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第16話 ヨエム

本当は10万字まで一気に更新したかったんですが、10万字までは毎日更新する気なので途中ですが投稿します。

第16話 ヨエム




 俺たちがロックリザードを倒しながら山を登り続けて更に2時間くらいが経過した。

 そして俺とアスラはついに頂上付近の平らな広い場所にたどり着く。


「やっとここまで来たな」

「グルゥ」

「分かってる」


 この場所に着いてすぐにアスラが奥を首で指し示す。

 そこには奥にある壁に巨大な穴が空いていた。


「洞窟か?」


 その洞窟はとても目立っている。

 しかし、日が当たっているにもかかわらず何故か中は暗くなっていて外からは中がどうなっているのか全く分からない。


「あからさまにあの洞窟に何かがあるって感じだよなぁ」

「グルゥー」


 アスラも同じ考えなのか頷く。

 この広い場所にあの洞窟しかないし、行くしかないか。


「アスラ、あの洞窟に入ろう。 気を付けてな」

「グルゥ」


 俺とアスラは洞窟にゆっくりと近付いて中を少し覗いてみる。

 中は真っ暗で何も見えない。


「やっぱり見えない。 マジックランタンを使うか」


 アイテムボックスからマジックランタンを取り出して灯りを点ける。

 すると、周囲が明るくなって洞窟の中も少し見えるようになったが、それでも暗い。

 奥は全く見えない。

 どうなっているんだ?

 謎だが、進むしかない。


「入ろう」

「グルゥ」


 俺たちは洞窟の中に足を踏み入れる。

 ゆっくりと周囲を警戒しながら進むが、やっぱり視界が悪い。

 1m先も見えない。

 それでも俺とアスラは進み――


「壁か?」


 目の前に赤い独特な壁が現れる。

 入り口は巨大だったのに奥域はあまり無いんだな。

 でも、おかしい。

 ここにはこの洞窟くらいしかないのに中に何もないなんてことはない筈だ。

 もうちょっと辺りを調べてみた方が良いか。


「もしかしてこの壁に何か秘密があったりしないかな?」


 赤い独特な壁なんだし何か秘密があってもよさそうだ。

 何処かにスイッチでもあって触ったら壁が開いたりしないか?

 俺は壁に手を伸ばして――


「え?」


 目の前の壁が触れてもいないのに突然開く。

 そして中の何かが動いた。

 時間は数秒――その短い時間で動いた物が何か理解した俺は……


「アスラァ外へ逃げろぉぉぉ!!」


 力一杯叫んでアスラに逃げるよう伝える。

 それと同時に俺も動いた物に背を向けて逃げ出す。

 早く外へ出なくてはッ!

 動いた物……あれは眼だ。

 アスラよりも大きい巨大な眼だ!

 それが俺を見た。

 その瞬間、悪感がして逃げなくてはいけないと思った。

 背後で動く何かを感じながら俺は外へ向かって走る。

 出口ではアスラが俺を待っていた。


「アスラ逃げろ!」

「グルゥ!」


 しかし、アスラは動かない。

 俺を待っているのだ。

 馬鹿野郎!

 結局、俺とアスラは一緒に洞窟を出た。


「ハァハァ……」


 ステータスが上がって身体能力が上がっているので、こんな短い距離を走って息が上がる筈はないのだが、自然と息が荒くなる。


「ハァハァ……ぐあっ!」


 そのまま走って広場の中心に着いた時、俺は足がもつれて転んでしまう。


「グルゥ!」


 少し前を走っていたアスラが反転して俺の所に戻ってくる。

 クソッ!

 俺の馬鹿が。

 どうしてこんな所で転ぶんだよ。

 アスラが戻ってきちゃったじゃないか。


「グルゥ!


 アスラは俺を一度見ると移動して俺を背に洞窟側を向いて姿勢を低くし何時でも戦える状態になる。

 アスラは俺を守る為に戦う気だ。

 あの巨大な何かと。


「ハァハァ……覚悟決めるか」


 どうせアスラに逃げろって言っても俺を置いて逃げる訳がない。

 なら俺も一緒に戦う。

 1人よりも2人の方が生き残れる確率が高い筈だ。

 俺は身体を起こして洞窟を見る。


 ゴゴゴッ!


