第12話 アイテムボックスの謎
今回から前書きに軽い内容を書くのをやめます。
前の方が良ければ戻しますが。
第12話 アイテムボックスの謎
ピピピッピピピッ!
「あー……朝かぁ……ねみー」
スマホのアラームで目を覚ました俺は反射的にアラームを解除する。
「あー……おきな……」
あまりの眠さに再び眠りについてしまいそうになるが、脳裏にアスラの姿が思い浮かび、俺は身体をなんとか起こした。
「眠すぎる……でも、ログインしたい」
このままだと再び眠ってしまうので、俺はシャワーを浴びて目を覚ますことにする。
VR用のベッドから立ち上がり、脱衣所に行って服を脱いでカゴに適当に放り込んでシャワーを浴びる。
その後、綺麗なパンツとシャツを着てソファーにドカっと座った。
「ふぅー。 何とか目は覚めたな。 まぁまだ眠いけど、これならゲームが出来るだろ」
時間は6時15分。
どうしよう?
すぐにRDWにログインしたいところだが、朝食も食べておきたい。
お腹はあまり空いてないけど、朝食抜くとキツイからなぁ。
とりあえずコンシェルジュさんに頼んでみようか。
受話器を取り内線でコンシェルジュさんに連絡する。
『御用でしょうか?』
出たのは昨日と同じく大城さんだった。
大城さん早いな。
もしかして昨日から居るのかなぁ。
てか、このフロアのコンシェルジュさんが大城さんなのは分かるんだけど、他にこのフロア担当のコンシェルジュさんって居ないのか?
そういえば何時も内線で出るのは大城さんだ。
そんなことを考えつつも用事を言う。
「朝食を用意出来ますか? 出来るだけ速いと良いんですけど」
『かしこまりました』
「お願いします」
大丈夫なようだ。
受話器を戻して再びソファーに座る。
「あ、ズボン履いとこ」
昨日と同じように慌てたくはないので、ソファーから立ち上がって綺麗に畳まれたズボンを取り、履いた。
ピンポーン。
そうしているとインターホンが鳴る。
はやっ!
まだ5分も経ってないぞ。
驚きながらも玄関に行って扉を開けると、昨日と同じようにトレーを持った大城さんが立っていた。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
「朝食をお持ちしましたので、テーブルに置きますね」
「はい」
大城さんは俺の部屋に入ってテーブルにトレーを置いた。
トレーの上にはサンドイッチが乗っている。
「シャワーを浴びたようですので、洗濯物を持って行きます」
だから何で分かるんだよ。
謎に思いつつ大城さんが脱衣所からカゴを持ってくるのを見る。
そこで大城さんが何故か俺の顔をジーっと見る。
「……あのーなんですか?」
「疲れているようですね。 ゲームですか?」
「あ、はい」
何で分かるんだよ。
そんなに疲れた顔をしていないと思うんだけど。
「もしかしてRDWですか?」
「え?」
「違いましたか」
「いえいえRDWです!」
まさか大城さんの口からRDWのことが出るとは思わず、つい固まってしまった。
「大城さんもRDWやってるんですか?」
「いえ、私はやってないんですけども、弟がよく言っているので」
「弟さんが」
「はい。 RDWは最高だけど、金が無くなるって言ってましたね」
「確かにそうですね」
そこでさっきのことを大城さんに聞いてみることにする。
「そういえば、大城さんの他にこのフロア担当のコンシェルジュさんって居るんですか?」
「コンシェルジュは50名程居ますが、このフロア担当は私を含めて3名です。 ただ、このフロアメインなのは私だけですが」
そうだったのか。
全く知らなかった。
他にも居たんだな。
「そうだったんですか。 大城さん、昨日も今も居ましたし、他のコンシェルジュさんを見ないから大城さんだけなのかと思っちゃいましたよ」
「偶々です。 私が休みの日もありますから、その時に他のコンシェルジュに会えるでしょう」
別に大城さん以外のコンシェルジュさんに会いたい訳ではないんだけど。
「では、私はこれで失礼します」
「ありがとうございます」
大城さんはそう言ってカゴを持って出て行った。
「あ、やべ」
大城さんとの会話でRDWに早くログインしたいの忘れてた。
時間は6時25分。
俺は速攻でサンドイッチを口に詰め込んで冷蔵庫からペットボトルの紅茶を取り出して喉に流し込んだ。
「急げ急げ!」
ペットボトルを冷蔵庫に仕舞ってから寝室に向かう。
すぐにVR用ベッドに寝転がりVRゲーム機の端末を頭に装着、スイッチを入れる。
「RDW ログイン開始!」
俺はゲームの世界へと旅立った。
♢
RDWにログインした俺の視界にアスラの顔が飛び込んでくる。
「グルゥ!」
「うおっ!」
アスラが俺の身体に頭をスリスリする。
いつものやつだ。
俺はそれに応えて撫でてやる。
「お待たせアスラ」
「グルゥー」
アスラは大丈夫だと言うように鳴いた。
可愛い奴め!
さて、今日はまず何をしようか?
