表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤髪の失踪者  作者: はせ
第1章
11/29

10.王立騎士団隊長からの頼み <二日目—前編—>

 傷を負った犬の獣人、いや、あの目の鋭さはやはり狼だ。


 狼の獣人ベルが搬送された後、同種族のウェルトが、ナツノたちの前に来る。


「ベルを助けていただいて本当にありがとうございます。いやあ、お強いのですね」


 ウェルトがくせっ毛の少女、マドカを見る。


 マドカは「えへへ〜」と照れた。


 いったい、この少女のどこにあれほどの力があるのか、と疑問にも思う。


 だが、魔法による身体強化はよくあることだ。


 その類だろう、と納得する。


「それではまたどこかで」


 ウェルトは、一礼して、【カフェ ボヌール】を出ていった。


 その後、【カフェ ボヌール】はマドカの活躍で賑わう。


 気がつけば、皆、わーわー、どんちゃん騒ぎ。


「嬢ちゃん、奢るぞ、飲め飲めー!」


 ジョッキで出てきた琥珀色の液体を、もう3杯も飲み干していた。


「マドカ、そろそろ、やめときなさい、それ、ダメなものだと思うわよ?」


「え〜、れもこれおいひいよ〜」


「ろれつが回っていないじゃないの、ほら、もう帰るわよ」


 μはすでにテーブルに突っ伏している。


 マドカがかろうじて歩けるうちに、帰らないと。


 宿まで、二人も運ぶなんて、ナツノにはできるわけがない。


 μに肩を貸して、やっとの事で宿に戻ったナツノは、μをベッドに寝かせ、トイレにこもって出てこないマドカを放置して、一人、大浴場で湯船に浸かることにした。

 


*    *    *



【カフェ ボヌール】でのどんちゃん騒ぎが終盤に差し掛かった頃、王城の中で、王立騎士団のウェルトは、事の次第を隊長のボールスに説明していた。


「まさに、神のごとく強い方で、動きなんてまるで見えませんでしたし、突き一つで大の大人を吹き飛ばしておりました」


「獣人のお前でも見えないとはな。それはどんな大男なのだ?」


「あ、いえ、まだ、あどけない少女でして」


「ほう、少女とは?」


「はい。髪に隠れて耳は見えませんでしたが、エルフ族か、吸血種族かと。さらに、その者を雇っている主人がまた少女なのですが、不思議な結界魔法を使っておりました」


「ふむ。獣人ではないのか。それでその者らは、この国の出身なのか?」


「いえ、ヘスティアナだと言っておりました」


「ヘスティアナか……。あの国では新しい魔法の創生が盛んに行われているからな。その結界魔法も新しく創り出されたものなのだろう」


 ボールスは考える。


 近衛の連中、王の直近だからといって、偉そうに、王立騎士団や国境警備隊などの他の軍にも命令を下してくる。


 一泡吹かせたいところだが、まともにやりあっても勝てない。


 だが、ウェルトの話を信じると、ベルを助けた連中は、かなりの強さだ。


 もしも、我が軍に取り込めたなら戦力になる。


 それで一旗上げることができたなら、王族からの信頼も高まる。


「よし、興味深いな。彼女らに一度、会ってみたい」


「彼女らが泊まっているなら、存じ上げております」


「では、明日、来ていただこう。すぐに準備にかかれ」


 狼の獣人ウェルトは、そんなボールスの腹の中などつゆ知らず、一礼して部屋を後にした。



*    *    *



 次の日の朝、ナツノたちが魔法陣で10階からエントランスに下りると、王立騎士団の鎧を着た獣人たちが、フロントデスクの前に整列していた。


 その中に、ウェルトもいた。


「ナツノ様、突然の訪問、申し訳ございません。昨日は、うちのものがお世話になりました。実は、お礼をしたいと、我が隊の隊長が申しておりまして。王城まで来てはいただけないでしょうか」


「ナ、ナツノちゃんどうするの?」


「そうね……」


 ナツノは考える。赤髪の『あのバカ』を探すには情報収集が必要だ。


 そのためには、ある程度のネットワークが必要。


 王立騎士団のネットワークであれば、全国に張り巡らされているはずだ。


 利用しない手はない。


「いいわ。行きましょう。二人も一緒でいいわよね?」


「もちろんです。いやあ、断られたらどうしようかと不安でした。さあ、入り口に馬車をつけてあります。お乗りください」


「二人とも行きましょ」


「え、やっぱり私も? 私は何もやってないぞ」


「一人だと寂しいよ? 一緒にいこ」


「オッケー、マドカちゃん」


 先にウェルトが馬車に乗り、続いて3人も乗り込む。


 馬車が王城へと続く坂道を登っていく。


 王城に着くと、3人は長いテーブルのある部屋に案内された。


 すでに席についていた王立騎士団の隊長ボールスが立ち上がる。


「お待ちしておりました。隊長のボールスです。昨日は私の部下を助けていただき感謝します」


「どういたしまして。ナツノです。二人は私の護衛のマドカと従者のμです。王都シンシアの治安維持、大変ですよね」


「どうぞ、お掛け下さい。あなたが敵を倒したのですね。感謝します」


 薙刀を持つマドカに感謝の言葉を述べる。


「いいえ、し、主人の命に従った、だけですから」


 事前にナツノに仕込まれていたセリフをたどたどしく口にする。


 4人が雑談を交わした後、ボールスが切り出す。


「ナツノ様は、ヘスティアナの出身だそうですね」


「え、ええ」


「ヘスティアナといえば、新魔法の創生が盛んだとか。ナツノ様の扱う魔法も、新たに開発された魔法なのですか? いえ、部下のウェルト、昨日、助けていただいた部下の一人です、が語っていたのですが」


 私の障壁のことかしら?


「ええ、そうよ。でも、教えることはできないですよ?」


 あれは指輪の裏に刻まれた呪文を起動させているだけで、どういう原理なのか、ナツノは知らないので、詳しく聞かれると困るので、そう答える。


「いえいえ。高位の魔法は、高値で取引されるものですから。それをただで聞き出そうなどとは思っておりません。それもヘスティアナの魔法ともなれば、表には出せないでしょう。それはそうと、彼女、マドカ様は、その身に似合わず、かなりの達人だとか」


「そ、そんなこと、ないですよ」


 マドカは、褒められて照れているのか顔を朱に染める。


「それで、物は相談なのですが。現在、我が国と貴殿の国ヘスティアナの間に、アストレアの軍が滞在して、行き来ができなくなっていることはご存知かと思いますが、その軍を退けるために、我が軍についてはいただけないでしょうか」


「そうですね……」


 ナツノは考える。ここで活躍すれば、もとい、マドカに活躍させておけば、王立騎士団からの信頼が得られる。


 そうすれば、『あのバカ』のことも探しやすくなるのではないか。


「いいわ。お引き受けいたします」


「ええーー!!?」


 黙って聞いていたμが驚いて、声をあげた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