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第1話 Real Different World

新作です。


相変わらず投稿速度は遅いですが、数話のストックがあるので無くなるまでは毎日投稿します。

最初の数話は文字数が多く説明があります。

感想とか励みになりますので、待ってます。

よろしくお願いします。


第1話 Real Different World




 幼少期や青春時代に物語の中に当たり前に1ジャンルとして存在していたVRMMOという物。

 それは仮想現実の世界……つまり人為的に作られた現実のような仮想空間を舞台にするオンラインゲームの事だ。

 そして決まって物語の中ではファンタジーな世界が舞台で、しかも現実と大差ない五感を感じられるとされている。


 そんな夢のようなゲームの話にゲーマーだけでなく様々な大人や子供が魅了されたもんだ。

 もちろん俺もその中の一人。

 ただ、当時は据え置き型ゲームの3Dグラフィック技術が発達し始めていたくらいだったので、VR技術なんて遠い未来の事だと殆ど諦めていた。


 しかし、科学技術という物は俺の予想以上に発展を遂げていく。

 そして、とうとう数年前にVR技術が実用化された。


 当時はそれはもう驚いたものだ。

 なんせVR技術が実用化されるなんてずっと未来の事だと思っていたからな。

 これはVRゲームが来るのではないか?

 俺の中で諦めていたVRMMOのゲームをプレイするという夢が再び浮上してくる。


 思った通りに実用化されたVR技術はゲームにも使われる。

 俺は発売されたVRゲーム機を朝から並んで買い、VRゲームを遊びまくった。

 しかし、満足は出来なかった。

 何故なら発売されたVRゲームはどこか作り物じみていたし五感が微妙で俺が思っていたまるで現実のような世界というには程遠かったからだ。

 それに何より俺はVRMMOがやりたかった。


 そんな中、俺が30のおっさんになった頃にアメリカで世界初のVRMMOが発表される。

 俺は狂喜し同時に落胆もした。

 その世界初のVRMMOはサーバーの関係でアメリカでも一部の地域でしかプレイ出来ないようだ。

 だが、その後の情報でそのVRMMOは大した物ではなかったらしいことが分かったので落胆は小さかった。


 そして1年前。

 とうとう完全国産のVRMMORPG【Real Different World】が開発中であることが発表される。

 それと同時に発表された情報と一つの映像が世界中を驚愕させた。

 その映像……そこにはファンタジーなのにまさしく現実があった。

 しかも、Real Different World通称RDWは専用のVR機を開発した事によって現実と変わらない五感を感じる事に成功したらしい。

 これに対して世界は「流石は変態の国だ」と称賛したとかなんとか。

 それは褒めているのか?


 間違いなくこれは俺が待ち望んでいたVRMMOだ。

 必ずプレイしてやると意気込みワクワクしながら続報を待つ。

 ――そして、とうとう来た。


 βテストの開始する為、βテスターの募集。



「長かった……」


 俺がVRMMOを夢見てから何年が経っただろう?