とりあえず、冒険者ギルドに行ってロックリザードのドロップアイテムの売却だろ。
いや、ロックリザードのあの岩のような鱗って防具とかに使えるのかな?
それなら少し取っておいた方が良いよなぁ。
でも、金もないし売りたい。
そこら辺は冒険者ギルドに行って聞いてからだな。
あとはMP回復薬だ。
もう俺が持っているMP下級回復薬は1個しか残ってないし補充しておきたい。
ついでにHP回復薬も幾つか欲しい。
もしもの時の為に。
まぁこの街で回復薬が売っている場所を知らないから、これも冒険者ギルドで聞かないとな。
その後はゴラさんの所に顔を出そう。
金が残っていれば新しい防具とか何かのアイテムを買っても良いしな。
そしたらまた山に行ってロックリザードでレベル上げだ。
早く山の頂上に行きたいけど、焦って失敗するのも嫌だから最低でもロックリザードのレベルを超えるくらいのレベルまで上げたい。
そこまで行けば、もうロックリザードが2体出てこようと苦戦はしない筈。
よし、決まりだ。
「アスラ、まずは冒険者ギルドに行くぞ」
「グルゥ」
アスラと触れ合いながら計画を立てた俺は触れ合いを終えてアスラと共に冒険者ギルドに向かって歩き出す。
そして昨日来た冒険者ギルドに着く。
いや、ゲーム内時間で言えば一昨日か。
そんなどうでもいいことを考えながらアスラと冒険者ギルドに入る。
何時ものように視線が集まるが気にせず進む。
カウンターには一昨日居た受付嬢が同じように立っていたので、近付く。
「こんにちは」
「こんにちは。 一昨日ぶりですね」
「はい。 ちょっと山に行ってまして」
俺がそう言うと受付嬢は俺のことを面白い奴を見るような表情で見てくる。
「ドラゴンが出るって聞いたのにわざわざ行ったんですか」
「ははは……」
そこで受付嬢はアスラに視線を移すと笑みを浮かべる。
「なるほど。 物好きな人ですね」
どうやらこの受付嬢に俺がドラゴンを追いかけて何をしようとしているのか気が付かれたようだ。
「いやぁドラゴンが好きでして」
「人の勝手ですけど、命は大事にしてくださいね」
「はい」
冒険者ギルドの受付嬢にそんなことを言われるとは思ってなかったな。
「それで今日はドロップアイテムの売却ですか?」
「はい。 ロックリザードを結構倒したので。 それでロックリザードのドロップアイテムの鱗なんですけど、これって防具とかに使えますかね?」
受付嬢は首を横に振る。
「使えないこともないですが、止めておいた方が良いですよ」
「どうしてです?」
90レベル超えのドロップアイテムで防具を作れるなら強いと思うんだけど。
「ロックリザードの鱗で防具を作ると、見た目が岩の塊みたいになって重いし動きも阻害されるしで良いこと無しです。 前に作った人が居ましたけど、加工費だけ無駄にかかって後悔してましたよ」
マジか。
これで防具作れれば強いと思ったんだけどなぁ。
勿体無い。
でも、じゃあロックリザード鱗って何に使うんだ?
「じゃあロックリザードの鱗ってどうするんです?」
「ロックリザードの鱗は錬金術の素材に使われますね。 詳しくは知りませんけど、鱗の中にある少量の素材を取り出して使用するみたいですよ」
錬金術の素材だったのか。
それじゃ俺には関係ないな。
「どうします? こちらで売却しますか?」
どうせ持ってても使わないだろうし、邪魔になるから売ってしまおう。
「じゃあ全部売却します」
「分かりました……あ、ちょうどロックリザードの鱗10個の納品依頼が一件ありますので受けますか?」
「お願いします」
「では、カウンターにアイテムを出してください」
俺はマジックバッグからロックリザードの鱗を38個取り出してカウンターに置いて、次にアイテムボックスから4個取り出して置く。
「ん?」
そこで受付嬢が目を見開いて驚いた表情で俺を見ていることに気が付いた。
何だろうか?
何かしたかな。
「今のって……まさか空間魔法ですか?」
「そうですけど」
興奮気味に受付嬢が聞いてくる。
空間魔法に驚いていたのか?
「うわー珍しい。 冒険者さん空間魔法使いだったんですね! ドラゴンも連れているのに!」
「そんなに空間魔法って珍しいんですか?」
「ドラゴンを連れているよりは珍しくないですけど、空間魔法って使えたらそれだけで仕事に困らないですし何処からも引っ張りだこですよ!」
確かに空間魔法って便利だよな。
何処にでもアイテムを多く運べるし。
仕事に困らないってのも納得だ。
でも、意外だったな。
アスラにも驚かなかったこの受付嬢が空間魔法で驚くなんて。
「それに空間魔法使いが育って時空間魔法使いや空間転移魔法使いになれば出世も夢じゃないです!」
「うん?」
時空間魔法は使えるから分かるけど、空間転移魔法って初めて聞いたな。
何だろう?
