12.兵器開発 <七日目>
王の見た目は、獣人とも、エルフや吸血種とも異なる。王族の全ては純血種と呼ばれる種族である。その姿は明らかにナツノたちと同じだ。遠い昔、神が自分に似せて純血種を創ったと言い伝えられている。そして、その純血種は、神の行いを模倣して、その他の種族を創ったとされている。
昔、それぞれの国が、こぞって新たな種族の創生に躍起になり、競い合った時代があった。どの種族が最も優れているのか、各国の王たちは、彼らを競わせた。それが100年前の種族間大戦である。最終的に、大戦で生き残った種族は、獣人、エルフ、吸血種だけとなった。新たな種を創生する魔法は、遠い歴史の中に埋もれてしまっており、種族が増えることはもうない。
純血種は、王の座に居座り続けた。そして、王座を他種族に奪われぬように、かつての王たちは、強力な加護の魔法を自身らとこれから生まれ来る子孫に施したのだった。これ以降、獣人、エルフ、吸血種の三種族は決して王族を傷つけることはできない。その歴史もすでに失われており、ただ『女神シンシアの加護』とだけ呼ばれているのである。
* * *
玉座の間、その最上段に王が座している。書記官らは、王の言葉を史実に残すために、一言たりとも漏らさんと筆を走らせている。
最後に王は、宝剣の柄に手をかけ、こうべを垂れる王立騎士団の団長ペレディルに命じる。
「――純血種を撃つという大罪は、一国の滅びによってしか拭えぬ。必ずや、アストレアを討ち滅ぼせ!」
「はっ! ――失礼いたします」
ペレディルは立ち上がり、玉座の間を後にする。近衛の隊長である獅子の獣人グレイモンドは、ペレディルの後を追う。
近衛であるグレイモンドが戦争に参加するのは、最後の最後。王が、敵国の王を打ち取る時のみである。戦で先陣を切るのは王立騎士団の仕事だ。
玉座の間を出たグレイモンドにペレディルが振り返る。
「グレイモンド、どうした?」
「ペレディル、とうとう戦争にまで発展した。この戦、任せるぞ。私は王を守らねばならん」
「アベル様の死が決定的となった。これまでは火種が燻っていただけだったが、アストレアは、油を注ぎ込んでしまった」
「先日の街での一件、その犯人も、アストレアの傭兵だということがわかった。アベル様の件、アストレアの仕業と完全に裏が取れた。弔いのためにも、アストレア国は完全に滅ぼさねばならない。わかっているな?」
黄金の毛並みの奥にあるアンバーの目に炎が灯る――――ペレディルにそう錯覚させるほどの強い意志。
街での一件とは、ボールスの部下、ベルが侵入者を探している際に【カフェ ボヌール】で魔法による不意打ちの攻撃を受けた事件のことである。
結局、犯人3人は、マドカに倒され、騎士団に連れて行かれて、尋問を受けたのだった。
「任せろ。そうだ。その件で言えば、ボールスの隊がヘスティアナの魔導技術を輸入したそうだ。なかなかの破壊力の攻撃魔法だそうだよ」
「ほう。ヘスティアナから――? あの国がそうも簡単に自国の技術を外に出すとは思えないが」
「商人を通じてのことらしい。ボールスもうまくやったものだ」
「ふむ。それでは活躍を期待しよう。必ずや、勝利を」
グレイモンドは玉座の間に戻り、ペレディルは王立騎士団の塔へと向かった。
* * *
シンシアが、そんな緊張状態にあるなどとは知る由も無いナツノらは、今日も王立騎士団の塔に来ていた。ナツノはボールスとの談話に花を咲かせている。
その傍らには、マドカ。マドカは一応、ナツノの護衛ということになっているので、薙刀を縦に握って、静かに立っている。実はうたた寝していたりするのは、秘密である。
μは、この一週間、2人とは別に行動していた。
王立騎士団の塔の地下では、魔法をより破壊力のある兵器とするため、日夜研究がおこなわれている。そこで、μは長い黒髪をポニーテールにして、白衣を着て、新兵器の開発にいそしんでいた。その姿は、さながら本物の研究者のそれである。
「μ様、40発連射式ロケットランチャーのことなのですが」
すでにμは、ここにいる研究者の信頼を得ていた。なぜなら――――。
この世界に500m先、1km先まで届く魔法は存在しない。もしも、ロケット弾の弾頭に魔法陣を封印し、着弾と同時に展開する仕掛けを作れたなら、長距離からの魔法攻撃が可能となる。今開発中のロケットランチャーが完成したならば、敵の不意をついて、40発の攻撃魔法を浴びせることができる。開戦の直後に形勢は、シンシアに傾くのである。それを提案したのは他ならぬμであった。
エルフ族のオズが机に広げた設計図を指差す。その設計図は、μがスマホでダウンロードした兵器の設計図を手書きで書き写したものひとつである。
「ここです。この部品は既存のもので代用できそうにないんです」
指差したものは、ロケット弾を入れる40本の筒を固定する部品である。
「少し時間がかかってしまいますが、鋳造させようと思います」
「うん、わかった。できるだけ急がせて。でも、精度は十分なものを。でないと、打ち出したロケット弾40発がバラバラの場所に飛んでいっちゃうからな」
オズが頷き、慌ただしく部屋を出て行く。
鋳造――この世界では火炎の魔法で金属を溶かし、それを粘土で作った型に流し込み、削って形を整える。高い精度は望めないし、同じものを2つ作っても、細部まで完全に同じにはならない。この世界の文明では、妥協するしかないのだが。それでも精度が必要ならば、沢山の不良品を出しながら、運良く同一のものが得られるまで、繰り返すしかないのである。
開戦まであとわずかな日数しかない。兵器開発は急を要していた。




