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赤髪の失踪者  作者: はせ
第2章
21/29

2.事件の報告


「――ということがあった」


 ここはいつもの喫茶店である。μ(みゅー)はナツノの対面、マドカの隣に座っている。μ(みゅー)は2人に先日の襲撃事件について、できるだけ詳細に説明した。2人は度々相槌を打ちながら、μの話を聞いていた。


 ウェイターが注文を届けに来る。


「お待たせいたしました」


 ナツノはいつも通りアイスコーヒー、マドカはコーヒーゼリー オン ザ ミルクソフトとアイスコーヒー、μはいつもの通りレモンティーだが、今日はホットではなくアイスティーである。


 コーヒーゼリー オン ザ ミルクソフトなるものは、テーブルに端に置かれた『本日のオススメ』のメニューで、牛乳ソフトクリームの上にコーヒーゼリーが乗ったカップアイスである。


「マドカちゃんは何にする?」という問いに「これ~」とゆるーく指差したものである。写真はカップアイスなのに、パフェ用の器で出てきたのはサービスなのか愛嬌なのか。


 中断された話を再開する。


「そんなことがあったわけね。でも、魔法使いに襲われるなんて、よっぽどのことよ? 襲われたのってどのあたり?」


「んー、街の外れの、」


 スマホを取り出してマップアプリを開き、2人にも見えるようにテーブルに置く。


「ここ。墓地だよ」


「墓地なんかで?」


「まあ、どこからか、尾けられていたんだろうな。人気(ひとけ)もないし、襲うのには好都合そうだし」


「女の子を襲うなんて最低だよね」


 こういう話にはあまり口を挟まないマドカが相槌を打つ。この手の会話には頭が追いつかないし、自分の不要な発言で真剣な会話を止めたくないのだ。


「ほんとね。それで、そもそも何で魔法使いの殺し屋に襲われてるの? もしかして私が巻き込んだ? それなら謝るわ」


「いや、きっと私のせいかと」


「? 何したのよ?」


「暇つぶしにとある会社にハッキングしたら、裏帳簿見つけて、税務署に送っただけ」


「あんたねえ」


 ハッキングなるものがどれほど高度なのか分からないが、以前に、チャットルームの自己紹介欄に


 名前:μ

 年齢:10代

 性別:♀

 職業:スーパーハッカー

 趣味:バイクいじり


 と書かれていたことを思い出す。その時は嘘だと思っていたが、全部、真実だったようだ。


「でもおかしいな。別の会社のPCを踏み台にしたから、足はつかないはずなのに。漫画喫茶から入ったわけだし」


「追跡に特化した魔法使いもいるし、魂をネットに移した魔女だっているらしいわよ。アキが言ってたわ」


 アキとはアキツグのことで、炎の魔法を使うナツノのボディーガードである。特技は燃やすこと、焦がすこと、炭にすること。それしか能がない。ナツノにはアキの名称で呼ばれている。頭はいいが言葉足らずなときがよくある。


 ナツノの説明に、また魔法か……ネットは私の独壇場なのに、という不満をμは飲み込む。


「クラスメイトも巻き込んじゃったし、なんとかしないと」


「クラスメイト?」


「ん。幼なじみの。ケイタってんだけど。偶然、居合わせちゃって」


「ふーん。言えた義理じゃないけど、私もよく人を巻き込んじゃうから、気持ちはよく分かるわ。ところで、ケイタさん、年下ならケイタくんでいいかしら? 頼りになるタイプ?」