 気が付けばもう30を過ぎたおっさんだ。

 それでも待ち続けた。

 次々に発表されるRDWの情報は全部チェックした。

 RDWでは驚く事にゲームの中では時間が4倍で進む。

 だから夜しかプレイ出来ない社会人と学生との差を埋める為に従来のMMOのように課金要素もあり、特にキャラメイクを理想の物にするならかなりの金が必要らしい。

 なので金も貯めた。

 その額、なんと300万。

 平社員のおっさんからしたら貯めた方だろう。


 そしてもうすぐRDWのβテスト当選者発表の時間だ。

 俺は机の前に座り、パソコンの画面の前でメールを待っている。

 公式サイトによるとβテスト当選者発表は明日の0時ピッタリに登録したメールアドレスに送られると載っていた。

 画面の時刻を見る。


 ――23:55


 あと5分。

 あと5分で決まる。

 心臓がバクバクとする。

 βテストの当選者すれば、それはもう最高に良い気分だろう。

 だが、仮にだ。

 万が一落選してしまったら俺はどうなってしまうんだ。


 額から汗が流れ落ちるのが分かった。


「いや、当選する。 俺はβテストに当選するんだ!」


 自分に言い聞かせ鼓舞する。


 23:56……23:57

 じっと画面を見て待つ。


 23:58

 23:59


 そして――


 00:00


 俺は即座に画面のメール更新ボタンをクリック。

 更新される画面。

 そこには――


「……ない」


 嘘だ。


 もう一度更新する。


 嘘だ嘘だ。


 更に更新する。

 しかし、無情にも画面には新しいメールはない。


「……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は大量の涙を流しながら魂の赴くまま叫んだ。


 ドンドンッ!


 隣人の壁ドンだ。

 何時もはその壁ドンに怯えるが、今は知った事ではない。


「なぜだああああああああああああ!!」


 ドンドンドンドンッ!


 壁ドンが激しくなるが、俺の叫びも激しくなる。

 そこで再び更新ボタンを押す。

 俺としては最後の力だった。


 ピコン!


「え?」


 パソコンの画面には新規メール。

 すぐさま開く。


●Gamazon.co.jp

 スーパーマンデー

 スーパーマンデーセール開催中。

 注目セールが続々。


 それは当選者発表のメールではなく、大手通販サイトのメールだった。


「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫びながら俺はとうとう椅子から崩れ落ちた。


 ピンポンピンポンピンポンピンポン!!


 隣人もどうやら我慢できなかったようで、とうとう俺の部屋のインターホンを連打しだした。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 俺は床に転がりながらあまりのショックに何も考えられなかった。

 そしてそのまま意識が遠くなっていく。



 ピンポンピンポン!


 俺は……。

 インターホンの鳴る音で気が付く。

 どうやら気を失っていたらしい。


「ああああ」


 失意のまま立ち上がって何となくパソコンを見る。

 00:32

 30分も気を失っていたのか……てか、まだインターホン鳴らしてるんだな。

 今の俺なら隣人に罵倒されても何も感じなさそう。


 何となく玄関に向かう。

 そしてそのまま扉を開けた。


「おい! いったい今何時だと思って……る」


 外には怒り顔の隣人さんが立っていた。

 すぐに怒鳴ってきたが、俺の顔を見て言葉を止めた。

 何故か困惑した顔している。

 どうしたんだろうか?