 すると、洞窟から大きな音が聞こえてくる。

 そして、俺が見た巨大な眼の正体が洞窟から姿を現した。

 体長40m、いや50mを超えているかもしれない巨体に全身を覆う赤い鱗。

 頭部の二本の巨大な角に俺が見た巨大な赤い眼。

 大木のような四肢に背中からは飛膜の巨大な翼。

 それに太い尻尾。

 その生物は翼を広げて口を開く。


「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 あまりの大音量に膝をつきそうになるが、踏ん張って耐える。


「マジかよ」


 俺たちの前に姿を現したのは間違いなくドラゴンだった。

 俺の求めていたドラゴンだ。

 その姿を見て思いがこみ上げる。

 アスラ以上の迫力、強者の風格。

 俺は心の底から感動し喜びが溢れ出す。

 しかし――


「あ、あれ? おかしいな……どうして……どうして震えているんだろう」


 俺が会いたかったドラゴン。

 感動して喜んでいる筈なのに身体が震え出して止まらない。

 必死に止めようとするが、駄目だ。


「誰だ? 儂の住処に土足で入ってきた者は」


 そうして震えていると、なんと赤いドラゴンが喋った。

 その声は人間でいうと老人のような声であったが、力強いものだ。

 そこで赤いドラゴンの詳細が出ていることに俺は気が付く。

 マーカーは赤。

 表示されているものは殆ど???としか表示されていない。

 ただ1つ名前だけは表示されていた。


「……エルダー・ファイアードラゴン【ヨエム】」

「ほぅ」


 赤いドラゴンが俺を見て目を細める。


「如何にも、儂はエルダー・ファイアードラゴンのヨエム。 お主たちは……弱きヒューマンに幼きドラゴンか。 珍しいのぉ」


 そう言ってすぐにヨエムは首を横に振る。


「いや、お主はヒューマンではないな。 我らの血を引く者じゃな。 これまた珍しい」


 すぐにヨエムに俺の種族が見抜かれる。

 次にヨエムはアスラを見る。


「幼きドラゴンよ。 お主がそこの男を守ろうとしているのは分かる。 じゃが分かっている筈じゃ。 お主では儂に手も足も出ないことがの。 その証拠にお主の体は震えておるではないか。 体は正直じゃな」


 え?

 今も俺の前に立って俺を守ろうとしてくれているアスラを見る。

 そこで初めて気が付いた。

 アスラが震えている。

 今までモンスター相手に一歩も引かなかったあのアスラがだ。

 恐怖しているんだ。

 それでも俺を守ろうと。


「ふーむ。 今ならお主を同じドラゴンのよしみで見逃してやっても良い。 どうじゃ?」


 ヨエムにそう提案されたアスラ。

 それでもアスラは俺の前から動こうとはしない。

 アスラ……お前は。

 そこまでして俺を守ろうとしてくれるのか。

 何がドラゴン大好きだ。

 何がドラゴン狂いだ。

 今の俺はただアスラの背で震えるだけ。

 自分が情けない。

 アスラを守りたい。

 アスラに守られるのではなく、俺が!

 だから、俺は――


「……何のつもりじゃ? 弱き者」

「へへっ」


 俺はアスラの前に立っていた。

 アスラを守る為に。

 既に震えは止まった。

 もう……怖くはない。


「まさか幼きドラゴンを守っているつもりか? お主が?」

「そうだ、悪いか?」

「……」

「これは所詮ゲームだ。 俺が死んでもアスラが死んでもまた会えるだろう。 でも俺はさ、嫌なんだよ。 俺の前で大切な者が死んでいくのをただ見ているってのは。 こういうのはゲームでも現実でも変わらないんだ。 俺にとってアスラはただのデータじゃない! だから俺は戦う! 結果は変わらないかもしれない。 それでもアスラを先に死なせはしない! ……お前には分からないかもしれないけどな」


 こんなことゲームのモンスターに言っても意味なんてないと思うけど。

 まぁ覚悟は決めた。

 あとは俺に出来ることをするのみ。


「……分かる」

「え?」

「儂にもよく分かる」


 絶対に伝わらないと思っていた。

 だからヨエムのその言葉に情けない声を返してしまう。


「死んでも少しの間会えないだけ。 それでも主人を守りたい。 死なせたくはない。 仮初めの世界でも今はここが儂らの現実。 それが当たり前じゃ」

「どうして……」


 どうしてヨエムに、モンスターにそんなことが分かる?

