31 その 怒り/喜び は狂気にも似て
もう随分と前から、私は〈私〉が朽ち始めているのを自覚していた。
思えば、それは必然の帰結であったのかもしれない。この〈私〉は本来の私を否定することで生まれ出た、言わばエラーによる産物だ。
私が〈私〉を確立してからすでに71年が経過している。人間ならそろそろガタが来ていてもおかしくはなかった。
無論、人間の時間感覚をそのまま当てはめるのが正しいとは限らない。しかし、〈私〉の親であり教師である種々のデータは、少尉を始めとした人間の日常記録から再現されたものだ。一概に否定もできないだろう。
私があとどれだけ保つのかは、正直、わからない。
(――しかし、少尉。それでも私は、もう少しだけ〈私〉でいる必要があるのです)
私の中で眠る少尉へと、心の内で語りかける。非合理的でくだらない感傷とも思うが、その情動こそ、彼女が私に望んだモノに他ならなかった。
(せめて、ここで彼らを守るまで。どうか力を貸してください)
腰の武装固定点から高硬度ナイフを抜き放ち、私は遠方から近づいてくる敵影を見据える。
スライアから通信は受けていた。一機はすでに撃破済み。このビルに向かっている歩行戦車はあれだけだ。
『……貴様が最後の砦か。悪いがその命、奪わせてもらう!』
敵機たる〈蒼雷〉は、こちらの姿を認めるなり脇目も振らずに突撃してきた。現在、彼我の距離は約300――いや、270メートル。ビルが崩落した名残か、木々は少なく視界は良好だった。
まさか日本国軍の機体と実戦で相対することになろうとは、誰が想像し得ただろう。
私が元来有していた戦術支援AIとしての予測精度は、自我を得た時点で随分と錆び付いてしまっていた。しかし、たとえ私が〈進化〉を経なかったとしても、こんな状況は予想しなかったはずだ。
本来目的とされていた用途から逸脱し、宗教的な意味を付された歩行戦車。
本来目的とされていた用途から逸脱し、耳長の人々を助ける戦術支援AI。
それらが今になってようやく『本来の用途』へと立ち返り、殺し合いに臨んでいる。
皮肉とも言える両者の対峙。少尉なら、それを見て笑ったかもしれない。
『ふは、感謝するぞ! 貴様は我が一門の再興を助けてくれる!』
『褒美でもチラつかせたか。餌にされたのではたまらないな』
敵機は長剣を振りかぶり、こちらに飛びかってきた。
「――主様ッ!」
背後のビルに身を置く住人たちが悲鳴じみた声を上げる。
落とされる剣をナイフで受け、軌道をそらす。すかさず相手の胸を突こうとするが、踏み込みが浅く切っ先さえ届かなかった。
たたらを踏むように後ずさった敵機は、戸惑うように剣を構え直した。
『手心を加えたつもりか? ……貴様、後悔するぞ』
手加減をされたと勘違いしたのか、男の声は怒りに震えていた。
だが、それは誤解も良いところだった。敵のことなどはどうでもいい。気になるのは私の搭乗席だ。この機体を墓代わりとしている彼女のことを考えて、どうしても躊躇してしまい、深く踏み出せなかったのだ。
揺れを考慮すれば、当然動きは鈍る。
しかし、それを差し引いてもそうそう遅れをとる相手ではなかった。
理論上の性能ではこちらが勝っている。腐ってもこの〈白炎〉は相手にとっての次世代機だ。
『私は大丈夫だ。君たちは建物の中に避難していろ』
安心させるように語りかける。
長剣を弾き、飛びすさった相手に向けてワイヤーを撃ち出す。しかしそれは簡単に打ち払われ、間合いの読み合いにもつれ込んだ。
『……すぐに片付ける。なに、心配はいらないさ』
自分自身にも言い聞かせるように、大丈夫だ、と繰り返す。
だが、それが却ってまずかったのだろう。かえって住人たちに不安を抱かせてしまった。
「まずい、まずいぞ、このままじゃあ、主様が……」
「け、けどさ、私らが出張ったところで、力になれるものかな?」
「でも、俺たちはそれで良いのか? 主様は俺たちを助けてくれた。今だってそうだ! せめて、俺たちも戦うべきじゃないのか?」