「どうしました……」

「いや……あんたこそどうしたんだよ? 顔が真っ赤だし涙と鼻水で一杯だぞ」


 あぁ。

 それで隣人さんは困惑していたのか。

 今の俺はそうとう情けない顔をしている事だろう。


「……ちょっと来い」


 そう言って隣人さんは俺の腕を掴んで引っ張った。


「え……」


 そのまま隣人さんの部屋に連れて行かれ――


「俺は頑張ったんですよー」

「そうかそうか」

「仕事は大変だし」

「そうだな」

「あ、そうだ。 何時もうるさくしてすみません」

「いや、俺も気が立ってたからな」


 隣人さん……藤さんと朝まで酒を飲み明かした。

 話してみると藤さんは気が強いがとても良い人だった。

 もっと早く話せば良かったな。

 藤さんに話したお陰で少しスッキリしたけど、まだ気が落ちている。

 本当は会社なんて行きたくないが、休むわけにもいかないのでシャワーを浴びてからスーツを着て家を出た。


「俺、RDWのβテスト当選したぜ」

「マジ? いいなぁ」


 通勤中の電車の中で制服を着た男子学生2人がそう話している。

 余計気が落ちた。

 羨ましい。

 譲ってくれないかなー。

 まぁ無理だろうなー。

 そもそもRDWは登録制で譲れないし、もし譲れたとしても譲らないだろう。

 俺だったら譲らないし。


 そこで気が付いた。

 周囲のサラリーマンや学生がみんな男子学生を羨ましそうに見ている。

 みんな考えることは同じか。


 そんな事を思いながら会社に着くとすぐに同僚の山本が寄って来る。


「どうしたんだお前? 目が腫れてるぞ」

「いや、色々な」


 山本に心配されつつ仕事をする。

 しかし、あまり集中できずミスをよくしてしまう。


「今日どうした? 大丈夫か?」

「……すまん」


 再び山本に心配されてしまう。

 この比較的ブラックな会社の中でも唯一話せる山本に悪いと思いながらも、やっぱりしばらくはダメそうだと思った。

 それだけ俺の中でショックが大きかったんだよな。


「ああもう。 お前今日は早退しろ」


 そんな俺を見かねたのか山本がそう言ってきた。


「いやでも」

「いいから家帰って休め。 課長には俺が言っておく」

「すまん、ありがとう」

「今度何か奢れよ」

「ああ」


 結局、居ても邪魔だと思ったので山本の言う通りに会社を早退する事にした。

 しかし、そのまま帰る気にもなれず俺は駅前を適当にぶらついていた。


「はぁー。 どうしよ」


 思えばこの1年間はずっとRDWの為に頑張っていたようなものだ。

 その為に金も貯めたしな。


「ああそうか。 金があったな……どうしようか」


 RDWの為に貯めた金。

 でも、今は使ってしまいたい気分だ。


「そうだ。 パーっと何かに使うか!」


 そうすれば今のこの気持ちもスッキリするかもしれない。

 本当はRDWに正式サービスに向けて貯めれば良いんだろうけど、そんな気にはなれない。

 正式サービスも外れるかもしれないしな。


「そうと決まったら何に使おうか?」


 今更何か新しくやりたいことなんてないし。

 趣味……はゲームだが今は好きなゲームもハマっているゲームもない。

 好きなもの……俺はドラゴンが大好きだ。

 だが、ドラゴンが好きだからってどう使うんだよ。

 フィギュアでも買うか?


「うーん」


 何となく周囲を見回す。

 すると、そこでゲームセンターが目に入る。


「行ってみるか」


 とりあえずゲームセンターに入ることにする。

 ゲームセンターに入った途端に様々なゲームの音が聞こえる。

 このゲームセンターには初めて入ったけど、入り口付近はクレーンゲームエリアみたいだな。

 俺はとりあえず両替機で2000円を100円玉に両替してから何か良い物がないか見て回る。


「おっ」


 何かのゲーム――おそらくソシャゲに出てくるドラゴンのフィギュアが景品になっているシンプルなクレーンゲームを見つけた。

 とりあえず1回分の200円を投下。

 フィギュアの入った箱の上の輪っかにアームを引っ掛ける。

 しかし、箱は少し動くだけでアームが外れてしまう。


「駄目か」


 次はどこにアームを引っ掛けよう。

 もう俺はこのフィギュアを取る気でいた。

 考えを巡らせていると、前にテレビで箱の縁にアームを引っ掛けたり押したりするのが良いと言っていたのを思い出す。


「やってみるか」


 どうせ1回では取れないと思ったので3回分の500円を機械に投下。

 まずは箱の縁に引っ掛けようとアームを動かす。

 目測を誤りアームを外してしまう。


「ああ!」


 もう一度アームを動かす。

 今度は慎重に動かして機械を正面からだけでなく、横からも見た。

 アームが降りていき――箱の縁に少し引っかかるが外れる。


「うーん」


 次に箱の縁をアームで押してみることにする

 再びアームが箱に降りていき――片方のアームが突き刺さった。


「え?」


 そしてもう片方のアームが箱の縁に引っかかる。


「え? え?」


 そのままアームと共に箱が浮き上がり、運ばれていき――


 ガコンッ


 穴に落ちた。


「マジか?」


 機械の景品口を開けてみると中には落としたフィギュアの箱があった。

 それを手に取り見つめる。

 間違いなく俺が取ったやつだ。


「……よっしゃあ!」


 ついガッツポーズ。

 俺の心に達成感と少しの満足感が生まれた。


 しばらくして冷静になる。


「なんか違うなぁ」


 確かにクレーンゲームで少しはスッキリしたが、俺の思っていたのと何か違う。

 というか、これじゃ300万も使えねえよ。

 結局、俺は取ったフィギュアをクレーンゲーム横にあった袋に入れてゲームセンターを出た。


「どうしようかなぁ。 何かないかなー」


 再び駅前に来た俺は周囲を見回す。

 すると、幾つかの宝くじ売り場が視界に入る。


「宝くじ……一攫千金……いいな」


 一攫千金。

 人間なら一度は誰でも夢見ることだ。

 やってみるか?


