアの火力で十分なんだよなぁ。

 今の時間は14時か。

 今からウスルに戻ったら17時過ぎ。

 17時過ぎたら陽が落ちて暗くなるし、帰った方が良いか。


「じゃあ街に帰るか」

「グルゥ(うん)」

「あ、ヘスティア。 もうモンスターは出てこないからアスラの頭の上に乗っても大丈夫だぞ」

「がう!」


 俺の言葉を聞いてヘスティアは嬉しそうにアスラの頭の上にパタパタと飛んで乗った。

 やっぱりお気に入りなんだな。


「落ちるなよ? じゃあ出発!」


 俺たちはウスルに向かって歩き始める。

 道中もヘスティアは楽しそうに周囲を眺めていた。



 しばらく歩いていると辺りが暗くなってくる。

 そのくらいでウスルの街が見えてきた。


「ヘスティア。 あれがウスルっていう人間が住んでいる街だ」


 ウスルを指差して教えてあげるとヘスティアは興奮した様子で街を見る。


「街では沢山の人間が居たり色んな場所があるけど、誰かを攻撃したり、知らない人に付いていったり、勝手に1人で行動したりしたら駄目だからな。 あ、もちろんヘスティアに悪いことをした奴がいたら攻撃して良し。 俺が許す」

「がう!」


 ヘスティアは頷いた。

 分かったらしい……多分。

 本当はヘスティアが攻撃したら大変なことになるから、やめた方が良いんだろうけど、ヘスティアはドラゴンだし、その見た目から誰かに狙われる可能性がある。

 だから攻撃を禁止はしない。

 もちろん1番良いのは俺かアスラがヘスティアの傍に居てやって注意することだ。

 そう思いながら俺たちはウスルの門にたどり着く。

 門に居た少ないNPCたちがアスラとヘスティアを驚きの目で見る。

 そういえば、アスラは進化して見た目が変わったから前の姿を知っている人も驚くか。


「がう?」

「ヘスティアのことが可愛くてみんな驚いているんだよ」

「がう!」


 そんなことを話しながら門を抜けるが特に止められることもなかった。

 俺としては楽だしゲームとしては普通だけど、この街大丈夫か?

 まぁいいか。

 さて、どうしようかな。

 冒険者ギルドに行ってドロップアイテムを売るか、先にゴラさんの店に行ってファイアードラゴンの皮のことについて話すか。

 それともログアウトするか。


「うーん」

「グルゥ(主人)」


 考えているとアスラに声を掛けられる。


「どうした……って、なるほど」


 アスラの頭の上でヘスティアがうつらうつらとしている。


「眠くなっちゃったか」


 色々あったから疲れちゃったんだろう。


「ヘスティアを貸してくれ」

「グルゥ(うん)」


 アスラが頭を下げてくれたので、俺はヘスティアを抱っこする。


「ヘスティア、大丈夫か?」

「が……う」


 こりゃ駄目そうだな。

 ヘスティアは動けそうにないし、ログアウトするか。

 運営も余裕を持ってログアウトしてくれって書いてあったしな。


「アスラ、悪いけどログアウトするよ」

「グルゥ(分かった)」


 ログアウトしようと考えてヘスティアを見る。


「あーヘスティアをどうしようか」

「グルゥ(主人、ここに)」


 アスラは翼盾を動かして水平にした。

 そんなことも出来るのか、凄いな。


「悪いな」


 俺はヘスティアをアスラの翼盾の上に寝かせる。


「じゃあ俺はログアウトするよ」

「グルゥ……(うん……)」


 やっぱりアスラは寂しそうだ。

 俺だって寂しい。


「メンテナンスが終わったらすぐに来るからな」

「グルゥ(待ってる)」

「ログアウト」


 俺はアスラを撫でてからログアウトした。

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