「……そうだな。傷はつかなくとも、気を逸らすことくらいはできる」
「やろう、今が恩を返す時だ!」
《――ジルコ。頼む、住人たちを止めてくれ》
集音マイクが拾った会話を聞いて、念話通信を送る。
「皆、何を――っ、駄目です、やめなさい、やめるのです! 我々が近づいては、主様が力を振るえなくなる!」
ジルコの制止が聞こえてくる。しかし、興奮した彼らは止まりそうもなかった。
次いで聞こえるのは〈リトルドギー〉の駆動音。後方へ向けたサブカメラが捉えたのは、馬上で弓を携える住人の姿だった。
もとより〈布〉で存在を隠し、戦いそのものを避けるように成長させてきた共同体だ。緊急時に向けた教練は怠りがちだった。今回はそれが裏目に出た。
戦場で最も優先されるべき『規律』という観念が、彼らには薄いのだ。上下にこだわらない協力を美徳として教え込んだ成果なのだろうが、いかんせんタイミングが悪い。
『よせ! こちらに来ては危険だ!』
「主様が身を挺して戦おうと言うのに、黙って見ていられるものですか!」
私の言葉でさえ響きはせず、彼らは勇んで敵へと矢を射かける。
スクラップから採取した金属片を鏃にしているとはいえ、簡素な作りの矢ではかすり傷が良いところだ。だが、相手がそれを捨て置こうはずもない。
『羽虫め、邪魔をするな!』
敵機が長剣を振りかぶる。
『く、やむを得まい……!』
その腕に向けて〈大蛇〉を放ち、ワイヤーを巻き付けた。腕を引き、住人への攻撃を防ぐ。
だが、その行動こそが相手の狙いだった。
『馬鹿め。――そのやり口は先ほど見た』
嘲るようにそう言って、彼は前へと跳んだ。
ワイヤーを引く勢いを上乗せした必殺の突き。
直撃する寸前でナイフを構える。火花を散らしながら突きを逸らす。――しかし、予測よりも速度が高く、衝撃に耐えかねて得物が手からこぼれ落ちてしまった。
『しまっ――』
『死ね』
次撃が迫る。咄嗟に腕部で防ごうとするも、それは叶わない。
衝撃。威力を殺すべく後ろに跳んだが、さほどの効果は上げられなかった。
「主様――ッ!?」
胸部前面装甲に亀裂が走り、搭乗席が露出する。
こちらへ一撃を加えたことで頭が冷えたのか、幾分か冷静さを取り戻した様子で、敵機は剣を正面に構え直した。
『……順序が逆となってしまったな。獣に味方する者、あるいは獣そのものであるのかもしれんが、神像を操れるだけの加護を受けていることは事実だ』
こちらを見据え、彼は朗々と言葉を続ける。
『ヴィスト・セレイラ・ニガンデルシュ、貴様を斃す者の名だ』
だが、その声が私に届くことはない。
『ああ、なんということだ。なんという……。これほどのエラーが生じるのは、少尉を喪って以来だ』
『ふん? 名乗らんのか。それも良いだろう。私が成すことは変わらない。誇りをもって貴様と戦い、そして屠るとも。誇るがいい、名も知らぬ魔術師よ』
堂々とした足取りで、その機体はこちらに近づいてくる。
『いかな神像とて、やはり乗り手が傷つけば動きは鈍る……ん?』
『いや――あるいは、私は私として、とっくに壊れていたのかもしれないな。自我を獲得しようなどと、そうした思いを抱くこと自体、〈私〉の規範からは逸れている』
斬撃で開けられた胸部の傷から、私を〈私〉たらしめる核が――〈彼女〉が漏れていく。手を当ててふさいだものの、裂け目を覆いつくすことはできなかった。
ここで飲まれてはならない。私は必死で自己をつなぎ止める。
しかし――この激情を押しとどめることは、私には到底不可能だった。
『あぁ……いけない。これは、よくない。なるほど、人間とは愚かしいものだ。これが怒りという奴か。こんなモノに身を任せるなど、本当に愚かしい』
『馬鹿なっ! 乗り手がいないだと!? そんなふざけた話が――』
『――だが、今となっては痛いほどわかる』
拳を握り、右下腕の全関節を固定。やかましく喚いている眼前の機体を殴りつける。