「運がどん底な俺が買ったらどうなんだろ? もしかしたらマイナスとマイナスでプラスになったり」


 よしっ買おう。

 そう決めた俺はすぐに銀行に行って300万を下ろして、大金が当たる幾つかの宝くじを買いまくった。

 さらにそれでもまだ金が随分と余ったので、いつか株をやろうと思って開設していた口座に金を入れて100株ずつ売っている1株5円の名前も何も知らない会社の株を大量に買い漁った。


「これで俺は億万長者だな」


 口でそんなこと言いつつもあり得ないと思っているが、何故か心はスッキリしていた。



 それから約半年の時間が流れた。


「どうしてこうなった」


 俺の前には幾つかの通帳。

 そこに書かれている残高の合計は数十億円になる。


 始まりは俺がβテストのことを吹っ切って仕事をしている時だった。

 宝くじを買ったことを知っている同僚の山本が今日が宝くじの当選日だということを言っていたので俺は思い出した。

 当たるとは思ってないから完全に忘れてたのだ。

 そこで家に帰り適当につまみを食べながら当選番号を調べて自分のと見比べる。


 ――当たっていた。

 1等6億円。

 思わず俺は咥えていたスルメを落とした。

 しかも、その宝くじの他のクジも幾つか当たっていて――総額9億7千2百30万円。

 俺は数日後の銀行で実際に当選金を貰うまで信じられなかった。


 さらに他の宝くじも続々と当選していく。

 俺は夢だと思って壁に頭を打ちつけて藤さんに怒られた。

 そこでまさかと思いつつあの名前の知らない会社を思い出しながら調べてみるとニュースに何とか装置というのを発明したとかいう記事があった。

 そういえば、朝のニュースでこの会社の名前を聞いて何処かで聞いたことがあると思っていたが……。

 まさか1株5円の会社だとは思わなかった。

 さらにさらにその会社の株がストップ高になり値幅制限の拡大もしていて1株10000円を超えている。

 俺は呆然としつつも持ち株の半分を売った。

 金融庁とか何とか面倒だった。


 そうして今に至る。


 ……怖ええ。

 なにこの幸運。

 ステータスの運極振りかよ!

 いや、極振りでもこうはならないだろ。

 てか、運極振りなら何でRDWのβテスト外れたんだよ!


「やべー。 この金どうしよう」


 これ一生遊んで暮らせるよな。

 何かに使うか?

 とりあえず通帳をしまってからパソコンを起動する。

 何かに金を使えないか探そう。


 プルルルル。


「またか」


 受話器を取る。


『もしもし、こちらは速水商事の「違います」』


 即座に電話を切った。

 金が入ってから知らない所からの電話がやばいくらい掛かってくる。

 なので即座に間違え電話だと伝えて切る。

 これが一番だ。

 前にキチンと話したことがあったのだが、要約すると金を寄越せという内容だった。


 気を取り直してパソコンの前の椅子に座る。


「ん?」


 すると、新規メールが通知されている。

 メールが画面を開く。

 メールの送り主は……ゼーネロウ社!?

 ゼーネロウ社はRDWの運営開発会社だ!


「まさか! まさかなのか!」


 震える手でメールを開く。


●Real Different Worldについて

 この度、Real Different Worldの正式サービス日が決定致しました。

 それに伴い専用のVRゲーム機の発売――


「マジか!?」


 俺はすぐさま公式サイトとSNSを開いてこれが真実なのか確かめる。

 公式サイトのトップには正式サービス決定とあるし、SNSはRDWの話題で一色だ。

 トレンドにもRDWの文字がある。


「決まったな……金の使い道」


 RDWにこの金をつぎ込んでやる!