「へ? うーん、まあ、空手やってるし。でも、魔法とか関わってくると話しは別だろ?」


「まあ、そうよね。ふむふむ」


 ? 何がふむふむなのだろう。


 マドカは美味しそうにアイスを頬張っている。


「マドカって、摂取カロリー全部、胸に行くの? 羨ましいわ」


「ええ!? わからないけど……」


「なぬ!?また大きくなったの? で、ナツノもこれくらい欲しいの?」


 μがマドカの胸を見ながら言う。


「そうねー。でも別に今のままでいいわ」


「そう? アキツグはもっと大きいのがいい、って言わないの?」


「あのバカがそれ言ったら、私、彼を殺してるわ」


 ナツノの目が怖い。あはは、とμが笑ってごまかす。


 不意に、μがツン、とマドカの胸を突く。「きゃっ」と身をよじらせて短く声をあげる。


「も、もう、μ(みゅー)ちゃん!」


「やっぱり、Dもあると柔らかいよね。これがFになるのか。うーむ。ね、それおいしい?」


「う、うん、おいしいよ? あとDの次はEだよ?」


 マドカのツッコミを無視して「ちょーだい」とアイスをせがむ。


 スプーン乗せて差し出されたアイスを頬ばるμ。「えい」と隙をついて、今度はマドカがμの脇腹あたりにツンとつく。


「にゃあ! ちょ、ちょっとぉ!」


「えへへ、仕返し~」


 へえ、にゃあって鳴くんだ。なんか、ほんと仲がいいわね、とナツノは2人の様子を眺めている。


 グラスを傾け、アイスコーヒーを口に含む。今日のブレンドは、コクを強めて代わりに苦味が抑えられている。アイスでもこういう出し方ができるんだ、とナツノは思う。


 マドカがお手洗いに席を立つ。必然的に、ナツノとμが2人になる。これはチャンスとばかりにナツノが訊ねる。


「ねえ、μさん。あなたさっき、幼馴染で、クラスメイトのケイタくんが、私よりも年下だってこと否定しなかったわよね」


「へ、な、なんで?」


 突然の指摘に困惑する。そういえば、年下であるということを、さらっと話に出された気がする。事実だから、気にもしなかった。


「ということは、あなた、私たちの1個下ということね」


「ぬ。いや、別に秘密にしてたわけじゃないぞ。聞かれなかったから、答えなかっただけだ」


「ふむふむ。それで、最近気づいたのだけれど、あなた、マドカの事、『お姉さん』としてみていない?」


「ぬあ!? な、なんのことかな」


「ふーん。なんだか、友達として接している感じもしないし、恋愛対象としてとも違うのよね。嫉妬心とかそういうの感じたことないもの。へー。やっぱり、そういうことね」


「な、なんだっていいだろ」


 顔を赤くして、目を背ける。


「マドカに甘えたいの?」


「ま、待った! それ以上はダメ、言うな!」


「ただいま、何の話?」


「おかえり、マドカ。μさんがね、」


「だー! 憶測でものを語るなー!!」


「はいはい、わかったわ」


「?」


「マドカちゃんには秘密」


「えー」


「さ、それじゃあ、そろそろ出ましょう。μさん、助けが必要なら言って。アキに頼めばすぐに解決するわ」


 ナツノはキャスケット帽を被り、立ち上がる。


「ん。でもアキツグに頼んだら人が死ぬだろ。それは本望ではない」


 ナツノが苦笑する。


「確かにね。でもケイタくんのこと、これ以上巻き込んじゃダメよ」


「わかってる。今日にでも、謝ってくる」


「μちゃん、頑張ってね」


「おう」


 別れを告げて、ナツノとマドカは店の外にいたアキと一緒に駅へ向かい、μはバイクに乗って帰っていった。


 μはマンションの駐車場にバイクを駐め、ドア横のカードリーダーにカードキーを通して中に入る。エレベーターに乗り、部屋のある階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、上昇する。


「はあ」とため息を吐き出す。外にいると、どこで突然襲われるのかと、気を張ってしまう。


 玄関横の棚にヘルメットを置いて、部屋の中に入る。


「ケイタのところに行く前にシャワー浴びよ」


 脱いだジャケットや諸々を無造作にソファにかけて、バスルームに移動する。


 (ぬる)めのシャワーで汗を流す。


「ふんふん♪」


 ケイタのマンションどこだったかな。確か橋を渡ってすぐだったはずだけど。

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