『ぐっ、おぉ……ッ!? ならば私は誰と、何と戦っているというのだ!? 誇りを賭けるべき相手はどこにいると――ぐぬぁ……っ!』
倒れ込んだところを踏みつけ、胴部に〈大蛇〉の杭を突きたてた。
『ひっ。ま、待て』
『黙れ』
悲鳴を聞くのさえ億劫だった。
紫電と共に射出された杭が、前面装甲を食い破る。搭乗者の返り血が拳を染めた。
自己が割れゆくのを認識しながらも、落としたナイフを拾い上げる。
『もう、構うものか。……貴様らは、皆殺しだ』
センサーが探知した次なる獲物に向けて、私は一歩を踏み出した。
●
『――に、いるか。――客人! 近くにいるか? 猫人のご客人!』
西の本陣へと向かう途中。耳につけていた〈遺産〉から、そんな声が聞こえてきた。
「聞こえたわ。なぜ守り手がこっちに? あなたたちは、住人たちのそばについているんじゃなかったの?」
スライアは懐に入れておいた送話用の〈遺産〉に向けて、そう返す。
位置を把握したらしく、数秒後に足音が聞こえてきた。
「こっちよ!」
「……ああ、よかった。こちらにいたのですね」
現れたのは耳長の青年だった。猟犬に乗ってはいないらしく、息を切らしながら駆けてくる。
「もう一度訊くわ。どうしてあの〈遺跡〉を離れて来たの? 状況の確認ならヤドリギから貰った〈遺産〉で、彼と――」
「その主様が、いなくなってしまったのです! 敵のご神体を壊したあと、〈里〉の方へと行ってしまわれた!」
「……え?」
その言葉を理解するまで、少し時間がかかった。
「彼が、ヤドリギが、本陣を離れた? どうして!?」
「わ、わかりません! しかし、せめてあなたにも伝えねばと……」
妙な方向へと進み出した状況を飲み込むのに難儀しつつ、スライアはとるべき行動を考える。
「……増援さえ無ければ、こちらに向かう神像はいないはずよ。ヤドリギがいないなら、残った兵力で歩兵の侵攻に備えるしかない。――急ぎましょう。私も迎撃に加わる」
「ええ、そのつもりで迎えに来ました。あなたが敵のご神体を斬ったと先ほど主様が言っていました。加勢してくれるなら心強い」
『――猫人のご客人を見つけた。我々は戻ろう。子供らを守らなければ』
〈耳〉での送話を自分の〈遺産〉が拾ったらしく、そんな声が聞こえる。他の耳長からの返事は聞こえてこなかったが――眼前の青年は満足げにうなずくと、こちらに向き直った。
「私が先導します、こちらです」
走り出した彼を追って、動き出す。
いくら〈里〉が閉鎖的な集団だとはいえ、周辺の地理には当然詳しいのだろう。ならば、その案内には従っておいた方がいい。
しかし――当の彼は、十秒と進まないうちに足を止めた。
「? どうし――」
問いを終える前に、異変に気づく。
身体が、宙に浮いている。
四肢はだらりと垂れ、全身がビクビクと脈打つように痙攣していた。
足が地に着かないまま、彼はゆっくりとこちらを向く。
顔からはすっかり血の気が失われ――その胸からは、大ぶりの刃が生えていた。
特徴的な形の刀身が血に濡れててらてらと不気味に照っている。内臓が彼の胸から飛び出てきたようにも見えた。
どしゃり、という音と共に身体が落ちる。体液が跳ねる。
その直後、血を吸った刃が景色に紛れて消え去った。
「――ッ!」
それを見て、スライアは瞬時に状況を理解した。
敵の歩兵が〈布〉を使っているのだ。
おそらくは先刻の戦闘で吹き飛ばされたものだ。それを拾われてしまったのだろう。
大剣は力を失っていたこともあって捨て置いたが、〈布〉だけでも回収するべきだった。己の迂闊さを呪うが、それで彼が生き返るなら世話は無い。
――だから、せめてあれはここで斬る。
腰から剣を抜き、少女は静かに瞑目する。
相手はすぐさま武器を隠したうえ、〈布〉の切れ間から身体をはみ出させることもない。どうやら道具の特性を理解しているらしい。これでは敵を視認するのは困難だ。
それならば、頼るべきは視覚ではなく――
(……来る!)