 待ってろよ、正式サービス!

 いくら掛かっても専用のVRゲーム機を手に入れてやる。


「そうと決まれば」


 まずは情報収集だな。

 βテストに外れてからRDWの情報は集めてなかったし。


「よーしっ! ん?」


 そこで俺のくたびれたベッドが目に入る。


「金もあるしベッドを買い換えるか……いや、待てよ?」


 金はいくらでもあるんだよな。

 それならベッドと言わずに全てを……ゲームを全力でプレイ出来る環境に変えれば……


「最高じゃん。 てか、よく考えたらもう働く必要もないじゃん」


 そこからは早かった。

 すぐに会社の上司に辞表を叩きつけて、同僚の山本に300万の腕時計をプレゼントする。

 山本には急に仕事を辞めることに心配されたが、俺は笑って大丈夫だと答えた。


 次に都内の家賃100万越えの高級マンションに俺のコレクション以外の物を処分して引っ越す。

 家具とかネット回線とかはマンションのコンシェルジュさんに任せた

 すげーよな、全部やってくれんだもん。

 しかも、金は後払いでもいいっていうし。

 ただ、ベッドは自分で選んだ。

 VR用の1200万のやつを買った。

 これは寝ていても筋力の衰えを抑えたりとか色々機能があるやつだ。

 その後、藤さんには高級酒をプレゼントした。

 なのに藤さんはこの酒は俺と飲むと言ってすぐに開けた……俺は少し泣いた。


 次の日から俺はRDWの情報収集を本格的に始める。

 まずは1番大事な正式サービス開始日と専用VRゲーム機の情報だ。

 公式サイトによると正式サービスの開始は2ヶ月後の8月1日から。

 そして専用VRゲーム機はゼーネロウ社の公式通販サイトでのみ販売する。

 ただし、通常の販売ではなくβテストの時のように登録した人間の中から抽選で選ばれた者だけが買えるらしい。

 俺はそれを知るとすぐにゼーネロウ社の公式通販サイトに飛んでログインしてから登録ボタンをポチッた。

 今度こそ当たれよ!


 この事についてSNSでは喜びの声と悲しみの声が混ざり合っていた。

 喜びの声は主にRDWの専用VRゲーム機の値段の安さと通販サイトに張り付いて購入合戦をしなくていい、夏休みだから最高といったものだ。

 専用VRゲーム機の値段は税込み10800円。

 ちなみに今販売している主流のVRゲーム機が35000円くらい。

 いくらRDW専用といってもVRゲーム機としてはかなりの安さだ。

 しかも、これで性能が段違いというのだから驚きだよな。

 あと、βテストに参加した人は抽選無しで買えるらしい。

 くそっ羨ましい。


 そして悲しみは夏休みなんて無ねえよという社会人の声と転売キツイという転売屋の声だ。

 登録制の抽選販売ということで、たった1台でも専用VRゲーム機を手に入れるのが難しい上に買った人間にしか専用VRゲーム機は起動できないので転売が厳しいようだ。

 まぁ絶対に無理ではないらしいが。


 今度はβテストの内容も含めたRDWの情報を集める。



 数日後、俺は集めたRDWの情報を整理することにした。

 まずプレイヤーはシュツル王国とエルガオム帝国という二つの国のどちらかを選ぶらしい。

 そして選んだ国の首都からゲームが始まるとか。

 SNSではシュツル王国の方が今のところ人気があるようだ。


 次にキャラクターメイクについてだが、事前の情報の通りにかなりの課金要素があるらしい。

 ていうか、予想以上に課金出来るようだ。

 俺が集めた情報ではβテストで5万課金した者や10万課金した者、中には100万近く課金した人間も居るとか。

 なんでも、ランダム要素が金を使って何度もやり直せるので自分の理想のキャラクターにするまで多額の金が必要なんだとさ。

 あとβテストではキャラクターメイク以外の課金は出来なかったんだって。

 まぁ俺は全力で楽しむって決めたから100万でも1000万でも1億でも金をかけるがな!