 何故、これがゲームだと理解している?

 沢山の疑問が俺の頭に浮かぶ。


「だから、分かってる筈じゃ。 何時まで主人の後ろで震えておるのじゃ。 お主の想いはその程度なのか?」


 次の瞬間、アスラが俺の前に立っていた。

 もうアスラの震えは止まっている。


「ガァァァァァ!」


 アスラは吼える。

 自身を鼓舞するように。


「よくぞ吼えた。 それでこそドラゴンじゃ。 主人を守りたいのならば、力を見せよ。 せめて儂に傷1つ付けてみよ」

「ガァァァァァ!」

「アスラ!」


 アスラはヨエムに向かって走り出した。

 戦うつもりだ。

 俺を守る為に!


「ならば俺も!」


 ヨエム相手に何が出来るか分からない。

 死ぬかもしれない。

 でも、俺も戦う!

 守られているだけは嫌だ!

 アスラの援護くらいはしたい!

 俺もアスラに続いて走り出した。


 アスラはヨエムの左前脚に突進して体当たりをする。

 しかし、ヨエムの脚はビクともしない。

 アスラに向かってヨエムが右前脚で踏みつけようとする。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉスペースウォールゥ!!」


 全力で魔力を込めてヨエムの右前脚に壁を作る。


「アスラ!」


 パリィィィン!


 一瞬しか壁は持たなかったが、その一瞬でアスラはヨエムの左前脚から移動していた。

 良かった。

 次にアスラはヨエムの後ろに移動して尻尾に乗った。


「おお?」


 そのままアスラはヨエムの尻尾を駆け上がる。

 アスラはヨエムの体に乗る気だ。

 でも、このままではヨエムに振り落とされてしまう。

 そうはさせない!


「スペースロック!!」


 今までの何倍も魔力を込めてヨエムの尻尾を止めるイメージで魔法を発動する。


「ほぅ」


 何とかヨエムの尻尾の動きは止まった。


 パリィィィン!


 しかし、止まったのは数秒。

 でも、その数秒で十分だ。


「グルゥ!」


 アスラは既にヨエムの体に乗っていた。

 信じられないような速さだ。

 そのままアスラは走る!

 目指すは――首か!

 アスラはヨエムの首に思いっきり噛み付いた!


「痒いもんじゃ」


 しかし、ヨエムには全くダメージが入った様子がない。

 でも、アスラならいける筈だ。

 ならば俺が時間を稼ぐ!

 俺は走りながらたった2回の魔法で空になったMPを回復する為にアイテムボックスからMP下級回復薬を2個取り出して飲んで瓶を投げ捨てる。


「龍化!」


 ヨエムの右前脚にたどり着いた俺は龍化を発動して変化した右手を右前脚に叩き込む!


「ほっほっほ」


 やっぱり効いている様子はないが、注意は少し引けている。

 だが、足りない。


「おら! 攻撃してみろ! 怖いのか!」

「安い挑発じゃな」


 MPが切れて龍化が解ける。

 クソッ。


「ガァァァァァ!」


 なんだ!?

 アスラに何かあったのか!?

 俺は少し下がって首を見るとアスラがヨエムに噛み付いたままアースブレスを放っていた。


「アスラ!」


 アスラは自身のアースブレスでとても辛そうにしているが、それでもヨエムの首から離れない。


「……」


 ヨエムは黙り動かない。

 アスラのHPを確認すると、どんどんと削れていっている。

 このままじゃまずい。


「アスラ! もういい! 離れろ! 死んでしまうぞ!」


 しかし、アスラはヨエムの首から口を離さないしアースブレスも止めない。


「もういい! やめてくれ! アスラァ!」

「……ふん」


 そこでヨエムが首を振る。

 それだけでアスラはヨエムから振り落とされて地面に転がった。


「アスラ!」


 すぐにアスラに走り寄る。

 アスラのHPは回復していっているが酷いものだ。


「グルゥ……」


 アスラは動けそうにない。

 それでもアスラは俺を守ろうと動こうとする。


「もういい……あとは俺がやる」


 俺はアスラの体を一度抱いてからアスラの前に立つ。


「俺が相手だ」


 再び覚悟を決めてアイテムボックスからMP下級回復薬を取り出す。


「ほっほっほ。 もう十分じゃよ」


 しかし、ヨエムはそう言って笑った。

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