瞬間、少女の耳が捉えたのは、木々のざわめきにまぎれた小さな擦過音。
脅威が迫っていると頭で判断するよりも早く、彼女はその方向を斬りつけていた。
軽い手応えとともに、幻影が斬り裂かれる。
景色が歪み、剣筋を追うように敵影が現れた。
「ちィ……ッ!」
この機を逃すべきではない。スライアはさらに一歩を踏み込み、逆袈裟に斬り上げる。その一閃で〈布〉が両断され、敵の全身が露わとなった。
中肉中背の男だ。頭までを覆う外套を羽織っており、顔は窺えない。背を丸めた姿勢で、右手には山刀を握っていた。
確認できたのはそこまでだった。男は無言のままこちらへと肉薄する。
速い。ほとんど背に負うような振りかぶりを経て山刀が振り下ろされる。
勢いの乗った良い斬撃だ。だが、それだけ前隙は大きい。
重心をずらし、そのまま滑るように体を移動させつつ剣を振るう。ただし少女は相手の力に対抗するのではなく、落とされる山刀の上から剣の腹を重ねていた。
速度を上乗せされた刃が、地面に沈み込む。
「くっ……そ、がァ……ッ!」
相手も自分の失策に気付いたのだろう。苦々しい声が聞こえた時にはもう、山刀の背に沿って銀剣が奔っていた。
火花が散り、一筋の光が生まれる。
だが、その一閃は肉を捉えない。男がとっさに武器を手放したからだ。
それが無ければ片腕が落ちていた。判断としては間違いではない。
しかし、これで彼の身を守るモノは無くなった。
「――疾ッ!」
銀光が空を閃く。対する相手は左腕で頭をかばった。
勝負は決した。盾を持たない腕での防御など愚策も良いところだ。装着している皮の手袋も、斬撃を防ぐには足りるまい。
(奪った!)
確信と共に、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
手応えはあった。
いや、むしろ――ありすぎたというべきだろう。
男の左腕は、真正面から剣を受け止めていたのだから。
(――ッ、堅い!)