 あとは選べる種族や職業だがβテストで確認されただけでも色々あるらしい。

 その中で俺はテイマーやサマナーといったモンスター使役系の職業に目を付けた。

 何故なら俺はドラゴンが大好きだ。

 だからRDWで出来るならばドラゴンを仲間にしたい。

 という訳で俺はモンスター使役系の職業を目指す。

 ついでにモンスター使役系の職業はモンスターを一体ランダムで貰える、しかも課金ありというのも決め手だった。


 それでゲーム内の話だが、RDWの世界に降り立ったプレイヤーは前情報通りの現実と変わらない五感にみんな驚いたらしい。

 街もまるで外国に行ったような感じで下手な作り物感がなく、今までのVRゲームがゴミに感じる程だったとか。

 NPCたちについては、それぞれが独自のAIを持っていて本当に生きているようで、頭の上のマーカーが無ければ判別出来ないとかなんとか。

 早くプレイしてぇ。


 そしてRDWはMMORPGでは珍しく、HPとMP以外のステータスがマスクデータとなっていてプレイヤーには確認出来ないらしい。

 公式サイトによるとステータスはレベルアップまでにそのプレイヤーがした行動によって上がる数値が変わるので、プレイヤーには公開しないんだってさ。

 それにRDWにはインベントリ――いわゆるアイテムボックスが存在しない。

 これには俺も驚いた。

 その代わりプレイヤーには一つずつマジックバッグが与えられる。

 マジックバッグは空間魔法が付与されたバッグで大きさとかある程度関係なく収納出来る物。

 容量は40個だそうだ。

 オンラインゲームなのに珍しいよな。

 だから、βテスターは物の持ち運びに最後の方で苦労したようだ。


 そういえば、RDWはPK――つまりプレイヤーキルが出来るゲームなんだけど、SNSの情報だと今のところPKの旨味は無いらしい。

 PKしてプレイヤーからマジックバッグを奪っても与えられたマジックバッグは持ち主にしか使用出来ないらしいし、街中でPKをすればNPCに嫌われて下手したら指名手配されるんだと。

 なのでPKは完全な嫌がらせしか出来ないそうだ。

 そこまでしてPKはしたくないよなぁ。


 あとはβテストではβテスターのトッププレイヤーが40後半のレベルまで到達したとか、RDWではスキルが貴重で簡単には手に入らないとかかなー。


「それにしても情報を整理しているとますますRDWをプレイしたくなるな。 早くRDWプレイしたいなぁ」


 俺は座っている椅子の背もたれに寄りかかる。

 早く当選者発表日にならないかなぁ。



 毎日のご飯とか部屋の掃除をこのフロアのコンシェルジュさんに任せて俺はRDWの情報収集をしてダラダラと過ごした。

 そうしているとすぐに日々が過ぎ――


「とうとう来たか。 この日が」


 RDWの専用VRゲーム機抽選の当選者発表日の前日になっていた。

 当選者発表はβテストの時と同じで明日の00:00だ。

 俺はコンシェルジュさんが選んだ高級感漂う真新しい椅子に座り、これまた高級感漂う机の上にあるパソコンの電源を入れた。

 数秒で起動するパソコン。

 画面には現時刻。


「23時1分……あと59分だ」


 まだ時間はある。

 俺はSNSを開いて情報収集の為に作成したアカウントでログインする。


「やってるなー」


 SNSでは早速RDWがトレンドのトップに上がっていて、多くの人間が俺と同じように当選者発表を待っているようだ。

 『待機中』『当たってくれ』『金ならある』といった投稿――呟きが幾つも流れていく。


「俺も呟いてみるか」


 それを見ていて俺も一応このお祭りに参加しようと、まだ一つも呟いてないアカウントで呟くことにした。


『当たれーーー!!