「時空間魔法は分かるんですけど、空間転移魔法って何ですか?」
「知らないんですか!? 空間転移魔法っていうのは空間魔法に加えて、離れた場所に人や物を一瞬で移動させることが出来る魔法ですよ!」
なるほど。
何処にでも転移出来るなら凄い魔法だな。
転移か……いいなぁ
転移出来ればここから山まで一瞬だろうし、移動の時間を考えなくて良いって楽だよな。
時空間魔法使いが育ったら時空間転移魔法使いなんてのにならないかなぁ。
そういえば、この受付嬢は空間魔法を知っているみたいだしアイテムボックスの拡張とかについて何か知らないかな?
聞いてみるか。
「俺が今やった異空間に物を仕舞う魔法について何か知りませんか?」
「え? どうしてですか?」
不思議そうに受付嬢が言う。
空間魔法使いが空間魔法のことについて聞くんだから、そりゃ不思議に思うよな。
「実は俺って自分以外の空間魔法使いに会ったことがなくて空間魔法についてよく知らないんですよ」
「どうやって空間魔法使いになったんですか?」
「それは……何となくなれちゃった的な?」
「はぁー」
受付嬢が大きなため息をついた。
やっぱり駄目か?
「ドラゴンなんて連れてるし冒険者さんは普通とはちょっと違うんでしょうね。 良いですよ。 具体的に何が聞きたいんですか? 前にこのギルドに空間魔法使いが居たので、それなりに私は詳しいですよ」
ラッキーやった!
しかも、空間魔法に詳しいってかなり運が良いな!
「さっきも言ったんですけど、異空間に物を仕舞う魔法に困ってまして。 具体的にはその空間を大きく拡張したいんですけど出来ないんですよね」
「なるほど。 それって空間魔法使いがよくやる失敗らしいですね」
「え?」
そうなの?
「なんでも異空間に空間を創る魔法っていうのは、創る時には少ない魔力である程度の空間を創れるらしいんですが、創った後から広げるにはかなりの技術と魔力が必要なんだそうです」
やっぱり難しいのか。
「なので普通空間を広げたい場合は一度創った空間を破壊してからもう一度異空間に空間を創り直すのが良いらしいですよ」
「なるほど」
そういうことだったのか。
なら俺も成長したしアイテムボックスを一度創り直した方が良いんだな。
「ただ、熟練の凄腕空間魔法使いに成れば後から空間を広げる方が簡単になるとか言ってましたね」
はぁー。
そういうもんなのか。
まぁ俺はまだまだヒヨッコ魔法使いだからな。
「これで疑問は解決出来ましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「では、ドロップアイテムの売却の方に戻りますね」
あっ!
すっかり忘れてた。
「納品依頼の報酬が270,000R。 32個売却で800,000R。 合計で1,070,000Rですね」
受付嬢がせっせとロックリザードの鱗を運んでから大量の金をカウンターに置いた。
それにしても100万超えたか。
稼いだな俺。
俺はカウンターの上の金を受け取る。
所持金が1,070,800Rになった。
間違いないな。
あとは回復薬の補充の為に店の場所を聞かないと。
「あとは何かありますか?」
「回復薬が欲しいんですけど、売っている場所を教えてもらえますか?」
「回復薬ですか。 この街に錬金術師さんが直営しているお店は無いので、こちらで委託販売してますよ」
冒険者ギルドで回復薬売っているのか。
店を探さなくて済んだな。
「ただ、回復薬は高いですよ? まぁ一回に100万R以上稼ぐ冒険者さんにとっては安いと思いますけど」
「いくらですか?」
「こちらで販売しているのは初心者回復薬が1個5,000R。 下級回復薬が1個20,000Rですね」
高っ!?
……まぁでも下級回復薬が売っていたのは幸運か。
今の俺じゃ初心者回復薬なんて使っても大した意味無いしな。
だって初心者回復薬って50しか回復しないし。
HP下級回復薬は4個あるからあと6個買って、MP下級回復薬は1個しかないから19個買っておこう。
「じゃあHP下級回復薬6個とMP下級回復薬19個下さい」
「分かりました」
受付嬢がカウンターの上に下級回復薬を運んでくる。
「全部で500,000Rですね」
うわー。
せっかく100万稼いだのに一気に50万も飛んでいったよ。
まぁまた稼げば良いけど。
俺は500,000Rをカウンターに置いてマジックバッグに下級回復薬を仕舞う。
ついでにアイテムボックスの中の下級回復薬もマジックバッグに移しておく。
本当はアイテムボックスの中が良いんだけど、容量が14しかないし、一緒の場所の方が使いやすいしね。
「使用した小瓶ってありますか? あれば100Rで買い取りますよ」
「あ、あります」
実は小瓶は5個あったのだが、その内の2個を落として割ってしまった。
100Rで買い取ってくれるんなら割らずに持ってくればよかったか。
俺はカウンターにアイテムボックスから小瓶を3個取り出して置く。
「はい。 では、300Rです」
これで俺の所持金は571,100Rだ。
これだけあればゴラさんの所に行っても何か買えるだろ。
「じゃあ用は済んだので俺たちは行きますね」
「はい。 また」
受付嬢は綺麗にお辞儀した。
「アスラ行こう」
「グルゥ」
俺とアスラは受付嬢とその他のNPCに見送られ冒険者ギルドを出た。