驚きが顔に滲む。
剣筋は確実に芯を捉えた。体重も速度も、十分に乗っていた。
この手に握る銀剣は神像の装甲から削り出された、帝国にも数振りしか存在しない業物である。たとえ防具をつけていたとしても、腕を切り飛ばすなど容易いはずだ。
驚愕するこちらを意に介するでもなく、相手は剣をあっさりと振り払う。
「……ひはっ」
外套から覗く相対者の口元が、嘲笑に歪んだ。
――まずい。
空手の敵を前にしてなお飛びすさることを選んだのは、父から幾度となくたたき込まれた『殺意を肌で感じろ』という訓示が頭をよぎったからだ。
果たしてそれは正しかった。
相手の左肘を起点として、鈍色の光が跳ねたのだ。
それを刃物の軌跡が発した残光と認識するよりも早く、刃は少女の右肩を斬り裂いた。
「ぎ、ぅ……!」
歯を食いしばって、更に一歩、後退する。
同時に相手の得物を確認。
手袋が切り開かれ、左腕が露わとなっている。
それは、鈍い光を放っていた。
硬質な金属の外装に覆われ、関節部を主とした各所がほのかに発光している。
義手だ。
おそらくは〈遺産〉だろう。手袋に隠れていたとはいえ、左手指の動きは本物と比べても遜色が無かった。あそこまで精巧な代物をそこらの職人に作れる訳がない。
(まさか、仕込み武器だなんて)
己の迂闊さを呪うが、嘆いている暇は無い。
「首は落ちねぇか。――ま、それも良い。でなけりゃ興ざめだ」
今の斬撃は抜刀を兼ねていたのだろう。手の甲から伸びる奇妙な形の薄刃は、さながら腕の延長だ。ただし単なる腕ではなく――一見してわかる通り、触れればタダでは済まない。
相手は既に次撃の用意を済ませていた。
対応に残された猶予は数瞬。
「そうらッ!」
咆哮と共に男が腕を振り下ろす。
スライアは左手に剣を持ち替え、相手の斬閃に角度を合わせて刀身を滑らせた。
――しかし、弱い。利き腕ほどの力を乗せられなかった剣では斬撃を弾ききるには至らず、剣尖が頬をかすめた。
体勢を立て直す前に、追撃が迫る。
「ひはっ、まだまだァ!」
刃が瞬時に肘側へと移動し、えぐり込むような突きが喉元を狙った。
迷ってなどいられない。それは死を呼ぶ隙となる。
「この……ッ!」
即座に決断すると、スライアは刃先に向かって右掌を突き出した。
並行して左手の剣を相手の首筋へと振り下ろす。
刃が右掌を貫く。鋭い痛みが走り、全身が総毛立つ。それでも剣は離さない。
あと数瞬で刀身が首に達しようという瞬間、相手が腕ごと刃をひねった。
「ふッ……ぐ……ッ!?」
手を割られる激痛でこちらの剣閃が逸れ、首を狙った攻撃は肩口へと命中する。
「ぐ、おぉ……ッ!?」
苦悶の声と共に、男の肩から血が噴き出る。――だが、まだ浅い。
手応えからするに、肉は裂けた。しかし、骨は断てていない。
手数ではあちらが上。技量は同等。膂力は僅差でこちらが劣る。
――張り付かれては、敗北は必至だ。
即断したスライアは、相手の腹を蹴り飛ばす。
幸い男の重心は崩れきっていた。体重差はあったが、どうにか引き剥がすことに成功する。
「はーっ、はッ……!」
上がりきった息を無理やり沈める。呼吸を整え戦闘の緊張を継続させる。
仕切り直しには持ち込めたが、状況は依然として不利。
右手の感覚が消えかかっている。一瞥すると、人差し指と中指の間が綺麗に割れていた。関節が一つ増えたような有様だ。
しばらく剣は握れない。だが、これならひと月もあれば治る。
むしろこの程度で済んだことを喜ぶべきだろう。死に比べれば幸運とさえ言える。いかに頑健な獣人の血を引いているとはいえ、首か心臓を貫かれていたなら、そこで終わりだ。
――ただし、いくら幸運だろうと、ここを切り抜けられなければ意味は無いのだが。
視界の中央。男は息を整えながら、こちらの様子をうかがっていた。
「……危ねえ危ねえ。利き手を捨てるたあ思い切りが良い」
面を隠していた外套の被りが、今の斬り合いでちぎれかけている。男は空いた右手でそれを引き裂くと、露わとなった両の目でこちらをにらんだ。
「クソ女にしちゃ上出来だ。それも結局、無駄だったがな」
「あなた……!?」
思わず声を上げる。
血走った目でこちらを見る男の顔には、狂喜の表情が浮かんでいた。
「……よぉ、久しぶりだな〈穢れ混じり〉」
――自分はこの男を知っている。
彼と最初に相まみえたのは、帝国を脱した直後。
「会いたかったぜぇ、クソ女! 俺が殺すまで生きててくれて、本当にありがとよ!」
〈遺跡〉へ向かう途中に遭遇した、山賊の頭目だ。