 #RDW     』


「よしっ」


 ちゃんとハッシュタグも付けたぞ。

 そうして時間を潰していると、あっという間に23時50分になった。


「ふぅ〜〜」


 息を吐いてメール画面を開く。

 当たり前だがメールはまだ来てない。

 俺は画面をじっと見て待つ。


 23:51

 23:52


 時間が進む度に身体に力が入る。

 俺が力んでも意味はないんだけどな。


 23:53

 23:54

 23:55


 βテストの時のように心臓がバクバクとする。

 自分の強い鼓動を感じる。


 23:58


 メールの更新ボタンにマウスを動かす。

 額から汗が浮かび流れ落ちた。

 今はタオルで拭いている余裕はない。


 23:59


 あと1分。

 そして――


 ――00:00


「ッ!」


 即座にメールの更新ボタンをクリック!

 メールは!?


 ……ピコン!


「来た」


 送り主、件名を見ずに新規メールを開く。

 内容は――


●Real Different World 抽選について

 このメールはReal Different Worldの専用VRゲーム機の当選者様に送られています。

 沢山の――


「ッツ!?」


 これは……間違いない。

 間違いないぞ!

 間違いなく当選者通知だ!!


「ぃいよぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は椅子から立ち上がって両手を天に突き上げて思いっきり叫んだ。


「フゥーー!!」


 このフロアには俺しか住んでいないので誰にも迷惑はかけない。

 心の思うがままに叫ぶ。


「あ、そうだ」


 叫びまくった俺はSNSでの他の人間の反応が気になったので椅子に座ってパソコンの画面をSNSに切り替える。


『キターーーーーー』『当たったぜ!』『よかった』『よゆう』『いやーーーーーー』『クソアンドクソ』『死ゾ』『誰か売ってくれ』


 SNSには当選者の喜びの声と落選者の悲しみの声が大量に呟かれて流れて続けていた。


『当たりました

 #RDW   』


 とりあえず俺も呟いてみる。

 すると、数人の知らない人からいいねされた。

 それが微妙に嬉しい。


 その後、俺はメールに載っていたURLから専用ページに飛んでクレジットカードで決済した。

 送料別だけど本当に10800円だった。

 安いよな。



 それから数日後にRDW専用VRゲーム機が家に届く。

 箱から出してみると黒と青のイカしたデザインの機械が入っていた。


「カッコイイな。 それに思っていたよりは小さい」


 これなら置き場には困らないだろう。

 取り扱い説明書を読みながらVRゲーム機をインターネットに接続したりしてセットする。

 意外にも簡単にセットできた。


「楽しみだなぁ」


 俺はセットしたVRゲーム機を見てニヤケながらRDWの正式サービスを待った。



 そして、とうとうRDWの正式サービス開始日である8月1日がやってきた。


「ついにきたな」


 正式サービス開始は12時からだ。

 俺はおっさんなのにまるで貰ったプレゼントを開ける少年のようにワクワクしていた。

 朝から気分が盛り上がってしょうがない。

 SNSも今までにない程の盛り上がりを見せている。

 2つの国の内どっちにしようとか、種族や職業は何にするとか、この名前は俺が使うからお前ら使うなよとか色々好き勝手に呟かれている。


「みんな楽しみなんだなー。 早く始まらないかな」


 現在、時刻は11時30分。

 気が付けば正式サービス開始までもうあと30分になっていた。


「そろそろベッドに行こう」


 俺は付けていたパソコンの電源を落として椅子から立ち上がり、寝室に向かう。

 寝室にはVR用のベッドとVRゲーム機しかない。

 俺はベッドの電源を入れてから寝転がってVRゲーム機の端末を頭に装着する。


「よしっ。 あとは待つのみ」


 俺は持ってきていたスマートフォンで時間をこまめにチェックしながら待つ。

 そして――


 11:59


 あと1分。

 俺は端末のスイッチを入れる。

 すると、端末が僅かに光る。

 あとは音声入力でキーワードを言えば大丈夫だ。


 12:00


 きた!

 時間だ。


「RDW ログイン開始!」


 即座にログインキーワードを言うと俺の意識が薄れていく。

 待ってろよ、RDW。

 それにドラゴ――

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